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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
70/114

ネコ討伐戦線その2

 討伐隊員プラス、燐を含めた女性陣がロビーから戦場へと移動している最中、新たな人物が現れた。

「家の妹を‥いた!!燐!なにやってるんだよ!」

 男二人が歩いて来て燐の前に立ちはだかる。

「え!?兄さんたち?どうしてここに!?」

 どうやら燐の兄達が妹を迎えに来たらしいと分かったが、再び混乱が起こる。

「‥あれ、レンとタケ、久々。」

 顔を覚えないことで有名な討伐対象が、その二人に呼びかけ、手まで上げて見せたせいだ。

「「「なんで覚えてるんだよ!?」」」

 智樹・智琉・恭平が一斉に叫んだ。


「俺は不知火蓮司(れんじ)。院生で、こっちが弟の明武(あきたけ)、大学生だよ。」

 そう言って自己紹介をしてくれたため、智樹たちも改めて自己紹介をする。

「ちなみにこいつが俺の名前を憶えているのはね、半年くらい俺らの研究室に引っ張りこんだせい。」

「俺もけっこう長いこと、こいつと同じゼミに通わせてもらってね?」

 大学での繋がりがあったことに驚きはあったが、なるほどと納得出来た。

「‥専攻違うのに‥」

 鷹也はぶつくさ言っているが、二人は笑っている。

「まあこいつ、記憶力が歪すぎてさ。顔認証機能がぶっ壊れてるから仕方ないって。で、なに、これから何やるの!?」

 蓮司が楽しそうな笑顔を浮かべている。


「クソネコ討伐だよ!!」

「こいつ反射神経がネコ並みだから、ネコ呼ばわりしてるんですよ。」

 恭平の言葉に、智樹が補足説明を加えると、兄二人は大爆笑している。

「あははははは!おもしれー!見物していこ!あ、そういや燐は名前覚えてもらってたか?」

「…いいえ。」

 憮然と返す燐に、再び腹を抱えて笑い出す。

「「だから言ったのに!!」」

 そして智樹は密かにスマホを取り出して援軍を呼んだ。加入したばかりの大型即戦力だ。



 幸い卓球室は空いており、借りて来たラケットとボールをセットする。

「へーこれで打つんだ?」

 無理やり連れて来られた討伐対象は、ラケットをまじまじ眺めている。仕方なく初心者である討伐対象にラケットの握り方を教え、軽くラリーをして肩慣らしを始めた。


「ハーイ!エブリバーディ!お待たせしたよ!!」

 現れて爽やかな笑みを浮かべたのは、鷹也の父、蒼介である。

「お、お父さん!?‥どうしてここに!?」

 七海と流水が目を丸くする。智樹が不敵に笑った。

「我が討伐隊に新たなメンバーが先日加わってね?‥共に戦うことになったんだよ。」

討伐隊グループに入っていない、七海と流水、茜、さくらが笑い出す。その間に、蓮司と明武、燐は蒼介と軽く自己紹介を交わしていた。


「‥ふーん‥」

 鷹也はラケットでボールをリフティングしながら、感触を確かめているように見えた。

「お前は一人、こちらはダブルスでやるからな?」

 恭平が楽しそうに言い、司を引っ張る。

「二対一はずるくねー?あ、これならいいか。」

 余っているラケットをもう一本手に取り、両手で構える。初心者だから仕方ない、と恭平も渋々納得する。


「あーらら。初心者だからって甘く見たら痛い目見ると思うな~」

「あいつ絶対、ボールの回転から最適解割り出しそうだしな‥」

 明武と蓮司が笑いながら見物している。さくらと七海と同級生たち、それに流水も一緒になって観戦モードだ。


「11点先取が勝ちだ。10-10になったら2点差がつくまで。さて、倒される覚悟はいいか?」

 恭平は楽しそうに言い、ボールをコンコンとリフティングしてみせる。

「おま!そういうフラグはやめておけ!返り討ちにあっても知らんぞ!!」

 智琉が慌てたように言い、智樹も頷く。そして蒼介は滅茶苦茶笑顔だ。

「ふーん‥10点までは取られていいのか。」

「ではいくぞ!!」

 サーブは恭平だ。トスをしてラケットを切るように当てる。球は鷹也のコートに落ちた後、不自然な方向へと飛んだ。球には追いついて打ち返すが、あらぬ方向へと飛んで行った。

「アウト!」

 智樹が宣言し、恭平の笑みが深くなる。再び恭平がトスを上げてサーブを打った。同じように球が落ちた後に変化する。先ほどとは違う回転のようだ。

「‥なるほど。」

 再び打ち返すが、球は別方向へと飛んで行き、アウトの判定が下される。恭平がガッツポーズをしているが、鷹也は無表情のままだ。

 サーブが移り、鷹也のサーブとなる。無造作にコート内に落とした後、素直に相手コートへと球を打つ。

「もらった!!!」

 恭平が舌なめずりをして構え、強烈なスマッシュを放った!!

「‥うん、これはドライブだな。」

 鷹也はそう言ってラケットに軽く当てる。ものの見事に恭平と司の間を割った。


「単にスピードだけじゃ反応されるっすよー」

 司がそう言って笑うと、恭平は悔しそうに頷いた。再び鷹也がサーブを打つ、が、これはネットにかかってしまう。

「‥あらら。」

 全く感情のこもらない「あらら」に、道明たちはついつい笑ってしまう。

「おや?どうした、鷹也?‥卓球は苦手かー!?」

 蒼介が楽しそうに煽り、討伐隊たちから喝さいを浴びる。

「んー‥かもね?」

 表情が変わることもなく、煽られていることすら無頓着に見える。

「お前、マジで可愛げのないやつだな!?」

 蒼介の言葉で周囲は湧くのだが、当の本人には全く届いていなかった。


「さて、じゃあ俺の番っすね!」

 司も大きくトスを上げ、ボールを擦るようにして打って来た。

「‥また違う回転だなー。」

 球には追いつくが、相変わらずあらぬ方向へと飛んでいく。アウト判定に恭平や智樹、智琉たちは大いに盛り上がる。蒼介も一緒になってハイタッチを交わすありさまだ。

 そのまま恭平と司が変化球を巧みに使って、得点を重ねた。


「アウト!」

 8点目をゲットしたところで、恭平と司はジャンプしてハイタッチを交わした。七海と茜が鷹也に声援を送ろうとしたその時。

「鷹也様!!頑張ってください!!」

なんと燐が大声で叫んだ。その瞬間、兄世代たちが一瞬フリーズする。討伐の発端を思えば、あまりにも予想外だった。

「「「「なんでそうなる!?」」」」

 兄世代たちのやるせなさは全てネコ討伐へと集約した。

「「「「絶対に倒す!!!」」」」

 そして討伐対象はくりっと首を傾げた。

「‥ん?良く分からんけど頑張れよ?」

 七海達は吹き出し、その場は荒れた。討伐対象から声援を送られるという、訳の分からない事態に兄世代たちは咆哮を上げる。

「「「「お前を倒すんだよ!!」」」」

 蒼介も涙を流して抱腹絶倒状態だ。

「鷹也さん、頑張ってくださいね?」

 さくらがそう声をかけると、鷹也は薄く笑った。燐がフリーズする。

「私の声援はシカトだったのに…」

(‥どうしよう、かわいそうかわいい‥)

 七海と茜、流水が燐への慰めに走った。


 そして再び恭平のサーブ。高くトスを上げ、ボールを擦る。球は落ちた後にあらぬ方向へ、行く前にラケットが振られた。

 カコン!球は一直線に恭平側サイドを抜けて行った。

「くそ!すまん!」 

「ドンマイっす。‥いやーな予感がするんすけど?」

 言い合う二人を尻目に、鷹也のサーブとなる。微かに笑ったのを見て、蓮司と明武が笑顔になった。

「いやー‥あれ、解析完了?」 

「それな?あれ、もう回転は通用しないぞ?」

 二人はそう言って笑い合い、期待のこもった眼差しを送った。


 鷹也はトスを上げ、ボールを軽く撫でるようにして振りぬいた。

「‥この!変化球覚えやがったのか!」

 それでも恭平は返球し、さらに回転をかける。が、鷹也は弾んだ瞬間にラケットを合わせ、コートへと押し込むように返球する。司が何とか拾い、ふわりと上がった球が辛うじてコート内に落ちた。鷹也は視線を送って振りかぶる。

「くるぞ!!」

 間を抜かれないよう万全の体制で臨む!が、カコッっと当たった球は、ネット際ギリギリに落ちた。

「くっそおおおおおおお!!!」

 スマッシュを警戒していた二人は虚を突かれて反応しきれなかった。

「くっそ、フェイクとブラフも武器だったこと、忘れてたっす。」

 その後は変化球が全く通用せず、悉くコースを狙われてしまい、ミスを連発する。また、いつフェイクやブラフが来るのかも分からずに警戒心ばかりが募った結果のミスもあった。


 結果、終わってみれば9-11で、初心者相手に黒星を付けられたのだった。


「‥さあ、じゃあ俺の出番かな!!」

 蒼介が両腕を回して意気揚々と前に出た。討伐隊の意気もうなぎ上りだ!

「あと誰が来る?」

 蒼介の誘いに智琉が乗った。

「宜しくお願いします!!」


 智琉のサーブからスタートだ。通用しないとしても、変化球サーブから入る。

「あ。」

 鷹也がレシーブを空振りした。

「よっしゃーーー!!なんだなんだ!?まだまだだなーーーー!!」

「‥なんてね?」

 蒼介がお祭り騒ぎを始めた瞬間を逃さず、逆の手でカコッと押し込む。コンコンコン…と、卓球台の上を球が転がって行った。

「ちょ!!待てお前!それはないだろ!?」

「くっそ!!やられた!!」

 蒼介も智琉も喜びから一転、叩き落された。恭平や司からのブーイングが上がる。燐は七海や流水と何やら楽しそうに話しながら、おめめをキラキラさせて試合の様子を見ている。


「そう簡単には騙されねえからな!!」

 智琉が再びトスを上げ、回転をかける。

「‥そう?」

 ラケットを斜めに構え、身体の向きと視線を蒼介に合わせる。

「よしこい!!」

 振りかぶった直後に逆サイドバックハンドで、智琉側のサイドラインギリギリに球を落とした。運悪くエッジに当たり、球は真横に飛んでいく。

「くっそおおおおおおお!!」

「おまえええ!噓つきはドロボーの始まりだろ!?」

 智琉と蒼介は再び大騒ぎだ。

「‥ん?嘘はついてないよ。父さんたちが勘違いしただけだろ?」

 冷静に返され、討伐隊たちの噴火が止まらない。


「‥どうしてこう、鷹也さんは無自覚無意識に煽るんでしょうね‥?」

 さくらはそう言ってふふっと笑う。流水と茜は温度差に大笑いし、七海も困ったように頭をかいている。

「やっべえw兄貴たちと鷹兄の温度差が酷すぎて風邪ひきそう!!」

 道明の発言に遊馬も一緒になって笑い出す。



 サーブは鷹也にうつり、トスを上げて回転をかける。どうやらサーブは完全にマスターしたらしく、嫌なコースに飛んでくる。

「あーマジムカつく!!このペテン師!!」

 智琉が何とかレシーブし、ふわりと上がった球を鋭い打球で打ち返される。しかしこれは蒼介が完璧に捉え、スマッシュで返した。

「あらら。」

 感情のこもらない呟きを漏らしながら、視線で誘導するも、今度は引っかからない。二人の間に飛んだ球は、蒼介が上手く捌いた。


「がんばってえええええ!!たかやさまあああああ!!」

 燐が大声で声援を送り、その両サイドにいる七海と流水、茜が大爆笑している。二人はもちろん、義理の姉になるさくらを応援している。しかし燐の真っ直ぐさと、何ともいえない健気さに不思議と好感を抱いていた。

(((‥どうしよう、燐さん、やっぱり‥かわいそうかわいい‥)))


「おい、鷹也様って‥なんだよ!!さくらちゃんは!?まさか浮気!?」

「うっわやべーなそれ!さくら悲しむぞ!?」

 ラリーが続いており、蒼介たちは何とか食らいついている。ついでに煽る。再びコートに返って来た球をカバーしようとしたそのときだ。

「ところで‥うわきって、なに?」

 聞き返され、がくりと体勢が崩れた。何とかラケットには当てたがネットは超えられない。

「おまええええ!!それはないわー!!」

「そこからかよ!?」

 そして恭平たちは腹を抱えて笑っている。七海達も涙を流して大笑いだ。

「‥いや?その程度の意味は知ってたよ?念のため聞いてみたかっただけ?」

 しれっと言い捨てたことで、兄世代たちは阿鼻叫喚だ。

「おまええええ!!我が子ながらムカつくんだが!!」

「マジでお前!性格悪すぎ!!」


 鷹也は再びトスを上げてサーブを打つ。

「えー‥ほら、俺の解釈が間違ってたら困るじゃん?」

 ネット際にポトリと落ちるサーブに、蒼介が崩される。

「父さん、頑張って戻らないと間に合わないよ?」

 慌てて戻る蒼介を尻目に、再びネット際へポトリだ。

「おおおおおおおい!!!」

 それでも何とか食らい付き、球を拾うが返すのがやっとという有様だ。鷹也は楽しそうにラケットを構え、どこに落とそうか考えているように見えた。


「やっべえ!父親までおちょくりはじめたぞあいつ!」

「煽り耐性高くて、煽り返しが半端ないね!」

 蓮司と明武も楽しそうに笑っていて、新たなネタが出来たと大喜びしていた。


「鷹也さん、楽しそうですね!」

 さくらがにこにこしながらそう声を上げると、燐は微かに首を傾げる。

「そうなの?‥わりと無表情に見えるのだけど?」

「ふふ‥確かに余り表情に出ませんけど、楽しんでますよ?」

「そうなんだ!?私もまだまだだわ!鷹也様推しとしては、もう少し分かるようになるべきね!」

 さくらに対抗意識を燃やしていたはずの燐が、どういうわけか楽しそうに会話をしている。そして“恋愛対象”から“推し”へといつの間にやら変化したらしい。

 七海も流水も茜も、笑ってしまう。

「え?燐さん、鷹兄のことは“推し”になったの!?」

「仕方ないじゃない!どうやら私は自動改札を抜けられないんだから!」

 流水の質問に燐は潔く答え、明るく笑った。そんな燐のさっぱりした性格に、七海や茜の燐に対する好感度は爆上がりである。


「あ、でも待って、さくらちゃん?七海パパがかなり精神的ダメージくらってるよ?」

 茜が困ったように言うと、さくらはふふっと笑った。

「でも、お義父さまも楽しそうですよ?」

 蒼介は悔しそうに叫んではいるが、それでも笑っている。持ち前の反射神経で反応はすこぶる良いが、いかんせんブラフやフェイクには弱かった。


 渾身のスマッシュをいとも簡単に返され、またもや台の縁にヒットする。

「ああああああ!!」

「くっそおおおお!!」

 蒼介も智琉も汗だくになっており、肩口で首筋の汗を拭う。対する鷹也の方はラケットで煽いではいるが、涼しい顔をしていた。

「なんであいつ、あんなにムカつくの?」

「お宅の息子さんですが!?」

 蒼介と智琉のやりとりに兄達は笑い、声援を送り続けた。


 サーブが入れ替わり、ラリーが続くようになると、蒼介が必死にカバーする。前後左右に球を散らされ、走らされるのだ。

「いけいけーーー!!」 

「ナイスキャッチ―!!」

「あーーーーー惜しい!!」

 兄世代たちが白熱し、ラリーが続けば続くほどお祭り騒ぎのようなにぎやかさになる。


「‥あれ?」

 再び空振り!

「「「おおおおおおーーーーーー!!」」」

 と、歓声が沸き上がりかけた瞬間、くるりと反転してコースを狙われる。強烈なシュートドライブをかけられ、返球しようとしてあらぬ方向へと飛んでいく。

「アウト!」

 歓声が悲鳴に変わった。

「あああああああああああ!!」

 11-7 蒼介チームの完敗だった。

「くっそーあのネコ、絶対に討伐してえ!!」

 蒼介が悔しそうに言い、討伐隊員もそれに呼応するように盛り上がった。そして討伐隊同士でのダブルスが始まった。


「ねね、卓球面白そう!」

「やろー!」

 七海と茜、流水とさくらが組んで、さっそく遊び始める。



 鷹也がボーっとしていると、燐とその兄達が寄って来た。

「いやー!マジで面白かった!またそっち行くよ!あいつらおもしれえ!」

「あの三人は今上京してるよ。あ、来年には妹の七海も上京するんだよね。」

 明武の言葉に燐が食いついた。

「え?あの子、上京するの!?あの‥お買い物とか誘ってもいいかしら?」

「ん?うん、よろしく。」

 七海に対しての好意だと分かり、鷹也も素直に頷いた。


「またウチの研究室に来いよ!ま、教授から呼ばれるだろうけど。」

「‥気が向いたらなー。」

 蓮司とも言葉を交わす。不知火家たちは卓球中の皆に声を掛けて互いに手を振り合い帰って行った。



「‥温泉行こ。」

 ようやく解放され、討伐対象は討伐されないまま、温泉へと歩いて行った。




ネコ討伐戦線 討伐隊戦績 2戦2敗


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