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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
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新たな縁

 マイクがオンになったときの、独特のノイズが耳に入り、周囲のざわめきがスッとおさまった。

「大変お待たせ致しました。それでは神楽祭開会とさせて頂きます。司会進行は僭越ながら私、日乃下(ひのもと)翼が務めさせて頂きます。よろしくお願いいたします。」

 壇上には30台くらいの男性が立っており、快活そうに笑っている。

「まずは開会のお言葉と乾杯の音頭を、総代、水澤篁さまにお願い致します。」

 拍手が沸き起こり、祖父が壇上に立つ。こうしてみるとやはり祖父は威厳に満ち、大きな安心感があった。


「皆、忙しい中、集まってくれて嬉しく思う。旧知の仲を深め、また、新たな縁を結んでもらえたら、これ以上の喜びはない。また、本来今年は第三区での開催予定だったが、都合により第五区での開催とした。各地の関係者の皆、労力をかけさせて済まなかったの。皆の協力なくして、開催変更はありえなかったことだ。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう。」

 篁が深々と礼をすると、当主達数名が立ち上がり慌てて礼をする。そして第五区のテーブルから盛大な拍手が沸き起こった。


「では、グラスを手にしてくれ。」

 篁はそう言って自らもグラスを手にし、周囲を見回した。

「皆との再会を嬉しく思う。そして神楽祭成功を祈って!…乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」

 皆笑顔でグラスを軽く触れ合わせ、喉を潤す。


「篁様、ありがとうございました。それでは、参加家当主の紹介を致します。3年間で世代交代があった家もありますのでね。名前をお呼びしますので、ご起立お願いします!」

 筆頭はもちろん水澤家当主篁である。そして第一区から次々と名前が呼ばれて行く。

「おねーちゃんの隣って鷹兄だよね?‥何でいないんだろ?」

 流水が空席を気にして小声で話しかける。

「‥あれ?会場のすみっこに椅子置いて座ってない?」

 出入り口に近い場所に椅子を置き、そこに座っているのが見えた。直後に呼ばれたらしく席を立って移動する。

「なんか会場スタッフみたいになってるせいかな?」

 七海と流水がこそこそ話をしていると、茜が混じって来た。

「なんか鷹兄忙しそうだねえ?そういえば鷹兄ってどこに泊まってるの?」

 聞かれたが七海も流水も知らないのだ。

「同じホテルよ?階は違うけれど。お義父様たちと近いお部屋ね。」

 こっそりと雅が教えてくれる。とはいえ、こちらに来てから一度も会えていないので、泊っている間に行動を共に出来るかどうかは分からない。

 そんなことを話しているうちに、当主紹介が終わり、一斉に拍手が始まったため、七海達も慌てて拍手をする。



「続きまして、前回の神楽祭から今回までに開眼した皆様の紹介です。」

 その言葉に七海達は黙って自分たちの名前が呼ばれるのを待つ。

「水澤七海さん」 

 最初に呼ばれたため、静かに立ち上がり周囲にお辞儀をする。続いて流水も呼ばれ、茜たちも順に呼ばれていった。少し緊張しながらも立ち上がって七海と同じように周囲に頭を下げる。

 それぞれのエリアで5~6名ほどが名を呼ばれているようだ。最初に呼ばれた七海は、注目を浴びている気がして落ち着かない。紹介が終わり、拍手をもらって再びお辞儀をした後、ようやく席につけて安堵のため息を漏らしたのだった。



「今回神楽祭、選考を通った方々の紹介となります。」

 またも名が呼ばれる。今回は年長者から順に呼ばれるらしく、他エリアのベテランが立ち上がって頭を下げていた。

「俺らも呼ばれるのか?」 

「そうだろ?たぶん」

 遊馬と道明がこそこそ話しているのが聞こえた。その声で、選ばれなかった現実を突きつけられた気がして、再び胸の奥がちりちりする。総代の孫でありながら、自分が選ばれなかったこと。ようやくかさぶたになった傷を無理やり剥がされたみたいだった。

「土門道明くん」

「はい!」

 スッと立ち上がり、周囲に頭を下げる。

「五十嵐遊馬くん」

「はいっ!」

 遊馬も立ち上がってぺこりと頭を下げた。


「開眼で呼ばれた者が選考で通ったのか!」

「いやあ久しぶりのことじゃないか!?」

「高校生?‥いや中学生か?すごいじゃないか!」

「楽しみだなあ!」

 二人が立ち上がった後に場内がざわついた。道明や遊馬はそんな声が聞こえてきて、互いに顔を見合わせる。耳まで赤くなっているのが目に入り、照れ臭そうに笑ってしまった。

 その声は当然、七海たちの耳にも入ってきて、無邪気に「すごいことなんだね!」と喜ぶ茜や流水とは対照的に、胸の奥で剥がれたばかりの傷がじんじんと熱を帯びていく。


「以上36名。皆さま、宜しくお願い致します。」

 司会の声で全員がお辞儀をし、席についた。場内からは大きな拍手が沸き起こり、七海はやはり気持ちが落ち着かず、お茶ばかり飲んでしまう。


 その後は歓談の時間が取られ、蒼介が駿を誘い、雅、立夏が慌ただしく席を立つ。

「そこに座っていればいいわ。来られた方にはきちんとご挨拶してね?」

 雅にそう声をかけられ、七海達は大人しく座っていることにする。


 隣のテーブルでも土門父と祖父が席を立ち、続いて、月影家の面々も席を立つ。歯抜けになった席を見ていると、自分たちも何かしなければいけないような気になる。

「ははは‥まあ最初のうちはなあ、座っていればいいよ。」

 そう話しかけてくれたのは、七海達の隣テーブルに座る、月影家で一人残った祖父の賢一である。そう言われて少しだけ落ち着いたが、身の置き所のなさは拭いきれなかった。


「よ、飲み物のおかわりいるか?」

 鷹也がワゴンを持って来てくれた。ちょうど飲み物が無くなった所だったので、好きなものを注がせてもらう。

「賢さん、日本酒もあるよ?」

「そうか、それならもらおうかの。」

 杯を渡し、2合とっくりから静かに注ぐ。

「おー!すまんなあ。」

 にこにこしながら口を開きかけた所で邪魔が入った。

「おい!鷹也!!こーいこいこい!」

 大声で呼び、笑顔で手招きをしている。

「全く、犬じゃねえっつの。‥誰だか知らんけど行ってくるわ‥」

 心の底から面倒くさそうに呟き、移動している最中、他の一族にも捕まっている。


「鷹兄、けっこう知られてるの?‥別のエリアの人たち、だよね?」

 自分たちは席でのんびりするよう言われ、こうして座っていることしか出来ない。それなのに兄は行く先々で呼び止められ、笑顔を向けられている。

「そうだの。まあ、あいつは色々と有名なのでな。気にせんでよい。」

 賢一は穏やかに笑みを浮かべながら呟いた。


(私もお祖父ちゃんの孫なのに。どうして私は鷹兄と一緒に回れないんだろう‥?)

 心中穏やかではない所に、老年の男が歩いてきた。

「遊馬くん!選考会後に話したいと思っていたのだが、時間がなくてなあ。涼風泉州だ。」

 確か神楽祭選考の前に話しかけられた気がする。

「あ、に、二度目まして?」

 記憶がおぼろげなせいか、あやふやな挨拶をしていると、泉州は声を上げて笑った。

「よいよい。‥あとは司くんか、最近開眼したそうだね?」

「はい。よろしくお願いします。」

 泉州は二人についてくるよう促した。そのまま席を立って行ってしまう。

「あ!俺もちょっと挨拶してくる!」

 先ほどから第3区を凝視していた道明だったが、どうやら目的の人物を見つけたらしい。そのまま立ち上がって恭平と共に行ってしまった。


 七海達の席に残っているのは、七海の他は流水と茜だけで、隣のテーブルにいるのもさくらの祖父だけだ。

「なんだかちょっと寂しくなったねえ。でも、知り合いがいないから、こうやってのんびりできる~」

 流水はそう言って笑い、茜も明るく頷いた。

「‥そうだね。」

 努めて笑顔になり、賢一を交えて話をする。さくらと共に行った山でのキャンプの話で盛り上がり、あの時のさくらちゃんの浄化が凄かった!と改めて報告をしたのだった。


「初めまして。日向駆と言います。皆さん、遠路はるばるありがとうございます。」

 30代だろうか、穏やかで優しそうな男性が来て、七海と流水、茜にも丁寧に挨拶してくれた。三人がそれぞれ自己紹介すると、静かに頷いてくれる。

 七海達と同い年の息子がいるそうで、あいにく体調を崩して今回は来られなくなったと話してくれた。高校で上京するので、七海と遊馬に顔合わせをしておきたかった、と残念そうだ。

「初めての参加だと、身の置き所に困ってしまうよね?最初は皆そうだから大丈夫だよ。」

 そんな言葉をかけてもらえて、七海は少し気持ちが落ち着いた。

「僕はね、一時期篁さんの所でお世話になっていたことも‥」

 と、話の途中で司会から

「それでは皆様、席にお戻りください。」

 と、アナウンスが入る。駆は少し残念そうな表情を浮かべ、「ではまた」と席へ戻って行った。他の皆も一斉に席に戻る。鷹也は相変わらず七海の横に座ることはなく、篁に呼ばれて何ごとか話していた。


 その後の連絡事項は、主に今後の予定についてと自由行動時間についてだった。事前にタイムテーブルは共有されているので、再確認のようなものだ。



 締めの挨拶は、先ほど七海達の所へ挨拶に来てくれた、日向駆だ。

「本日は、ありがとうございました。今回初参加で戸惑った方も、少しずつ慣れて頂けたらいいなと思います。若い子たちにも積極的にお声がけして下さいますよう、宜しくおねがい致します。」

 七海が感じていた所在なさに気付いてくれたのだろうか。そんな気持ちになるような優しい言葉だった。陽だまりのようなぬくもりに、不思議と張りつめていた気持ちがほどけていく。


「それでは皆様、お疲れさまでした。どうぞお気をつけてお帰り下さい。」

 駆が深々とお辞儀をすると、大きな拍手が沸き起こる。七海も自然と拍手をしていた。不思議と心までも温まり、穏やかな気持ちでホテルへの帰路についたのだった。



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