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掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
63/113

合同お誕生会という名のBBQ ケーキと花火と

「‥にーちゃん、おなかいっぱい!!」 

「おれもー!」 

「私もー!」 

「私アイス食べたいー!」

 弟妹達は魚介類よりも肉がお気に召したらしい。山のような肉とカレーで相当満足したようだ。

「んふふー!そろそろデザートタイム、かな?」

「うふふ、そうね!準備しましょうか?」

 流水と立夏がにっこりと笑い合う。

「え?え?なに?‥何かあるの!?」

 茜が置いてけぼりになっていて、怪訝そうに二人を見やる。

「「ふっふっふー!!」」

 流水と立夏が笑いながら「ちょっと待ってて」と言って母屋の方へ歩いて行った。途中で七海に声をかけ、そのまま合流する。


「あっれー?これはケーキの予感か!?」

 遊馬が鼻をひくひくさせる。もちろんここでは焼けた肉や魚の匂いしかしない。

「けーき?」 

「ケーキ!?」 

「まじで!?」 

「やったー!」

「あ、やべ!やっぱ今のなし!!外れてたら大変なことになる!!」

 遊馬が慌てて取り消したが時すでに遅し。子供たちは大騒ぎし、茜は大笑いしていた。


「鷹ちゃん、そろそろ戻りましょ?」

 しばらく話し込んでいた二人だったが、雅が笑顔で促す。

「うい。」

 妖や影たちに手を振り、母屋の方へと戻って行く。



「ハーイみなさーん!ちゅうもーく!!」

 流水が大きな声を張り上げると一斉に注目が集まる。七海と立夏、霧江も一緒だ。

「今から名前を呼ばれた人はここに来てくださーい!」

 流水がそう叫んだあと、横にいる七海が後を継ぐ。


「道明!遊馬!茜ちゃん!さくらちゃん!司さん!」

 呼ばれた5人は何だろう?と、七海達の所に来る。

「ハッピーバースデイ!遊馬!茜ちゃん!道明!さくらちゃん!」

 言い終えて拍手をすると、全員がそれに倣って拍手をした。

「司さんもおめでとう!!右手あげてーー!!」

 さっき開眼てなに?と詰め寄られていたのを見た流水が、気を利かせて「おめでとう」だけに留める。開眼したのが右手であるため、きっとみんな理解してくれるだろう。

「「「「おめでとう!!!」」」」

 拍手がやんだところで、ワゴンに乗せた四角いケーキが登場する。人数が多いため、一段の大きなスクエア型が3つだ。

「「「「わーーーーーけーきーーー!!」」」」

 子供たちから特大の歓声が上がり、大人たちも笑ってしまう。

「ケーキ切る前に写真撮る方はどうぞーーー!!力作だよーーー!!」

 流水が茶目っ気たっぷりに言うと、スマホ片手に撮影者が続々と前に来た。「おめでとう」と5人に声をかけ、わいわい写真を撮っている。


 もちろんカメラマン霧江も抜かりはない。忙しく立ち回りながらも、あちらこちらで写真や動画を撮りつつ、肉と魚介を堪能しワインまで飲んでいた。

「はいみんな、こっち向いてー!」

 ついでに5人の笑顔も撮影し、流水と七海、立夏の3人にもカメラを向けた。なぜか5人がケーキ入刀し、立夏が後を受けてきれいに切り分ける。そして皿にフォークを添えて次々に捌いていった。

「超美味しい!!」

 今回は桃・メロン・ぶどうをそれぞれふんだんに使ったフルーツケーキだ。クリームにも果汁が使われ、甘さと酸味が相まって、さっぱりとしているため、いくらでも入ってしまいそうだ。

「やばい!」 

「んんーーーー!!」 

「あーーーー!」 

「うぉーーーー!」

 七海世代、兄世代、全員の語彙が壊滅的な被害を受けた。


「立夏さん、霧江さん、流水、みんな本当にありがとうございます。」

 七海が準備をしてくれた三人にお礼を言って回る。

「うふふ!こんなに大勢で賑やかなお誕生会になって、私も嬉しいわ!ありがとね、七海ちゃん。声をかけてくれて!」

 立夏は心から嬉しそうに言い、茜と灯、融が弾けるような笑顔でケーキを食べている姿を、温かな眼差しで見つめている。夫を亡くした後は必死だった。寂しい想いもさせてきただろうことも分かっている。だからこそ、この笑顔が何より嬉しかったのだ。


「あはは!中学入ったらさ、灯ちゃんや融くんとも遊ぶ機会、減っちゃったんだよね。今日は一緒にお喋り出来て嬉しかったし。喜んでもらえて良かった!」

 流水もそう言って笑っている。近所でもあるし、子供の頃から一緒に遊ぶことは多かったのだが、中学に入ってからは機会も減ってしまったのだ。

「本当に立夏ちゃんの焼くスポンジはふわふわで美味しいのよねえ。‥私も勉強になったわ。ありがとうね?立夏ちゃん!」

 4人もケーキを食べながら、互いに笑顔を向け合った。

「私もお菓子とかお料理の勉強、したいかも。‥やっぱりさ、ごはんとか甘い物って‥大切だなって思うんだよね。何より力の素になる気がする。」

 流水がしみじみと呟いた。

「そうね、それも一つの道だと思うわ。‥まだ中学に入ったばっかりなのだし、ゆっくり考えればいいと思う。」

 霧江がそう言って流水の肩に手を置く。「美味しい」と笑顔になってくれた時の喜びを、誰よりも霧江が良く分かっているのだ。



 兄世代たちが少しずつ片づけをしてくれており、使った食器やコップ達は既に運ばれている。あれだけあった食材たちもすっかりなくなった。

「この後の片付けがまた修羅場かしらね?」

 霧江と立夏がそう話していると、目の前に壁が出来た。

「洗い物や後片付け、僕らが手分けしてやりますから。皆さん、ゆっくりしてください!」

 そう声をかけて来たのは蒼介だ。その横に恭平、司、智樹、智琉も並んでいる。

「こんなに美味いものご馳走になったんだし。それくらいさせてくださいよ。」

 恭平がそう言って爽やかに笑う。


「あちらに席を用意してありますので、どうぞ。」

 智樹が恭しくお辞儀をし、執事よろしく案内をする。テーブルには環と桔梗、雅も案内されており、楽しそうに笑っていた。

「何か悪いわねえ‥」 

「でも、ありがたいわ。」 

「うふふ、若い子たちに囲まれて幸せ」

 まだ未開封のワインや日本酒とグラスが置かれ、スナックとチョコレートのつまみまである。お酒の希望を聞いて蒼介が注いで回り、ご婦人方のささやかな飲み会が始まった。



 蒼介は4人を引き連れ、台所へと向かう。食器が山と積まれており、洗い係・すすぎ係・拭き係に分かれててきぱきと洗い物をこなして行った。

「智琉!お前、これまだ脂が落ち切っていないぞ。甘い!!」

「にーちゃん細けえな‥」

 双子が洗いとすすぎをしているが、智樹のチェックが厳しく即座に突き返される。

「家ならまだいいが、人様の家の食器をだな‥」

「分かってる分かってる‥肉の脂がすげーんだよ‥」

 そんなやりとりが面白く、蒼介は笑っていた。

「君たち面白いな!一見似ていても、性格は全く違うものなんだね。」


「まあ確かに落ちにくいっすけどねー‥汚れがひどいのはいったん湯につけておくといいっすよー!」

 シンクが大きいので、司は一見して油まみれの皿は、湯と洗剤を少々入れた洗い桶に突っ込んでいた。

「司、手際がいいよなあ。手慣れてる感じだけど、けっこう家事やるの?」

 独り暮らしでたまに自炊をしている恭平が感心している。

「あー家、両親が仕事で遅いんで。俺と遊馬が夕飯作ってるんすよねえ。俺も遊馬も料理作るのわりと好きっす。」

「うわマジか!!俺は自炊もするけど、つい面倒で外食しちゃうんだよな‥」

 恭平は少しばかり反省した。外食すると費用がかさみ、アルバイトを増やさなければならず、必然的に勉強する時間も減ってしまう。


「あははは!俺も基本は単身赴任だから自炊なんだよ。ただ日本の調味料の取り扱い少ないし、値段も高くてなあ。まあ、自炊も慣れると苦にならないよな?」

 智樹と智琉も自炊しているらしく、司と三人が一斉に頷いた。

「うえ、外食ばっかりしてるの俺だけ!?‥やべ、何かこのままじゃダメな気がしてきた!」

 焦る恭平に笑い声が弾ける。

「なあ!せっかくだしさ、グループトークで自炊メシの写真アップしないか?もちろん俺だって外食することもあるし、忙しい時はインスタントだけどな!」

 蒼介の提案に男子たちが乗った。

「それならネコ討伐戦線グループでいいんじゃないか?いるメンバーは、あと遊馬と道明だけだろ?」

 智琉がそう言うと、みな笑い出す。蒼介だけがぽかんとしていたが、智樹がこれまでの経緯を説明した。


「ちょw鷹也が討伐対象なの!?あはははは!!それ面白いな!!混ぜて混ぜて!!何なら俺もあいつの討伐参加するわ!!むしろ討伐したい!!」

 思いがけない強力な味方増員に、全員の戦意が一気に上がった。

「あ、でもね?俺は水泳部だから!球技はそこまで得意じゃないからさ、あまり期待するなよ!?」

 そうは言うものの、きっと身体能力はおかしいのだろう。智樹と恭平は顔を見合わせてニヤリと不敵に笑い合った。

 こうして蒼介がネコ討伐戦線に参加し、なおかつここで自作メシ公開までがされることになった。リクエストに応じてレシピ公開もありだ。


 洗い物部隊は米を炊いた大きな羽釜やカレーの寸胴もきれいに洗いあげた。食器も全て拭き上げ、蒼介がケースに収納していく。最後にキッチン全体を掃除して完了だ。

 5人はハイタッチを交わし、清々しい気分で外に出た。



 外では篁と賢一が七海・さくらと共にゴミを片付け、分別しながらまとめていた。賢一はさくらが前髪を上げて素顔を見せていることに大いに喜んでいた。

「‥実地体験のあと、温泉でついうっかり、七海ちゃんと茜ちゃんに見せてしまいまして。でも褒められたのが本当に嬉しくって。」

 さくらは嬉しそうにそう語る。

「ええっでも、こんなにキレイなのに!もったいないし!鷹兄にも褒められてたでしょ?」

 微かに笑い、さくらは頷いた。

「鷹也さんもそうですし‥みなさんが気味悪がらないで温かい言葉をかけて下さったので。‥なので、美容院でちゃんと整えてもらって来ようかなって思ってます。」

 そう宣言したさくらに、賢一は目を細めて頷いた。

「‥ずっとコンプレックスでしたから。けど、受け入れてくれる人もいるって分かったので、もう大丈夫です。七海ちゃん、ありがとうね?」

 黒と金の瞳を向けられ、七海は嬉しくなった。こんなにもきれいな人が、自分の姉になるんだと思うとドキドキしてしまう。それにもし、さくらのコンプレックスを払拭するきっかけになれたのだとしたら、何となくそんな自分も好きになれそうな気がした。


「さくらちゃん!!」

 こまごました片付けや掃除をしていた流水が走ってきて、嬉しそうに笑った。

「さっきからずーっと気になってたの!‥すっごい美人さん!!」

 ストレートに言われ、さくらの顔が真っ赤になる。

「あ、ありがとう‥流水ちゃん。」

「わたし、おねーちゃん二人になるんだ!!さく姉とナナ姉かな!?鷹兄が鷹兄だからそうだよね!?」

 テンションマックスの流水に、七海も笑いながら頷く。さくらは照れまくり、祖父二人はそんな様子を心から嬉しそうに眺めていた。




「にーちゃん!今日の夕飯なにー?」

 唐突に涼が言い出した。

「いや待て!!あれだけ食ったのにまだ食うの!?」

 陽が伸びているためにまだ明るいが、それでももう夕方近い。

「ちげーよ!もしハンバーグとかだったら、お腹空かさないと食べられないじゃん!もっと遊ばないとダメだと思って!!」

「確かに!!夕飯唐揚げだったらヤバイ!!」

 男子二人の会話に全員が笑い出す。

「待って‥俺がハンバーグとか食えないし!」

「私も唐揚げとか食べられないし!」

 遊馬と茜が笑いながら言い。

「やあねえ男子は。食いしん坊なんだから!」

「そうよ!そんなに食べられないもん!」

 灯と美園は呆れたように言い放つ。

「やっべえ!なんか見てて、俺自分の過去を見せつけられた気分!」

 遊馬が苦笑いを浮かべながら言うと、道明は腹を抱えて笑い、茜も頷きながら笑いすぎて滲んで来た涙を拭う。


「なー!兄ちゃん花火やりたい、花火!」

「あー!やりたーい!!」

「さんせーい!!」

「は・な・び!は・な・び!!」

 一人が言い出すと、すぐに便乗する。小学生あるあるなのかもしれないが、結束力はすごかった。

「うーん‥花火やるには明るいしなあ。良かったら夜、うちの庭でやるか?」

 道明の提案に子供たちが即座に乗った。

「「流水ちゃんもー!」」

 女子からのリクエストもあり、せっかくなので七海と流水も誘うことにした。




鷹也と圭輔は炭の始末とバーベキューコンロの片付けに勤しんでいる。

「ありがと、圭さん。手伝ってもらって助かった。」

 燃え切っていない炭は壺に入れ、灰や燃えカスはすべて集めてまとめる。冷めたら袋に詰めて、肥料代わりに使うこともあれば、融雪剤のようにも活用出来るのだ。

「いやいや。さんざんご馳走になったからね、この程度のことは。」

「そもそも実地訓練のお礼だったのに。」

 二人は笑い合い、大活躍だったバーベキューコンロを納屋へと運び込んだ。

「じっちゃんも楽しそうだったし、またやるんじゃないかな?良かったら来てよ。」

「はははは!その時は喜んで馳せ参じるよ!実に美味かったしね!」

 山での実地訓練が、新たな縁を結んだ。お互いに見知ってはいたが、挨拶を交わす程度で、会話も殆どしたことがなかったのだ。

「俺も山の調査には良く行くんだ。付き合ってくれよ、お前さんがいると心強い。」

 圭輔はそう言って笑い、鷹也も快諾したことで共に行動することになるのだった。



「さて、準備から片付けまで、協力してくれてありがとう。一度ここで閉会としよう。儂も普段なかなか会えない者達と会え、話も出来て本当に良かった。お疲れ様!!」

 全員が拍手し、合同バーベキューは大成功を収めたのだった。



 大人たちは三々五々解散してゆく。

「「「「花火―!!」」」」

 子どもたちはまだまだ興奮冷めやらぬ様子で、一度家に戻ってから道明の家に集合することにした。



 道明の家に着くと、既に子どもたちはどの花火をやるのか選んでいる真っ最中だった。

「るみちゃん、おそーい!」

 灯が口をとがらせ、手を掴んで引っ張る。

「あはは、ごめんね?」

 美園も一緒になってどの花火がいいかな?と真剣に選んでいた。

「どれやっても楽しいぞー!」

 火付け用のろうそくを立てると、涼がさっそく花火を持って来て、融も慌ててそれに倣う。

「暴れるなよー」

 

 しゅううと音を立て、火薬独特の匂いが鼻につく。風向きを見ながら煙を避け、七海たちは花火に見入った。

「すげー!きれいー!!」 

「ごほっごほっ‥けむりきた!!」

 女子3人も次々に点火し、匂いと煙が更に増える。そして5本の花火で周囲が一気に明るくなった。


「せっかくだ、俺たちもやろうぜ!」

 遊馬にそう声をかけられ、3人は笑いながら花火を選んで点火する。

「‥なんか、花火って久しぶりって気がする。」

「そうだね、最近は見てるだけだった。」

 七海と茜は白や金、赤や緑に変色していく火花に目を細め笑ってしまう。道明や遊馬はスパーク花火で盛り上がっていた。


「‥何か、ついこの間までさ、あの子たちみたいに花火持ってはしゃいでたんだね、私たち。」

 弟妹たちがきゃーきゃー言いながら花火を楽しんでいるのを横目に見ながら、七海がしみじみと呟いた。

「俺は今もはしゃいでるけどな!!」

 遊馬が笑いながら楽しそうにはしゃいでいる。

「あははは!あっくん、中身は小学生なんだよきっと!」

「そうだな!」

 茜と道明にそう言って笑われたが、遊馬も一緒になって笑っている。


「‥来年の夏は‥」

 一学期があっという間に終わってしまったことで、中学生活もあっという間なのではという不安がある。

「ここで会って花火しようぜ、七海!!」

 小さな声だったはずだが、どうやら遊馬の耳には届いてしまったらしい。

「先のことを考えるよりさ、今楽しくなろ?」

「大丈夫だって七海。いつだって戻って来られるんだ。」

 茜と道明も笑ってくれる。

「うん、そうだね!」

 七海も笑って頷いた。



 小さな花火大会も終わり、それぞれが帰途につく。

「えっとね?‥みんなに誕生日のプレゼント。これ、私も含めて、お揃いのマグカップなの。」

 小さな紙袋を茜、遊馬、道明に渡す。

「わー!ナナありがとう!」 

「いいね!さんきゅー七海!」 

「お揃いっていいな!ありがとう!」

 そのままガサガサと開けてくれ、みんなでマグカップを眺める。

「わ!名前入ってる!」 

「保温保冷出来るやつじゃん!!」 

「蓋付き!!」

「えっとね‥私と、あと鷹兄から。いつもありがとうって。」

 ちょっと高価なのでは?と心配そうな道明と茜が、鷹兄の名前を出したことで安心したらしい。3人は笑顔でお礼を言ってくれた。


「じゃーなー!」

「ばいばーい!」

 遊馬と涼が帰って行き、道明と美園に手を振りながら帰途につく。

「さーて、帰るぞー!」

 こうしてバーベキューと花火大会は終わった。




―第三章・完ー




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