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掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
62/114

合同お誕生会という名のBBQ 爺ちゃんと仲間たち

 しばらくの間、大人同士で魚介の炭火焼きと日本酒に舌鼓を打っていた篁だったが、ある程度皆の食欲が満たされたのを見て取り立ち上がった。

「少し、彼らと話をしてくる。」

 飲んでいる割には表情にも全く出ておらず、足取りも軽快だ。そのまま真っ直ぐに、司の元へと歩いてゆく。そこにはカレーの配膳を終えた霧江と立夏、司と遊馬、茜が弟妹たちと共にいた。いち早く気づいた霧江が、立夏たちに目くばせをし、司を連れて篁の元へと歩く。


「司くん、この方が私たち一族総代、水澤篁さん。姉の義父でもあるのだけど。」

 そう紹介され、司は少し緊張した様子でお辞儀をする。つい先日開眼したばかりの司には、一族のことや、それを取りまとめる立場の者がいること自体、分からないことばかりだ。とはいえ、「総代」という言葉から偉い立場なのだろうことは推測出来る。どう対応したら良いのかは分からず戸惑ってしまうのだ。


「やあ、爺さんはどうだ?‥少し良くなってきたとは聞いたが?」

 司の祖父が夏風邪をこじらせて入院しており、両親も仕事と病院の行き来でバタバタしていることを知ってくれているらしい。パット見、少し怖そうな印象を受けたが、低くて穏やかな声は温かかった。


「初めまして、五十嵐司っす。今朝も病院に寄って来ましたが、ずいぶん良くなったようです。本当は両親ともに来て挨拶をって話しもあったんすけど‥すみません。」

 篁は笑顔で頷いた。司の父から参加する旨の連絡はあったが、看病疲れもあるだろうから無理をするなと、篁の方から押し留めたのだ。


「それよりも開眼したのだな。‥霧江から話は聞いているかい?」

 以前流水も執り行った開眼の儀や神楽祭のことは、霧江や遊馬から話を聞いている。

「はい。神楽祭の方も遊馬と一緒に行けると聞きました。ありがとうございます。」

「ははは、そんなに畏まらんでいい。‥いやはや、この近くで開眼者が出る際には数日前から予兆があるものなんだが。今回は儂も驚いた。まあ君も相当驚いていることと思うが。」

 司は笑いながら頷く。突然掌に眼が出た!と思ったら、わけのわからないものが色々と視界に入るようになり、毎日が戸惑いの連続なのだ。


「まだ慣れないっすね。けど霧江さんと遊馬が色々と教えてくれるので、正直助かってます。」

 篁と霧江は笑いながら頷いた。

「夏休みで良かったわねえ?学校に行ってたらもっと戸惑ったかもしれないわ。あの子たち、教室や廊下にもいるから。」

 司は「マジっすか」と言って笑った。

「いやあ驚いて声上げちゃうんすよねえ。学校でやってたら変な奴だと思われそうっす。」

 そう言って笑う司に霧江と篁も一緒になって笑う。

「まあ儂もたまに街なかで妖や影に話しかけられることがあってな?つい答えてしまって、周りから変な目で見られたことはあるわ。」

 霧江も「私もです」と言って笑っているので、司も「俺もそうなりそうっす」と言いながら笑った。

「まあ君の爺さんも両親も大層喜んでいたよ。遊馬くんも心強いだろうな。」

「むしろ俺の方が、遊馬が居てくれて心強いっすよ。」

 三人は笑いながらしばらく談笑し、司も積極的に質問をしながら篁や霧江とコミュニケーションを取ったのである。




 その後篁は蒼介達の元へと行く。

「圭輔くん、その節はうちの孫が世話になったな。」

 そう声をかけられ、圭輔は姿勢を正して会釈する。

「いえいえ。みんないい子達ばかりで、かなり楽をさせてもらいましたよ。」

 笑顔で応じる圭輔に、篁も蒼介も雅も笑顔だ。

「‥鷹也が迷惑かけなかったか?」

 頼りにもなるが、問題児にもなりかねない孫を篁は少し心配していた。

「いやいや!とんでもない!‥実地体験のとき、あいつに神力制御を頼んだんですが。いつの間にあそこまで精密制御出来るようになったんです?祓いもやりやすかった。」

 過去に起きたちょっとした事件を思い出す。その事件のせいで鷹也は一族で有名になったのだが、その時には大騒ぎになったのだ。


「そうか、それなら良かった。選考で見た時の印象を言えば、一番安定しているのは道明くんだった。彼はブレない強さと、場を制御する力を持っている。実地を見てどう感じた?」

 甥が高評価を得ていることに、圭輔もつい頬が緩んでしまう。

「‥そうですね、あいつは空手を磨くことが神楽上達にも繋がる。そう考えています。僕から見ても確かにあいつにとってはそれが一番良いように思えました。」

 篁は笑顔で満足気に頷いた。咳払いをしたことで、蒼介が慌てて冷えたお茶を差し出すと、篁は笑顔で受け取り喉を潤す。

「そうだな、武の道を極めてゆくと、不思議と神力も上がってゆく。‥まさに君もそのタイプだったな?」

 長く柔道を続けている圭輔はしみじみと頷いた。

「俺は武具が槌ですからね、関係ないだろうと思っていたのに‥不思議です。柔道を極めたら、槌を操る技術までもが上がりました。」

 遊馬のように弓道をやり、武具も弓となる場合もある。しかし、武道と武具が必ずしも一致しないことは多いのだ。


「遊馬くんに関しては、場を作る能力に儂も驚いた。風系譜の真骨頂ともいえるが、同時に荒れやすい部分もある。そこが少しばかり心配ではあるが、現時点であの技量はすごいものだね。」

 これには圭輔も大いに頷いた。

「あの子は弓道をしているそうですね。‥私が彼ぐらいの頃は波が酷かったものですが、あの子はその波も含めて自分のものにしているように見えました。」

 雅が改めて選考会のときの遊馬をそう評す。

「仰るとおりです。そして実地体験で神力の感触をしっかりと捉えてました。小さな穢れではありましたが、祓う目前まで到達していた。‥鷹也が神力を絞ったそうです。」

 篁と雅が顔を見合わせた。初めての実地体験で、そこまで到達出来るものはほぼいない。

「‥先が楽しみではあるな。弓が好きだというのなら、そこを伸ばすと神力も安定するやもしれん。」

 篁はそう呟き、少し考えるような表情になった。



「茜さんはどうだね?‥あの子は芯が強く、良いものを持っているのに‥なかなか踏み切れん部分があるようだった。」

 圭輔も冷えたお茶をもらって喉を潤す。冷たいお茶が喉を通り、ビールとはまた違う清涼感をもたらしてくれた。篁も冷えたお茶に口をつけ、軽く吐息を漏らす。


「鷹也曰く、選考会から一番成長したのが彼女だと。失敗をしてもいいから気にせずにやる、実地の時にも足元の不安定さから崩れそうな場面もあったのですがね。彼女はそれすらも型の一つと言わんばかりに舞い切りました。一瞬、神力も感じ取れたようです。」

 篁も雅も、それを聞いて本当に嬉しそうに笑った。七海の親友でもある彼女のことは、雅も気にかけていたのだ。

「‥そうか。彼女もまた、あの選考で得るものがあったのだな。」

 しみじみと頷く篁に、雅と圭輔も穏やかな笑顔になる。この話に入れない蒼介も、七海の同級生たちの話を聞いて穏やかに笑っていた。

「何よりあの子は、七海ちゃんを自分のこと以上に気にかけていましてね。‥俺が嬉しくなりましたよ。」

 蒼介が雅の肩に手をかけ、二人は頷き合い、そして笑顔になった。

「茜ちゃんは本当にいい子。あの子がいてくれて私も安心なの。」

「彼女の存在が支えになってくれているようだね。‥ありがたいことだよ。」

 二人はそう言い合い、後で改めて立夏にもお礼をしようと頷き合った。



「まあ‥一番の問題は‥七海だろう。あの子のことだ、全員の注目を受ける場面となると、型や姿勢、所作に重きを置いてしまう傾向が強い‥これはなかなか抜けんだろうな。」

 そう指摘した篁に、圭輔は頷いた。

「カッコ付けたがる癖は俺に似ちゃったかなー!」

 思わず声を上げた蒼介に、三人は笑い出す。

「ふふ、確かにそういう部分はあるかもしれないわね。」

 雅もそれを認めて笑ったが、すぐに心配そうな表情になる。 

「それ以上にね、あの子、完璧主義なところが昔からあるの。‥裏目に出ちゃってる感じかしら。」

 篁が同意するように頷き、圭輔も納得したような様子だ。


「実は俺が気になったのはそこじゃないんですよ。」

 圭輔は少し考えるような表情を浮かべ、そう告げる。篁も雅も蒼介も圭輔に向き直った。その様子に空気が少しだけ張り詰めたように感じる。

「‥あの子は鷹也を意識しすぎる。認められたい、褒められたい‥それと同時に並び立ちたい、信頼されたい。そういった思いが強すぎるように俺は感じました。」

 篁はそっとため息を漏らした。蒼介と雅も顔を見合わせて「やっぱり」と頷いている。


「‥昔からお兄ちゃん子だったものねえ‥」

「そうだなあ。俺らが褒めるより、鷹也に褒められるのが何より嬉しい!だったしな?」

 そんな経緯があったのか、と圭輔も納得した。

「まあ鷹也もそれは分かっているからの、上手く距離を取ってはいるようだが難しいものだな。‥高校で上京し、物理的な距離も離れる。ある意味、あの子にとって高校生活は大変かもしれん。」

 この先に待ち受ける困難に対し、蒼介と雅も心配そうではある。

「でも、あの子は大丈夫。‥鷹ちゃんもきっと考えてくれているしね?」

 これについては蒼介と雅、霧江と鷹也の4人で何度も話し合いが行われており、両親が仕事に専念出来るよう、主に霧江と鷹也が妹たちのフォローに徹している。

「俺等はあいつらを信頼して、必要に応じてしっかりフォローしよう。」

 蒼介と雅は頷き合い、だからこそ無闇に口出しをしないというスタンスを守っているのだ。


「改めて礼を言う。‥あの子達を見て、導いてくれたこと。そして今の話は大変参考になったよ。」

 篁がそう頭を下げたため、圭輔も慌てて頭を下げ返し、笑ってお茶で乾杯したのだった。




 そして篁が向かったのは兄世代の所だ。

「やあ。いやあ立派になったなあ‥」

 さくらの兄、智樹に智琉、恭平、さくらが揃って談笑しており、そこに七海と道明も混じっている。

「「お久しぶりです!お元気そうで。」」

 双子が同時にハモった。お辞儀のタイミングから角度までピッタリだ。

「ご無沙汰しております。道明がお世話になってます。」

 恭平も挨拶し、頭を下げる。

「そう畏まらんでよいというのに。」

 篁は笑いながら言い、さくらと道明にも手で制す。

「今年あたりから来られんかと思っていたが、無理はしておらんか?」

 医学部三年生である双子に篁は笑いかける。

「次回の神楽祭は行けそうにないですし、顔合わせもしておきたかったんですよ。」

「来年あたりからは帰省出来るかも怪しそうです。婚約者の確認もしたかったですし。」

 智樹と智琉の言葉に、篁は頷きながら笑った。


「ははは‥少しばかり困ったやつだが‥大丈夫かね?」

 双子は困ったような忌々しそうな、それでいて諦めたような、複雑な表情だ。

「ふふ。」

 さくらがつい笑ってしまい、兄たちもそれを見て笑う。

「少しばかり‥?」

 思わず呟いた恭平に道明が吹き出し、爆笑している。篁も面白そうに恭平を見やった。

「あ!‥いえその‥」

 言い淀む恭平に、道明が肘でつつき笑いながらけしかける。双子も視線で煽ってくるため、恭平は意を決した。


「身体能力バグってるわ!顔認証出来ないわ!会話が通じねえええ!!」

 恭平の叫びに、その場にいた全員が爆笑する。篁も腹を抱えて笑っており、七海までもが顔を覆って笑っていた。

「いや‥すまん‥ぶはははは!‥まあ‥顔認証と会話に関しては‥儂も何も言えんわ‥」

 笑いながら素直に認める篁に、恭平はホッとした。勢いで言ってしまったが、怒鳴られたらどうしようと少しビクビクしていたのだ。

「篁さん、最近もツーリングは行ってるんですか?」

 智樹がそう尋ねると篁は嬉しそうに頷く。

「「え!?ツーリング!?‥ってバイク!?」」

 道明と恭平がつい大声を上げた。もちろん七海は知っている。何度か乗せてもらったこともあるからだ。

「あれ?知らなかった?わりとこの辺じゃ有名なハーレー乗りなんだよ?」

 智琉もそう言って恭平たちを見やる。

「「マジっすか!!」」

「私も良く乗せてもらってたんだよ?すっごい気持ちいいの!」

 七海が無邪気に言って笑っているのを見て、恭平と道明は顔を見合わせた。今日も甚平姿に草履という和装であるために、どうしてもバイクとは結びつかなかったせいだ。


「鷹也とバイクで走って渓流釣りにも行っとるよ。そういえば身体能力か?そうだなあ、あいつはまあ‥普通だと思うがな?親父とよく似ている。」

 篁の言葉に、智樹と智琉、恭平が戦慄した。アレが普通だという時点で、おそらく篁も同等以上なのだろうと分かったためだ。

(((水澤家やべえって‥こういうことか!!)))

 一族の間でこっそり言われていることを、兄たちは恐れ慄きながら納得させられたのだった。


(お祖父ちゃん、総代って聞いてたから‥もっと威厳があって怖いのかなと思ってたけど、そうでもないんだなあ。気さくで話しやすいんだ。)


「修行の方も順調そうだな?‥多少、話は聞いておるが。」

 篁が上京組を見ながら話を向ける。

「そうですね。‥やはり首都ともなると、澱も穢れもかなり見かけます。実践で祓いもやりますが、浄化の方が得意なのだと実感していますよ。」

 智樹がそう言うと、智琉も頷いた。

「まあ月影は昔から浄化に長けておるからなあ。祓いは武具よりも楽器で活躍することが多い。‥得意とする部分を極めるのも一つだしの。何も全てを一人でやる必要もない。」

 二人は笑顔で頷き、「これからも精進します」と宣言した。

「ああ、しかし無理はするでないぞ?‥君らの将来のために、すべきことをすればいい。」

 医学部卒業後は研修医を経て地元に戻り、叔父の病院を継ぐという明確な目標を持っている双子だ。篁ももちろんそれを応援している。


「恭平くんも地元に戻るんだったな?」

「はい!不動産会社を継ぐために、色々と勉強中です。‥修行の方も‥頑張ってます。俺は浄化が今ひとつ、祓いのほうが向いているみたいですね。」

 恭平も淀みなく答えた。

「そうだなあ、土門は分かれることが多いな。浄化か祓いか、それはそれで良いと思うぞ?焦らずじっくりと、それが身上でもあろう?」

 恭平と道明は顔を見合わせ、篁に向き直って頷いた。

「「精進します!!」」


 そこから兄世代たちの失敗談や成功体験の話題になり、七海と道明も興味深く聞き入り、笑い、感心したのだった。



 雅は静かにその場を離れ、築山を迂回して離れへと歩いていた。徐々に喧騒が和らぎ、静かで穏やかな雰囲気へと変化する。

「ふふ、やっぱりここにいたのね。」

 言いながら縁側に座る鷹也の隣に座った。

「‥暑くてさ。それにこいつらこっちに避難させてたし。」

 湧水池や家の中にまで妖や影たちがまとまっている。バーベキューで焼いた肉や魚介、酒やジュースなども置いてあり、こちらはこちらで大宴会になっていた。

『みゃーびだー』 

『えんかいだー!』 

『タカヤコーラなくなったー!』

 皿にコーラを注ぐと、我先にと妖たちが群がる。そんな様子を見ている眼差しは温かだ。先程の賑やかで明るい雰囲気とは異なり、湧水池の影響もあってか涼しいと感じた。


「七海のこと?」

 図星を突かれ、雅は苦笑いを浮かべた。

「ええ。圭輔さんからも話を聞いたの。私たちが任せきりにしていることで、貴方に負担をかけているんじゃないかと。‥少し心配になったのよ。」

 鷹也は足の上に登ってきて寛いでいる妖を撫でながら、微かに笑った。

「気にしなくていいよ。俺は俺の出来る範囲でしか動いていない。」

 表情に乏しく言葉少ななのは、昔から変わらない。それでもずいぶんと笑顔を見せてくれるようになったし、聞けば丁寧に話してもくれる。


「‥ずいぶん落ち着いたようで、少しホッとしているのよ。けれど、神楽祭の後で、また落ち込んでしまいそうでね。私はつい甘くしてしまうから。‥貴方に嫌な役をさせてしまっているわね。」

 鷹也はそれを聞いて薄く笑う。

「適材適所。むしろ俺が甘く出来ないの、分かってるだろ?」

 雅はわらわら集まって来た妖たちを撫でくりまわしながら笑った。

「そうね!鷹ちゃんが七海ーってベタベタに甘やかすの、想像出来ないわ。いえ?でもそれはそれで見てみたい!!」

 二人は笑い合い、湧水池を眺めながら静かに会話を楽しんだ。



 



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