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掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
59/114

第1回ネコ討伐戦線 中当て対決!

 双子にとって忌々しい3on3ガチ勝負の直後、グループメッセが作成された。グループ名は「ネコ討伐隊」である。隊長はさくらの兄である智樹、副隊長は道明の兄である恭平だ。

 参加者は月影智樹(隊長)・土門恭平(副隊長)・月影智琉・五十嵐司・土門道明・五十嵐遊馬の6名である。ちなみに討伐対象は水澤鷹也、道明の“反射神経がネコ”というコメントからネコ討伐となった。


 【なーなー!中当てやろーぜ!ロープでライン作って、鷹兄中に独り。全員でバレーボール投げまくるの!当てたら神!】

 遊馬のそんなメッセージから、怒涛のようにメッセージが流れ出す。

【‥それは面白い!!良い案じゃないか!】

 即座に返信したのは隊長でもある、智樹だ。

【俺はサーブしてもいいよな!?】

 現役大学バレー部の恭平もノリノリだ。そこから話はどんどん進み、二日後の午後、体育館で集合することになった。


 智樹と智琉、さくらが討伐対象である鷹也を連れて来た。道明と恭平、遊馬と司もやって来た。さっそく体育館に入って床にロープで円を描く。

「さて、狩りの時間だ。鷹也、お前はその円の中な?」

 片手でバレーボールを掴みながら智樹が笑う。バレーボールのカゴごと円の外側に置いてあった。わざわざ20mのロープを購入して持ってきたらしい。円の直径は約6m、独りであれば十分すぎるほどの広さではある。


「へ?俺だけ中?」

 鷹也は円の中に入り、周りを見回した。6名が均等に並び、手にバレーボールを持っている。

「鷹兄!とりまみんなでボールぶつけるから!」

 笑いながら道明が言い、恭平が数歩下がった位置でボールを床に叩きつけている。

「サーブ打っても問題なさそうだしな!!」

 遊馬と司も楽しそうに笑い、バレーボールで遊んでいる。この二人は討伐云々より、この場が楽しくて参加しているようだ。


「時間は10分間。当てられたらお前の負けな?」

 智琉が笑いながら言い、バレーボールを片手で掴んで鷹也に向ける。

「うーん。まあいいんだけど、もちろん投げ返していいよな~?」

 余裕そうに呟く鷹也に、智樹は笑顔を向けた。

「はは!もちろん。‥まあ、余裕があれば、の話だがな!」

 さくらは椅子に座って観戦だ。スマホを手にして撮影係になるらしい。

「それでは用意、スタート!」

 開始と同時にボールが一斉に飛んでくる。

「あー‥こういうことかー」

 すすっ ひょい すっ 派手に動くこともなく、最小限の動きでボールを躱す。飛んで来たボールを片手で掴み、飛んで来たボールに当てて逸らす。

 恭平の強烈なジャンプサーブにも顔色一つ変えることなく躱し、足元を狙ったボールもすいっと避ける。

(まあ、ボールが集中したところで6個だしなあ。それにボールを拾いにいかないと玉切れになるなー)

 鷹也は冷静に分析し、転がっているボールの位置、人の位置、飛んでくる角度を正確に予測し躱し続けている。

「いやマジで!何で当たらないのよ!?」

 一向に当てられないことに最初に痺れを切らしたのは、智樹だ。

「‥あれ?当たったら俺の負けじゃないっけ?まあ避けるの楽しいから避けてるんだけどな~」

 相変わらず、ひょい、すっと派手な動きもなくボールを避け続けている。


 バチィン!再び強烈なジャンプサーブ。鷹也の背後を狙ったものだが、振り返ることなくすいっと避ける。

「なんでだよ!?」

「ジャンプサーブってさーボールを叩く音がするから分かるんだよな~」

 事も無げに言い、前後左右からのボールをさらりと躱す。たまに片手でダイレクトキャッチし、投げた直後のボールにぶつけて遊んでいる。


「うへw予想以上に変態すぎてヤバイ!!」

 道明が笑いながらボールをぶん投げるが、いとも簡単にキャッチされる。

「そんなことないだろーw」

 鷹也はそう言って道明を見たままボールを投げた。

「でえっ!」

 ノールックで撃墜したのは智樹である。脛に直撃だ。

「もちろん、当てたら離脱だよな?w」

 鷹也は相変わらず躱しながらそう言った。

「くっそーーー!当たったら負けな以上そうなるな!!」

 智樹は悔しそうに言い、弟に激を飛ばして戦線を離脱した。


「じゃ、今度はこっちが狩る番、だな?w」

 鷹也はそう言って笑い、飛んで来たボールを片手キャッチする。恭平はジャンプサーブはやめたものの、それでもオーバーからのサーブを叩きつけていた。

 遊馬と司も楽しそうに投げ続けているが、やはり当たる気がしない。

「鷹也先輩、えげつねえw当たって下さいよー!」

「当ててくださいよー!」

 司の言葉に、言葉尻を捉えて言い返し二人は笑った。意外に嫌らしいのが遊馬の投球だ。避けた先や、他のボールの死角になりそうな位置を上手いこと狙ってくる。

「‥けっこう俺頑張ってるんだけどなー!マジ当たらねー!」

 遊馬はそう言って笑い、自分の投げたボールがワンハンドキャッチされたことに不満げである。

「うん、遊馬の狙いがけっこう嫌な位置なのは認める。」

 左右に持ったボールで飛んで来たボールを遊馬に向かって弾き、左右同時に遊馬に投げた。

「うえええ!?」

 バチッという鈍い音と、遊馬の悲鳴が同時に上がった。向かって来た三個のボールのうち、二個を当てられたのだ。


「「うっは!!すっげーな!」」

 遊馬と司が同時に叫び、遊馬が戦線離脱する。鷹也は笑いながら躱し、左右の手でワンハンドキャッチし、ノールックで智琉の足元に投げ、続いて胴へと投げつけた。

「うっそお!?」 

 足元はジャンプして避けたが空中では身動きが取れずにヒットしてしまう。こうして智琉も戦線離脱。そして更にボールをキャッチし、道明に向けてボールを投げた、と見せかけて恭平に投げる。

「え!?」

 不意を突かれて、がら空きの腿にヒットし、あっけなく戦線離脱となる。

「うそだろ!?今道明狙ってたじゃんかよ!」

「‥気が変わったかもな?」

 そんな鷹也の言葉に、恭平は悔し気だ。

「このクソネコ!!」

「‥人間なんだけどなー?」


 そんな応酬の間も、司と道明はボールを投げ続けている。しかし弾幕が薄すぎて全く当たる気はしなかった。

「司、あと何分?」

 残り時間を確認しようとよそ見をした瞬間を狙われた。バチッという鈍い音と衝撃で我に返る。

「うっわマジっすか!!きったねー!」

 司も爆笑しながら離脱し、残りは道明だけとなった。

「やっべえwこれ何なの!?どう考えても勝ち目無いだろww」

 道明は言いながらボールを拾い、二個三個と足元に貯める。ワンハンドで取られないよう狙うのだが、やはり取られてしまう。


 しかし鷹也は投げることなく、足元にボールを置いている。どういう作戦に出る気か分からず、それでも道明は投げ続けた。そして再び道明が足元にボールを貯め、鷹也が両手と足元に数個のボールを置いたとき、鷹也が動いた。

「鷹兄ほど躱せないかもしれないけどな!」

 投げてくる!そう思って身構えたその時、鷹也がボールを落とした。

「‥あれえ?」

 言いながら身を屈め、低い軌道で道明の周囲のボールに当てて散らす。そして素早く三連投。

「だーーーーー!!」

 散らされたボールに足を取られ、バランスを崩しかけた所を完璧に狙われた。手と脛、両方にヒットしてしまったのだ。


「楽しかったなー!」

 鷹也は楽しそうに笑ったが、討伐隊の不満は爆発した。さくらは面白い動画が撮れたとご満悦の様子だ。更に悔しそうな討伐隊の面々も次々と撮っていく。



「はーい!!はいはい!次は俺が中!!」

 遊馬が楽しそうに立候補したが、周囲から止められた。

「いやまて!それは隊長である俺がだな!」 

と智樹。

「意外に簡単なのかもしれない。検証する必要があるから俺が!」

と恭平。

「兄貴!抜け駆けはずるいぞ!俺だって!」

と智琉。

「ええええ俺だってやってみたいっすよー!」

と司。

「拳で打ち返すの認めてくれるなら俺もやりたい!」

と道明。結局全員が交代で中に入ることになった。


「てことは俺、外から当てればいいのか?」

 鷹也がちょっと楽しそうだ。嫌な予感を覚えた智樹が首を振る。

「いいか?最初の5分は動くな!」

 そう言われ、鷹也は少々不服そうだ。

「えーなんでだよー」

 智樹は腕組みをして仁王立ちだ。

「お前が中にいたとき、お前は外にいないだろ!?」

 他の5人が納得したように笑うが、当の本人は目をぱちくりさせている。

「‥当たり前だよな?」

「だからだ!!」

 相変わらず目をぱちくりさせて首を傾げる。中一人で順に6人を撃墜しているやつが、最初から入ったのでは勝負にならない。智樹も、その他5人もそう思ってのことだ。


 そして最初のターゲットは遊馬である。

「いえーい!!頑張るぜー!!」

 さくらが合図をし、一斉にボールが飛んでくる。

「ひええっ!ちょっ!!」

 遊馬は必死に逃げ惑い、避け、躱す。服を掠めたときにはヒヤリとしたが、何とか身体には当たらずに済んでいる。さすがに恭平もサーブを打つことはないが、容赦なく投げつけていた。

「いやこれ!!‥なんなん!?」

 開始3分で早くも汗だくになり、息も上がり始める。線から出ないよう必死になりながら、何とか避けていたが、5分持たずに当てられてしまった。


「‥ハァハァ‥いや‥これ、きっつい!マジで!!」

 遊馬は汗を拭って円の外へと移動した。

「えー俺の出番なかったんですけどー」

 鷹也が不服そうに漏らすが、遊馬は笑いながら食って掛かった。

「てゆーか何すました顔でよけてたんだよ!!あれ無理だって!!」

「遊馬は動きすぎだろー」

「鷹也先輩がたぶん変態なんで大丈夫っすよ!たぶん俺も遊馬と同じになると思います!」

 司までもが混じって笑っている。


「よし、次は俺だ!!」

 智樹が気合十分に円の中へ入った。そしてさくらの合図でゲームスタート。

「うわ!!」

 5個のボールが飛んでくると、さすがに余裕などない。何とか避けて逃げ回り、円の中を走り回る。バスケで走り回っているため、簡単にスタミナ切れにはならないがそれでも走らされるのはきつい。

バッシーーン

 恭平の強烈なジャンプサーブが飛んできて、飛び退った。

「ちょwお前は俺を殺す気か!?」

「‥チッ。避けられた。」

 次々に投げられるボールを走りながら避け、笑いながら智樹は恭平に突っ込む。

「そのサーブはあいつだけにしろよ!」

「一度くらい当てたいんだよww」

 そんなやりとりをしているうちに5分が経過した。

「‥俺はボール拾いでもやろっかなー。たまに投げるけど。」

 鷹也は周囲に転がるボールを集め、かごに戻しながら智樹を見ていた。そして智樹の移動コースにコロコロコロとボールを転がす。

「うえ!?」

 足元のボールに気を取られたその時、司と恭平の投げたボールがヒットした。

「うわあああああ!!」

 悔し気に叫ぶが、ボールを転がした張本人は楽しそうにボール拾いを続けている。

「このクソネコ!!」

 そしてこれには智琉、司が連続で餌食になった。ちなみに足元コロコロだけでなく、天井にぶん投げて時間差で上空から落ちてくるボールに当たるという残念な結果だった。もちろん犯人は鷹也だ。


「拳で弾くのはありにしてもらっていい?」

 道明はそう言って全員から了承を得てロープの中に入る。さくらの合図でスタートだ。道明は慌てることなく躱し、拳で弾き、確実に避けていく。スピードこそないが安定して確実に一つ一つを捌いていた。

(さすがだなあ。)

 鷹也はそんな道明の様子を見て感心していた。空手の体捌きを見事に活用し、無駄な動きを避けている。外野たちも鷹也の足元コロコロを真似てボールを転がすが、道明にとっては大したことではない。安定したまま5分が経過し、鷹也もボールを拾いながら参戦する。試しに数回、死角になる位置から投げてみるが道明は確実に捌いた。

(‥そりゃそうだね。)

 正攻法では通用しない。拳で弾いたボールで遊馬を撃墜した。

「え!?マジか!!やられたー!」

 遊馬が笑いながら撤退し、4人も本気になる。恭平のジャンプサーブも難なく躱し、同時に飛んで来たボールも拳で弾いた。


 鷹也はニヤリと笑い、5個のボールを足元に置いた。左右にボールを持ち、一投目を肩めがけて、反応しかけた所を、すぐさま二投目で一投目に当て軌道を逸らす。三投目速球、四投目は地面スレスレの速球、最後は避けた先の手首予想位置。

バチィン!

 地面スレスレを避けた先の手首がジャストヒットだった。

「マジかよ!なんなん!?鷹兄!」

「いやー普通にやってたらクリアしてたからなー!わり。崩したくなったw」

 二人はそう言って笑い合い、結果誰もクリアできずに終わった。


「お前の戦略は見たぞ!次はそうはいかん!鷹也、もう一度中だ!!」

 智樹がそう言うと、鷹也は目をぱちくりさせる。

「あれ?まだやるの?‥まあいいけど。」

 仕方なく中に入り、そしてスタートの合図があった。足元、天井、避けた先を悉く狙われる。鷹也は躱す方向にフェイントを混ぜながら、スッ ひょい スッと避け続ける。全員が中を体験したために、あのようにサラリと躱すことの難しさを、身をもって体験していた。


 躱す方向にフェイントが入るために、ボールがあらぬ方向へと飛んでいくこともしばしばだ。

(たまーにやるから、足元も天井も効果あるんだけどな?)

 すいっ ひょい くいっ すっ

(うーん‥躱すだけも飽きるしな~)

 鷹也は微かに笑い、ロープの内側を縦横無尽に走る。その間にボールを掴んでは至近距離から当てに行く。当然至近距離から狙われることにもなるが、それでも躱す。

「あはは」

 急制動、急停止、急カーブ。動きが全く読めずに当てられない。外野は戸惑うばかりで、一人ひとり確実に仕留められていく。

「くっそ!」 

「あーーーー!!」

 当てられた者が離脱してゆき、とうとう誰もいなくなった。撤退組6人が並び、ボールだけが転々と転がっている。


「‥あれ?もう終わり?」

「うがーーーーーーーー!!」

 脱落者たちの叫び声が体育館に響き渡った。




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