両親襲来!
その日の午後、水澤家では霧江と七海、流水が間もなく来る災害?に備えていた。
「はっろー!ただいまーエブリバーディー!パパ参上!」
「ハーイ!ただいまー!みんな元気だったー!?ママ参上!」
夏休みに合わせ、今回は二人ともかなり長期休暇を取ったらしい。相変わらずのテンションに、三人はつい笑い出してしまう。
「おかえりなさい、姉さん、蒼介さん。まずは荷物を置いて着替えてらっしゃい。お昼の準備は出来ているから!」
霧江が落ち着いて声をかけると、両親は「ひゃっほう!」と言いながら寝室へと向かう。ちなみに寝室の掃除は七海と流水が手分けして行い、布団もシーツも洗濯済みだ。
「いつもお部屋をきれいにしてくれてありがとう!!」
リビングに戻って来るなり、雅がそう言って七海と流水を見やる。
「何かさ、迎えてもらえてるのが本当に嬉しいよ。」
蒼介もそう言って笑顔になった。七海と流水は顔を見合わせ、笑い合う。嵐のような両親ではあるが、それでもやっぱりこうして帰って来てくれたのは嬉しい。
「今日は姉さんと蒼介さんのリクエスト、ナポリタンにしました!」
サラダと野菜スープ、目玉焼きがトッピングされたナポリタンである。
「「わーーーーー!!」」
流水のお誕生会でナポリタンの映像を流されたのが、よっぽど堪えたらしい。
「ふふふ‥秘密兵器も用意したから覚悟なさい?」
テーブルに並べられたナポリタンに、霧江はフライパンを持ってきた。そしてとろーりとチーズをかけて回ったため、歓声が上がる。
「ちょっと!!霧江ちゃん!?なんてことを!!」
「いやまてまてまて!!反則だ!!そんなことをしたら、ほっぺが脱落する!!」
七海よりも流水よりも先に両親が大騒ぎだ。
「「「「いただきます!!」」」」
部屋中に響き渡るような大声で号令が響き、さっそくチーズたっぷりナポリタンに手を付ける。スパゲティを巻いても巻いてもチーズが後を引き、雅の表情が大変なことになっている。
「うまああああ!なんだこれ!ナポリタンの革命かっ!!」
「ちょ!ずるいわ!私も‥いやああなにこれ!!チーズとナポリタン、危険すぎる!!」
七海と流水は笑いっぱなしで話すタイミングすらない。
「「うま!!」」
笑いながらそれでもチーズナポリタンを堪能し、一心不乱に食べ続ける。
「我ながら‥危険なモノを作ってしまったかもしれない‥」
大のチーズ好きな霧江も、自画自賛しながら既に手が止まらなくなっていた。
「危険よ!?もうね、お口の中と頭の中が幸せすぎるのよ!!ラクレットチーズでしょ!?凶悪だわ!凶悪犯よ!!」
「そうだな!けしからん!実にけしからんからまた作って!!」
残り少なくなってしまい、この世の終わりのような顔をしながら、雅と蒼介が口々に言う。
「あはははは‥お父さんもお母さんも相変わらずー!」
「日本一やかましい両親じゃないかな‥」
流水も七海も笑いながら食べながら忙しい。
「日本一の両親とか!!」
「もーーー!!照れちゃう!!」
おそらく都合の良いところだけを聞く機能が備わっているに違いない、霧江も笑いながら食べ続けた。
食後のデザートまで食べ終え、5人はそれぞれコーヒーと紅茶を飲んだ。
「えへへー私が先に見てもらおー!成績が平均代表の水澤流水でーす!」
茶目っ気たっぷりに言いながら、へへーと蒼介に通知表を渡す。蒼介と雅は二人でじっくりと確認した。
「おおおお!!これは素晴らしい普通っぷり!!いやいやちゃんと5もあるじゃん!」
「すごいわ!普通とか言いつつ、ちゃんと5も取って才能を光らせる演出!」
蒼介も雅も笑顔で流水を労う。
「流水ちゃんの通知表見てると、何か凄くデジャヴだわ。‥私の場合、家庭科調理実習があったときは‥ええ‥ちょっと、ね?アレだったけど!」
雅が本当に嬉しそうに笑う。
「えーママも普通代表選手?」
「そうそう!これぞ普通の通知表!!だったわね!」
流水と雅がハイタッチで仲間認定である。
「じゃあ次はーエリート代表のおねーちゃん!!」
「ちょ!そんなことないから!!もーう!」
流水にそう紹介され、少し、いやかなり恥ずかしそうに七海は通知表を渡した。
「これは!!天才か!?待って!凄いじゃないか!!」
「うわああああ!眩しい!!通知表が眩しすぎるうう!!」
やかましい両親に流水と霧江は大爆笑している。
「いやあの‥大げさだよ‥」
七海は恥ずかしそうに俯き、真っ赤になっていた。毎度のリアクションなのだが、慣れることが出来ずにいた。
「ナナちゃん、本当に努力してるわよね?もっと素直に喜びなさいな?‥もう!可愛いんだから!!」
「そうだぞー!努力して、結果が出せたこと。ちゃんと自分で認めないと!な?」
両親にそう言われ、七海はようやく顔を上げることが出来た。眩しい笑顔に皆も笑顔になる。
「そう、あのね!中間テストと期末テストの前に、お祖父ちゃん家で勉強会したの!私も混ぜてもらえてすっごく嬉しかった!それに、さくらちゃんと鷹兄が来てくれて、教えてくれたんだよ!」
流水が目をきらきらさせ、それは嬉しそうに話す。
「そうそう!鷹兄の説明がすごい分かりやすいのは知ってたけど、さくらちゃんもすごく丁寧に教えてくれてね!もう何か至れり尽くせりだった!」
七海も嬉しそうに報告する。あの勉強会は本当にありがたかったのだ。
「ははは!そいつは良かったな!鷹也とさくらさんにもお礼しないとね?」
「そうね!!やっぱり焼肉かしらねえ!それともお寿司!?」
七海と流水もお店を検索し、霧江も一緒になってグルメスポットで盛り上がる。店を決め、日程調整のために雅がスマホを手に取った、
「鷹にゃ~ん!」
待ち受けには例の無表情な猫耳鷹也が映っており、全員が爆笑してしまう。
「ちょ!ママ!鷹にゃんはやめて!!」
「鷹にゃん!!可愛すぎるから!!こんなに無表情なのに!!」
霧江が完全にツボへとはまり込んだ。大爆笑して涙まで流している。
「‥一応メッセは入れたけど、あの子はスマホ見ないから。あとで電話もしてみるわ。」
雅はそう言って笑う。
午後は七海と流水たちの話でもちきりだ。体育祭は霧江が写真と動画を撮っており、既に編集済みのDVDになっていたため、家族全員で上映会が行われた。
「おー!流水!徒競走頑張ったな!!」
「ナナちゃん足速っ!!」
徒競走から始まり、大縄跳びや玉入れなど、動画とスナップを組み合わせた映像に、全員が釘付けになる。
「姉さんと蒼介さんに送ったのはダイジェスト版。これがちゃんとした記録なのよ。」
霧江が嬉しそうに話した。これは鷹也に協力してもらいながら編集し、構成やスナップの選定は霧江がやっている。
「これすごいな‥マジでプロの仕事だろ。」
「本当にね!構成もそうだけど、瞬間を切り取った感じがすごすぎて!」
両親の言葉に、七海と流水も感激して見入っている。あの時の熱や感動が、映像を見たことで一気によみがえって来た。
「応援団!?ちょっと!!流水ちゃんの学ラン!!可愛すぎる!!」
「これは天使だろう!!どうする!?今すぐ学ラン買うべきか!?」
応援団姿の流水に両親はメロメロだった。ちなみに七海もメロメロである。流水だけがちょっと恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「流水ちゃんの学ラン姿、攻撃力高いわね‥」
霧江だけが冷静に分析していた。しかし頬は緩んでいる。
騎馬戦で歓声が上がり、創作ダンスでは全員が見入っていた。
「ふふ‥懐かしいわねえ‥」
「そうだなあ。俺らもこんなこと、やってたよな。」
七海や流水の姿を見ながら、遠い昔に自分たちがやっていたことも思い出す。流水や七海、道明や茜、遊馬のズームショットもあって、それぞれが一生懸命ダンスに励んでいるのが伝わって来た。
父兄リレーの環の走りは全員が大爆笑だ。
「ちょwww母さん!!やりすぎだろ!!」
「お義母さん!!速すぎ!!忍者じゃない!!」
「お祖母ちゃんヤバイ!くのいち!?」
「ぜったい修行してるよね!?」
安定したフォームでスサササササっと走る姿は、つい何度か再生してしまうほどだった。そしていよいよ最後のリレー。流水が食い入るように画面を見つめる。両手をぎゅっと握りしめ、あの時の情景を思い出しながら真剣だ。
「ナナちゃーん!!」
「いけいけ七海――!!」
両親も声援を上げ、ロープを切った瞬間に一斉に歓声が上がる。
「きゃあああああ!!」
「うわああああ!!」
「やったああああ!」
そしてトドメの七海&流水の学ラン記念写真。二人とも目じりが下がり、それは愛おしそうに画面を見つめている。
「いやあ‥長編大作の映画よりよっぽど良かったなー!!」
「これ撮影技術も編集も、神だわ!!なにこれ!霧江と鷹ちゃんの合作クオリティ、凄すぎ!!」
その言葉に霧江が本当に嬉しそうに笑った。動画用カメラと、一眼レフを両方準備して撮影しているのが心憎い。
「ふふ。カメラの勉強していたのが、こんな風に役立つとは思っていなかったわ!喜んでもらえて良かった!」
昨年までは蒼介か雅が参加しており、二人が撮影をしていた。手振れも多く、素材としては今一つだったのだ。
「そろそろ夕食の準備をしないと!」
霧江が立とうとしたのを制し、5人は外食に行くことにした。車で少し走ったところにあるビストロでコース料理を頼む。
「さて‥霧ちゃん、いつもありがとう。七海も流水も父さんや母さんがいない間、留守を守ってくれて本当にありがとうな。」
改めて蒼介が礼を言い、雅と共に頭を下げる。七海と流水、蒼介はジュース、雅と霧江はワインを手にした。
「みんなお疲れ様。乾杯!」
蒼介の合図で乾杯し、グラスに口をつけた。テーブルの上にずらりと並んだカトラリーに困り顔の流水と七海だったが、蒼介や雅に聞きながら簡易的なテーブルマナーの実践となった。最初こそ緊張していたが、じょじょにそれも解れていく。
流水の林間学校の話が出ると、七海や蒼介、雅や霧江の思い出話も相まって、笑顔が弾け、話が盛り上がった。料理も美味しく、霧江と雅は心行くまでワインを楽しんでいた。
そしてつい先日行って来たばかりの山での実践体験について、七海が話をする。道明の叔父さんや鷹也、さくらのこと、茜や道明、遊馬のこと。バーベキューや川遊びのことを話していると、あの時の空気や風の匂い、渓流の冷たい水の感触が思い起こされた。
「いいなーバーベキュー!なんか話を聞くだけで美味しそう!」
流水が羨ましそうに呟いた。
「いいな!父さん家の庭でやろうか。せっかくだしみんな呼ぼう。大勢いた方が楽しいぞ?」
蒼介はすっかり乗り気である。雅もそれに便乗すると、七海と流水も嬉しそうに笑った。
「バーベキューいいわね!美味しいお肉をたっぷり準備しなくちゃ!」
霧江もすでにやる気である。会話を楽しみつつ、デザートまで完食して大満足で店を出た。
帰宅後は雅と蒼介がお土産を全員に配っていく。七海も流水もきゃあきゃあ大騒ぎし、霧江ももらったお土産を開けて喜んでくれた。興奮さめやらず会話と笑顔が溢れ、家の中は温かな空気で満ちている。順に風呂に入り、また喋り、入れ替わりで風呂に入っては、また喋る。
七海と流水が話し疲れて眠ってしまった頃、深夜になっていたが、二人は霧江に後を頼んで静かに家を出た。街灯に照らされた道を歩き、街はずれからは月明かりの中を歩く。
「あの子たち、本当に頑張っているのね。」
「‥うん。霧ちゃんや父さんや母さん、鷹也にも感謝しないとね。」
二人は静かに話しながら真っ暗な篁邸へと入っていく。深夜に訪れることは伝えてあるので、両親は既に床についているはずだ。
「こんばんは、鷹ちゃん。」
「元気そうだな!」
庭の奥の離れ。湧水を見ながら鷹也が座っていた。事前に連絡を受けていたため、こちらに来ていたのだ。
「父さんも母さんも移動で疲れてるだろ?」
そう言って薄く笑う息子に、二人は笑顔を向ける。
「鷹ちゃんの顔みたくって。」
「俺も会いたかったんだからな!」
言いながら縁側に座り、三人で湧水を眺める。
「‥ミヤちゃんから聞いたよ。七海の件では世話をかけたね。」
「なかなか時間がなくて、もう少しじっくり話したいと思っているのよ。」
妹二人を陰ながら守ってくれていることを、蒼介も雅も知っている。
「‥そうだね。特に七海の件は父さんにも母さんにも、知っといてもらったほうがいい。神楽祭の前に時間が取れるならそうして欲しいかな。」
穏やかな息子の言葉に、二人はにこりと微笑む。帰省の度、早朝や深夜にこうして話すことが、二人にとっても楽しみの一つだった。
「というかさ、俺も鷹也の別邸、みたいんだけど?」
開眼者であれば、篁邸と鷹也の別邸は即座に行き来が出来る。しかし父は開眼者ではない。
「そしたらさ、理由をつけて1泊2日くらい抜け出せる?車だと3時間くらいかかるんだよ。‥七海も流水も、俺がどこの大学でどこに住んでいるのかは知らせてないんだ。」
蒼介と雅は顔を見合わせて頷き合った。その程度はどうにでもなるはずだ。
「けどさ、どうして二人には教えていないんだ?」
蒼介が不思議そうに尋ねると、鷹也は静かに呟いた。
「‥俺はさ、妖や影たちが近くにいる方が落ち着く。流水はまだいいんだ、七海はね、感情が強すぎて‥妖や影たちが逃げ出してしまう。俺が落ち着かなくなるから、まあ俺のわがままだね。」
その言葉に蒼介は何となく頷いた。
「ナナちゃん、すぐに来られると知ったらきっと入り浸ってしまうわ。‥それもあるでしょう?」
雅の鋭い指摘に鷹也は笑って頷いた。七海とは適切な距離が必要だからそうしているのだ。
「あ!体育祭の動画!!ありがとう!霧ちゃん写真山ほど撮るから、厳選するのは大変だったでしょう!?」
雅の言葉に鷹也は苦笑いを浮かべた。
「あれはねえ‥400枚くらいあったかな。ある程度霧江さんが選んではくれたんだけど、動画に差し込むスナップは別で選び直したから。そっちに時間かかった。」
「うわああ‥400枚の写真群から選び直しかよ。相変わらず頭おかしいな、お前。」
思わず突っ込む蒼介に、鷹也は笑っている。
「どうしてこう、どいつもこいつもディスるかな?」
「あははは!まあ仕方がない、諦めろ!」
蒼介がそう言って笑い出し、雅も一緒になって笑った。
小一時間ほど話して満足した二人は篁邸を後にした。
「あいつあの年でさ、何であんなに落ち着いてるんだ?俺より大人なんだけど?俺の立場を返せ!」
そう言って蒼介は笑う。
「まああの子は‥本当に色々と大変だったもの。でも、落ち着いたようで安心。何より可愛い!!」
雅も嬉しそうに笑った。
「あーでも泊まりなら、あいつともゆっくり話せるよなあ。最近、話す時間が少なかったから楽しみだ!」
蒼介は待ち遠しそうに言い、雅と笑い合った。




