七海の誕生日 賑やかな誕生会
7月7日、その日は日曜日だった。七海が部活ということもあり、お誕生会の開始は夕方6時スタートにした。茜は午前中だけ部活、流水も午前中は神楽の稽古の予定が入っているため、帰宅してすぐに茜の家へと向かう。霧江がサンドイッチを持たせてくれたので、キッチンで茜と二人で食べることにした。
「あらあら。それだけじゃ足りないかしらね?よかったらどうぞ!」
茜の母、立夏が出してくれたのはボリューム満点のサラダと野菜たっぷりのスープだ。
「わー!ありがとうございます!!」
流水が満面の笑顔で礼を言うと、立夏もにこにこしながら頷く。
「ケーキ作り、頑張ってね!」
そう笑顔で声をかけ、立夏はお店へと戻って行った。
茜も流水もお菓子作りは慣れている。とはいえプロのパティシエと一緒に作っている茜の方が、手際も良いし、圧倒的に経験値は高い。
「やっぱり茜ちゃんすごいなー!私もそれぐらい出来るように頑張る!」
流水はお誕生日にもらったネコのエプロンとミトン持参だ。
「えーでも流水ちゃんもすごいよ?‥でもこんな風に一緒に作るの楽しいね!」
材料は全て茜が揃えている。やはり母の伝手を利用した方が安くて良いものが手に入るからだ。ちなみに三種のミルクベリープリンだけは前日に二人で作り、既に冷蔵庫だ。ふわふわのスポンジが焼き上がり、型から出して少し冷ます。
「何かドキドキするねえ!」
流水はそう言って冷蔵庫からプリンを取り出し、崩れないように型から外す。厚さ三センチほどの円柱状のプリンがきれいにつるりと滑る。
「きゃーーー!いけるいける!でも一番下はスポンジのほうがいいよね!?」
流水がそう声をかけると茜も笑った。
「そうだね!取り分けること考えたら下がスポンジかな!もう少し冷ましたら切って回転台に乗せよう!」
茜が回転台を取り出すと、流水は「わああ」と声を上げる。家で霧江とケーキ作りをしたことはあるが、皿の上で回しながらクリームを塗っていたのだ。
「すっごい!!プロっぽい!!」
流水は大はしゃぎだ。茜の提案で飾り付け用のベビーシュークリームとクッキーも焼き、飾り付けも二人でわいわい話し合った。
その頃、七海の誕生日に招待されている鷹也とさくらは、二人で買い物に出かけていた。
「七海ちゃんのプレゼントは決まってるんですか?」
さくらが尋ねると、鷹也は伸びをしながら答える。
「今年は全員腕時計だなー。七海もベビーG欲しがってたし。色はさくらに任せるよ。」
ちなみに流水はちゃっかり欲しいカラーまで伝えて来ていた。なので事前にネットで購入していたが、七海の分は選ぶのに困り、さくらを誘って来てもらったのである。
「‥水色と白のパステルカラーですかねえ。」
流水の誕生日プレゼントを購入するとき、七海と二人でショップを回ったため、ある程度、傾向は分かっている。さくらが店員と話をし、プレゼント用に包んでもらう。
今回は環や霧江の手を煩わせず、自分たちで準備しようというのが流水の企画だ。鷹也がオードブルを準備する手筈になっているため、さくらと食材を購入する。
「あーあとそれっぽいケース買わないとなー。手作りって七海にはバレないようにしないと・・」
鷹也が呟くと、さくらが不思議そうな表情を浮かべる。
「あいつは料理が苦手らしくてさ。俺やさくらが作ったと知ったら喜ぶより落ち込みそうなんだよ‥」
その言葉になるほど、と頷きながらつい笑ってしまう。地雷を踏まないためではあるようだが、やはり妹には甘いらしい。
二人はオードブル用の食材とサークルトレイを購入し、早々に帰宅して準備に取り掛かるのだった。
「上出来!!」
茜と流水はハイタッチを交わして笑顔になる。三種のミルクベリープリンとスポンジを重ね、周囲をクリームでデコレーションした後、チョコレートクリーム入りのベビーシュークリームと、色とりどりのフルーツを飾り付けた。クッキーは小さなカゴに取り分け、好きなように食べられるようにしたのだ。
「七海、喜んでくれたらいいなー!」と茜が言えば、「きっとおねーちゃんは喜んでくれるって!」と流水も返す。二人はそうっとケーキ箱に移し、会場へと向かうのだった。
流水と茜は篁の屋敷に到着し、まずはケーキを冷蔵庫にしまわせてもらった。
「よ。」
「こんにちは!」
既に兄の鷹也とさくらが来ていた。オードブルを持ってきてくれたようで、テーブルにはトレイが置かれていた。部屋の片隅には小型の冷蔵庫まで置いてあり、中にはジュースやお茶、冷凍庫には氷も入っている。
「んでピザの宅配も時間指定済み。あとはやることあるか?」
流水はにこにこ飛び跳ねながら礼を言い、茜を見やる。
「今回はあっくんとミチくんも呼んだの。最近のナナ、少し色々考え込んでる感じがあるし、期末テストも終わったし!賑やかにしたくって!」
茜がそう言うとさくらと鷹也は笑顔で頷いた。
「あ!今回もまた、先生してくれてありがとう!おかげさまで数学、意外と出来たんだ!」
期末試験前、ここに通い詰めていた。さくらが来てくれたり、鷹也が来る日もあったり、勉強が非常に捗ったのだ。
「‥あと頼まれてたこれな。父さんと母さんからのメッセージ動画も入れてある。」
鷹也がそう言って渡して来たのは、動画再生も可能なデジタルフォトフレームだ。高校で遠く離れてしまう七海のために流水が選んだものである。両親からのメッセージ動画の編集を兄に頼んでいたのだ。
「わー!ありがとー!!さっすが鷹兄!!」
流水がきゃいきゃい喜んでいると、茜が感心したように鷹也を見やった。
「え!?鷹兄、動画編集も出来るの!?すっごい!」
「‥まあパソコンあるしな。」
素っ気なく言うが、茜は尊敬の眼差しだ。本当に器用に何でもこなせる人だと思う。
「こんちゃー!!」
「ちーっす!」
元気いっぱいの遊馬と道明がやってきて、更に賑やかになる。二人はスナック菓子やチョコレートを持参してくれたようだ。
「遊馬が来たってことは、部活はもう終わったってことか?」
鷹也が尋ねると遊馬はピースしながら笑う。
「そそ!まあ俺は近いからな!七海はいったん家帰って着替えてくるってさ!」
遊馬はそう言って縁側に立ち、空気を目いっぱい吸い込んだ。昼間の暑さが少し和らぎ、気持ちの良い風が頬を撫でる。
「湧水池があるからか?なんか涼しく感じるよなー!」
「そうだな!俺もここ好きなんだよな!」
遊馬と道明が縁側に並び、外を眺めながら風に当たる。そこに茜と流水も加わって静かに庭を眺めた。さくらは買ってきたプラスチックコップと割り箸を机に並べながら、その様子を暖かく見守っている。そして鷹也はわらわら集まって来た妖たちと戯れ、彼らにせがまれては撫でてやっていた。
「えっと…ただいま!」
パンッ パンッ クラッカーの音が鳴り響き、七海は少し驚きながらも笑顔になる。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
声をかけられ照れ笑いしながらペコリと頭を下げる。茜が全員にプラスチックカップを手渡し、流水が冷蔵庫からウーロン茶を取り出してついで回った。
「今日はおねーちゃんのお誕生日ってことで!鷹兄が乾杯の挨拶しまーす!」
事前打ち合わせもなく、急遽振られた鷹也だったが一歩前に出る。
「七海、おめでとう。集まってくれた仲間たちにも感謝をこめて。乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
プラスチックコップを互いに触れ合わせ、笑顔が弾ける。七海も「ありがとう」を言いながら本当に嬉しそうだった。
「はーい!ここで特製ケーキの登場でっす!茜ちゃんと私の合作!!」
流水がお盆に乗せたケーキを持って運んでくる。フルーツが飾られたケーキに七海が歓声を上げた。
「わ!!すっごい!!食べるのもったいないよー!」
せっかくなのでケーキの周りに集まり、全員で記念撮影をする。そして並べられるオードブルたち。
「え!?これすごくない!?豪華だし!私の好きなものばかり!」
オードブルトレイを見た七海が目を丸くする。欠食児童達をこれ以上待たせると暴動が起きかねないと、さくらがケーキにナイフを入れた。
「ラズベリーといちごとブルーベリー!?すっごいあっさりしてるのに、めっちゃ美味しい!」
ケーキを一口食べた七海が、感激の余りについ音量が上がってしまう。
「「大事なのは、甘さとカロリー!!」」
茜と流水が声を合わせたので笑い声が広がった。甘酸っぱさと甘さのバランスが完璧に調和している。道明や遊馬、さくらも夢中になって食べているほどだ。作った二人は顔を見合わせ、ハイタッチを交わしている。
「なにこれ!!うま!!!」
そしてオードブルを取っては口に運びながら、七海は幸せそうだ。
「え?本当に美味しい!」
「鷹兄!?これどこで買ったの!?」
「やば!!」
最初は遠慮気味だった茜や道明、遊馬も既に夢中だ。
「‥まあちょっと遠出したからね。」
鷹也がすまして言い、その後さくらを見やる。二人は微かに口元を緩め、視線を交わした。
(…?)
全員が夢中で食べている中、流水だけがその一瞬を見逃さなかった。しかし何も言わずに慌ててオードブルに手を伸ばす。
そして宅配ピザが届き、全員のテンションが一気に上がった。サイドメニューのポテトやチキンまで充実しており、幸せそうに頬張る。
鷹也とさくらは、たまにつまみながら写真撮影だ。これも流水からの提案だが、高校でそれぞれが別の場所でのスタートとなる。そのために今この瞬間を撮影し、卒業時に七海はもちろん遊馬や茜、道明にもプレゼントしたいと言い出したのだ。ちなみに試験勉強時の勉強風景も、さり気なく撮影してある。
「あ、そうそう!一応さ、プレゼント!」
遊馬と道明から大きな袋を手渡される。
「え!?あ、私に!?」
促されて開けてみると、大きな柴犬のぬいぐるみだ。ふわふわでクッションにもなりそうな大きなものである。
「…か、か、か、かわいいいいいい!!」
七海は迷わず抱きしめ、つい頬ずりしてしまう。遊馬と道明はそれを見てニヤニヤしっぱなしだ。
「はっ!?」
一瞬、理性を吹っ飛ばした七海だったが、それでも二人に「ありがとう」と声をかけた。
「これは私から。色違いのおそろいなんだよ?」
革紐のペンダントで今まさに茜が身につけているものと同じだ。きれいなガラス玉がついており、茜は赤で七海のは、鮮やかなブルーだ。
「わー!ありがと!!実はそのペンダントかわいいなって思ってた!!」
「うん!超見られてたの知ってた!!」
二人は笑い合い、腕を絡めてお揃いのペンダントをぶら下げピースをする。もちろん鷹也が写真に収めた。
「そういえばさ!道明の誕生日やってないんだよね?遊馬と茜と一緒にお誕生会やろう!?私もプレゼント選びたいし!」
道明が4月10日で新学期の慌ただしさについスルーしていた。茜と遊馬が8月に一日違いの誕生日であるため、合同でやろうと七海が提案した形だ。
「え!?マジで!?」
「わ!嬉しい!!」
「いやー気にしなくていいのに!」
三者三様のリアクションであったが嬉しそうだ。流水も一緒になってはしゃぎ、「私も!」と嬌声を上げる。そのまま鷹也とさくらも参加させられる形になった。
「あれ?さくらちゃんて‥やっぱり春だよね?」
ふと七海が気づいて声をあげた。
「え?あ、はい。4月23日です。」
「え、じゃあさくらさんも一緒にやろう!」
同じ4月生まれの道明が声を上げ、4人合同でのお誕生会をやることが決定した。
「あれ?そいうえば鷹兄いつ?」
遊馬が思い出したように聞くと、鷹也は目をぱちくりさせた。
「ん?今年はなかったよ?」
道明と遊馬、茜が不思議そうな表情を浮かべ、道明が「あ!」と声を上げた。
「まさかの2月29日!?」
「そうそう。」
珍しい誕生日に三人は大いに盛り上がる。
「聞くとそこしかない!って思うよね!」
「それ以外ありえないわ!」
「鷹兄らしい!!」
七海と流水、さくらは知っていたが改めて考え、「確かに!」と全員の意見が一致した。それから再び楽しい会話が繰り広げられ、賑やかで楽しい誕生会になったのだった。
柴犬のぬいぐるみと七海




