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掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
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七海の誕生日 15歳の憂鬱

 茜の家の敷地はそれなりに広く、敷地内に自宅とケーキ屋が隣接している。茜は七海の妹、流水と一緒に七海の誕生日ケーキを合作しようと考えていた。まずはどんなケーキを作るかについて、相談しようと茜の家に流水がお邪魔している。


「お姉ちゃん、学校では大丈夫そ?」

 あの神楽選考後、かなり落ち着いたように見えるものの、少し心配そうな流水である。

「考え込むことはあるけどね。でも多分大丈夫。」

 明るくはっきりした茜の言葉に流水も安心したように頷き、七海の好物について話し始める。

「おねーちゃん、洋菓子も和菓子も好きなんだけど、果物大好きなんだよねえ。」

 二人は七海の好きな果物をメモに書き連ねていく。

「生クリームとカスタード?チョコも捨てがたいし!タルトも見た目フルーツぎっしりでいいよね?」

 流水が今すぐにでもかぶりつきたいといった表情だ。


「でもね?流水ちゃん、超、大事なことがあるの!」

 茜が真剣な表情をしたため、流水も表情をきりりと引き締める。

「‥カロリーよ!」 

「はっ!?‥確かに!!」

 女子二人はがっちり握手を交わした。

「フルーツ入りのミルクプリンとスポンジを層にして、表面だけクリームってどう!?」

 茜が絵を書きながら説明すると、流水は手を叩いた。

「それだ!!おねーちゃん、プリン大好きだし!!」

 こうして二人のプロジェクトは始まった。プリンに入れる果物選びから、装飾に至るまでを綿密に打ち合わせる。やはりこういう話し合いは楽しい。二人は時間も忘れて熱中し、立夏に時間を言われて慌てて流水は帰宅したのだった。


「今日は遅かったね?どうしたの?」

 夕食中に姉に話しかけられる。誕生会をすることは既に伝えているので、余計なことだけ言わないように気を付ける。

「今度のおねーちゃんのお誕生会の打合せー!楽しみにしててね!」

 にこにこ笑顔の流水に言われ、七海も照れたように笑っている。霧江はそんな二人を見て、微笑まし気に笑みを浮かべている。

(子供の頃を思い出すわね。姉さんの誕生日に初めてケーキ焼いて、大失敗したっけ‥)

 霧江はそんなことを考えながら、二人の姉妹を見守るのだった。


 前回の流水のお誕生会は、七海が霧江や祖父母に連絡を取りながら進めた。今回は流水が茜を巻き込んで頑張ってくれているようだ。

(なんか毎回ドキドキするんだよね‥)

 先日、父に国際電話をかけたときに七海は初めて開眼のことと、眼が閉じていることを話した。考えてみれば自分が開眼した後は、完全に塞ぎこんでしまっており、母の眼や霧江の眼のことすら見たことがなかったのだ。

(私があまりに気にしてたら、流水も気になって話も出来ないよね‥)

 ゴールデンウィーク中、流水が「みんなの眼を見てみたい」そう言ったとき、父が兄に連れられて席を外した。その時に聞いた「父は開眼しなかった」という事実。それを聞いた流水は、その後、父の前では“眼”の話すらしていない。流水なりに気を遣ってのことだろう。


 あの神楽選考のとき、流水は食事もとれなかった自分に「甘いものなら」とマフィンまで作ってくれたのだ。料理やお菓子作りが出来ない自分への当てつけでは?と一瞬でも考えた自分が恥ずかしい。

「いつもやさしいおねえちゃんへ☆」

 あのメッセージカードは、カードケースに入れて大事に取ってある。流水に慕ってもらえるような姉でありつづけること、そのための戒めでもありお守りでもある。

「15歳、か。」

 中学を卒業した後は、東京の高校への入学だ。一族経営の私立高校であり、よほどのことがない限り成績で落とされることはない。七海の成績であれば普通に進学することになるだろう。


 神楽のことでも、まだまだ分からないことが多い。神楽を習い始めたときから、祖母には「調和が大切」だと言われてきた。型を守ること=調和とは限らない、ようだ。では「型」とは何なのか。崩してしまって良いものなら「型」など不要なのではないか。「型」と「調和」、優先順位はどちらが上なのか。

 ただただ「型」をなぞるだけなら、簡単なことではあった。ペースについては一定ではない。メトロノームで一定のリズムを刻み、それに全員が合わせればいいだけではないのか?


 選考後、初めてのお務めのとき、七海は全身が震えっぱなしだった。神楽を舞うという行為そのものが、恐ろしくて仕方なかったのだ。それでもきちんとお務めを果たすため、必死になって神楽を舞った。終わった瞬間に具合が悪くて倒れそうになったが、神様が目の前に現れた。


『すこしばかり力を抜け。呼吸を整え、自分と、その周りを信じよ。』

 そんなことを言われた。そしてその場に茜がいてくれ、自分を心配そうに見ていてくれた。ただそれだけのことで、心が軽くなったのだ。

だからといって何も解決はしておらず、人と共に神楽を舞うのは怖かった。あの時、一緒だったのが茜だから何とかなったように思うのだ。


 とりとめもなく考えていくうちに、七海はほうっとため息をついた。

(なんか一年があっという間だなあ。小学生の頃は一年が、すっごい長かったのに‥)

 自分が中学一年生だったとき、三年生が本当に大人びて見えた。では、今の自分はどうなんだろう、と考えてしまう。

(はー‥やめよ!考えてると滅入って来ちゃう。)

 七海は両手で頬を軽く叩き、ベッドにどさりと倒れこんだ。

「あー!宿題あったんだ!」

 ベッドから跳ね起きてカバンを漁り、教科書を開く。明日の二限目が数学の授業であり、プリントを渡され明日提出することになっていたはずだ。

 七海はネコがついたシャーペンを見て笑みを浮かべ、そのまま宿題に取り掛かった。




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