2-11 山での修行?1
その日は、朝6時に篁の家の前に集合した。メンバーは、七海・茜・道明・遊馬の4名と、道明の叔父である土門圭輔、七海の兄である鷹也、月影さくらの3名がサポートとして行動を共にする。荷物もそれなりにあることから、圭輔が8人乗りのバンを出してくれた。途中までは林道も整備されているので、バンであっても走行可能である。
「うーなんかドキドキする。」
「私も何かヤバイ!!」
七海と茜が話していると、隣に座っているさくらがにこやかに二人を宥める。
「大丈夫ですよ。キャンプを楽しめれば、それでも十分ですから。」
その言葉に少しだけ安心し、女子チームはお喋りを始めた。
「てかさ、鷹兄車乗らなかったけど、いいの?詰めたら乗れそうだったけど‥」
助手席の道明が圭輔に尋ねる。
「あー‥あいつは好きにさせとけばいい。」
笑いながら圭輔は言い、車は林道に入った。舗装まではされていないが、それでもさほど凹凸はなく、大した揺れもない。
「‥車ってさ、乗ってると俺眠くなるんだよね‥」
最後尾で独り座る遊馬が、大あくびをしながら眠たげに呟く。
「ははは!もう10分もかからずに着くから。」
圭輔にそう諭され、大きく伸びをする。やはり遊馬もじっとしているのは苦手らしい。
「鷹兄と一緒に走れば良かったかな~」
「やめとけ!あいつのペースについて行けるのは、カモシカくらいだ。」
笑いながら圭輔が言うので、全員がギョッとする。
「‥え?鷹兄って、そんなに足速いんですか‥?」
七海の言葉に圭輔は笑いながら頷いた。
「ま~篁さんも、蒼介さんも、鷹也も、小さい頃から里山巡りしてるからな。水澤家の男どもは総じておかしいんだよ!」
初めて聞く話に、七海は驚いた。そんな話は聞いたことがなかったのだ。
林道の脇に車を置けるスペースがあり、圭輔はそこで停車した。
「よし、到着だ。車に荷物を置き忘れないようにな。」
イの一番に降りたのは遊馬だ。続いて女子が降り、道明と圭輔が後に続く。
「よう。遅かったな。」
Tシャツにジャージと、足には草鞋を履いている。
「‥鷹兄‥なに、それ。草鞋?」
道明の言葉に鷹也は頷いた。
「山歩くのはこれが一番なんだよ。」
事も無げに言い、車の中にあるひときわ大きなリュックを担いだ。
「あとどれ持っていきゃいい?」
「こいつも持って行って欲しいが‥いけるか?」
大きなクーラーボックスまでも肩にかける。
「もう一個行けそうだな。」
更にもう一個持たされ、まるで罰ゲームのような有様になっている。
「いやあの‥俺、荷物少ないし、一個ぐらい持つよ?」
道明は言うが、鷹也は微かに笑って断った。
「山道慣れてねえんだから気にするな。」
そう言ってすたすたと歩きだす。足取りは軽く、気にしている様子もないため、皆でぞろぞろと後をついてゆく。
「一応な、山小屋がいくつかあるんだ。ここは里山と言っても少し広いうえに、そこそこ高さもある。皆、足元に気を付けてな。」
圭輔が言いながらさくらに先頭を任せ、自らは殿を歩く。
「鷹也!!ペース落とせ!!」
知らず知らずのうちにかなり距離が開いてしまい、鷹也は立ち止まった。
「俺が後ろの方がいいかもな。圭さん、順番変わるわ。」
そう言って圭輔を前に送り出し、鷹也が殿へ移動する。
「鷹兄‥それ、重くないの?」
「そうでもないよ。それより足元、滑る所もあるから気を付けてな。」
言いながら七海達を促し、自らは最後尾へと移動した。
山道はある程度は整備されているが、一般の登山道とは異なり、木の根や岩が所々盛り上がっている。4人は軍手を装備し、登山靴で両手両足を使いながら一歩一歩進んで行く。
遊馬は凹凸を極力避けながら軽やかに歩いており、道明は歩幅を狭めて安定した歩きだ。さくらも足取りに不安定さはなく、女子チームの様子を見ながら歩いている。
剣道をやっている茜も歩幅を小さく、足元を確かめながら歩いており、七海は凹凸をものともせずにすたすたと歩みを進めている。
「七海、少し歩き方を変えよう。」
平地と同じように広い歩幅ですたすた歩く七海に、鷹也が声をかける。
「え?大丈夫だけど?」
「そうだね。ただ、膝と足首に負荷がかかるのと、滑った時にバランスを崩しやすいから。」
そう言って歩き方をレクチャーし、七海も素直に受ける。なるほど、足裏全体で接地すると歩幅を大きくは取れない。
「片足だけに重心をかけたらダメってこと?」
「うん。その足が滑ったらバランス崩すだろ?」
慣れない歩き方にはなるが、それでも七海はちゃんと話を聞いて実践した。
「茜は出来てるんだねえ‥」
七海がそう呟くと、茜は笑顔になった。
「たぶん、剣道の摺り足みたいな感じだからかなあ。ミチくんも同じように歩いてるよー」
七海も茜も息を弾ませながら会話する。
「そっか、弓道の時の足運びみたいな感じなんだ‥」
納得しながら見ていると、軽やかに歩いているように見えた遊馬も、同じように歩いていた。
「そうだね。足で地面を蹴るというより、重心移動で進む感じ。」
木陰であるため日差しが遮られているためか、そこまで暑くはない。それでも風が吹き渡ると、汗ばんだ肌に心地よかった。鳥の囀りとヒグラシの鳴き声を背に、皆、黙々と歩いた。
「あともう少しで一つ目の山小屋に着くから、そこで休憩するよ。」
その言葉に元気をもらい、少し足取りも軽くなったように思う。ログハウスのような山小屋が姿を現すとペースが上がった。
「ふいーー!到着!!」
山小屋に着くと、遊馬が荷物を置いてさっそく寝転がった。
「山道は歩き慣れないからなあ‥」
道明も一緒になって寝転がる。
「トイレ休憩と、昼飯だな。」
七海や茜も荷物を置いて床に座り込んだ。さくらも荷物を置き、大きく伸びをする。
「‥さくらちゃん、体力なさそうに見えるのに‥山道は大丈夫なの?」
「ええ、私も祖父と一緒に里山を歩き回ってたんですよ。」
さくらはそう言って笑う。華奢で儚げな印象があっただけに意外ではある。
鷹也は荷物を置き、クーラーボックスを開けた。全員にお茶と弁当を配る。
「ばっちゃんが用意してくれたからな。感謝して食えよ。」
クラフトボックスの中に、おにぎりや卵焼き、チキンソテーや炒め物がぎっしり詰まっている。
「足りなかったらまだおにぎりあるから。」
そうは言うが、持ってみるとかなりずっしりと重い。天気も良いので、皆弁当を持って外に出て行く。
「「「いただきまーす」」」
そう言って一斉に食べ始めた。
「うま!!」
「超美味しい!!」
「やば!」
「マジで美味いなあ!」
口々に言い、会話する間もなく一心不乱に食べ続ける。冷めても美味しく食べられるような料理を選んで入れてくれているのが嬉しい。
圭輔と遊馬が最初に食べ終え、満足気に伸びをする。道明がおにぎりを追加でもらい、鷹也とさくらも追加のおにぎりに手を伸ばす。
「‥お前らまだ入るのかよ‥」
圭輔の言葉に道明は笑顔で頷いた。
「育ち盛りだしな。」
「そうですよね。」
鷹也とさくらがそう言うと、
「お前らはもう成長期過ぎただろうが!」
笑いながら圭輔に突っ込まれるが、二人は平然とおにぎりを平らげた。
「まだあるけど食う?」
「はい!」
二つ目の追加おにぎりに手を出す始末だ。
「俺はもう無理‥動けなくなりそう!」
道明が追加おにぎりを食べ終えた頃、七海と茜がようやく弁当を食べ終えた。
「超お腹いっぱい!」
「私もーー!!」
女子二人も満足そうに伸びをして、お茶で喉を潤した。
「休憩したらまた少し登るからな。ちょっと険しくなるから、ゆっくり進むけど、しっかり休憩な。」
圭輔は4人にそう声をかけ、鷹也に向き直った。
「どうする?お前も少し休みたいだろ?」
「いや?先に荷物だけ置いて戻って来てもいいんだけど。大した距離じゃないしなー。」
その言葉に圭輔は苦笑いを浮かべる。
「まあじゃあ任せるわ。」
鷹也は頷くと、再び荷物を持ち、山道を駆け上がっていく。瞬く間に姿が見えなくなったため、道明が「うへ」と声を漏らし、遊馬は笑い出した。
「‥ええと‥あんな荷物持って、走って大丈夫‥なんですか?」
茜が心配そうに聞くと、圭輔は笑い出す。
「ああ。心配しなくても大丈夫だよ。あいつはああいう奴だから。それよりこの先の小屋近くには渓流もあってね。魚もいるから釣りも出来るし、川遊びも出来るよ。」
道明と遊馬が目を輝かせ、七海と茜も「わあ!」と声を上げた。
「ふふ。渓流釣りは私も久々です。‥何かいいですよね?」
さくらの反応も少し意外だ。
「さくらちゃん、意外とアウトドア派なんだね?あまり外に出ないのかなって印象だった。」
「不思議ですねえ、なぜかそう思われてしまうみたいで。」
相変わらず長い前髪が顔を覆っており、どう見ても視界が悪そうなのだが本人は気にしていないらしい。ジーンズにTシャツとパーカーといった、かなりカジュアルな服装でもある。
「そして見かけによらず大食い!」
遊馬の言葉に全員が笑う。
「不思議ですよね?‥大学でもごはんちゃんと食べてるの?って聞かれますし。‥食べてるのに。」
困ったように首を傾げるさくらに、七海もやっぱり笑ってしまう。
しばらく雑談を楽しんでいると、音もなく斜面から鷹也が降りて来た。
「‥ただいま。」
汗ばんではいるようだが、呼吸を荒げることもなく涼しい顔をしている。
「じゃあ行くとするか。殿頼むぞ。」
「うい。」
さっそく出発しようとしているので七海が慌てる。
「え?待って?鷹兄、休まないときつくない?」
「‥へ?なんで?」
目をぱちくりさせているため、七海の方が言葉につまる。
「あー‥うん、大丈夫だから気にしなくていい。君の兄さんは山歩き慣れてるし、この程度じゃ疲れないから。」
圭輔がとりなして、さっそく身支度を整えて出発することになった。
歩き始めてしばらくすると、確かに前半よりも傾斜がきつい場所がある。転落しないようにガイドのロープもあるため、軍手を装備してロープを掴んでゆっくりと歩く。
「ハァ‥ハァ‥確かに‥これはちょっと、きついね‥」
道明が早々と息を荒げながら言う。
「‥うん‥足元‥そこまで悪く‥ないけど‥ハァ‥きつい」
七海もそれに応えるが、茜は喋る余裕もなさそうだ。
「確かにー!‥思ってた、以上だな!」
一番元気そうなのは遊馬だが、それでも少し息が上がっている。
「様子を見て、休憩入れましょうね。‥合図したら圭輔さん、おねがいしますね?」
そして意外にもさくらが比較的平然としている。息は弾んでいるが、上がるほどでもないらしい。ちなみに鷹也は、少し離れた背後から全員の様子を見ながら登っている。万一斜面を転落しようものなら、即座に対応出来るようにだ。
傾斜を登り切った所で一旦休憩を取ることにした。全員が汗だくになっており、ペットボトルの水を飲んで水分補給を行う。
「そんなに高い山じゃないはずなのに、けっこうキツイものなんだね。」
道明がしみじみ言うと、圭輔は笑って頷いた。
「山であることには変わりがないからな。普段のロードワークとは全然違うだろ?」
道明が毎朝5キロ程度走っているのを圭輔は知っている。
「いやー体幹も鍛えてるつもりだけど、斜面はきっついわー!」
タオルで汗を拭いながら笑うと、七海や茜も笑った。遊馬も少し疲れた様子で笑っている。
その後はしばらくなだらかな道が続き、どこからともなく水音が聞こえてきた。
「川!?」
「近いね!!」
「何か涼しく感じる!!」
「確かに!!」
4人は元気を取り戻し、足取りも少し軽くなったようだった。そして再び歩き続け、ようやく渓流が見えてきた。
「「「「川だーーーーーー!!」」」」
渓流沿いを歩いた先、視界が開け少し小高い平地に真新しい山小屋があった。
「よし、まずは山小屋に荷物を置こう。」
山小屋の中には大きなテーブルと奥にミニキッチンがあり、小さな部屋が二部屋。ここには壁付けの簡易ベッドが2台ずつある。他にシャワー室とトイレまで完備されていた。
「「すごーい!」」
「意外と広い!」
「すげえw」
皆興奮してはしゃいでいる。
「仮眠室は女子が使ってくれ。俺等は外にテント貼るぞ!手伝え。」
鷹也が運んでいた大きな荷物を開梱すると、テントセットとバーベキュー用のグリルが出てきた。
「テント重っ!!」
「このグリルも重いんですけど?」
遊馬と道明が二人がかりで運び、圭輔と鷹也も手伝って早速テントの設営をした。
「でかいけど‥4人で寝るにはちょい狭い?‥あれ?でもシュラフ3つしかないぞ?」
「ん?俺はテントで寝ないから。」
鷹也はそう言ってバーベキューグリルを運び、設置する。
「「どゆこと?」」
遊馬と道明が尋ねるが、答えようとはしない。
「あーそいつは野生動物だから放っておいて。気にしなくて良い。」
圭輔が笑いながら言い、二人を山小屋に入るよう促した。
「さて!今日はこの後、自由時間だ。余り時間はないが、のんびりしててくれていい。渓流釣りしたければ釣り竿も用意しているからな!夕方からはバーベキューの準備!明日はここを拠点にして、少し歩き回るから早めに就寝。」
圭輔がそう説明をすると、全員が「はーい!」と元気よく返事をする。
「釣りしてみたい!」
「俺も!」
4人は釣り竿と仕掛けを借り、説明を聞きながら準備を整える。
「これ、餌はどうするの?」
道明の質問に圭輔は笑って「現地調達だ」と、先頭を切った。
川辺の石をめくって昆虫を取り、釣り針に突き刺す。
「ひえええ!」
「虫さわれないー!」
「ぎゃー!」
軍手をしておっかなびっくり虫を捕まえ、針に虫を刺す。そしてポイントを教えてもらって糸を垂らした。
「そういえばさ、こんなに自然が多いのに‥妖少なくない?」
辺りを見回しながら茜が不思議そうに呟く。いつもは少し山に入ると、妖が一気に増えるのだが。
「ああ、確かに。まあ来る途中は見かけたけど、挨拶するやつもいなかったな‥」
道明も不思議そうに同意した。
「そうだなあ、妖の分布がかなり偏っていてね。ここらへんには余りいないんだ。山小屋を建てるのに驚いて避難したってのもあるかもな。」
圭輔はそう言って笑い、早速かかった魚を釣り上げた。
「おー!イワナ!まあ中型だけど悪くないな!」
タモですくって器用に針を外し、ビクの中へ入れる。そこから七海が、茜が、釣り上げ、針を外すのに苦労しまくり、さくらに手伝ってもらいながらビクへと入れた。遊馬と道明も大きいのを釣り上げて歓声を上げる。
しばらく釣りを楽しんだ後は、渓流に足首まで浸かり川遊びだ。バシャバシャと水を撒き散らしながら、きゃあきゃあわいわいはしゃぎ回る。
さくらがデジカメでそんな様子を撮っていた。
「そういえばさ、鷹兄、姿を見ないけどどこか行った?」
釣り中も川遊び中も、周囲にはいないようで少し気になった七海が尋ねる。
「お散歩にでも行ってるのかもしれませんね。夕方には戻ると思いますよ?」
さくらがにこやかに言い、ぞろぞろと山小屋へと戻った。
「おかえり。釣れたか?」
山小屋から少し離れた場所に薪を積んでいた鷹也に声をかけられる。
「ほれ!けっこう大量だぞ?」
「いいね!じゃ、準備を始めるとするか。」
手早く火を起こし、薪に火が燃え移った所で炭を投入する。
「よし!こっちもバーベキュー準備に取り掛かるぞ!」
圭輔の言葉に全員が「おー!」と声を上げる。昼食であれだけ食べたのに、既にお腹はペコペコだ。山小屋に置いてある大きなクーラーボックスを開けると、肉や野菜がぎっしりと詰まっていた。
「「「「ステーキ!」」」」
全員が完璧なタイミングでハモった。ソプラノは茜、アルトは七海、テノールが遊馬と道明の三部合唱である。ゴミを出さないために、野菜たちは既に切られてジップロックに詰められた状態だ。
「丸ごとのじゃがいもやさつまいもとかぼちゃもあるね?玉ねぎは皮だけ剥いてあるのとそのままの。」
「楽しみにしとけよ?めっちゃ美味いから!」
茜の言葉に圭輔が答え、ニヤッと笑ってみせた。
外では鷹也がバーベキューグリルにせっせと炭を放り込んでいた。焚き火の中に放り込んだ炭にも火がついて、良い感じになっている。焚き火の脇には窪みが掘ってあり、川原の石でぐるりと囲っている。窪みに炭を置いて、釣りたてのイワナやヤマメを串刺しにしてじっくりと炙り焼きにしていた。
「よし、米を炊くか!」
すでに飯盒には米と水をセットしてある。しっかりした木の枝を2本上端でクロスさせ、焚き火の両サイドに埋込む。クロスさせた窪みに木の枝に通した飯盒をセットして焚き火に当てるのだ。
「飯盒炊爨!林間学校のとき以来だね!」
中1の頃を思い出しながら、4人はわいわいと動き、バーベキュー網に肉や野菜を並べてじっくり焼き上げる。
牛ステーキ、鶏もも、豚肩ロース、自家製ソーセージとバリエーションも多い。
「魚、焼けたよ」
竹串ごと渡され、全員がかぶりつく。絶妙な塩加減に、身がしっとりほろりとして甘みがあった。
「うま!!」
「すっごいいい香り!!」
「やば!!」
「塩加減が絶妙!!」
頭からしっぽまで、全員が骨も残さず食べてしまった。
「肉も焼けたぞ!」
少し焦げ目のついた牛ステーキ肉をキッチンバサミで切ると中心にほんのりと赤身が見える。塩とスパイスだけで一口齧ると、肉汁が口いっぱいに広がった。
「うまあああああ!!」
「なにこれえええ!」
「やば!!」
「マジやば!!」
圭輔は皮ごと焼いた玉ねぎの表面を剥き、キッチンバサミで適当に切りながら、コンソメスープの鍋に突っ込んだ。最後に少しバターとブラックペッパーを落とす。
「オニオンスープだぞー!」
玉ねぎの甘みがこれでもかと染み出し、4人は目を輝かせてあっという間に飲み干した。玉ねぎがとろりと口の中で溶けてゆく。米も炊けたので、肉や野菜とご飯をたっぷり堪能する。
「「「「美味かったーーーー!!」」」」
満ち足りた表情の4人も後片付けを手伝い、順にシャワーを浴びる。
「何だろう‥色々とこう‥自然を堪能したというか、身体の中が入れ替わったかんじ?」
小部屋に入り、茜がぼそりと呟いた。
「うん、何かわかる。人工物を追い出して自然のものを取り入れたみたいな!」
七海の表情も明るい。自然の中で身体を動かし、笑いあったのが良かったのだろうか。
「はー!今晩はぐっすり眠れそうだねえ‥」
「それはそう!明日はフィールドワークだもんね!横になったら2秒で寝れそう!」
そしてその言葉通り、二人は瞬く間に夢の世界へと落ちていったのだった。
「マジで美味かったなー!電気を使わない生活ってやばい!」
「まあスマホの充電も出来るから、電気なくはないけどな?」
道明と遊馬はテントの中でシュラフに入り、思い切り伸びをした。
「はー!何か今日はめっちゃ寝付きが良さそうだわ‥て、え?‥もう寝たのかよ!」
話しかけたつもりが思わぬところで独り言になってしまい、道明は苦笑いだ。遊馬は既に寝息を立てて熟睡しているらしい。
「‥え、もう寝たの?」
圭輔が笑いながら遊馬を見やる。
「うん。‥それにしても‥めっちゃ楽しかった!山道走るのもいい修行になりそうだなあ。」
「ははは!お前は本当に空手に真剣だなあ。」
道明と圭輔は笑いあう。
「ていうか鷹兄はどこで寝てるの?」
「‥木の上。」
「はい?」
「あいつはそういうやつだから。」
道明は腹を抱えて笑いだし、圭輔も一緒になって笑った。
さくらは小部屋の窓から外を伺う。山小屋の傍に生えているヒバの枝に人影が見えた。
「ふふ。今晩はそこが寝床なんですね‥」
楽しそうに呟き、自らもシュラフへ潜り込んだ。
月が輝き、満天の星空の下、夜は静かに更けていった。
※画像はAIによるイメージです




