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掌の眼  作者: 瑠璃雀
掌の眼
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七海の学校生活

 教室に入った4人は、それぞれ自分の席へと向かうが、その前に七海が思い出したように声を上げる。

「あ、今日って英語、小テストって言ってなかったっけ?」

「ああ、そういえば昨日言ってたね。単語かな?」

 予習復習をしっかりやっている道明は動じない。茜と遊馬がびくりと身体を震わせた。

「えええ、ほんとに?」

「げーマジか!」

 英語は1限の授業である。聞くやいなや、遊馬は席に戻って早速教科書を広げ始める。つられるように茜も動き、やはり教科書を広げた。



 昼休み、七海と茜が弁当を広げていると、遊馬と道明もそれに混ざった。こうして四人一緒のこともあれば、別々に取ることもある。

「ねね、英語の小テストどうだった?」

 一限目の英語小テスト、どうやら茜はそこそこ出来たらしい。元々文系科目はそこまで苦手意識がないためか、ホッとした様子だ。


「俺は‥まあ普通に出来た。」

「うん、私もいつも通りかな?」

 成績優秀な道明と七海は特に問題ないといった様子である。

「あ、俺ね、全滅だった!」

 遊馬が堂々と言い、おにぎりにぱくついている。

「‥珍しいな。大体ヤマが当たって、平均は取れてるだろ、遊馬?」


「あっはっは!書く欄ずれててさー、まあこんなこともあるよな~」

 零点だったと、どこか誇らしげな遊馬に、茜が羨望の眼差しを送る。

「あっくん、すごいよねえ。わたし、それやったら多分今も立ち直れてないかも‥」

「茜!?そこは見習っちゃダメ!」

「そうだぞ?茜が遊馬に感化されたら…」

 道明と七海は、そう言って遊馬を見やる。


「は~?いいじゃん、茜っち、ちょい考えすぎだし。気楽にいこうぜ~!」

 相変わらず飄々とした様子で遊馬は言い、立ち上がった。

「ちょいバスケやってくるわー!」

 そう言ってタタタッと軽やかに走り去る。運動神経がかなり良く、運動部からもラブコールが多い遊馬である。小柄だがしなやかな動きは、ネコ科の動物を髣髴(ほうふつ)とさせた。


「ちょっと羨ましいんだよね、あっくんのああいうとこ。」

 しみじみと茜は言い、道明と七海は笑い合った。その後道明は図書室へ向かい、七海と茜は女子グループとお喋りの輪に加わり、にぎやかな時間を過ごした。



 放課後、七海は部室で身支度を整えて射場に入る。既に下級生達が準備を始めており、口々に「お疲れ様です!」と挨拶をしてくれた。


 七海は神棚に一礼し、さっそく弓の準備を整える。三年生は一学期の夏の大会で引退となるため、少しでも練習をしたかったのだ。

「よ!」

 遊馬も神棚に一礼した後、七海に声をかけてくる。遊馬と七海が弓道部、茜は剣道部、道明は部活はやっておらず空手道場に通っている。

 幼い頃から何某かの「武道」を学ぶこと、という習わしがあるからだ。

「よ!」

 七海も短く返し、板間の隅に移動して目を閉じた。冬が終わり、これから一斉に芽吹く前のこの静けさと、冬の極寒から少し温んできた爽快感のある空気。木々がこれから一斉に芽を出そうと力を蓄えているような、この時期特有の空気感が七海は好きだ。


 下級生達が準備を終えた後、遊馬が軽やかに射場に立つ。一番射は遊馬だと、本人も周囲もそれが当然のような雰囲気になっている。

 部員全員の注目を集めながら、遊馬はゆったりとした動きで一つ一つの所作を進めていく。三年生の男子部員の中では小柄なのだが、この時の遊馬は不思議と大きく見える。

 「引き分け」から「(かい)」に至り、全員が固唾をのんで見守る。弦と同じくらいに張り詰めた空気の中、それでも遊馬は口角を微かに上げる。


 カァン!


 鋭く美しい弦音が響き渡り、矢がまっすぐに的を射抜いた。お手本のような弓返りが起こり、遊馬は静かに残心を解く。

パチパチパチパチ

 部員たちの拍手が巻き起こり、遊馬は礼をした後に笑顔を向けた。やはり遊馬の射には、何か心を惹きつける魅力がある。

 七海も毎日見ているというのに、やはり見入ってしまうのだ。


「君の射は、本当にまっすぐだなあ。見ていて気持ちがいい」

 いつの間にか来ていた顧問も、遊馬の射を絶賛している。遊馬が一番射を放つと、何となく全員の気持ちが「乗る」のだ。


 七海は心を鎮め、軽く唇をなめる。一つ一つの所作を丁寧に、美しく。そして途切れることなく。「引き分け」から「会」に至り、ここで更に意識を集中させる。

()てるんじゃない、(あた)る)

 そう自身に言い聞かせ、ゆっくり、少しずつ息を吐きながら離れのタイミングをはかる。

カンッ

 弦音はまずまず。残心のまま矢の行方を見ると、的には中ったようだ。七海は内心ホッとしたものの、気を緩めることなく残心を解き、ゆっくりと一礼して下がった。


「今の、良かったじゃん」

 遊馬に声をかけられ、七海は薄く笑みを浮かべた。

「うん、ありがとう。でもなんか…何かが足りない、気がする」

 七海が少し考え込むように言うと、遊馬は首を傾げる。

「‥七海は足し算じゃなくて引き算かもなー」

「…え?」

「あ、わり。俺も良く分かんねえんだけど、何となくそう思った」

 たまに遊馬は自分でもよく分からないままに言葉を放つのだが、意外と核心を突くことも多い。七海はその言葉が何となく引っかかるのを感じて、今は分からなくてもヒントになるかもしれない、とそのまま心に留めておくことにした。


 その後、七海は30射、遊馬は40射をこなし、部員全員で片付けを行った。かなり陽が伸びたため、辺りはまだ明るい。最後に全員が集まり、礼をして練習は終わる。



「腹減ったなー!でも今日は霧江さんのメシ!!」

 遊馬がぐううっと鳴った腹の音と共に言い、七海も笑ってしまう。

「私は立夏さんのケーキも超楽しみ!!」

 二人は顔を見合わせて同時に走り出した。遊馬はかなりの俊足だ。それでも七海は余裕を持って一緒に走っている。

 楽しそうな笑い声が夕闇の中を走り抜けていく。




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