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掌の眼  作者: 瑠璃雀
夏休みの始まり
29/31

2-8 流水のドキドキ林間学校 2

 翌朝、起床時間と共に起き出し窓から外を見ると、あいにくの雨天であった。

「あー‥雨かー‥」

 昨日が良い天気だっただけに、ちょっぴり残念な気持ちになる。

「え!?雨!?」

「あーだるーー!」

「ちょっと寒いね」

 起き出して来た皆が、窓に張り付いて外を見ながら口々に声を上げた。身支度を整えた後にぞろぞろと食堂へ移動する。

「朝はパンなんだけどなー」 

「米は正義!」 

「お味噌汁ー」

 魚の切り身と卵焼きが二切れ、海苔と味噌汁、煮物という内容だ。ご飯と味噌汁以外は冷えており、魚もボソボソして食べにくかった。

(改めて思うけど、霧江さんはいっつも焼き立てのお魚出してくれるなあ。しかもふんわりジューシーでめっちゃ美味しい。‥当たり前って思ってたけど、霧江さんはそうやって手間をかけてくれてるんだ。)

 流水はそんなことを思いながら、もっとお手伝いしようと、心に決めた。


 午前中はオリエンテーリングだ。部屋割班のままで、ハイキングコース内のポイントを周り、ポイントに設置されているスタンプを押して回る。

「私、超方向音痴だからね!?」 

「地図ってどっちがうえ?」 

「カッパあっつい!」

「地図は分かるけど、私この地図のどこにいるの!?どっちに向かうの!?」

 きゃーきゃー騒ぎながらぞろぞろと歩いて行く。班によりポイントが違うため、他の班について行ってもダメらしい。


 足元がぬかるみ、少しばかり歩きにくい。細かな霧雨であるためにカッパに細かな水滴がつく。

「なんかさ!雨降ると、緑がめっちゃ濃くなるねえ‥」

 流水が梢を見上げて呟くと、皆一斉に上を見上げた。

「雨の匂いするしね!」 

「なになに?詩人!?」 

「あーでも雨の森雰囲気あるー!」

 一人の子がジップロックを持ってきていたので、地図を入れて手に持っている。

「これってスマホの地図アプリあったら楽勝じゃない?」

「ポイントの住所が分かればね?」

「あ!そうか!!」

 そんな会話をしながら、雨の森を歩いていく。時折別の班の子たちとすれ違うこともあった。


 木の枝や葉っぱの影に妖たちがちょこんと座っていることもあれば、雨を受けて走り回っている妖もいる。そして流水に気づいて手を振ってくれる子もいた。

(個人差?なのかな。雨がかかると濡れるのかな、この子たち?)

 周りに気づかれないようにこっそりと手を振り返し、辺りを見回す。

『‥なにしてるんだー?』

 一匹の妖が流水のフードの中にもぐりこみ、一緒になって地図を見てくれる。

「地図のね、◯印があるところを回るんだよ。そういう遊び。」

 小声で呟くと、妖はくりっと首を傾げた。

『すごく遠回りしてるけど、いいのかー?』

 妖は地図の上にぴょんと乗り、現在地とルートがここだよと教えてくれる。

「‥なるほど!」

 思わず声を上げてしまったため、全員が振り返った。

「どしたのー?」 

「何か気がついた?」


 流水はニコッと笑い、全員を見る。

「わたしも地図読むの苦手なんだけどー‥今ってさ、このあたりだと思うんだよね。でね?目指してるのってここだと、ちょっと遠回りかなあ?って思って。」

 皆が地図を覗き込む。妖が地図の上にいるが、誰もその存在には気づいていない。

「あ、ここか!え?だとしたらさ、こっちのポイント先に回って、ここを目指したほうが効率いい?」

 流水の地図に指を置き、ルートをなぞる。

(え!?今、妖を素通りした?‥ええっ!?‥そっか、触ることも出来ないんだ!?)

 なぞった部分に妖がいたのに、その子の指は妖に当たること無く通過していったのだ。

『そこに眼がないやつはみんなそうだぞー?』

 驚いている流水に、妖は少しばかり自慢げに言って笑う。


「あーそっかー!そうだよねえ。」

 流水がそう言うと、ルート変更を提案した子が笑って頷いた。妖も流水を見て頷く。どちらにも意味が通るように言葉を選んだが、どうやら問題なかったらしい。

「すっごい!流水良く気づいた!!」 

「天才!!」 

「よしじゃーこっちに向かおう!」

 皆が歩き始めると、流水も少し遅れて歩き出す。

「地図見てないとわかんなくなっちゃいそうだから、後からのんびりついて行くねえ!」

 そう声をかけると、ルームメイト達は笑顔で「お願い!」と答えてくれる。

(これなら小声で話していてもバレないかな?)

 流水は安心して妖とお喋りをした。


『お前らの仲間、久しぶりにみたなー‥ちょっと前に4人くらいいたぞ?』

「あ、それ、お姉ちゃんたちかな?2年前くらい。」

 妖は左右に揺れていたが、流水を見てピタリと止まった。

『あーお前に似てるのいた!髪ながかった!』

 流水は嬉しくなって笑ってしまう。

「その人たちとは話し、したの?」

『うーん‥近づきにくくてなー。赤い髪の子は手を振ってくれたぞ?』

 きっと茜ちゃんだろうなと思い、姉たちと同じことをやっているんだなと、改めて思う。

「近づきにくい人もいるんだ?」

『うん。波が強くて刺さってくるやつ、にがて。お前のねーちゃん、そういうかんじ。赤い髪はなー穏やかで温かい。もう一人は落ち着いてて、もう一人はおもしろいやつ、波がふわふわ。』

 きっと道明が落ち着いてて、遊馬がふわふわなんだろうと思うと面白かった。そして妖や影にとって姉は苦手なんだなということも分かった。

「もっと前に印象に残ってるひと、いない?」

 もしかしたら鷹兄を知っているのでは?と期待したが、妖は知らないようだった。兄が林間学校を欠席していたとは、流水が知るよしもない。


 無事に最初のポイントに辿り着き、それぞれがスタンプを押す。妖は相変わらず流水のフードに入り込み、珍しそうにスタンプを見ていた。柔らかで、ほんのり温かいボールのような、そんな感触だ。

『ニンゲンは面白いことするなー』

「ふふ。」

 流水と妖は、オリエンテーリングの間中、ずっと小声でお喋りをしていた。妖のお陰で道に迷うこともなく、スムーズにポイントに辿り着けたためにクリアしたのも早かったのだった。


『また遊びにこいよな!るみ!』

「うん、またいつか。」

 妖と流水は、手と手を合わせて笑い合い、妖はぴょこぴょこと森へ姿を消した。

(こんな縁も楽しいな。‥旅行先でこんな出会いもあるなんてね!)

 ちょっぴり寂しい気分になったが、流水は笑顔でルームメイト達とお喋りを楽しんだ。


 昼食時、オリエンテーリングの上位3チームが発表された。流水たちのチームは2位である。

「あのとき流水が地図を見てくれたから!」 

「そうそう!迷いそうになったら教えてくれたし!」

 流水は「あはは‥」と頭をかく。自分の手柄ではなく、妖のアドバイスだったので、何となく申し訳ない気持ちになってしまう。


「後ろで地図に集中してたからー‥お喋りに参加できなくてごめんね?同時に2つのこと出来なくてー」

 実際は妖とずっとお喋りしていたからなのだが、ルームメイト達は笑ってくれる。

「ううんー地図係任せちゃってごめんね?」 

「この2位は流水のおかげ!」 

「ありがとー!」

 そんな声をかけてもらえ、賞状とささやかな景品を貰い、流水は大満足だった。そのまま昼食をとったあとは、後片付けと出発準備である。

 洗い物を終えたあとは、施設の掃除だ。部屋やトイレ、風呂掃除も全て分担され、施設内をくまなく掃除する。

 廊下ではトイレに案内してくれた影を見かけて改めてお礼をしたり、妖が走り回っているのを見てほっこりしたり、流水にとっては楽しいことばかりだった。


 最後に退所式をし、施設の職員さんたちに挨拶をする。

「皆さん、お疲れ様でした。気をつけて帰って下さいね。」

 帰りのバスに乗り込むと、職員さんたちが建物の前で手を振ってくれる。流水も職員さんと、一緒になって手を振ってくれている妖や影たちにも手を振った。

(今度は同じ景色を見られる人とも来てみたいな‥)

 また違った体験が出来るかもしれない、そんな風に思うのだ。


 帰りのバスでは、皆寝てしまっており静かだった。流水も車の揺れに眠気を誘われていつの間にやら眠ってしまったらしい。

 気がつくと学校に到着しており、ワープしたような気分だった。バスから降りて整列し、先生たちの話が終わったら、やっと家に帰れる。バスの中で眠ったことで元気になり、流水は友達と一緒に歩きながら林間学校の思い出を話し合った。

「うちの班、米がめっちゃ焦げちゃってさー!お焦げなんて生易しいものじゃなかったよ!?」

 友達はそう言うが、それでも楽しそうだった。

「あはは!うちの班は大成功だった!お米班の人たち最高!」

「いいなー!」

 あはははっと笑いながら会話をしていると、家までもあっという間だった。友達と分かれ、足取りも軽く玄関を開ける。


「ただいまー!!」

 流水が元気良く声をかけると、霧江が笑顔で出迎えてくれた。

「おかえりなさい。その様子ではずいぶん楽しかったみたいね?」

「えへへ!あ!霧江さん、いつも温かいご飯、ありがとうございます!」

 突然お礼を言われたことに、霧江は驚いて固まった。

「‥うんとね?食堂の朝ごはん、お魚も煮物も冷たくって。お魚ボソボソしてたし、煮物も煮崩れしてたし。けど家で食べるご飯、いっつも出来立てだなって思ったの。これってさ、出来立てが食べられるように、霧江さんが時間配分してくれてるんだなあって。だからお礼を言いたくて!」

 そんな流水の言葉に、霧江の目が潤む。

「あーもう!可愛いんだから!!」

 思わず流水を抱きしめてしまう。

「私ももっとお手伝いするね?霧江さんと同じように、出来立てを出せるようにしたいの!」

「‥宿題は終わらせるのよ?」

 流水は「あちゃー」と呟き、二人は笑いあった。


 霧江が焼き立てのクッキーを出してくれ、流水がミルクティーを入れる。

「ねね、霧江さん。霧江さんはさ?普段の学校とか、林間学校の時に妖さんや影さんと、お話しした?」

 好奇心旺盛に流水が尋ねると、霧江は笑顔で頷いた。

「そうねえ、私はたまたま同級生に一族の子がいたのよ。だからこっそり話はしてたわね。」

「そっかー‥同級生にいないから、ちょっと寂しい。」

 流水はミルクティーを飲みながらそう呟いた。

「でね、ふと思ったの。パパは開眼してなくて、ママは開眼してるでしょ?‥同じ景色を見られないのって寂しくないのかなあって。」

 その言葉に霧江はフッと微笑んだ。少し遠くをみながら口を開く。

「姉さんが蒼介さんにぞっこんでね。‥高校の時、蒼介さんは開眼出来なかったことで、少し荒れていたんだけど、姉さんが押し切って付き合い始めたと聞いたわ。」


 初めて聞く両親の話に流水はつい笑顔になってしまう。

「私もその頃は海外にいたから‥詳しくはないのよ。けどメールはぜーんぶ蒼介さんのことだけ!当てられっぱなしだったわ!」

 霧江はそう言って懐かしそうに笑った。

「ママ‥今も仲良しだけど!そうだったんだねえ!」

「蒼介さんも、一時期はね、一族とは縁を切ろうとまで考えたこともあったそうよ?」

 その言葉に流水は絶句する。しかしよくよく考えてみれば、気持ちは良く分かった。

「けれどね、普通の人と結婚して、その後、子供が開眼したら?‥そう考えたときに、自分と全く逆の孤独を抱えることになる。そうも考えたって聞いたわ。まあ、結局は、姉さんの猛プッシュに押し切られたんだけどね?」

 そう言って笑ったので、流水も一緒に笑顔になる。


「うんとね?パパが帰ってきたとき、私やおねーちゃんとお母さん、みんなが神楽のこととか話すとさ、パパが話題に入れないなって。そう思うと‥悪いなあって思っちゃうの。でも!その話題を避けるのもね?‥パパが気にしちゃうかなって。」

 流水がそんなふうに話すと、霧江は笑顔で流水の背中に手を回した。

「貴女は優しいわね。普通にしていればいいわ。そういう話題を避ける必要もないし、気にせずに話しなさいな。蒼介さんも今では一族になくてはならない人よ。」

 そう言われて安心し、笑顔になった。


「影さんとか、妖さんとも普通に仲良くなっても大丈夫、なんだよね?」

「ええ。危険はないけれど、困ったときにはすぐに鷹也くんに相談しなさいね。」

 やっぱり鷹兄なんだと思っていると、霧江はそれを見透かしたかのように笑う。

「あの子は、妖や影たちと縁が深いから。私や姉さんもあの子に相談しているのよ。」

 その言葉に流水は笑い、元気良く頷いた。

「あ、林間学校で会った妖さん、おねーちゃん達のことは知ってた。‥鷹兄のことは知らなかったみたいだったんだよね。」

「彼らは一目で私たち一族だって分かるらしいから。‥鷹也くんは林間学校行ってないのよ。面倒だったらしくて、修学旅行もボイコット。」

 流水はくすくす笑う。それはそれで鷹兄らしいと思ったのだ。



 しばらくすると七海が帰宅した。

「ただいまー!」

「おねーちゃーん!!」

 流水が玄関まで走って七海に抱きつく。

「わ!おかえり!!」

「ただいま!!おねーちゃんいないとやっぱり寂しかった!!」

 そんな言葉をかけられ、七海の顔がにやけてしまう。

「‥私も‥流水いないとさ、何か静かで。ちょっと寂しかった。」

 姉妹は笑いながらリビングへと移動し、流水が新しいミルクティーを入れ直した。

「おかえりなさい、七海。」

 霧江に笑いかけられ、七海も笑顔になる。

「ただいま!」

 三人はダイニングテーブルに集まり、流水の話を聞いて笑いあったのだった。



「あ!これお土産!!」

 色違いのキーホルダーが7個、七海は青、霧江は黄色、流水はピンク。

「これね、家族みんなでお揃いなの!!」

 七海はさっそく自分のカバンにつけ、にっこりと微笑んだ。



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