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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽選考
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点景 現当主と当主候補

 篁の屋敷、そこには篁と環、鷹也がテーブルを囲んでお茶を飲んでいる。

「‥かなりショックだろうなあ。神楽が終わった後、自分は完璧だったと‥そういう顔だった。」

 篁がそう呟くと、環と鷹也も頷く。


「知らない人たちと共に舞うこと。よい経験になると思って選考に出ることを勧めたけれど・・。かえってあの子にプレッシャーを与えてしまったかしら。」

 環が悔やむように呟いた。もちろん事前に「参加することに意義があり、結果は気にしなくても良い。」と伝えてはいる。


「学校が終わって家で一人になったときに伝えたのは、じっちゃんなりの優しさか?」

 鷹也がそう尋ねると篁は頷いた。

「何せクラスメートだ。神楽を舞い終えた後の七海の表情を見るとな‥どうなるのか行動が予想つかなかったんでの。そういうお前こそ、七海の神楽が終わった途端に雅さんといなくなっただろう?」

 少しバツが悪そうに鷹也は頷く。

「正直、想像以上だったんだよな。‥母さんも自分がいたら甘やかしちゃうってさ。結果は聞くまでもないし、声をかけようが無かったから引いた。ま、逃げと言われればその通りだよ。」


 篁はそれを聞いて重々しく頷いた。

「まずは自分で考えさせねばな。共に舞うのが当主クラスであれば合わせられるが。‥同世代だとあれほどまでに浮いてしまうのか‥。」


 神楽を教えている環も責任は感じているようだ。

「あの子はどうしても所作や型へのこだわりが強くて‥ごめんなさい、私の指導不足だわ。」

 鷹也は笑顔でそれを即座に否定する。

「ばーちゃんのせいじゃないさ。七海の“在り方”の問題。それよりも、問題があってね。」

 鷹也の言葉に篁が反応し、続きを促した。


「”自分の眼が閉じているから認められなかった”たぶん七海はそっちに逃げるよ。」

 篁と環は顔を見合わせてため息をつく。

「それならば七海を儂のところに呼ぶか?」

「うーん‥それはそれで重すぎるかな。断頭台に上る気分だろうね。」

 篁の提案に、鷹也はこめかみを抑え微かに顔をしかめながら返した。


「言いたいことは分かるな?」

 念押しとも依頼とも受け取れるような言い回しに、鷹也は盛大にため息をついた。

「‥これ以上、俺に依存されるとまずいんだよなぁ。‥じっちゃんも分かってんだろ?」

 篁は頷いた。


「しかしな、七海が本当にどうにもならなくなったとき、その時はお前には分かるだろう?」

 鷹也は幼い頃から「感情のエネルギー」や「生体エネルギー」といったものに対し、余りに過敏すぎる性質を持っていた。


「‥まあねえ。七海の感情は特に強いからなあ。」

 七海が生まれた時に鷹也は4歳だったが、七海が泣く度に身体は硬直し、冷や汗と悪寒が止まらず、何度も嘔吐を繰り返したうえ、気絶することすらあった。成長と共に少しずつ慣れているために、今はそこまでの不調は起きないらしいのだが。


「その様子では既に七海自身、相当荒れているのか?」

 鷹也が時折ぴくりと顔を歪めるのは、既に頭痛が起きるほどに七海の感情波を受信しているのでは?と、篁は思った。

「‥荒れてるね。」

 ぼそりと鷹也が呟く。

「相変わらず便利なセンサーだな!」

「他人事だよなー!」

 篁と鷹也は軽口の応酬をした後、ニヤッと笑い合った。


 それからフッと真顔になった篁は静かに立ち上がり、鷹也の前に正座する。

「これも次期当主の務めではある。‥そして本来は父親である蒼介の役目だ。」

 本来は父親が動くべきことだが、開眼者ではないために対応が出来ない。

「‥それを言うなよなあ。」

そして当主の篁は、一族の総代という少しばかり重い肩書のせいで思うように動けない。七海にとっても篁や環では重すぎるのだ。


「息子の代わりに可愛い孫を上手く導いてやってくれ、この通りだ。」

 篁が頭を下げると、環もそれに倣った。普段は飄々として、人を食ったような態度の鷹也ではあるが、さすがに姿勢を正した。

「…最善は尽くすよ。」

 短くそれだけ言い、鷹也は立ち上がって敷地内にある離れの自室へと戻っていった。大学近くにある現在の家は、ここから距離はあるが、行き来はしやすい状況でもある。


「‥とはいえ、どうしたもんかねえ。」

 鷹也はぼそりと呟き、庭を眺める。わざわざ意識を向けなくても、七海の感情の波は鋭く尖り、頭の芯に突き刺さってくるような感覚がある。考えていることが分かるわけではない。ただ感情が大きく膨れ上がったり、酷く沈み込んだりといった波を直接受信してしまうだけのことだ。

(はー‥かなりきてるなー‥どうしよ。)


 夜空では三日月が薄い金色を帯びて輝いている。夜になると冷える日も多いが、鷹也は半袖のまま夜風に吹かれ、ただ月を眺めていた。





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