流水の誕生日 さくらちゃんとショッピング
6月1日、この日は水澤流水、13歳の誕生日だ。両親は仕事で不在のため、祖父母宅で誕生会をしようと計画している。霧江にはもちろん祖父母にも相談済みだ。
誕生日直前の日曜日、七海は篁の家へと向かった。さくらと連絡を取り合い、プレゼントを買うために、せっかくだからと少し離れた大型ショッピングモールへ行くことにしたのだ。
「こんにちは。今日は宜しくお願いしますね。」
スカート姿の多いさくらだが、今日はデニムに白のカットソー、淡いピンクのパーカー姿だ。相変わらず前髪で目は隠れている。
「こちらこそ宜しくお願いします!」
今日は七海もデニムにカットソーだ。シースルーのブラウスを合わせた。お姉さんとのお買い物に、七海はテンションが上がっている。
「んじゃ行くよ。」
運転席は兄の鷹也だ。後部座席に二人が乗り込むと、車は静かに発進する。
「鷹兄、ありがと。わりと忙しかったんじゃないの?」
少しだけ不安そうに七海が聞くと、鷹也がルームミラー越しにこちらを見る。
「気にしなくていいよ、本当に忙しけりゃ断るし。」
サラリと言われ、七海は安心して車窓の景色を眺めた。
「そういえばさ、さくらちゃんと鷹兄わりと仲いいんだ?」
以前から何となく気になっていたことを口にする。兄はさほど人付き合いに興味がなさそうで、友達と遊びに行くという話も余り聞いたことがない。尤も七海が知らないだけかもしれないが。
「幼馴染ですからね。小さい頃から篁さんのお屋敷で遊んでいたんですよ。」
さくらにそう言われ、なるほどと思う。恋人同士のような雰囲気もなく、なんとなく自然に会話をしていたのはそのせいだったのか、と七海は納得した。
「それより七海ちゃん、流水ちゃんにはどんなプレゼント考えてます?あ、鷹也さんも何か考えてたりしますか?」
七海はうーん‥と頭をひねる。正直全く思いつかなくて、さくらと一緒に見て回りたいなと考えていたのだ。
「ああ、それは気にしなくていいよ。」
鷹也がそう言うと、さくらはにこりと微笑む。車の中では他愛もない話で盛り上がったので、多少の渋滞は気にならなかった。
モールの降車場に車をつけてもらい、二人は鷹也に礼を言って、さっそく店内を回った。
「わーこの服かわいい!」
七海とさくらはついついあちらこちらへ目が行き、お店を回ってはきゃいきゃいはしゃいだ。
「私も兄しかいないので、かわいい妹が出来たみたいで楽しい!」
普段は物静かなさくらだが、やはり少しテンションが上がっているようだ。
「私もお姉ちゃんが出来たみたいで、何かすごく楽しい!」
七海とさくらはお互いに喜び合って笑顔になった。
「流水ちゃんて、お料理とかお菓子作り大好きだったと聞いた気がします。」
「うん。霧江さんとよくクッキーやケーキ焼いたり、料理もしたりしてるよ。」
さくらは少し考える。
「ケーキ焼くならミトンもあった方がいいし、エプロンとお揃いで可愛いのないかしら?」
そんな言葉に二人は雑貨屋を見て歩いた。
「このネコちゃんの超かわいい!流水はネコ大好きなの。」
お腹のポケットから猫がひょっこり顔を出し、エプロンの両脇にはちっちゃな手足に肉球までついていた。
「同じイラストのミトンも!みてみて!お耳ついてて手首にはしっぽもある!」
七海とさくらは迷うことなくエプロンとミトンを手にする。
「きゃー!ネコの形のクッキー型!ケーキ型まである!絶対喜びそう!」
二人は周囲を見ながらネコ料理グッズを片端からかごに入れる。全てをプレゼント用に包んでもらい、ニコニコしながら店を出た。
「ちょっとお茶でも飲みませんか?」
さくらの提案に二人はカフェへと入った。さくらは慣れた様子であるが、七海にとってはまだ経験値が浅い。どぎまぎしながら注文し、生クリームがたっぷり入った飲み物に心が躍る。
「おいしーい!」
七海は心からの笑顔でストロベリーなんちゃらをストローで啜る。さくらもカップを持ち、右手で前髪の右半分を耳にかけたため、普段見えない片目が現れた。黒目がちな瞳と目が合い、七海はフリーズしてしまう。
「‥あ。」
さくらは慌てて髪をもどし、何事もなかったようにストローに口をつけた。七海と同じストロベリーなんちゃらだ。お揃いのものを飲んでいるだけで、何だか嬉しい。
(私がスマートに流水を誘って、スマートにオーダー出来たら‥“おねえちゃんすごい!”って言われちゃうかも!?)
七海はそんな妄想をして、ついニヤけてしまった。
「ふふ!これ、美味しいですね!」
以前、流水や茜と話していた「さくらちゃん、前髪整えたら超美人?」という疑念が湧き上がる。
「‥あの、さくらちゃんて‥どうして目をかくしてる、の?」
聞いた瞬間、さくらが硬直した。どうやら聞かれたくなかったことらしく、七海は聞いたことを後悔した。
「あ‥ごめんなさい。ちょっと、ね。」
さくらは困ったように笑い、言葉を濁した。
「ごめんなさい!初めてさくらちゃんの目を見て、すごいきれいな人って思って!だから‥その‥かくしてるの、もったいないなって!」
七海が必死になって言うと、さくらはくすくす笑った。
「ありがとう。そんな風に言ってもらえて嬉しい。」
さくらが笑ってくれたことで七海は安心し、その後は流水がどんな顔をするか、喜んでくれるかで話が盛り上がった。
再びウインドウショッピングをしていると、さくらがアクセサリー売り場でブレスレットを見ているのに気付く。
「さくらちゃん、ブレスレット好きなの?」
七海が問いかけると、さくらは少し困ったような表情を浮かべた。
「好きなんですけどね、金属アレルギーで‥なんでもオーケーっていうわけじゃないんですよね‥」
七海は思い切って店員さんに声をかける。最近は金属アレルギー対応のアクセサリーがあることを、七海も知っていた。そして七海自身も夏に汗をかくとかゆくなってしまうこともあった。店員さんは親切に金属アレルギー対応コーナーを案内してくれ、さくらと七海は二人であれこれとつけてみたのだった。
「迷ったけど、やっぱりこれかしらね。」
星型のチャームと多面体の球が交互に組み合わさっているブレスレットだ。
「わー!私も買うならこれって思ってたの!ねね、さくらちゃん!私とお揃いで良かったら、プレゼントさせてもらえない?」
突然の申し出にさくらは驚いたようだ。
「え?‥だめよー!私はアルバイトしてるし、これくらいは‥」
「あのね、今回の中間テスト、すっごい成績が上がってみんな喜んでたの。‥それでさくらちゃんに何かお礼がしたいねって話してたんだ。だからお願い!」
七海が懸命に訴えると、さくらは困ったように笑った。
「‥ありがとう。それじゃあお言葉に甘えさせて頂いちゃおうかな。みんなの気持ちを断るのも失礼でしょうし。」
金額的にさほど高くなかったこともあり、さくらはそう言って受け入れてくれた。
七海がお金を払い、二人はそのまま身につけた。
「やっぱりかわいい。」
お互いのブレスレットを見せ合いながら、二人はふふっと笑い合った。そのまましばらく、二人はウインドウショッピングを楽しみ、鷹也に迎えに来てもらってその日は解散した。
(何か、お姉ちゃんがいる“妹”と、お兄ちゃんがいる“妹”って、何か違う気がする!やっぱり、お姉ちゃんがいるっていいなあ!)
七海は部屋に戻ってからもブレスレットを眺めながら、ついついにやけてしまうのだった。




