体育祭 リレー!
【それでは紅白対抗、保護者の方によるリレーです!参加者多数のため、各チーム8人、6チームとなりました!】
トラックの内側では赤組応援団と白組応援団が二手に分かれて声援を送っている。
「ねね、見て!和服のおばあちゃんも参加するみたいよ?」
同級生に声をかけられ、流水はそちらを見て固まった。
「ええっ!?うちのおばあちゃんなんですけど!?」
周囲がジャージやTシャツにスニーカーという中、スッと背筋を伸ばして立つ姿は異彩を放っている。
そして選抜選手が集まる入場門でも
「和服の‥上品なおばああちゃん?いるけど‥走れるの!?」
誰かの声に七海は保護者リレーの方を見やった。
「お祖母ちゃん!?」
七海の声に、同じく選出されている遊馬が振り返った。
「ええええ!?あれ、七海んとこのばーちゃんなの!?」
【それでは保護者の皆さま!くれぐれもお怪我のないよう宜しくお願いします!】
号砲と共に6人が一斉にスタートを切った。男女混合であり、年齢も様々だ。皆が注目する中、とうとう環にバトンが渡った。直後、スサササササといった擬音がつきそうな小走りで走り始める。上半身が全くブレることなく、膝から下だけを動かしているようにも見える。そして何より速い。
「忍者!?」
「ちょ!!やば!!」
応援団も大いに盛り上がり、声援と大旗を振っての応援だ。二人を抜き去り次にバトンを渡した環は、軽く裾をはたいて居住まいを正す。着物が乱れることもなく今走ったのが信じられないほどである。
「七海のお祖母ちゃん、すごくない!?めっちゃ速かったんだけど!?」
声をかけられてようやく七海は我に返った。あまりの衝撃に固まっていたのだ。
「待って?‥お祖母ちゃん‥本当に走ってたよね!?」
「ばーちゃんすげーー!!めっちゃかっけーーー!!」
七海が現実を確かめている横で、遊馬も大はしゃぎしている。
そして赤組応援団も呆気に取られていた。もちろん応援はし続けていたが、和装のおばあちゃんの走りっぷりには度肝を抜かれたのだ。
「‥流水のおばあちゃん、すご!!」
「どうしよう!私より絶対お祖母ちゃんの方が速いんですけど!?」
流水の声に周囲の数人までもが笑い出すありさまだ。
「でも今はおうえん!赤組!!頑張れ―――!!」
もちろん白組応援団も大盛り上がりである。
「あのばーちゃん、すっげー!誰のばーちゃん?」
「いや凄いわ!!」
道明が笑いながら言う。
「七海のばーちゃんだよ、あいつも選抜リレー出てる。」
周囲が一瞬どよめきそして納得だ。
「あー水澤のばーちゃんか。」
「ナナの足の速さはおばあちゃん譲りか!」
「これは水澤にも頑張ってもらわないとな!!」
そうして白組の応援にも熱が入る。
【保護者の皆さまありがとうございました!今日はゆっくりお休みくださいね!それでは最後の種目になります。学年男女混合選抜リレーです!各組10名、6チームでの対戦です!頑張ってください!】
七海は4チームのアンカーだ。髪をゴムでまとめ、軽く足首を回す。
「頑張ろうな!」
「スタートダッシュはお願い!」
同じ4チーム先頭が遊馬であり、二人は笑顔でハイタッチを交わした。
号砲と共に一斉にスタートを切った。遊馬のスタートダッシュは完璧だ。しかし現在三位である。赤組の先頭は陸上部、その後を追う白組はサッカー部だったはずだ。それでも遊馬は離されることなく二位の真後ろをキープし続けた。
応援団の近くを走り抜けるとき、遊馬は横目でちらりとみやる。道明は笑顔で手を振り、遊馬も笑顔でそれに応えた。
二位にぴったり張り付いた状態でバトンを渡し、遊馬は道明の所へやって来た。
「お疲れ!‥健闘したな!」
「陸上部はええええ!何だあれ!」
遊馬はそう言いながらも笑顔だ。そして次の走者たちにエールを送る。
「いっけええええ!ぶっとばせーーー!!」
「フレーフレーし・ろ・ぐ・み!!」
1位だった赤組が少し遅れ、4位だった赤組が追い上げてくる。5位と6位もじりじりと追い上げては来ているが、少し差がついていた。
「ああああああ!!大丈夫か!?」
「ケガは!?」
白4チームが転倒し、それでもすぐに起き上がって走り出す。バトンを渡した後にトラック内側へ倒れ込んだ。動こうとした道明を制し、すぐさま遊馬が駆け寄る。
「大丈夫?」
2年生の女子らしい。半泣きになって「ごめんなさい」とだけ言って俯いてしまった。
「そんなことよりケガは?捻挫とかしてないか?」
「あ、はい。‥ちょっと擦りむいただけで‥」
遊馬が手を貸していると、応援団にいた女子が一人向かって来て、ぺこりとお辞儀をする。同じ学年なので自分が救護へ連れて行くと申し出てくれた。
「でも!応援が!」
泣いているその子に、遊馬は笑顔を向けた。
「俺ら4チームのアンカーは七海だ。水澤七海!あいつめっちゃ速いから大丈夫!良かったら救護テントから大声で応援してやって!」
そう言われ、二年生女子は顔を見合わせたあとに「はい!」と返事をして歩いて行った。
遊馬たち4チームは5位まで下がったが、そこから着実に盛り返していた。赤組でも転倒があり、再び順位に変動が生じる。
第9走者にバトンが渡り、すぐに4位へと順位を上げた。3位はすぐそこ、2位と1位も射程圏内だ。ちなみに白組4チーム第9走者は2年生のテニス部女子らしい。3位に食らい付いたまま、ほぼ同時にバトンを渡した。
「七海ーーー!!」
「ナナーー!!」
「みーずーさーわー!!」
応援団以外にもクラスメイトから声援が上がる。大きくしなやかなストライド、一つにまとめた黒髪をなびかせて一心に走った。
「みずさわせんぱーい!!」
なぜか救護テントから声援を受けて驚いたが、それも何となく嬉しい。2位に並び抜き去る。
「「みずさわせんぱーい!!」」
おそらく弓道部の子だろう。後輩からの声援を受け、1位をすぐそこに捉えた。
「おねえちゃーーーん!」
七海の口元が緩む。敵のはずの妹から声援を受けたら負けられるはずがない。追いつき、並ぶ。ゴールは目前だ。
「「ななみーー」」
「ナナーー!!」
遊馬と道明の声、そして茜の声だ。更にピッチを上げ、ラストスパートだ。声援を背に、目の前のテープに意識を集中する。
(私が、あのテープを切るんだ!!)
声援を送った皆が、その瞬間だけは息をのむ。僅差で七海がゴールテープを切った。
「「「「やったーーーーーー!!」」」」
歓声が上がり、トラック内にいた道明と遊馬が駆け寄り、七海の左右の手を取って3人で万歳だ!
「おねえちゃああああん!!」
ぶかぶかの学ランを着た流水が走って来て抱きついてくる。
「こらー!敵なのに!」
「だってええええ!すごかったんだもん!!」
道明が来ていた学ランを脱ぎ、七海にばさりとかける。
「へ?」
「学ラン姉妹!せっかくだ、写真撮って貰っとけ!」
霧江がばっちりカメラを向けている。七海は少し大きめの学ランを着て、流水と二人笑顔でピースした。
【これで体育祭の種目は全て終了です。閉会式になりますので、生徒の皆さんは整列してください。】
アナウンスが流れ、皆ぞろぞろと整列する。まだ熱気冷めやらぬ状態であり、閉会式開始のあいさつや校長先生の話など聞いていないようにも思える。
保護者参加のお礼や、講評などもあり、ついに結果発表だ。
「白組の勝利です」
その言葉に七海達は沸き上がった。歓声を上げる者、ぴょんぴょん飛ぶ者、くねくね踊り出す者、反応は様々だ。そして吹奏楽部の生演奏による校歌斉唱。
(そうか、校歌って‥卒業したら歌わなくなるのか‥)
そう考えると感慨深いなと思い、しっかり歌う七海だった。
閉会式が終わった後、篁や環、霧江に礼を言って教室へ向かう。
「水澤先輩!!リレー凄かったです!!」
「走ってる姿、超かっこよかったです!」
弓道部の後輩に声をかけられ、七海は大いに照れた。
「う、あ‥ありがと。夢中だったから‥」
隣にいた茜にくすくす笑われる始末だった。
そして教室に戻った瞬間。
「いえええええええ!!」 「うおおおおおおおお!!」
教室が爆発したのか!?と思うほどの歓声に包まれた。
「七海超カッコよかった!!あ!おばあさまも!!」
「ナナはやっぱすごい!!」
「水澤やっぱはえーな!!」
「いやーまさかトップでゴールするとは!!」
クラスメイトたちにもみくちゃにされ、七海は嬉しい悲鳴を上げた。
担任が教室に入って来るなり笑顔で全員を労った。そしてその直後。
「いやー最後の水澤の走りは痺れた!あれは圧巻だったな!!」
再び歓声と拍手が沸き起こり、七海は耳まで真っ赤になる。
「そして応援団長の土門!あれは本当に格好よかったぞ!」
「俺道明に惚れちゃうかも!!」
「キャー道明くん素敵!!」
男子からの声援に道明は大爆笑している。
「あと個人的には騎馬戦な!あれは土門と五十嵐の作戦か!?五十嵐チーム凄かったな!」
2チームの男子たちが顔を見合わせ、照れ臭そうに笑い合った。
「何はともあれ、怪我もなく無事に終わって良かった!明日は休みだし、みなゆっくり休養するように」
そう先生が締め、体育祭は幕を閉じた。




