体育祭 午後の部と創作ダンス
【白組・紅組の応援団の皆さん、お疲れ様でした!これより午後の部のスタートです!】
午後最初は七海達三年生による騎馬戦だ。男女別になるため、騎数は少ない。七海は背が高いため、先頭である。
「無理せずに行くよ?出来れば背後か横から。競り合ってる所に近づいてサッと取れたら最高!」
七海が三人に言うと、全員がそれに同意した。茜とは別の騎である。
【まずは女子の部!スタートです!】
号砲の音と共に赤白5騎が一斉に前進した。七海達は少し出遅れた形で進み、味方の少し後方にいる。そのため、七海たちの隣の騎が2騎から挟み撃ちに合いそうだ。
「走るよ!」
とはいえ全力疾走までは出来ない。自分の肩にかかる力と、繋いだ手の感触でスピードを調整する。ぐらつくこともなく、安定したまま何とか挟み撃ちになる寸前に敵のサイドへと詰めた。
騎上の子がぐぐっと手を伸ばすと、バランスを取るために騎馬の手に体重がかかる。七海の肩に手をかけて身体と手を伸ばし、隙をついて一気に帽子を奪い去った。そのまま今度は挟み撃ちの仕返しだ。七海は止まることなく、合図をしながら左右に振る。近づいては少し離れるという、息があっていなければ出来ない技だ。騎上の子が大きく動くたび、肩の加重が強くなる。
相手も取られまいと必死で防戦するが、2対1では分が悪い。
「取ったーーーーー!!」
七海たちと共闘していた騎上の子が、何とか帽子を奪い去った。2騎は一緒になって移動し、味方に合流して3対1をキープして順当に帽子をゲットする。一騎討ちになった1騎だけが帽子を奪われてしまったが、計4本の帽子を取れた。圧勝だ。
女子チームは全員ハイタッチを交わし、きゃあきゃあはしゃいでは抱き合った。茜チームも生き残り組だったので、二人は笑いながら肩を組んだ。
【さて続いては男子の部!スタートです!】
道明が先頭、遊馬は別騎の騎上だ。号砲の音と共に道明チームが全力で走る。砂煙を上げて走る様はまさに重戦車のようだ。
「遊馬ーーー!!」
2騎から挟撃されている遊馬だが、上手く躱している。そして2騎に狙われ続けながら少しずつ少しずつ移動していた。
先頭の道明チームは背の順で一番小さいチームをターゲットとし、早々に帽子を奪い去っていた。そのまま別チームへ加勢し、巧みに帽子を奪う。遊馬も必死に防戦し、何とかギリギリで躱しながら生き残っていた。
「いっけーー!道明!!」
重戦車は再び方向を変え、遊馬の加勢に向かう。
「うへ!あぶなっ!ぎゃーー!」
遊馬は悲鳴を上げながら必死に躱し続ける。騎馬係は笑いそうになるのを堪えながら、上手く動いていた。
「‥あの小僧、やるな。」
観客席では篁がにやりと笑って呟き、環も笑って頷いた。
「どゆこと?」
「あれは、敵を上手く引き付けてるだけだ。2騎を手玉に取っているな。」
席に戻った流水の疑問に答えたあと、篁は腕組みをしてうんうん頷いている。そして男子チームは完勝した。
「うえーい!!」
七海達は男女共にハイタッチを交わし、健闘を称え合った。
そして午後の種目も終盤を迎え、生徒全員による創作ダンスが始まる。入場門での集合で、道明と紅組の応援団長が声を上げた。
「俺達3年はこれが最後の体育祭だ!みんな!緊張しなくて良い!楽しもう!!」
「1、2年も自主練頑張ってたしな!いいトコ見せようぜ!」
二人がそれぞれ言い、ニヤッと笑った。
「俺等がせーのって言ったら、みんなで“おー!”って声上げて!」
紅組応援団長が道明と肩を組む。
「いくぞ! せーの!!」 「「「「おー!!」」」」
七海と茜、遊馬も一緒になって片手を突き上げ、叫んだ。
(なんだろ。こんなことで感動してるとか!?)
七海は少し照れ臭くなりながら整列した。
【さて、生徒全員による創作ダンスです。】
中央が3年生、観客席から見て左翼が1年生、右翼が2年生だ。皆両手にミニフラッグを持っており、3年生が青、2年生が緑、1年生が赤、ジャージと同じカラーである。
短いアナウンスの後、曲がかかる。流行りの曲と昔の曲を混ぜて組み合わせた、アレンジメドレーだ。父兄達が良く知る曲も使われているため、口ずさむ者もいる。
「七海は‥ああ、あそこに。」 「流水はあっちですね。」
環と霧江がそれぞれを見つけ、静かに眺める。ちなみに霧江は海外を放浪していた経験もあり、趣味で写真も撮っていたことからカメラ機材は充実している。今日の様子も写真と動画をばっちり収めていた。
「‥ふむ。七海には華があるな。頭の先からつま先まで、神経が行き届いているようだ。」
人差し指の形、角度、フラッグの振り方に至る全てにおいて整えている。
「流水は伸びやかにしなやかに。‥ふふ、とにかく楽しそう、ですわね。」
踊るのが楽しい!というのを全身で体現している様子に環もつい笑ってしまう。
「姉妹でこれほど違うんですね‥あ、私と姉も全然違いました。」
霧江が呟いた後、自分自身に突っ込む。
「‥この違い、ダンスだけではありませんね。神楽も同じだわ‥。」
環がしみじみと呟き、篁を見やる。
「ほう。‥七海のダンスがそのまま神楽と同じ、か。」
篁はただ黙ってその様子を見ていた。
曲調が変わり、隊形も変化してゆく。3重円になって中心に移動しながらフラッグを掲げて振る。青い波、赤い波、緑の波、さざめきながら円が徐々に小さくなり、再び広がる。
円が解けて十字が描かれ、風車のようにゆっくりと回転し、フラッグが高々と上げられて風に靡く。
(しっかりと指先まで意識を向けて!そして優雅に。)
七海の腕の動きはしなやかで、柔らかい。急制動がなくふわりと動かしてぴたりと止める。完全に制御された動きだった。
(えーっと次は左手上げてーあ、タイミングずれた!)
茜は周りの動きにどうしても目が行ってしまう。万が一間違えたらと思うと、つい気になって周りを見てしまい一拍遅れになることがあった。
(ダンスか~やっぱ俺は弓の方がいいな!あーこれ踊るほうじゃなくて、校舎の屋上から見たいなー)
遊馬も細かい動きまでは覚えていなかったが、それでも不思議と周囲に合っている。何となく周囲の動きとリズムに合わせられるらしい。
(うーんこれ、鷹兄が見たらダンスじゃなくて足捌きだな、と言われそう。やっぱ武道系の動きになるんだなあ、俺)
道明はメリハリの効いた動きで、見た目はかなり迫力がある。本人も意識している通り、ダンスというよりは武道寄りの動きだった。
(楽しいなー!おねえちゃんと一緒に踊ってるんだなー!)
流水は音楽に乗り、この場の雰囲気に乗り、覚えたダンスを一つ一つ再現している。運動部なんてと思っていたが、ダンス部は合うかもしれないと思った。
フィニッシュはそれぞれの学年が一列になり、フラッグを使ってのウェーブだ。隣同士の腕を交差させ、少しずつ腕を持ち上げて波を作る。まだバラつきの多い赤い波、少しテンポの速い緑色の波、うねるように見事にカーブを描く青い波。
保護者席から大きな拍手が沸き上がりダンスは終了した。
「何かあっという間だったね。」
「‥うん、上手く出来てたかな?」
席に戻る道すがら、茜と七海はそう声を掛け合った。
「うー緊張したー!」
「流水、ちゃんと出来てたじゃん!私途中で間違えちゃったー」
流水とその友達もそんな会話をして笑った。
七海と流水が祖父たちの席に戻ると、篁と霧江が拍手で出迎えてくれた。
「二人とも、素敵だったわよ!」
「いやあ、良いダンスだったなあ!」
そう声をかけられ、七海と流水はハイタッチをする。祖母の姿がなかったが、トイレにでも行ったのだろうか?
「あ、ていうか私、最後のリレー行かないとだ。‥また後で!」
この後は紅白対抗の保護者リレーがあり、その後に選抜リレーがある。足の速い七海は選ばれているのだ。
そして流水もまたリレーの応援のために席を外した。
「‥あの子たち、びっくりするでしょうね?」
「ははは!楽しみだな!!」
霧江と篁はそう言って笑い合った。




