体育祭 お弁当と応援合戦
お昼、七海と流水は篁たちの席へと行き、シートに座り込んだ。隣のシートには茜家族がいて、両親と弟、妹も来ているらしい。
「こんにちは!あー!透くんに灯ちゃん!見に来てたんだ!」
流水は両親に挨拶をした後、弟と妹に声を掛ける。
「うん。来年おれも中学だから、ちょっと見てみたくって!」
「わたしもついでー!」
流水と茜の弟は1年違い、茜の弟と妹も1年違いである。七海も茜両親に挨拶をして、早速シートに座り込んだ。
「ただいまー!あ、ナナ隣だったんだ!お祖父さん、お祖母さん、霧江さん、こんにちは!」
トイレに行っていた茜が少し遅れてシートに座る。
「玉入れ楽しかったー!」
にっこにこで流水が報告すると、七海も笑顔になる。
「あ、クラスの子が“あれ七海の妹?玉渡したらありがとうございます!だって!かわいいじゃん!”って、そう言ってたよ。」
七海に言われ、流水は嬉しそうだ。
「え?でもね、その人、一応敵なのに“がんばれ”って言ってくれたんだ!あ、おねえちゃんやっぱり足速いねえ!徒競走見てたらクラスの子が“おねえちゃんかっこいい!”って。“そりゃ自慢したくなるよね!”って言われて嬉しかったんだ!!」
反撃を食らった七海は真っ赤になり、水筒のお茶をごくごく飲んだ。隣のシートの茜がくすくす笑っているのも気になっているらしい。
「二人とも楽しそうだったし、よく頑張ったなあ。」
「本当に。見てるこっちも楽しかったわ。」
篁と環に言われ、二人も笑顔になる。
「さあ!頑張って作ったからたくさん食べなさいな!」
霧江がお重を開けると、おにぎりや卵焼き、唐揚げ、生春巻きのサラダ、色とりどりのおかずがぎっしり詰まっていた。
「「わーーー!!いただきまーす!」」
七海と流水は争うようにおにぎりやおかずをつまむ。煮物もあれば、ミニハンバーグもあるという豪華なお弁当だ。
「美味しい!!この卵焼きは霧江さん!」
「このハンバーグはお祖母ちゃん!」
誰が作ったのかを当てながら、次々と食べていく。霧江と環は顔を見合わせ微笑み、篁も目を細めて二人を見ていた。
「‥なんか、これがもう中学最後なんてね。あっという間だったなぁ‥」
しみじみと七海が呟き、今は誰もいない校庭を見やる。
「わたしも再来年には同じこと、言うのかもねぇ。」
流水が笑顔でそれに続く。
「ははは‥年々1年過ぎるのが早く感じるものだ。焦らんでいい、じっくりと今の時間を味わえばいい。辛いことも、楽しいことも、たくさん刻んでな。」
篁はそう言って二人を見た。
「そうよ。とにかく今は、“今この時間”を楽しみなさいな。振り返ったときに、それが宝物になるわ。」
環もそう言って穏やかな笑みを浮かべる。
「今が一番楽しい時だもの!感傷に浸るには早いわよ!」
霧江につんっとつつかれて、七海は笑顔になった。
「そうだよね!ありがとう、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、霧江さん。リレーではアンカーになったの。頑張るから見ててね!あとは創作ダンスも!」
そんなふうに談笑していると、道明の両親と遊馬の両親がそろそろと近づいてきた。
「こんにちは、来られていると聞いてご挨拶に参りました。」
道明の父、孝之介が来て会釈をする。それに倣って遊馬の父、駿も会釈をした。
「そんな改まらんでいい。今日は孫の体育祭を見に来ただけだ。‥それより家の孫が世話になっているな。」
篁が笑顔で答えると、孝之介と駿も笑顔になる。
「こちらこそ。」
「うちの息子がご迷惑をかけていないといいのですが。」
五十嵐家は両親共に開眼していないため、七海の父、蒼介との繋がりのほうが強いらしい。篁達が談笑しているため、霧江は保冷バッグから容器を取り出した。
「はいこれデザート。」
霧江が別で用意していたのは濃厚なベイクドチーズケーキだ。
「おいしそー!!」
容器の中には一口大に切り分けられたチーズケーキが詰まっている。
「うま!!」 「超美味しい!!」
その言葉に茜の兄妹が反応してこちらをちらちら眺めてくる。霧江が笑いながら「どうぞ」と差し出すと、二人は礼を言って取り、口にした。
「おいしいーーー!」
「これ好きーーー!」
そんな二人の様子に立夏はにこにこして、「どうぞ」とデザートを分けてくれた。こちらは果物とクリームのクレープ包みだ。
「美味しいーー!」
「わーー!お口の中が贅沢!」
子供たちはデザートを食べ比べては笑い、美味しいと言っては笑った。霧江と立夏もお互いのデザートを褒め合い、そのまま談笑している。
篁と環はそんな様子を見ながら、たまに訪れてくる一族の父兄と挨拶を交わし、少し話しては笑っていた。
穏やかな談笑をしていると、しばらくして流水が立ち上がった。
「えへへ!私はこれから応援合戦の準備にいってきます!頑張るから見ててね!!」
ふと見ると、道明も立ち上がっており、目が合うと笑って手を上げた。流水と道明が一緒に校舎へと入っていく。
昼休憩が終わる頃、まずは白組が先に校庭へと入場してくる。先頭は応援団長の道明だ。上背もあり、体格もがっしりしているために学ランが似合っており、迫力も満点だ。女子も同じように学ランを着ているが、少し大きめなのでカッコ可愛い雰囲気になっている。
その後は紅組。やはり全員が学ランスタイルであり、先頭の応援団長も背が高い。後ろの方からトコトコと流水が歩いて来たのを見て、七海がついニヤけてしまう。
「かっ!かわいいい!!」
思わず口に出してしまい、篁や環、霧江までもが笑ってしまう。小柄な流水には学ランが大きすぎて子供が大人の服を着ているように見えるのだ。
【それでは応援合戦が始まりまーす!】
白組・紅組がそれぞれ隊形を整え、白組には吹奏楽部が、紅組には軽音部がついている。紅白組は互いに向き合って礼をし、正面に向き直った。
道明の号令から始まる、定番の三三七拍子。白い手袋が眩しく、キレのある動きと道明のよく通る声、そしてホイッスルが響き渡る。
最後の掛け声「オー!」で一度停止した後、吹奏楽部の演奏が始まった。誰もが耳にしたことのある洋楽に合わせ、拳を振り上げ足踏み。足踏みのタイミングに合わせた大太鼓がズンっと響き、まるで足踏みによる振動のようにすら感じた。そして全員の動きが完全にシンクロしている。
「‥うわぁ‥完成度たっかい‥」
七海は思わず呟いた。ダンスと武道が渾然一体となったような、見ている此方側が圧倒されるほどの迫力である。観客席は静まり返り、全員が一挙一投足に見入ってしまっている。
「ヤーーー!!」
最後に全員の掛け声とその場での正拳突き。団長の道明が空手をやっているだけに、その型も迫力も段違いだった。
一瞬の静寂後、「ワアアアアアッ」という歓声と、割れんばかりの拍手が送られる。正拳突きのまま静止していた道明の掛け声で、「気をつけ」から「礼」まで。これも全員が完全にシンクロしていた。
再び惜しみない拍手が送られ、一礼した後その場で待機する。
紅組も団長の号令から始まり、定番の三三七拍子。白組の重厚感とはちがい、活動的で爽やかな動きだ。
そして軽音楽部の演奏が始まった瞬間、全員が動き出す。
「ソーラン節だ!‥南中ソーラン?これもアレンジかな?」
ベースとギター、そこにドラムまでが入り、滅茶苦茶にノリの良い音楽になっている。誰からともなく手拍子が始まり、観客全員にまで広がった。
「わ!流水すごいすごいすごい!」
七海は流水の動きに見入ってしまう。真面目くさった顔をしているが、たまに口元が緩む。
「ふふふ‥流水ちゃん、本当に楽しいのね!」
霧江の言葉に七海も笑いながら頷いた。白組ではあるが、全員が手拍子をしている。白組ほどシンクロしきれてはいなかったが、それでも観客席を巻き込んでの演技に盛り上がる。
「やーーーー!!」
停止後のかけ声もちょっとだけバラついた。それでも七海は笑顔で拍手喝采を送った。「なおれ」の後に流水が七海に向かって笑顔でちょっとだけ手を振ってくれる。つい七海も笑顔になって手を振り返した。
「流水ちゃんかわいい!あの学ランはちょっと反則じゃない!?」
茜の言葉につい七海がニヤけてしまう。確かにかわいい。連れて帰りたい。いや連れて帰るのだが。
「あの応援団の人たちのって、学ランっていうの?」
茜の弟が聞いてきたので二人は「そうだよ」と答える。
「以前はあの学ランが中学の制服だったのよ。数年前にちょうどブレザーに入れ替わったのよね。」
霧江が思い出したように言うと、環も頷いた。
「えー、おれ、あっちのが着たかったなー!」
弟の透は口を尖らせて文句を言う。ブレザーよりも格好良く見えるのだろうか。
「応援団のあの学ラン、OBの人たちの寄付って聞いたかも。・・そう考えると、何か感慨深いわねえ。それより白組の団長さんは道明くん?カッコいいわあ!」
立夏の言葉に七海も流水も笑った。
「ミチくん、空手やってるだけあってさ、何か動きにキレがあるっていうか、迫力あったね!」
「うん!ああいうときの道明は確かにカッコいい!」
二人はそう言って笑い合い、次の競技に参加するため早々に席を立った。家族から声援を受け、二人は手を振りながら走って行った。




