楽しい?勉強会! 中間試験をぶっ飛ばせ!
ゴールデンウィークが終わり、いよいよ試験前に突入した。4人は学校帰りに篁の家に寄り、広い和室を借りて勉強に励むことにした。
「やっぱここ、なんかいいよな。一人だとついゲームとか漫画に手が伸びる。」
道明が言うと、他の三人も頷いた。
「妖が教科書めくってくれるんだけど!?今までこんなことしてくれてたっけ!?」
遊馬は妖を撫でながらテンションが上がっている。妖のほうはきゃっきゃと喜び、遊馬の様子を窺って「もういいかなー?」とばかりにページをめくってくれるのだ。
「はー!こんにちはー!」
息を切らせて流水も上がり込んできた。おじいちゃん家で勉強会やるよーという七海の言葉に「行く!」と即決して合流したのだ。
「中間試験ってむずかしい?」
中学に入って初めての定期試験だ。少しばかり不安げなのも初々しく、4人がつい笑顔になってしまう。
「試験範囲内を勉強しておけば大丈夫だよ。先生が言ってたろ?」
道明が優しく言うと、流水はにっこり笑って頷いた。
「うん!けど範囲いっぱいで、追いつけないよー!」
可愛く絶望する流水に茜が抱きついた。
「あーもう!流水ちゃんかわいい!わからないことがあったら言って!ね、みんな?」
三人が笑顔のまま頷き、流水もふにゃりと笑った。
「あ、俺には聞いちゃダメだぞ?答えられることのほうが少ないからな!」
胸を張る遊馬に、全員が笑った。
しばらくシャーペンを紙に走らせるサラサラという音と、ページを捲る紙の音が響く。陽は陰ってきているが、まだ昼間の明るさが残っていた。開け放たれた窓からは心地よい風が抜け、小さな湧水池の水音が耳朶をくすぐる。
時折「うーん」とか「あ」といった呟きが漏れているが、皆それぞれに集中しているようだ。
「こんにちは。」
静かで穏やかな声が響き、全員が一斉に声の方を見る。
「さくらちゃん!?」
相変わらず目元には前髪がばっさりで、口元には笑みをたたえていた。
「差し入れですよ。私もここで勉強させてもらおうと思いまして。もし何か分からないことがあったら、言ってくださいね。鷹也さんほどではないですが、多少はお役に立てると思います。」
声のトーンが少し低く、明るさと言うよりは穏やかさが勝っている。しかしそれが五人の気持ちを穏やかにさせてくれた。
ペットボトルのジュースと、まだほんのり温かい鈴カステラが広げられる。5人は歓声をあげて早速手をつける。これで脳へのブドウ糖補給は完璧のはずだ――たぶん!
「ありがとう、さくらちゃん!もしかして鷹兄の代わりに?」
七海がそう尋ねると、さくらは笑顔のまま頷いた。
「あの人はアルバイトが忙しいようで。私も勉強がしたかったから、せっかくなら混ぜて頂こうかなと思ったの。」
何となく兄とさくらの関係性が気になったが、七海も笑顔を向ける。
「ありがとう!さくらちゃんが居てくれたら心強い!」
他の4人も同じ気持ちらしく、笑顔を向けて礼を言い、再び教科書やノートに目を向けた。
最初に流水が数学を聞きにさくらの所へ行き、その後は七海が理科を、道明も英語を聞きに行く。さくらは丁寧に話を聞いてくれ、分かりやすく教えてくれる。
先生がいてくれるとこれほどまでに捗るのかと、七海は嬉しくなった。兄の鷹也も聞けば分かりやすく説明してくれる。ただ余りに神出鬼没であるために、聞けるタイミングも少なかった。
「さくらせんせい!算数から数学になったら意味がわからなくなりました!」
再び流水が教科書を持ってさくらに聞きに行く。
(そういえば流水に勉強を聞かれたとき、私も自分の勉強に手一杯だったな‥さくらさんも自分の勉強があるのに、嫌な顔一つしないで優しく教えてくれる‥)
それは兄の鷹也も同じだった。分からない所が分からないという状況の中、丁寧に質問してくれ、分からない部分を引出してくれる。
(私もそういうところ、見習わないと)
七海は自分の態度を反省し、再び教科書に没頭するのだった。
「俺は何が分からないのかさっぱり分からないです!」
遊馬が潔く宣言してさくらの所へと数学を持っていった。
「ふふ、最初はそうよねえ。じゃあ分かってることもあると思うけど、最初から聞いてくれる?」
さくらはそんな風に言いながら、遊馬と一緒に教科書の例題を解いていく。
「そこ!なにここワープしてんの?俺の頭についてこられる説明欲しい!」
遊馬のリアクションは賑やかだ。しかし、そんなやりとりが面白くてつい笑ってしまう。
「ここはね?…」
さくらはやっぱり丁寧に遊馬の表情を伺いながら補足説明をしていく。
「あー!そゆこと!?やっべ理解できたわ!俺って天才かも!?」
遊馬は教科書に色々とメモを書き込み、やっと分かったらしい。嬉しそうな声と高いテンションに、全員が笑ってしまうのだ。
「よかった。そうしたらその後の問題を解いてみて?きっと遊馬くんなら解ける。でももし疑問に思うことがあったら聞いてね?」
さくらも優しく言い、遊馬も満面の笑みを浮かべて早速問題を解き始める。
「さあみんな、ご飯よ!」
しばらくすると環がお盆に山ほどの料理を持って、空いたテーブルに並べ始めた。妖たちも一緒になってお盆の料理を運んでいる。勉強会のときには、こうして環が食事を振る舞ってくれるのが常であった。
「わー!いつもありがとうございます!」
茜が早速立ち上がって配膳を手伝う。運んでくれた妖たちを撫でて褒めてあげながら。妖たちは嬉しそうに身体をくねくねさせては再び台所に行き、茜に撫でてもらおうと期待しているようだった。
『アカネあったかいー』 『なでてー!』 『ぼくえらいー?』
茜は優しく笑い、妖一匹一匹を撫でてあげ、「えらーい!ありがとねー!」と声を掛ける。流水もそれに倣い、二人で妖たちを労ったのだった。
夕飯はコロッケとメンチカツにエビフライ、たっぷりのサラダに味噌汁である。
「いただきまーす!」
そう言って一斉に食べ始める。
「すみません、私まで頂いちゃって。」
さくらが環に頭を下げると、環はうふふと笑った。
「いいのよ、貴女には面倒をかけているのだし。たまにはゆっくりしていって。」
さくらは笑顔で頷き、もりもりと食べ始めるのだった。
「待って!これ反則じゃね!?コロッケにもメンチカツにもチーズイン!!どうするのこれ、俺もう幸せ過ぎてヤバいんだけど!!」
遊馬が蕩けそうな顔でお口の中のハーモニーを味わっている。
「まあ!気に入ってもらえたなら良かったわ!」
リアクションが嬉しかったらしい、環も遊馬を見てにこにこしていた。
「タルタルソース、手作りですか?これ、私大好きです!」
さくらもエビフライのタルタルに満面の笑み―いや口元しか見えないのだが―を浮かべている。
「うふふ、あとでレシピをお伝えしましょうか?」
「はい!ぜひ!!」
環とさくらも仲が良いらしい。たまに会話を交わしながらお互いに笑い合っている。七海は何となく不思議に思ったが、考えてみると月影家のさくらの祖父と篁は仲も良く、交流も深い。そう考えて食事を堪能したのだった。
その後もう少しだけ勉強を続け、夜9時頃に全員が帰路についた。
「ありがとな、七海!また明日も宜しく!」
「おやすみー」
「おやすみなさーい」
口々に言いながら帰っていく。
「あー明日は知恵熱が出るかもしれない‥」
流水が帰宅して早々ため息をついたので、七海はつい笑ってしまいそうになった。
「出ない出ない。」
そう返すと流水は口をとがらせるのだった。
「でもさ、あんな感じで勉強出来るといいね。おじいちゃんち、なんかすごい集中出来るし。」
流水が不思議そうに言うと、七海もそれには大いに同意した。
「そうなの!家で勉強するより、ずっと集中出来るというか。なんか不思議なんだよね、去年の夏くらいから恒例になったんだ。」
「えー!そうだったんだ?そういえば勉強でいない日あったのって、あれだったのか!?私もこれから参加しちゃっていいのかな?さくら先生も優しくて、すっごい分かりやすかった!」
二人はそんなふうに会話を交わし、交代で風呂に入ったあとは早々にベッドに入った。
(あれ?そういえば私、おじいちゃんの家にいるとき、あまり気怠さがないかもしれない。流水も集中できるって言ってたし。‥なんか良い影響があるのかな?)
七海はふとそんな風に思った。あの家は頭の中がスッキリして、妙なだるさが抜ける気がする。不思議だなと思いながらもすぐに眠りに落ちてしまった。




