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掌の眼  作者: 瑠璃雀
二学期
153/154

修学旅行2 東京到着!と観光?見学?

 東京駅に着くと、皆、大荷物を持って先生の指示通りに移動する。サラリーマンやスーツ姿の女性、制服姿の人も大勢いた。

「‥なんでこんなに人がたくさんいるのに、喋ってる人あまりいないんだろう?」

「もっとガヤガヤしそうなのにね‥」

七海と茜はそっと話し合った。とにかく人が多く、駅とは思えないほどに、ただただ広い。新幹線ではついつい声が大きくなってしまったのだが、駅を降りてからは皆、気圧されたように黙々と先生の後をついて行く。


 とはいえそれも最初のうちだけで、改札を出た後、ホールのような場所で点呼を取る頃には、立ち並ぶ店舗に目が奪われる。

「すごいね‥」

「お弁当屋さん、ご飯屋さん、お土産やさん‥わ、ケーキ屋さんもある。見てみたい~!」

 茜が瞳を輝かせるが、そうもいかない。トイレを済ませるようにと言われ、七海と茜は念のため行くことにする。

「え、待って!人多すぎて!どうやってトイレまで行ったらいいの!?」

「ぶつからないよう歩いていくしかないよー!」

 二人は手をつなぎ、はぐれないよう、ぶつからないよう、時に小走りになりながらトイレへと歩いた。 「‥こわいこわいこわい!」

「これが人波なんだね‥」


 トイレで順番待ちをしていると、学生服の女子が鏡の前でメイクを直している。

「やば!そのチークめっちゃいいじゃん!」

「あーこれ!あのメイク動画で話題のやつ。マジいい。」

 七海達の周囲にも女子高生はいるが、これほどばっちりメイクはしていない。

「‥え?都会だとさ、高校生になったらあんなふうにしないといけない?」

「‥え?もしかして大阪も?」

 二人はぽかんとしながら見つめ合い、困ったように笑った。そしてトイレを済ませて再び整列する。女子高生のグループがこちらを見て笑っているのが見え、何となく恥ずかしくなる。東京に修学旅行に来ている時点で田舎から来ているせいなのか、それとも他に何かおかしいのか、理由は分からないが七海は視線を避けるように俯いた。


 駅の中を移動し、バス乗り場に着いた時にはようやく落ち着くことが出来た。どうやら周りの子たちも同じように感じていたらしい。どこか安心したように、笑顔で言葉を交わしている。

「空気が悪いなあ‥」

 遊馬が思わず顔をしかめて呟き、七海や茜も頷いた。

「そりゃ‥これだけ車いるもんな‥」

 排気ガス臭い空気の中、大きな荷物をトランクに入れ、座席表に従って座り、窓の外を眺める。

「何かもう駅だけでお腹いっぱいって感じ‥」

 茜がそうボヤくと、七海もため息と共に同意した。

「ここに住んでる人たち、何かすごいね‥」

「いや、ナナもそうなるよね!?」

「うあー!そうだったー!え、でも大丈夫!?私!?」

 自分が高校生になって、駅のトイレで化粧を直しながら、友達とメイク談義をする自分など、想像も出来なかった。

「え、でもさ、大阪だって都会なわけだから。茜も似たような感じだよね?」

「うわあ‥無理無理!え、でも、周りの友達がみんなそうだったら、私もそうなるのかな!?」

 二人は顔を見合わせ「都会って怖い!」そう呟いたのだった。


 その後は教科書でも見たことのある国会議事堂の見学だ。

「えっと‥もっときらびやかというか、豪華なのかなと思ってたけど。そうでもない?」

「まあ建物自体古いからなあ。昭和の初期に建てられてるしね。」

 茜がぼそりと呟くと、道明が小声で答える。

「あーさっきバスガイドさんが昭和11年って言ってたね!」

「いや金ぴかにしてたら“税金の無駄遣い!”ってなるって。」

 七海や遊馬も一緒になって会話に混ざる。写真を撮れる場所は限られているらしく、スマホはリュックから出さないよう指示をされていた。

 社会科見学といった様相のままに国会議事堂を見学した後、バスは浅草へと向かう。

「それにしてもさあ!人も車も多すぎない!?毎日こんなに混んでるの?」

 七海が車窓からの景色を見ながらため息交じりに呟いた。

「まあ人口多いし。そうなんでない?」

 遊馬は特に気にするふうでもなく、窓の外を見ている。高いビルが立ち並び、見える限りの道路には車がぎっしり、歩道には多くの人が歩いている。


「妖は見ないけど、影は多いよね‥」

 小さな声で七海は呟いた。

「‥うん。何かさ、スーツ姿でサラリーマンみたいな影、けっこういるね‥」

 茜も小さな声で囁き返す。駅で佇んでいる影もちらほら見かけたが、地元にいる影とは違い、こちらを見てくることも話しかけてくることもない。

「まあ人が多いってことは、亡くなる人も多いわけだし。‥当たり前といえば当たり前なのかもな。」

 二人の会話を聞いていた道明も小声で呟いた。

「‥なんかこうさ、あっちこっちでちょっとやな感じがあるんだよね。」

 遊馬も珍しく声を落として囁いてくる。

「地元にいる“影”とはちょっと違う気がするね‥」

 ちょうどバスが左折した交差点の中央に佇む影を見て、道明がぼそりと呟くと、三人は黙ったまま頷いた。


 そして浅草に到着し、雷門の手前で一度点呼を取った後、仲見世通りから浅草寺までは行動班でのグループ行動となった。

「うわあ‥やっぱり人が多い。っていうか、外国の人多くない!?」

「多いねえ‥海外からこんなに大勢の人が来てるんだねえ。」

 雷門前で記念撮影!と考えていた4人だったが、同じように考える人は多いらしい。人混みが途絶えることもなく、4人が入るように、雷門だと分かる程度に茜が自撮りで数枚写真を撮った。その場で写真をグループメッセに送ってくれたので、さっそく眺める。

「わ!良い感じ!ありがと茜!‥流水がこれ見たら“人、多っ!!”って騒ぎそう!」

 三人も妹や弟たちのリアクションを想像し、つい笑ってしまう。


 4人は人形焼きを買い、スマホでぱしゃぱしゃと写真を撮って歩いた。

「小遣い使いすぎないようにしないとなあ‥」

 旅行前に遊馬から財布を分けるといいよ、と言われ、事前に決めた分だけを持っている。お土産屋さんも多く、誘惑に負けそうになりながらも何とか自制していた。


「コンニチハ!ソレハセイフク?ドコカラキタノ?」

 金髪碧眼の女性に声をかけられ、七海はその場でフリーズした。

(英語で答えないと!?え?あ、うーんと‥)

「こんちゃー!俺たちは東北から来ました!学校の旅行だから制服だよ!」

 遊馬がにこやかに返事をすると、女性はにこにこしながら頷いた。

「セイフク!カワイイ!!イイタビシテネ!」

 ちなみに茜もフリーズし、道明も緊張した様子で笑顔が引きつっている。

「ありがとう!!お互いにいい旅になるといいね!」

 遊馬の人懐っこい笑顔に、女性もにっこり微笑んでくれた。

「ほら、みんな!笑顔で手を振って!」

 遊馬に促され、七海と茜、道明も何とか笑顔を作って手を振った。互いに笑い合い、手を振りあった、ただそれだけのことで何か国際交流が出来たように思え、3人はちょっとだけ誇らしい気持ちになったのだ。


 女性が歩き去ると、七海が盛大に息を吐く。

「もう‥でぃすいずあ、ぺん。しか出てこなかった‥」

「わたしは“どこから来たんですか?”を、英語でなんて言うのか考えてた。」

「俺は“ハロー”とか“ないすとぅーみーちゅー”とか。」

 三人の困惑した表情に遊馬は笑い出す。

「いや日本語だったろ!普通に!そりゃちょっとカタコトだったけど!」

 けらけら笑っている遊馬に、七海は再び盛大にため息をついた。

「もう何か頭の中を走馬灯が走ってて‥」

「走馬灯はダメだろwしかも走るってなんだよw」

 七海のぼやきに道明がツッコミを入れたことで4人はふっと力が抜け、笑い出した。きゃいきゃいと話をしながら、立ち並ぶ店舗を眺め、お財布の心配をし、忍耐力を精一杯発揮させたのだった。


「あ!何かまた門がある!あれ?さっきもあったよね?」

「さっきは雷門。こっちは仁王様が立ってるだろ?」

「え?さっきも仁王様いなかった?」

「こっちは仁王様、雷門は風神様と雷神様だよ。」

「えええ!?そうだったっけ!?」

 再び4人と門が上手く入るよう、茜が自撮りをしてくれる。

「ホントだ!!別人だった!!雷神様、太鼓持ってた!」

 先ほどの写真を見比べて、再び盛り上がる。他のグループも混ざり、楽しくお喋りをしながら参拝へと向かった。




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