修学旅行3 ホテル到着
参拝を終え、あっちをふらふら、こっちをふらふらしているうちに集合時間が近づいてしまう。4人は時計をチェックしながら慌ててバスへと戻った。
「‥なんか、観光したっていうか、人混み体験ツアーみたいな?」
七海が椅子に座って呟くと、茜もついつい笑い出す。
「お店も人も見るものも多すぎて、目が回っちゃうんだよね。」
窓の外を眺めながら茜は言い、七海も頷く。
(なんだろう‥時間の流れがすっごい速い気がする。同じ日本のはずなのに、窮屈な感じもするし。‥何が違うんだろう?)
七海はそんなことを考えながら、いつしかうとうとと眠りに落ちた。バスの振動が心地よいせいなのか、クラスメートたちも皆、ぐっすりと眠っているようだ。
夕方の混雑にバスも思うように進まず、ホテルに到着したのは予定より30分も遅れていた。
「はい、皆様。本日はお疲れさまでした。間もなく宿泊先のホテルに到着致します。」
バスガイドさんの声に目を覚まし、あくびをしながら周囲を見回す。その後、先生がマイクを取って話し始めた。
「バスから降りたらロビーで部屋番号順に並んで!トランクの荷物はそのままでいいから!今のうちに部屋番号を確認しておけよ!」
七海と茜、それに女子二人が加わった4人部屋だ。全員がバスを降り、ロビーに集合する。
先生から注意事項を話され、食事の時間や入浴の時間、消灯時間について念入りに説明される。事前に渡されていた冊子の注意書きについても、一部を抜粋して話があった。
生徒たちはまだ起き抜けのぼんやりした様子で、時折あくびをしながら話を聞いている。七海と茜もぼーっとしたまま、BGMのように先生の話を聞き流していた。
その後部屋の班長にカードキーが2枚渡され、七海たちは手荷物だけを持って部屋へと戻った。
「これがカードキー・・どうやって使うの!?」
「差し込むだけだよー」
あちらこちらの部屋でそんな声が聞こえ、差し込んでドアが開くだけのことで盛り上がる。
「あれ?電気・・」
部屋に入っても照明のスイッチが見当たらず、スマホのライトで部屋内へと移動していく。ベッド脇のスイッチ達を見つけた七海がホッとして押した。
「え?電気つかない!?」
「えええ!?故障!?」
二人があわあわしていると、クラスメートが笑いながらカードキーをドア横に差した。
「ええええ!?ついたーー!」
「どうなってるの!?」
「え!?そこにカード差さないと電気つかないの!?」
三人は大騒ぎだ。
「あはは。こういうホテル来たことあってさ。ていうか、さっきホテルの人からも説明あったよー?」
どうやら話を聞いたことすら頭に入っていなかったらしいことに、三人は苦笑いをしながら部屋に荷物を置いた。
じゃんけんでベッドの位置も決め、さっそく寝転がる。
「「「「はーー疲れたーーーー!!」」」」
ほぼ座っていただけで、国会議事堂と浅草でしか歩いていない。それなのにどっと疲れが出てきた気がする。
「たぶん、人多すぎのせい!」
「写真撮った!?」
「うちらこんな感じ!変顔レベル2!」
「ちょwひどい!!」
疲れたと言った直後には、観光してきた場所のことで大騒ぎだ。茜が自撮りで撮った写真が大絶賛され、変顔の写真で大爆笑しながらペットボトルのジュースを飲む。
「あ、一応、部屋にシャワーもあるんだねえ!」
設備を見ては声を上げ、ベッド脇のスイッチ群を見ては一つ一つパチパチしてみる。
「ホント、寝るだけのための部屋だなー!」
「なんかこう東京には旅館みたいのないのかな?」
「あってもめっちゃ高いとか!?」
「まあでも明日はここに荷物置きっぱでしょ?大荷物持たなくていいんだー!」
何となくテンションが上がり、お喋りをしていると、時間が経つのはあっという間だ。
「あ、やば!!夕飯!夕飯!!いこ!!」
「超お腹すいてきた!!」
カードキーは班長の子と七海が持つことになり、ミニショルダーにスマホと小銭入れ、カードキーを入れて部屋を出る。
大広間に入ると、先生に指示された席に座る。和洋折衷といったお膳が用意されており、皆の視線はお膳に釘付けだ。
食べ始める前に、消灯時間やホテルから出ないよう、再び注意を受ける。そして明日朝の集合時間と場所についても説明があり、ようやく食べられるようになった。
「いただきますーー!!」
ご飯とおみそ汁だけは後から配膳されたために温かい。最初のうちは無言で箸を動かし、食べることに集中している。
「すいません!おひつおかわりー!」
「こっちもご飯くださいー!」
男子の席を中心に、またたく間におひつが空になってゆき、おかわりの声が響く。
「あははは!やっぱり男子はすごいね!」
「男子は茶碗じゃなくて一人一個おひつでいいんじゃないの?」
茜と七海がそんな話をしていると、同室の二人も笑い出す。
「確かに!!え、だっておひつおかわり二回目いってる!やば!」
「部活引退しちゃってるんだから、絶対ヤバイって!私も食べる量調整してるんだよ?」
元バレー部のルームメイトは、部活を辞めたあとも食欲がなかなかおさまらず、それでも食べる量を減らして体重をキープしているらしい。
「私のおねーちゃん、部活辞めたあとにも同じくらい食べて5キロ太ったって言ってたんだよー!」
「きゃーーーー!!こわ!!」
七海と茜も一緒になって大騒ぎしながら夕飯を食べ終えた。
「あれ?もうご飯ないの?」
「もうお前、おひつごといけよ!!」
ご飯大好き道明が、2回目のおひつおかわりを空にしたところで、遊馬が笑いながらツッコミを入れる。
「あーうちら食べきれないから持っていってー!」
隣の女子グループから米の入ったおひつをもらい、道明ともう一人のルームメイトが茶碗にごはんをたっぷりとよそう。茶碗そのものが小ぶりであるため、しゃもじを使ってタワーのように上へ上へと盛り上げていた。
「ちょ!!すげー!チョモランマーーーーー!!」
「写真!写真!!」
茶碗の上にきれいに山を築きあげたところで写真を撮る。
「てかおかずねーし!」
「俺ソースあればいける!」
調味料をおかずに米を大量消費する男子たちに、女子も爆笑しながら写真を撮っては盛り上がった。
流れ作業のような入浴を終え、七海達は部屋でのんびり寛いでいた。
「あ、妹が焼いたクッキーあるんだー!」
七海がクッキーの袋を開けると、わらわらと集まってくる。
「夕飯、けっこうお腹いっぱいになったんだけどなー!あ、美味しい!」
「え!?いやこれ妹?‥流水ちゃんだっけ?すごくない?」
見た目も味も申し分のないクッキーをもしゃもしゃしながら、さっそくお喋りが始まる。
「何かさー東京を堪能するなら、やっぱ外に出歩きたいよねえ!」
「え?だって十時過ぎたら店閉まっちゃうでしょ?」
「何言ってんの!?東京だよ!?朝までやってるって!!」
「え!?じゃあお店の人、いつ寝るの!?」
そんな会話をしながら窓から外を見る。
「うっわ!夜景やば!!なにこれ!!」
「えーーーー!?わわっ!ホントだ!!すっごい!!」
「え!?あの窓、全部人いるってこと!?」
「もしかしてあの窓全部に社畜って人たちがいるの!?」
動画やネットで、「ブラック企業」だとか、「社畜」といった言葉は知っている。ただ、地元周辺にそのような人はいないため、なんとなく現実のものとは思っていなかった。
「‥東京で働くと‥夜景を見る側じゃなくて、作る側になるってこと‥?」
七海の呟きに三人が「ひえええ」と声をあげた。
「やめてー!きれい!すごい!って思ってたのに!!仕事で帰れない人たちの明かりって考えたら途端に切なくなるーー!!」
そんなことから最近見ている動画のことで盛り上がり、スマホを持ち出してはお気に入り動画を見せ合い、笑い合う。
「茜っちもさ、ケーキ作る動画でも配信したらいいんじゃない!?」
ルームメイトに言われ、茜は笑顔で「無理だよー!!」と声を上げる。
「最初のうちはいいんだよ?けどさー!絶対そのうちネタ切れになるじゃない?ケーキの種類なんて限られてるし!クッキーとかマフィンとかもあるけど。食べ物作ってるときにスマホ触りたくないよー!」
その言葉に一人が声を上げる。
「あ、知ってるそう言えばスマホって雑菌すごいらしい!!」
「あー何かネットで見たそれー!!」
「え!それ触りながら生クリームとかヤバイじゃん!!」
「やめてー!お店のケーキ食べて食中毒とか出たらこわい!お母さん、すっごい気にするよ!」
ケーキ屋を営んでいることから、動画を上げるのは簡単そうと考えていたが、現実はそう簡単ではないことを知らされる。
「ちゃんと撮影機材とか準備しないとダメなんだろうなあ。‥夢はあるんだよー?」
一度は否定した茜だったが、それでも完全に諦めたわけではないらしい。
「だからね!動画編集とか写真の撮り方?は、ちょっとずつ覚えたいんだ!」
そんなふうに話す茜を、七海は眩しい気持ちで見ていた。将来なりたい夢があり、それに向かって進む姿はカッコいいと思う。
(私はまだ、何をしたいかなんて考えてもいないや‥)
七海は再び夜景を見つめ、そっとため息をついた。




