修学旅行 1 いざ出発
出発の日、七海は朝5時に起き、身支度を整えた。
「え!?流水!?」
顔を洗ってダイニングに行くと、笑顔の流水が迎えてくれた。
「えへへへ。おねーちゃんに会えないの寂しいから、私が朝食当番したの!」
そう言ってトーストとスクランブルエッグ、サラダをテーブルに並べる。
「ありがと!霧江さんも忙しそうだったから、おにぎり作っておいてくれるって話だったけど。」
「わたしがおねーちゃんと一緒に食べたかったからいいのー!」
早起きしたあと、学校が始まるまでは動画編集をやろうと決めていた流水である。そのために昨夜は早々に布団に入ったのだ。
「このスクランブルエッグおいしい!ふわっふわ!」
七海が幸せそうに食べ、トーストに少し乗せては、再び口にする。
「よかったー!!」
流水もそれを真似て食べ、二人はふふっと笑った。そうして七海がほっこりした気持ちで朝食を終え、家を出ようとしたときに流水が小さな紙袋を手渡してくれる。
「え?これは?」
思わず中身を見ると、一口サイズのクッキーが入っている。
「バスの中とかさ、新幹線の中とか。移動中につまめるかなあって思って。」
えへへっと流水が笑うと、七海も笑顔になってぎゅっと抱きしめる。
「ありがとー!流水!」
そうして七海は家を出て、茜と共に学校へと歩いて行った。
学校に着くと、周囲は眠そうな生徒たちが集まっていた。
「おはよー!」
「だめだねむい‥」
「バスでねるー!」
クラスメートたちはあくびをしながらそんな会話を交わし合う。そしてそんな雰囲気の中、整列させられ、校長先生の挨拶と先生たちからの注意事項を受けた。聞いているのかいないのか、分からないような状況に、先生たちも苦笑いをしている。
その後は大きな荷物をバスに積み込み、指定された座席に座る。行動班毎に固まっているため、七海は茜の隣だ。
「荷物のタグがついていないぞ!」
先生の声で遊馬がハテナマークを浮かべている。
「タグってなに?なんかつけるんだっけ!?」
「自分の荷物にタグをつけろって言われてたろ?」
遊馬は完全に忘れ去っていたらしく、道明に言われてもピンと来ていないらしい。周りのクラスメートたちがくすくす笑い出す。
「五十嵐かー!ここにお前の名字と部屋番号を記入して荷物につけろ!」
言われて自分の苗字と部屋番号を書き込み、荷物に括り付けた。
「親がそのまま見送りしてくれる人もいるんだねえ。」
茜が呟くと、七海も頷いた。学校から離れている生徒は、親が車で送ってくれたようだ。そのままついでに見送ろうと笑顔で立っている。七海と茜、道明と遊馬は自力で歩いてきたために、そのような見送りはない。
バスが出発すると、クラスメートの数人が見送ってくれた親に手を振り、はにかんだように笑う。七海は少しだけ羨ましそうに眺めた後で、ふと外の景色を眺めた。
「‥あれ?」
見覚えのある大型バイクがバスの後ろをゆっくり走って来る。タンデムシートにも乗っており、二人ともフルフェイスヘルメットを被っているが、茜も気づいたようだ。クラスメート達も車通りの少ない時間であるために、珍しそうにバイクを眺めている。
「わ!やっぱり!!」
信号待ちで止まったバイクは、バイザーを上げてこちらを見やって笑った。運転しているのは、祖父の篁、後部座席に乗っているのは祖母の環だ。篁は笑顔のままサムズアップをし、環は笑顔で片手を振ってくれる。七海は窓に張り付いてぶんぶんと両手を振った。茜と道明、遊馬も楽しそうに手を振っている。
「え?ナナのおじいちゃんとおばあちゃん!?」
「マジ!?エモすぎん!?」
「やっば!!マジすご!!」
クラスメートたちまでが笑顔で手を振り出す始末だ。信号が変わってバスが走り出すと、ゆっくりと後ろを走り、その後、途中で別れた。
道路脇にバイクを停車させ、バスに向かって手を振ってくれた二人に、七海はついニヤけながら手を振り続けた。
「篁じーちゃん、かっけえ!!」
「というか、環ばーちゃんとバイクでタンデムツーリングとか、すげえな!!」
遊馬と道明も笑いながら嬉しそうに話しかけてくる。
「もー!目立つじゃんねえ‥はずかしい‥」
そうは言いながらも嬉しそうな七海に、茜たちは生暖かい眼差しを向けた。
「あ、それよりさ!流水がクッキー焼いてくれたんだ!」
七海は目を逸らすようにして手荷物から紙袋を取り出した。ジッパー付きのビニール袋に入れてくれたクッキーを皆に勧めながら、自らも口に運ぶ。
ペットボトルの無糖紅茶にクッキーはよく合った。ココアとプレーン、いちごとプレーン、抹茶とプレーンのチェック柄クッキーを作ってくれたようだ。
「うーん!相変わらず流水ちゃんのクッキーは美味しい!」
茜もにこにこしながら食べ、遊馬と道明もつまんでは喜んでくれた。
「あ!せっかくだから写真とっとこ?」
4人は手にクッキーを持って笑顔で写真を撮る。写真を撮ってくれた茜が、流水に送ってくれたらしい。
「それとこれはナナに送らないとね!」
そう言って、バイクから手を振る環と、サムズアップしている篁の写真を送ってくれた。その後、嬉しそうに笑っている七海の写真もしっかりと撮っており、その三枚の写真は七海が気づかないうちに、こっそり鷹也に送る。
(きっと鷹兄が良い感じに編集してくれそう。)
流水と二人、お菓子作りをしているときに聞いた話を覚えていた。写真や動画をたくさん撮って、フォトアルバムにし、上京するお姉ちゃんに渡したいらしい。だからこそ、修学旅行中にもたくさん写真を撮って、こまめに送るつもりだ。
(‥ナナは意外と寂しがり屋だから。楽しかった時の写真を見て、少しでも元気になってくれたらいいなあ‥)
美味しそうにクッキーをほおばる親友の横顔を見て、茜はそう思った。
(ナナとのツーショット写真もいっぱい撮って!私もそれを見て元気出すんだ!)
行動班が遊馬と道明、七海と自分なのも嬉しい。これまでも仲は良かったが、夏休みも共に過ごしたことで、これまで以上に信頼関係が深まった気がする。
バスが駅に付き、ここから東京駅までは新幹線での移動になる。大荷物を持ち、先生の指示に従って新幹線ホームへと移動する。
「へえ。こんなに朝早くても、スーツ姿の人、けっこういるんだなあ。」
道明が周囲を見回しながら呟くと、遊馬も頷いた。
「だな。‥仕事するのって大変そうだ~!何かサラリーマンになる自分が想像出来ないや。」
ぺろりと舌を出して呟く遊馬に、道明は思わず笑ってしまう。
「確かに!何かずっとあっちこっちちょろちょろしてそうだもんな!」
「それな!!」
二人は笑い合い、その後は無言になる。何となく自分の将来に思いを馳せたのだ。祖父を見て建築関係に進もうと思っている道明とは対照的に、遊馬は何も考えてはいなかった。高校は卒業しておけと言われたこともあり、地元を離れて東京に行こうと考えたのも、色々なものを見たかったからだ。
(‥そういや、小学校に書いた将来の夢は億万長者だったなあ。)
大判小判なのか、金貨なのか、定かではなかったが、黒く縁取りした黄色い円の山の上に立っている絵を書いたことを思い出す。
(それこそ、異世界転生でもして、ダンジョン潜って、宝箱でも空けたいよな~!)
遊馬はつい笑ってしまいながら荷物を担ぎ直し、歩いて行った。
東京駅到着が十一時半頃となるため、新幹線内での昼食となる。弁当は大曲駅で受け取り、昼前になってから各座席へ配られる予定だった。
「新幹線、初めて乗るんだー!」
遊馬を除く三人は物珍し気に周囲を見回し、道明が荷物を座席上の棚に上げてくれる。茜と七海が隣同士、遊馬と道明が隣同士で、前後列だったため、遊馬が椅子を回転させて向かい合わせにしてくれた。
「えー!さっき説明されたけどよく分からなかった!そうすればいいんだ!」
七海が楽しそうに言い、さっそく向かい合わせになって座った。窓際は茜と道明だ。途中で高架を走ることもあると聞き、七海が窓際を避けたからだ。
新幹線の中では静かに!と、注意はされていたが、早起きと旅行気分のテンションについ声が大きくなり、先生から注意を受けることもしばしばだった。
注意されて少しの間は静かに喋るのだが、車窓から見える景色に驚いたり、あれは何だろうと盛り上がったりと、無意識に声量が上がってしまうのだった。
そして関東に入ると、途端に住宅街が増えていく。いよいよ都内に入ると、弁当を食べ終えた生徒たちは窓の外の景色に釘付けになった。
「え!?マジでビルばっか!」
「やば!え、だって、ビルの中って人いるんだよね?だとしたら、めっちゃ多くない!?」
七海たちも「とうとう来たんだ!」と、興奮と緊張の入れ混じった気持ちになり、東京駅に到着するのを待ち遠しく思った。




