流水の学校生活
姉の七海が修学旅行で慌ただしくしている一方、流水は毎日を友達と楽しく過ごしていた。学校が終われば合気道の道場にも通い、茜とお菓子作りもし、充実した日々を送っている。祖父母が帰って来たら神楽の練習も追加されるだろう。
「うーん!やっぱりパソコン欲しいかも!」
夏休み中に撮ったスマホ写真の山を見ながら、盛大にため息をつく。安価なフォトスタンドには、スマホの写真から落としたお気に入りの写真を入れては眺めていた。
「それに‥動画作ったり、写真を組み合わせてストーリー仕立てにしたり。出来るようになったらいいなあ。」
最近では霧江に見栄えの良い写真の取り方や、構図についても習っている。
「わーん!やりたいこと多すぎるよー!」
美味しいご飯が作れるようになりたいと、料理も教わっているのだ。学校のクラブ活動は料理部だったが、実は早々に辞めてしまっていた。もちろん霧江や両親にも相談したうえでの決定である。
「部活よりもさ、茜ちゃんとお菓子作るとか、霧江さんとご飯作る方が楽しいし、勉強になるから。」
お喋りがメインのようなクラブ活動に魅力を感じなかったのが一番の要因だ。レパートリーを増やして様々な料理やお菓子作りが出来ることを期待していた流水にとっては、誰でも出来るような簡単なものをササッと作って、それを食べながら雑談ばかりをするのは時間がもったいないとしか思えなかったのだ。
「プリンでしょ、ゼリーでしょ、クッキーでしょ。‥レアチーズケーキもだっけ。」
流水は散らかった服や教科書たちを片付けながら呟く。
「基本のレシピを元に、アレンジとかもないし!ただおやつ食べながらダベリたいだけじゃん!」
むーっと口をとがらせてしまう。が、
「霧江さんとか、お祖母ちゃん、茜ちゃんがいてくれるって、実はすごいことなのかも!」
とがらせていたお口が、にっこり笑顔になる。
「えへへへ!来年の霧江さんのお誕生日には、私が頑張っておもてなしするぞー!」
怒りが長続きすることなく、勝手に楽しいことへと置き換わってしまう。
「よーし!まずは宿題をやって、終わったら霧江さんのお手伝いして、パソコンは鷹兄に相談しようっと!」
流水はそう言ってカバンからワークを取り出し、大嫌いな数学の問題に真剣に向き合うのだった。
恭平たちが東京に帰る日の朝、流水は全員にメッセージを送っていた。学校に行く準備を整えたあと、早めに家を出て土門家と月影家に足を伸ばす。
「夏休み、遊んでくれてありがとうございました!!また帰省?するよね?」
にっこにこの笑顔に、兄たちも顔もほころぶ。
「えっと、私が焼いたクッキーです!お口に合うかわからないけど!」
そんなふうに言いながら、土門家と月影家の玄関で挨拶をしてクッキーを手渡したのだ。勉強をしに篁邸に通っていた七海たちとは違い、流水は家にいたために会えなかった。七海から話を聞き、慌ててその夜にクッキーを焼いて、朝届けに走ったのである。
「東京でも頑張ってね!!」
笑顔でそう言われて兄たちも嬉しそうに笑い、別れの挨拶を交わしたのだった。
そしてそれから数日後、パソコンの件で相談メッセージを送っていた鷹也から、「じいちゃんの家においで」と呼び出された。
「わーー!鷹兄ひさしぶりー!!」
嬉しそうにはしゃぐ流水に、鷹也も笑顔になる。
「ええとね、このノートパソコンは使っていないから、好きに使って良い。家ではWi-Fi使えたよな?」
「うんー!使えるから大丈夫!」
その言葉に笑顔で頷いた後、鷹也は小さなバッグを手渡した。
「動画編集や画像編集のソフトも入ってる。あとは表計算、文書作成、プレゼン資料作成。PDF編集も出来る。タッチパッドで操作してもいいけど俺はマウスの方が使いやすくてね。ワイヤレスだから操作性もいいし。」
バッグの中身を一つ一つ確認しながら説明してくれる。
「えーでもこれ、本当は買ったら高いんだよね!?いいの!?」
少し心配になった流水が尋ねるが、鷹也は笑顔で頷いた。
「構わないよ。もしそれを見て、七海も欲しいっていうなら、もう一台くらいはある。」
「待って?ノートパソコンってそんなにたくさん持っているもの?」
首をこてんと傾げて聞く流水に、鷹也は笑顔で頷いてみせた。
「まあ気にするなって。一応、デスクトップに“操作マニュアル”ってフォルダを作ってあってね。そこに基本的な使い方はまとめた。WEB通話出来るソフトも入っているから、分からないことがあったら聞いてくれ。必要があれば、俺がリモートで操作してもいいしね。」
流水はおめめをぱちくりさせて頷いた。
「鷹兄、実はパソコンの達人!?なんかすごい!!」
その言い方につい笑ってしまいながら、鷹也は軽く流水の頭を撫でる。
「本当はここで、のんびり教えてあげられればいいんだけどな。時間なくて、悪い。」
「ううんー!!マニュアル見てー!読んでー!操作してみる!!鷹兄の時間、あんまり独り占めするの悪いし。」
流水は相変わらずの笑顔だ。
「それに‥」
ぼそりと呟いた流水に、鷹也は怪訝そうな表情になる。
「それに?」
「わたしに時間つかうよりー!さくらちゃんに時間使ったほうがいいと思いまーす!」
えへっと笑った流水に、鷹也は人差し指で頬をぽりぽりかいている。
「流水も七海もさくらも、俺にとっては必要なら時間を使いたいから‥気にするなよ。」
少しばかり困ったように言う兄に、流水はえへへっと笑い、パソコンを大事に抱きかかえて帰宅した。
スマートフォンには、テニスのときのスナップや動画、カラオケ大会の時のものもある。
「なんか、夏休みが終わっちゃったの、まだ実感わかないなあ‥」
この写真や動画たちをパソコンに移動して、画像や動画の編集をしたいのだ。デスクトップのアイコンをダブルクリックして、操作手順を一通り見ていく。
「ふえええ!これすっごい分かりやすい。わ!実際の動画編集中の画像まで撮ってくれてるんだ!?‥そりゃー鷹兄、忙しいよねえ。」
流水は半分呆れながらもつい笑ってしまった。相談メッセージを送ったのが五日前の話だ。そこからここまで作ったとしたら尋常ではない。
「ヤバイ!軽い気持ちで相談したら、想像の250倍くらいで返ってきた!!」
さすがに申し訳なくなって、メッセで質問してみると、どうやらさくらや霧江さんにレクチャーするために、ある程度は作ってあったらしい。
『だからちょっとだけ加工しただけ。気にしなくていいよ。』
兄からのメッセを見て、流水の口元が緩む。
「鷹兄の好きな葛切りをリサーチして‥今度食べてもらおうっと!!」
流水は笑顔を浮かべながら、再び操作マニュアルに視線を落とした。
「えっとー‥ここで切って‥繋げて‥」
実際に動画の編集をやってみると、想像以上に楽しい。が、
「うにゃー!なんかぶった切ってベタッと貼りましたー!みたいな感じがひどい!!」
プレビューをしてみると、切り貼りしたのが丸分かりな動画に、笑いしか出てこない。
「やばいー!初々しいねーってレベルじゃないー!こんなのフォトアルバムにしたら、黒歴史だー!」
大きなため息と共に、ふと時計を見ると、なんと0時を過ぎて1時近い。
「ぎゃー!魔法!?え?さっきまだ9時ちょっと過ぎだったよ!?」
流水は慌てて保存をかけてパソコンを落とし、ベッドに潜り込んだ。とはいえ、テンション高く動画編集をしていたために、全く眠気が来ない。
「やっばい!明日も学校なのに!1時間目の数学絶対寝ちゃうじゃん!」
ごろりと寝返りを打ち、ハッとした。
「きゃー明日の時間割まだ揃えてないー!宿題やっといてよかったーー!」
再び飛び起きてカバンに教科書とノートを入れ、明日必要なものを再確認する。
「ええと、明日以降は、アラームセットしよう。せめて11時には終わりにしないと!」
部屋の電気を消し、抱き枕にしているイルカさんを抱えた。
「明日は霧江さんと鷹兄が作ってくれた動画を、もういちど見てみようっと!」
流水の動画編集の勉強はこうして始まったのだった。




