二学期
楽しかった夏休みも、終わってみればあっという間だった。8月26日、この日は2学期の始業式だ。例年25日が始業式なのだが、今年は日曜だったため1日ずれたのだ。何となく得したような気持ちにはなったが、それでも夏休みが終わってしまったのは残念だ。
「おはよ、茜!」
「おはよう!ナナ!」
二人はいつものように制服姿で学校へと歩く。
「結局、鷹兄とはテニス出来ないままだったー!」
七海は少し残念そうだ。
「あはは!とりあえず鷹兄呼び出したらいいじゃん?大学生は、まだ夏休みなんだよね?」
「そうなんだけど、何かさ、お祖父ちゃん達とひいお祖父ちゃんのところへ行ってるみたい。あとバイトとか、バスケとかレポートで忙しいみたいでさ。」
口をとがらせてこぼす七海を、茜は笑顔で宥めた。
「おはよう!」
道明が合流し、互いに夏休みの話で盛り上がる。
「おっはー!」
遊馬もそこに入って来て、いつもの4人でわいわいと話しながら学校へと歩く。そんな日常に戻っていた。夏休みに帰省している道明の兄、恭平や、さくらの兄、智樹と智琉は、九月の上旬に東京へ戻るそうで、まだこちらにいるらしい。遊馬の兄、司も含めて、兄世代だけで遊びに出かけることが増えたと、道明や遊馬が話していた。
「神楽祭がきっかけで、何かいろんな縁が増えた気がするねえ。」
茜がそう言って笑った。
退屈な始業式が終わると、学活で宿題たちの提出だ。全員がきちんと宿題を終わらせ、自信満々に提出していく。修学旅行の東京レポートだけは各自持っているよう指示された。
「あれ?五十嵐、今年はちゃんと締め切りに提出か?‥どうしたんだ?」
担任の先生が遊馬にそう声をかけたために、どっと笑いが起きる。
「へへー!今年は真面目に頑張ったんだ!すげーだろ!!」
クラス全員の注目を集めた遊馬は、腰に手を当ててドヤっている。
「はははは!それが当たり前なんだけどなあ。お前が言うとすごいことのように聞こえるな!」
その言葉にクラスメートたちの間で笑い声が弾ける。
「遊馬ーどうした!病気か!?」
「あっくん覚醒!?」
「ちょwやべえ!!遊馬がおかしくなった!!」
クラスメートたちのヤジに、遊馬がピースをしながらニヤッと笑う。
「もっともっと~!褒めて~讃えて~!!」
妙な節で歌い始めたために先生までもが大笑いしていた。そんな明るい雰囲気の中、二学期はスタートした。
二学期のスケジュールについて、改めて説明を受けた。9月下旬の修学旅行と、10月下旬に開催される合唱コンクール。文化祭がない代わりに、学年別・クラス別で課題曲と自由曲を各一曲ずつ披露するというものだ。
大きな行事としてはその2つだけで、その後は三者面談や進路相談といった、「受験」という色が濃くなっていく。
修学旅行の班決めもすんなり決定した。七海・茜・道明・遊馬の4人グループだ。修学旅行中の見学や自由行動はこの4人で一緒に動く。班のリーダーは全員一致で道明が務めることになった。
リーダー達が呼ばれ、先生からプリントを渡される。
「班のメンバーと、行き先、行きたい理由、所要時間、かかる費用‥うわ、これ全部記入するのか。」
夏休み中に各自で調べてきた東京レポートと、それをもとに班で決めた最終コースのレポートを、まとめて提出するらしい。
「提出期限は今週末だからな。忘れないように!」
先生から改めて念を押され、4人は授業が終わった後、集まることにしたのだった。
「お祖父ちゃん、今週中はずっといないんだよねえ。‥お祖父ちゃん家で集まれれば良かったのに。」
七海が少し残念そうに言うと、道明が軽く笑う。
「いやまあ‥いつもお邪魔してばかりだしな。放課後教室でやってもいいんじゃね?」
「‥この教室にいられる時間も、中学生の間だしね。」
「じーちゃん家は大人になってからでも行けるけど、この教室は今だけだもんな!」
道明の言葉に茜と遊馬も続く。七海も笑顔になって頷いた。
通常授業が始まった日の放課後、4人はそれぞれのレポートを並べながらどこへ行くかを相談し合った。
「私さ、高い所は苦手なんだけど、せっかく東京行くなら東京タワーかスカイツリー?見てみたい気もするの。展望台には上がれないかもしれないけど!」
七海はあれから霧江や流水も交えて、どんな所が良さそうかをウェブで調べていた。霧江が一時期東京に滞在していたことも聞き、出来る範囲で行ってみようかと興味が湧いたのだ。
「エレベーターがガラス張りだったら、目を閉じてれば大丈夫だったりする?」
茜に尋ねられ、七海は「うーん」と首を傾げた。
「でもさ、飛行機に乗った時。目を閉じていてもこう‥ぐぐっ!てくる感じ!アレは嫌いかも。」
「そうなると、エレベーターも少し嫌かもな~!高層階に行くエレベーターってさ、止まる階が限られるから、一階から三十階までノンストップ、みたいな。」
遊馬の言葉に七海がフリーズする。
「三十階建てのビルなんてここにはないから分かんないー!」
そう声を上げた七海に、三人は笑い合った。
自由時間は限られるため、どこをどう回りたいか、意見が割れた。
「東京タワー行ってみたいけど。展望台に上るのはちょっと‥」
「原宿とか、ちょっと興味あるのと、ハチ公像見てみたいかも?」
七海と茜がそう言って笑い合う。
「東京タワーとかスカイツリーはやっぱり間近で見てみたい気はするんだよな。」
「新宿と渋谷のダンジョンツアー!都庁とかも見てみたいかな!」
道明と遊馬もそう言って笑った。
「けどさあ、意外と新宿渋谷方面て、移動に時間かかるんだよな。俺はどうせ高校から東京だしさ、そのときにチャレンジするから、今回は見合わせてもいいかな!」
遊馬がそう言って笑う。確かに調べてみると移動だけでかなり時間がかかるようだ。
「私もナナが東京に行くなら、夏休みとかに行ってもいいな~!予算とか時間が縛られてると、やっぱり心配になっちゃって楽しめないよ~!」
茜もそう言って笑った。宿泊先から行きやすいのは東京タワーだね、と意見がまとまった。
「ねえ、そう言えばさ、東京に古墳あるって知ってた?」
七海が霧江から聞いて調べたことを伝える。
「マジ?うわ、東京は地価が高いから、めちゃくちゃ贅沢な墓だな‥」
「ミチくん、視点が不動産屋さんだよー!あははは!」
道明の言葉に茜が笑い出し、七海と遊馬もつられて笑う。
「‥はは。いやついね。じゃあさ、東京タワー周囲をメインにしないか?俺別に展望台行かなくてもいいけど、写真は撮りたい!」
「いいね!増上寺は行きたいな!寺の背後に東京タワー!良くね?」
「え、いやでも!私お土産見てるからさ、展望台行ってきなよ!」
七海はそう言って3人に声をかける。
「うん、それじゃ、先生に聞いてみるよ。七海が高所恐怖症だから、展望台から見てる間、独りになっちゃうけどいいのかってさ!‥まあ俺も高いところ、あんまり得意じゃないんだけどね。」
道明もそう言って笑う。飛行機が苦手なのかと思いきや、高いところ自体が苦手らしい。
「あ、じゃあさ、私とあっくんで展望台。ナナとミチくんが下の階でお土産見てる。先生に二手に別れていいのか聞いてみようよ!そしたら私たちが展望台からの写真を撮って、二人にも見せられるじゃん!ナナも気を遣わなくていいし!」
茜がそう言って笑ってくれたので、七海は嬉しくなって笑顔になり、道明と遊馬も「それはいい!」と頷きあった。
「そうなると、このプリント記入は先生に確認取ってからにしよう。」
道明は渡されたプリントを皆に見せ、班メンバーの記名欄にそれぞれが自分の名を記入した。
「あー‥中学のイベントも、もう残り少ないんだね‥」
茜が少し寂しそうに呟く。
「何か受験!とか進路!とかで空気がピリつくって、にーちゃん言ってたなあ。」
遊馬もため息交じりだ。
「夏休みがお祭り騒ぎみたいだったから、なおさら寂しく感じるのかも?」
「「「それ!!」」」
七海の言葉に、茜と遊馬、道明が一斉に同意する。毎日がイベントのような、そんな不思議な空気だったのは間違いない。
「篁さんの家、すげー集中して勉強出来るんだよなぁ。」
道明がぼそりと呟いた。
「俺が夏休みの宿題をサクサク進められたのは、たぶんそのおかげ!」
「さくら先生いてくれたし!」
遊馬と茜が一緒になって言い、七海は嬉しそうに笑った。これまで定期テスト前には集まっていたが、夏休みにあれほど入り浸ったのは初めてだった。やはり神楽祭がきっかけで、4人の絆がさらに深くなったように思うのだ。
「またお祖父ちゃんの家で勉強しよう。‥高校では、離れ離れになっちゃうし。‥さくら先生と鷹兄が来てくれるかどうかは分からないけど。私たちだけで勉強しても、いいもんね。」
中間や期末テスト以外でも、勉強するために集まることになった。
「勉強に飽きたらテニス出来るしな!!」
「あっくん、5分後には“テニスやろー”って始まりそう!」
茜と遊馬のやりとりに、道明と七海も笑い出したのだった。




