鷹也邸再び
そして時は大学二年の夏休みに戻る――
前日夜更けまで動画鑑賞をしていたために、朝もゆっくりだ。さくらが事前に用意してくれていた、アメニティセットでそれぞれ身支度をした後、居間へと集まった。
「「おはよう!さくら!!」」
双子がそう言ってさくらに近づこうとしたその時、鷹也が二人の前にスッと手を伸ばす。可愛い妹との語らいチャンスを遮られ、兄二人は思わずムッとする。
「今日はちょいキツそうだからさ。少し、距離取ってくれる?」
双子を促しながら自らも距離を取る鷹也に、智樹も智琉も「あ」と納得して頷いた。それを見ていた蒼介と雅、恭平と道明も怪訝そうに見てくる。
「ちょい特殊な体質でね。異性に対して、近すぎると体調を崩すことがあるんだ。さくら、部屋で休んでてもいいよ。」
鷹也がそう話しかけると、さくらは申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。‥どうにもならなくて‥少し部屋でのんびりさせて頂きますね。」
「‥あら?それなら私は大丈夫なのかしら?」
雅が思わず尋ねると、さくらは微かに笑って頷いた。
「それなら私、さくらちゃんとお話ししたいし!二人で女子トークしましょ!」
朝食は既にさくらがおにぎりと味噌汁、ゆで卵を用意してくれていた。
「やっぱり、治ったわけではないんだな‥。」
智樹がぼそりと呟くと、智琉も少し寂しそうに頷く。そして祖父から聞いた、さくらの体質について改めて皆に話した。おにぎりに手を伸ばし、味噌汁に口をつけながら男性陣は黙ってそれを聞く。
幼い頃に両親や兄の元を離れて祖父の家で暮らしていたと聞き、これには蒼介もつい鷹也を見やった。
「神楽祭のときも一緒に行動してたけど、無理はさせてなかった‥よな?いや今更だけど。」
智琉が思わず不安を口に出した。
「おい、鷹也?」
智樹に促され、鷹也は軽くため息を落とした。
「さくらもかなり慣れた、らしい。それに、波があるからさ。十段階で五くらいまでなら大丈夫みたいなね。今日は‥七、くらいかな。そこまで酷くはないはずだけど無理させたくはないし。神楽祭のときは四~六くらいをさまよってた感じか。」
双子は何とも言えない表情を浮かべてため息をついた。
「けど、何よりさくらがお前らと一緒にいたがったんだよ。」
更なる言葉に、双子の顔がぱあっと明るくなる。
「さくらが!?」
「俺たちと一緒にいたかった!?」
これ以上はないというくらい幸せそうな表情を浮かべ、智樹と智琉はおにぎりを咀嚼する。
「妹大好きだな、お前ら!!」
思わず突っ込んだ恭平に双子は笑いながら頷いた。
「あんなに可愛いんだぞ!?」
「性格もいいし賢いしな!!」
考えてみれば、ここにいるメンツは全員妹がいる兄たちだ。恭平と道明にも美園という妹がいる。
「まあ妹ってのは、たまに面倒だけど可愛いよな。」
蒼介が少し遠い目をして、それでも笑みを浮かべながら呟いた。全員が照れくさそうに笑い、頷きあったのだった。
「ときに鷹也、ここってゴミ箱ないよな?どうしてるんだ?」
ふと思い出したように恭平が尋ねると、鷹也は「ん?」と首を傾げる。
「悪い。呼んでくれれば来てくれるんだ。そういや言ってなかったな~。」
そう言って鷹也は「ゴミー!」と声を上げる。
「「「「は?」」」」
どこからともなくカラカラいう音がしてきて、ゴミ箱が自走してきた。そして鷹也のすぐ傍に来てフタをパカリと開ける。
「燃えるゴミはこいつね?」
恭平が呆然としたままゴミを捨てる。ゴミ箱はそこに所在なさげに止まっていた。
「ありがとね、はうす!」
鷹也が再び言うと、ゴミ箱はパカリとフタを閉め、再びどこかへと去っていった。
「「「「はああああああああ!?」」」」
全員の大合唱が弾け、鷹也だけが不思議そうな顔をしている。
「なんでゴミ箱が自走してくるんだよ!?」
大声を上げて詰め寄ったのは恭平である。
「え?家のあちこちにゴミ箱置いたらさ、集めて捨てるの面倒じゃん?だから作っただけ?」
不思議そうに言う鷹也に、全員が崩れ落ちた。その見事なタイミングには、拍手を送りたくなるほどだ。
「‥作った、って。」
「うーんと。音声認識で来るのと、帰るの。普段はゴミステーションで待機するの。呼んだら来てくれるの。便利なんだけどな?」
相変わらず不思議そうな顔をしながら説明してくれるのだが、男たちは畳に座り込み、呆然とそれを聞いている。
「いやあのな鷹也?」
蒼介が気を取り直して声をかける。
「これもしかして、音声認識とかセンサーとか、色々と制御してるわけだよな?その機構をお前が考えて作ったわけ?」
「うーんとガワは3Dプリンタだし。基板は最初だけ自分で作ったけど。基板の設計図書くとね、それ通りに作ってくれるんだよね。だから全部作ったわけでもないかな?掃除機だって自走式なんだからゴミ箱も自走式でいいだろ?」
蒼介の質問に不思議そうに答える息子。
「あ、ゴミ箱は汚れたり壊れたら交換できるよ?市販のゴミ箱もサイズが合えば使えるけど?」
言い忘れてたね、とばかりに言ってくる息子に、再び蒼介は深い溜息をついた。
「ゴミの分別出来ないだろ?これじゃむしろ手間がかかるだろ?」
「へ?ゴミ箱全部で5個?あるから。ゴミーとプラーとカーンとビーンとペッツ。」
どうやら可燃物、プラスチック、缶と瓶、ペットボトルそれぞれあるらしい。畳の上で困っていた男たちだったが、突然笑い出す。
「ゴミー!!」
「プラー!!」
「カーン!!」
「ビーン!!」
「ペッツ!!」
それぞれが声を上げると、からからという音がしてゴミ箱が列を組んで走って来た。そして近くに来てパカリとフタを開ける。
「ぶはははは!!なんだこれ!!」
「やべえ!!あはははははは!!」
「ちょ!なんなんだよこいつら!!」
「いやあのな!!あははははは!」
全員が大受けして腹を抱えて笑い出した。笑い転げている男たちの直ぐ側には、ゴミ箱たちが整列してパカリと口を開け、ゴミを入れられるのを待っているのだ。
そしてゴミステーションに案内してもらい、さっそく見学する。玄関から入った廊下の一角にあったのは、収納ではなくゴミステーションだったらしい。呼ぶと跳ね上げ式の扉が開き、そこからゴミ箱が自走してくるのだそうだ。床の上にはゴミ箱たちの充電位置が駐車場のように区画整理されていた。
「“はうす”って言うとここに戻ってくるんだ。」
ゴミ箱たちが収納されている上には棚が設置されていて、そこにはカゴが置いてあった。
「このカゴなんなの?」
道明が不思議そうに問いかけると、再び鷹也が口を開く。
「ゴミ箱が満タンになると“おなかいっぱいー”って言うから。ゴミ箱の中身を、カゴにセットした袋にあけるんだよ。まとめてあるとさ、ゴミ捨て楽だろ。」
何だか妙に機能的なシステムになっているのが面白い。
(これちょっと家にも欲しいかもしれない)
蒼介・智樹・智琉・恭平・道明の全員が同じことを思ってしまったのだった。
その後、昼前に恭平と道明は用があるからと帰宅した。昼は近所のパン屋で買って来たパンを皆でつまむ。もちろん雅とさくらの分も買ってきて渡してあった。
「なあ、聞いてもいいか?」
智樹が鷹也にそう声をかける。蒼介も興味深げに智樹を見やった。
「ん?」
「お前ってさ、物理専攻だろ?・・何でなのかと思ってさ。」
智琉も同じ疑問を持っていたらしい。こくこくと頷きながら鷹也を見やった。少し考えながらパンを飲み込み、牛乳を飲んだ後で鷹也は口を開く。
「うーん・・俺らは妖とか神さんとか、見えるだろ?この眼も。‥不思議だと思ってさ。別位相ってパラレルワールドの一種なのか、或いは別の次元に存在しているのか。とかね。」
双子は思わず顔を見合わせて笑い合った。蒼介も相変わらず興味深げに三人を見ている。
「まあそれが気になっててね?物質やエネルギーの最小単位ともいえる量子について、掘り下げてみるかな~?って思っただけだよ。」
「え!?そんな理由だったの!?」
蒼介が思わず声を上げる。息子からは特に進路の相談もなかった。
「あれ?言ってなかったっけか。」
父子のやりとりに双子がつい笑い出す。
「あははは!いやさ、俺らも叔父さんの病院を継ぐのが目的でもあるんだけど。」
智琉が笑いながら口を開き、兄を見やった。
「まあお前とはまた別の視点だね。もしかしてさ、俺ら一族には、俺らにしか見えない器官があったりするのか?ってね。」
智樹がニヤッと笑って鷹也を見やる。
「ああ、なるほど。それはそれで面白そうだ‥あれ?お前らが一人前になったら戻って来て、俺の主治医になるつもりなのって‥?」
疑わしげな鷹也に、智樹は慌てて否定する。
「お前の健康管理が適当過ぎるからだ!!さくらが悲しむだろうが!!」
蒼介はそれを聞いて笑い出す。そうは言いながらも、自分の息子を気にかけてくれている智樹や智琉のことをありがたいと思うのだ。
「考えてもみろよ?‥お前のデータ自体、絶対に当てになんてならねえからな!?」
智琉も参戦し、三人が互いに好き勝手なことを言い合うのを、蒼介は笑顔で眺めていたのだった。




