同級生1
俺は恭平、掌に眼が生えるとかいう変な一族でさ。土系譜である土門家の長男だ。親父から聞いた話では、同級生にも一族がいるらしい。俺が開眼したのが中1の一学期。ここで初めて一族の話を聞かされた。その話の中で、同級生がいると聞いたんだ。そいつの名前は水澤鷹也っていうらしい。
隣のクラス‥あれ?あいつ、小学校で休んでばかりだった奴だな。やたらと存在感が薄くて、確か同じクラスになったことはあったのに話したことはねえや。
そのうち話すタイミングくらいはあるだろうと思ってた。ところがマジでいねえ。休み時間に覗いてもいねえし、体育祭の合同練習の日は早退したらしい。
そしてこれまで気づかなかったんだけど、部活中にあいつを見つけた。俺はバレー部で、いつものように体育館で練習していたら、隣のコートのバスケ部にあいつはいた。
あれ?あいつ、体育は確かずっと見学だったはず。ひ弱そうに見えるし、運動なんて出来るようには見えないんだよな。だけど――
あいつは、音もなく、すうっと、見えない糸で吊り上げられたのかと思うほどに跳んだ。
「うそ、だろ‥」
気が付いたら俺はそう呟いてた。
「おい、何してる!?」
先輩に声をかけられるまで、俺は呆然と眺めていた。俺だってけっこう跳ぶ方だ。だけど、俺とはぜんぜん違う。力強い踏み切りなんて必要ない、みたいなジャンプだったんだ。何か気になってついつい向こうを見ちゃってさ。今日は全然集中出来なかった。
帰宅してからは宿題と勉強。高校は都内に行くつもりなんだ。一族経営の高校らしく、基本は一族なら余程のことがない限り、誰でも入れるらしい。でも俺は、それなりに良い大学を狙いたいと思っているから、進学コースの一般枠での受験を選んだ。これだって推薦があるから、中学の成績が良ければ問題ないらしいけどね。
後日、クラスメートのバスケ部から話を聞いてみたら、あいつ、庭にバスケットゴールがあって、それで遊んでいたらしい。シュートもドリブルもすげー上手いって。確か頭も良いって話じゃなかったか?
まあけど俺は、せめて中学では成績トップになると決めている。クラス順位は個別に渡されるからさ、一位でホッとしたよ。学年別の順位は、中間と期末の総合点で個別配布らしい。自分の順位だけが分かるようになってるやつだ。まあ、かなり高得点だったから、全科目満点でもない限り、俺が抜かれることはないはずだよ。
そんなふうに思っていた時期もありました。一学期終わった時点での学年総合順位は二位。
「‥は?」
思わず呟いたよね。だって俺、五教科の総合得点485点だぞ?冗談だよね?どうにも腑に落ちないんだよ。ちなみにな?これ各教科の順位も出てるの。俺ら1年生は120名。全教科2位なの。待って?おかしくない?確かに満点はなかった!いやだけどさ!
そんな感じで俺は一学期、二学期、三学期、全てが学年2位で1年生を終えた。クラスではトップだった。他のクラスにどうやら俺より出来るやつがいるらしい。あいつなわけないよな?‥はは、まさかね。
そして2年時、俺はあいつとクラスメートになった。これで少しは喋るチャンスもあるんじゃねえの?と、思っていたのに。友達の多い俺は、何かと話しかけられ、遊びに誘われる。ははっ!人気者はこれだから参るぜ。
冗談はともかく、同じクラスになったっていうのに、マジで話すチャンスがねえ。なぜならいないから!あいつは妖か!?影か!?
相変わらず、体育の授業も見学していることがある。何だかぼーっとしていて、何を考えているのか全く分からないやつだった。
待ちに待った中間試験。手応えは、あった。たぶん平均で98は取れているはず!これならきっと、今年もクラストップは間違いない。
実際に返却されたテストで一番悪かったのが、数学の96点だった。‥まあ数学は二位になっても仕方がないかもしれない。でも国語と社会は満点だった!これは文句なしのトップだろう?
そして中間試験のクラス順位。‥総合、2位なんだが。
「‥なんでだよ!」
思わず声に出したよね、俺。
「なんだよ、どうしたんだ?きょーちゃん?」
友達がそう言って絡んでくる。
「うるせえ、ちょっと悔しいだけだ!」
俺が八つ当たりをすると、順位表を覗き込んできて笑いやがった。
「あーなるなる。トップいけると思ってたのに、当てが外れたのねー。」
笑いながら図星を突いてくる。殴るか?それとも目鼻口にガムテープ貼るか?お?
「トップは水澤だよ。全教科満点だ、あいつ。」
小声でそいつはひっそり教えてくれた。
「は!?マジで?」
「マジだ。俺、斜め後ろの席だからさ、返ってきた答案見えちゃった。」
この絶望的な気持ち、お分かり頂けるだろうか。
「バスケ部でも準レギュラーらしいぜ?‥体調崩すから準らしいけどな?」
「なんでお前がそんなこと知ってんだよ?」
余計な情報を聞かされて、マジでムカついてきた。けど、その情報源はどこだよ?
「そりゃお前、俺の兄貴バスケ部だしよ。俺の1つ上だから3年なんだ。水澤、先輩にも背番号呼びして指示出しするんだと。」
俺だってまだ3年生は怖い。え?待って?3年生を背番号で呼んで指示?正気か?
そしてとある日曜日、俺達は朝から午前中いっぱいが練習時間。午後はバスケ部。日曜はこういう感じでそれぞれがオールコートを使うんだよね。
俺等は練習上がったあと、昼飯食ってさ。何となく体育館に戻ったんだ。ボール拭きしとけって言われてたしね。
「あ、あれ、水澤じゃねえ?」
クラスメートのバレー部員が指さした。うわ、マジだ。ボール拭きがてら見学するか。そんな空気になって、俺らは邪魔にならないよう体育倉庫に向かい、そこからバスケ部を見ることにした。
1年と2年の大半は奥のコートで練習している。水澤は手前のコートで3年生たちに混じって練習試合をしていた。
「5番、下がれ。右サイ!6番、3Pライン外で待機!」
ドリブルをしながら声を上げ、パスを出す。しかし、パスが来ると思わなかったんだろうな、7番が取りそこねた。が、右サイドに移動していた5番がそれをフォロー。こぼれ球を拾って6番に回す。すかさず3Pを打ったけど、リングに跳ねられた。
「8番!逆サイ!5番、相手11番マーク。」
水澤はそう声を上げながら、リバウンドを掻っ攫い7番にパスを送った。え?どこにいた?‥なんでリバウンド追いついた?俺の理解が追いつかないうちに、どんどん進んでいく。
7番から再び6番へパスが行く。‥なるほど、11番をマークさせたのは3P打たせるためか。
「行け!入るから!」
水澤はそう言って6番に声をかける。そして6番が二度目の3P‥入った!
「6番ナイッシュー!5番、最高のスクリーンだった!」
待って?声かけた相手、みんな3年だよね!?いやあの‥そんな言葉遣いでいいわけー!?俺らは呆然と眺めていたよ。3年生たちも気にする様子もなく、水澤とハイタッチとかしちゃってるし。
マジなんなの?って言葉しか出てこない。いやあのさ、小学校の時体育は見学してたんだよな?そんな虚弱体質なやつが、なんでオールコート走り回れる体力あるのよ?どう考えてもおかしくね?
バスケ部の見学で分かったことは、水澤の謎が更に深まったという事実だけだ。くそ。




