水澤家集結! 両親襲来!?
ゴールデンウィークに伴い、普段から仕事で飛び回っている雅と、海外で単身赴任をしている蒼介が混雑を避けるように少し早めの帰省をしていた。普段会う時間が少ないため、帰省する前に二人で落ち合ってから一緒に帰ってきているらしい。
霧江は事前に夫婦の部屋の準備を整え、食材を買い込んでせっせと下準備に励んでいる。その日、七海も流水も部活があるため、朝から学校へ行っていた。
「ただいまー!」 「やっほう!!」
霧江はフッと笑い、玄関へ二人を迎えにゆく。時刻は昼前、一緒に家で昼食を取りたいという雅の言葉通りの時間であった。
「姉さん、蒼介さん、おかえりなさい。」
雅は霧江の姉で二歳年上であり、夫の蒼介は雅の一つ年上である。毎年5月5日のこどもの日は、蒼介と雅の誕生日とも重なるため、盛大にお祝いをするのだ。
「霧江ちゃんの料理が楽しみ過ぎて!夜しか眠れなかった!!」
蒼介は年齢の割に若く見られることが多く、服装がカジュアルだとその言動とも相まって、20台後半でも通用しそうなほどである。
「‥夜寝られたならいいじゃないですか。」
ジト目でツッコミを入れる霧江に、爽やかに笑って親指を立てて返す蒼介はどこか憎めない。
「いつもありがとう!霧ちゃん!七海や流水が迷惑かけてない?」
にこやかに笑う雅もすらりと背が高く、黙っていれば落ち着いた美人である。
「七海も流水もいい子達だもの。本当に可愛いわ、あの子たち。」
一度結婚に失敗し、病気を機に自分の子供を持つことを諦めた霧江だったが、七海と流水を本当の娘のように可愛がってくれていることを雅も分かっている。
「いつもありがとう。写真とか、ちょっとした出来事まで共有してくれるから、私たちも嬉しいの。」
雅の言葉に霧江は笑顔を向ける。霧江と雅と蒼介、三人だけが閲覧できる子育てブログ。ここに娘たちの成長記録や写真をアップしてくれているのだ。
「あの子たち、今日は部活なので帰りは夕方かしらね。ゴールデンウィーク中も部活みたい。」
霧江の言葉に二人は笑顔で頷いた。
「ってことはだ、感動の再開は夜の帷が落ちた静けさの中でのイベントかっ!?‥今からドキドキワクワクだね!!」
蒼介の言葉に霧江が思わず吹き出してしまう。お調子者といった印象であるが、これでも仕事は出来るらしい。
「‥あなた達二人がいたら静けさも吹き飛ぶでしょうけどね。」
霧江の冷静なツッコミに蒼介と雅が笑い声を上げる。とにかくこの二人はいつも楽しそうに笑っていて、見ているこちらまでもが楽しくなってしまうのだ。
昼食は蒼介と雅のリクエストで、えびグラタンにガーリックトーストとサラダ、チキンの和風グリル、コーンスープである。食後には火乃宮家の立夏が営むケーキショップの特製プリンだ。
「うまっ!やっぱ霧江ちゃん天才!!」
「あー!このえびグラタンのために私生きてるんだわ‥」
会話もそっちのけで舌鼓をうつことに夢中になっているのを、霧江は嬉しそうに見ていた。料理の腕はそれなりに磨いてきたつもりであるが、これほどまでに喜んでくれると作った甲斐がある。
「霧江ちゃんはお仕事順調?‥家事をしながらだと大変よね?」
食事を終え、人心地ついた所で雅が心配そうに尋ねる。
「そうね、最近はありがたいことに依頼も増えてきたから、忙しいけれど。逆に家事が良い息抜きになってるわ。」
そう微笑み、プリンを口に運ぶ。とろりととろけるような食感と、上品な甘さが口いっぱいに広がってつい頬が緩む。
「プリンうまっ!!なにこれ!?今まで俺が食ってきたプリンは何だ!?プリン味のゼリーかっ!?」
蒼介のリアクションについつい笑ってしまう。
「あ~~立夏ちゃんのプリン!!私、こんなに幸せでいいの!?いいわよね!?」
そして雅も負けてはいない。この夫婦はいつもこんな調子なのだ。
「よ。」
音もなくダイニングを覗き込んで声をかけて来たのは鷹也である。
「鷹ちゃん!!」 「おおお!愛しのマイサン!!」
思わず立ち上がって声を上げる両親の勢いに、少しだけ距離を取る。
「‥元気そうだな。」
霧江が買ってきたプリンを冷蔵庫から出し、コーヒーを注ぐと、笑顔を向けてテーブルに促す。
「背、伸びたんじゃない?」
「俺は完全に抜かれたな‥」
雅も比較的身長は高い方だ。更に蒼介は背が高く、それよりも高いのが鷹也だ。
「身長だけはね。」
鷹也はそう言ってコーヒーとプリンに手をつけた。
「鷹ちゃん?」
表情の変化に乏しい息子の様子をじっと伺っていた雅が、少し咎めるような声色で呼びかける。
「‥ん?」
「前回ご飯を食べたのはいつ?」
鷹也が一瞬ぴくっと動き、すいっと雅から目を逸らす。
「‥えっと‥今日?‥あれ?‥昨日?‥かな?」
思い出さないと分からない時点で色々とアウトだろう。蒼介は苦笑いを浮かべる。そして雅はため息をつき、再び質問する。
「前回寝たのはいつかしら?」
プリンをすくいながら、それでも鷹也は視線を彷徨わせた後に口を開いた。
「昨日‥?‥あれ?‥一昨日、くらいだったような‥?」
何かに集中すると食事と睡眠をうっかり忘れる息子に、雅は厳しい眼差しを送った。
「鷹ちゃん?」
「分かったって、後で食うし寝るから。たぶん。」
「またそうやって!後回しにしたらあなたそのまままた忘れるでしょう?」
鷹也が面倒そうにそっとため息をつくが、それでも嘘をついたり誤魔化したりしないことに、雅はつい微笑んでしまう。
「鷹也~1日は24時間だからな?忘れちゃダメだぞ~このお茶目さんめ~!」
蒼介が笑いながら言い、鷹也は仕方なさげに頷いた。幼い頃から何かに集中し始めると、他のことに全く気が回らなくなる子供であった。そして電池が切れると気を失うかのように熟睡モードに入る。
この癖は今でも治っていないようで、時折倒れては病院に担ぎ込まれるという事件が起きている。
「軽度とはいえ、睡眠不足・脱水・栄養失調、で三暗刻か。役満だろ、それはー!」
「‥四暗刻じゃないと役満にはならないけどな?」
蒼介のツッコミに対し、冷静に反論するのもいつものことだ。たまに顔色が悪いことはあっても、そもそもが大食漢であるためにそこまでガリガリではない。むしろ工事現場のアルバイトやクラブ活動のバスケもこなしているので、体格的にはさほど不健康そうには見えないのだ。
しばらくは両親や霧江の話、鷹也の大学の話に花を咲かせた。
「そういや父さん、海外ってどこ行ってたんだっけ?」
「ドイツだってばー!鷹ちゃん、わすれちゃ嫌!」
そうは言うが、ヨーロッパを転々としているらしく毎回聞くと違う場所なのだ。
「蒼介さん、かなりあちらの言葉に強くなったわよね?‥以前はたまに企画書とか、内容が分からないって連絡きたけど、最近はめっきり減ったわね。」
霧江が微笑みながら言うと、蒼介は少しばかり顔を赤くした。
「そりゃー!俺だって努力しますぅ~!いつまでも霧ちゃん頼るのも良くないし!息子が変態なんだから負けてられないしー!」
「ナチュラルにディスらないでくれる?」
そんな息子はコーヒーを口にしながらすましている。幼い頃から専門書や学術書を国内外問わず読み耽っている鷹也は、何カ国語が理解出来るのか本人にも分からないらしい。霧江ですら翻訳の件で鷹也に相談するほどだ。
「ああもう!そういうクールさが素敵!!」
そして蒼介は相変わらずのテンションで息子に絡み、すこしばかり冷たい視線を浴びるのだった。




