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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
112/118

お泊り会

 篁と環が一足先に帰り、恭平と道明、双子たちは泊まることにした。さくらと雅に勧められるがまま、先に風呂にも入らせてもらう。


「すげー‥めっちゃ広くていいなぁ。」

「ヤバイなこの風呂!」

 恭平と道明が入浴室に入った瞬間、声を上げる。洗い場も広ければ浴槽も広い。シャワーだけは一つしかないため、順番に身体を洗っては流す。

「兄貴ってさ、服着てると細そうに見えるのに肩周りとか背筋すげーな、ハムとふくらはぎも。」

「あー‥そりゃなあ。つーかお前、中学生のくせに僧帽筋や広背筋がっちりしてんな。」

 これまでも温泉で一緒になることはあったが、改めて間近で見てみると、筋肉の付き方が全く違うことにお互い感心していた。


「ねね、兄貴はどれくらい筋トレしてるの?」

 湯船に浸かりながら道明が尋ねると、恭平は少し得意げに笑う。

「やっぱりジャンプ力は伸ばしたくてな、ブルガリアンスクワットは暇さえあればやってる。」

「あー‥動画で見たことあるな。あれけっこうきつくないか?」

「きついから効くんだろうが。」

「トモさんとかサトさんより跳んでたもんなあ。‥俺は、ジャンプは全然だったよ。」

 自分なりに色々と調べ、努力もしたが、結局バレーボールは諦めた道明である。

「俺だってなあ、武道をやれって言われて‥柔道はやってたけどな。全然、ダメだったよ。」

 恭平は子どもの頃から柔道を習い、中学まで続けて辞めたらしい。何某かの武道をするよう言われてはいるが、一生続けなければならないとまでの強制はない。

「‥兄貴は器用だから何でもこなせそうなのに。」

「そんなことはねえよ。まあ、球技は割と得意な‥はずなんだよ!!あ、ダメだ、ムカついてきた!」

 話しているうちに恭平がヒートアップしだし、道明が笑い出した。

「兄貴、ネコ相手にムキになっても仕方ないって!」

「だから!ネコはバスケもバレーもテニスもしねえよ‥」

 湯船から立ち上がりながらボヤく恭平に、道明は腹を抱えて笑った。



 土門兄弟が風呂から上がった後、智樹と智琉が風呂へと向かった。

「ここの風呂は何かいいよなー!」

「下手な温泉行くより疲れが抜ける気がするんだよね。」

 髪と身体を手早く洗って、湯船に浸かる。

「しかし、さくらの舞いはいいな!!静かで美しい!」

「いやあ~いいものを見た!あの動画はぜひ欲しい!!」

 二人は神楽の情景を思い浮かべながら、妹の舞を脳内再生する。

「‥何かさくらさ、以前より明るくなった、よな?」

 ぽつりと智樹がこぼす。

「うん。前髪下ろさなくなった影響かもな。‥前はもっと、オドオドしてたと思う。」

 智琉もそう呟いた。

「「あのクソネコーーーーー!!」」

 確実にさくらに良い影響を与えたのが、あの鷹也だと思うとイラッとしてしまう。しかし、神楽祭のときも先程の神楽も、力量的には自分たちでは到底及ばないとも思うのだ。


「よし!ご婦人方に快適にお風呂に入ってもらうため、二人で風呂掃除だ!!」

「恭平や道明や俺達が入った湯に、さくらが浸かるのはダメだ!!」

 双子は軽くタオルで身体を拭き、下着を身に付けると風呂掃除を始めた。浴槽の湯も抜き、壁も床もしっかりと洗い上げる。

「あのさ、兄ちゃん。」

「なんだよ?」

「俺たち、なぜか風呂上がったあとに汗だくになってね?」

「うるさい!さくらのためだ!」

 双子は大騒ぎしながら再び湯船に湯を張り、服を着て皆のいる居間へと戻ったのだった。



 雅がうきうきしながらさくらを誘って浴室へ向かおうとする。

「あ、いや、待って下さい!もう少し時間を置いてからじゃないと!」

 智樹が二人を押し留めたので、さくらは笑い出した。

「ふふふっ‥ふふっ‥もしかして兄さんたち、お風呂洗って沸かしなおしてくれたんですか?」

 図星を刺された智樹が赤くなって黙り込む。

「そりゃさ、野郎がぞろぞろ入った風呂のあとに雅さんとさくらが入るのはさ。」

 智琉もさくらから目をそらし、もごもごと呟いた。

「もーー!かーわーいーい!!何なのこの子たち!本当に気が利くというか!」

 雅が感激して声を上げると、双子たちは真っ赤になって慌てて背を向ける。すると、それぞれが恭平と道明と目が合ってしまい、ニヤリと笑われた。


「兄さんたち、優しいんですよ。」

 さくらの言葉が止めとなり、真っ赤になりながら笑顔を浮かべる。ニヤーともニターともつかない表情に、恭平と道明は大爆笑だ。

「ちょ!お前らシスコンだったのか!!」

「え?もしかして推しがさくらさん?」

 更にツッコミを食らった双子は、反論しようとして失敗した。さくらが自分たちを見て、にこやかに笑いかけてきたせいだ。

 これには雅と蒼介も微笑ましくて笑ってしまう。

「‥まあ、俺に対しての敵意、半端なかったしな~」

 そして妹の婚約者がトドメを刺してきた。おそらく悪気はない。きっとたぶんいつもの天然砲だ。

「うるさい!!可愛い妹をさらう奴の正体は確認するべきだろうが!」

「どんな奴か分からんやつにさくらを渡せるか!!」

 つい反論した智樹と智琉に、恭平と道明がぶふーっと吹き出した。


「‥俺も七海や流水が彼氏を連れてきたらこうなるのかな‥」

 蒼介だけは身につまされたらしい。智樹と智琉、蒼介の間で何か見えない絆のようなものが結ばれた、気がした。

「あ、風呂沸いたね。母さん、さくら、のんびり行ってきて。」

 鷹也がそう声をかけると、二人は嬉しそうに浴室へと向かう。


「なあ、鷹也!さっきの神楽の動画、俺たちにもくれよ!」

「ん?ああ、後で編集して送るよ。じっちゃんも欲しがっててさ。今後の教育材料にいいかもしれんって、全員の神楽の記録取ろうとはりきってたんだ。」

 智琉が動画をせがむと、鷹也はそう答えてくれた。

「何だよ、動画編集までしやがるのか‥」

「成り行きで覚えただけだよ。最近ではさくらもかなり作りこんでるよ?先日の3on3とか、中当て?」

 智樹と鷹也が話していると、蒼介が食いついた。

「それはもしやお前の討伐か!?そうなんだな!?見せろー!!マジで!!‥あ、いやでもミヤちゃん出てからだな!」

 蒼介はノリノリだったが、智琉と恭平は心から嫌そうな顔をしている。

「いや、確かに改めてこいつの動きを分析してみたいな。実際のところ、どう動いてどんな指示を出していたのか。」

 智樹が冷静に呟くと、恭平も大いに頷いた。

「確かに!!見てる分には面白かったけど、蒼介おじさんが何か気づいてくれるかもしれないし!」

 道明も一緒になって騒ぎ出す。


「神楽か‥」

 雅とさくらが風呂から上がってからにしようという話になったため、少しばかり手持無沙汰になっていると、蒼介がぼそりと呟いて立ち上がった。

「‥確か‥こうで‥」

 蒼介が神楽の型を完璧に再現して舞ったことに、その場にいた全員が驚いて固まった。

「型の再現程度ならね。神楽としてどうかは分からないけど、身体の動きだけなら、たぶん外してないと思うよ。全員、武具が違うんだろう?親父は刀、お袋は薙刀、鷹也は‥二刀流、かな?ただ、基本となる型はほぼ同じだったし。」

 全員、この最初の型を覚えるのにはそれなりの時間がかかっている。それだけに、この短時間で完璧にマスターした蒼介に驚きを禁じ得なかったのだ。


「どうしてそんなに簡単に出来るんですか‥?」

 思わず道明がそうこぼした。

「親父や俺、あとは鷹也もそうなんだけど。我が家はみんな、古武術と言われる‥空手や柔道とかの源流にあたるのかなこれ。体術を徹底的に叩き込まれていてね。重心移動だったり、どれだけ身体を効率的に動かすか、みたいな。様々な動きを見てトレースする、なんて訓練もやってたから。今の神楽もそうだし、テニスの上達が早かったのもこのお陰かもなあ。」

 蒼介はそう言って笑った。

「ということは、鷹也が卓球やテニスを即マスターしたのも‥?」

 智樹がまさか、と表情を曇らせる。

「あはは!俺と全く同じように再現してみせるもんだから、驚いたよね!」

 相変わらず楽しそうに言う蒼介に、その場にいた全員が大きなため息をついたのだった。



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