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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
109/118

鷹也の考え

 智樹や智琉、恭平が心配そうにしていると、鷹也が口を開いた。

「だから託すんだ。依存もさせない、優しいけど厳しい。そういう人にね。」

 鷹也は言い終えた後に篁を見やる。

「そんな人いるのか?第2区だろ?水澤の分家‥?」

 智樹も困惑して鷹也を見やる。

「いや、深水んとこの静流ばーさん。」

「‥そこで静流か。いやーあいつはなあ‥容赦ないんだよ‥」

 篁が嫌そうな表情を浮かべたため、智樹達も意外そうだ。

「ふふ。貴方が最も苦手とする人ねえ?」

 環に図星を突かれた篁は、それでもため息をついた。

「しかし‥そうか‥確かに静流なら‥」


「でも鷹ちゃん?なんで知ってるの?」

 雅が思わず尋ねると、全員が一斉に鷹也を見やった。上京しているわけでもなく、大学も別方向だ。

「ん?中学のときに深水家に数日泊まってこいって、じっちゃんに言われた。行って話したら門前払い食らった。」

 鷹也がこともなげに言うので、雅が困惑する。

「待って?行ったのに門前払い?中学生だった鷹ちゃんを?‥えっと、その人本当に大丈夫?」

「ん?ああ、あのばーさんも感知持ち。お前は困らないだろ?ってね。まあ困らないのは事実だし、本当に困ったら電話してこいって言ってたし。信用出来るよ、あのばーさん。」

 雅の心配をよそに信用出来ると言い張る鷹也に、雅は困惑顔で篁を見やった。


「鷹也‥今のお前のセリフ、何をどうやっても信用出来るようには聞こえんぞ?」

 篁は笑いながら言った。蒼介や恭平、双子たちも、その通り!とばかりに頷いている。

「‥あれえ?まあいいや、あの家には小さいけど離れと湧水池もある。七海が安心して失敗できる環境が揃ってるんだ。」

 その話に蒼介と道明が身を乗り出した。

「俺が心配していたのは、居候することで相当参るんじゃないかって所だったんだ。“ちゃんとしなきゃ”という気持ちが強いからね、七海は。」

 蒼介の言葉には雅も頷いている。“しっかりするべき”という気持ちが強いと、両親もそう考えていたためだ。


「‥そうか。だから鷹兄は、人目のない離れで失敗する練習をさせたいの?」

 道明がそう呟いて鷹也を見やる。これには蒼介と雅も驚いたようで、道明を見やった。

「そういう環境を整えやすくて、厳しいけど優しいばーさんがいる。ここに遊馬も送り込みたい。」

 鷹也はそう言って篁を見やった。

「ふむ。確かに風系譜だと風見の所だが。親は病気療養中、子世帯は子供が幼過ぎてな。‥まあ、居候先をどうするか、少し頭を悩ませていたところではある。あの高校の教師には風系譜もおるからな、教え導くには問題ないのだが。」

 篁はそう言ってため息を落とす。


「ばーさんは弓道範士7段だ。家に弓道場まであるしな。遊馬にとってはその方が実になる可能性が高い。涼風のじーさん、遊馬のことをかなり気に入ってるから、ちょっかいかけに行くんじゃねえ?」

 鷹也の言葉に篁は頷いた。

「そうか‥遊馬くんは弓が好きと言っていたな。確かに涼風のとこは、孫が東京に転勤になるんだったか。であれば、泉州殿も遊びがてら通いそうだな。‥静流とも懇意だし。」

 篁はそう呟きながら、居候先について考えを巡らせる。


「でもさ、遊馬は遊馬でたぶん高校には、とっとと馴染みそうだよね。‥それを見て七海が落ち込んだりしないかな?」

 道明が鷹也を見やってそう問いかけた。

「それはあるけど、たぶん七海もね“遊馬だから”と、妙に納得するんじゃないかと思う。それ以上に、遊馬が上手いこと七海の気分転換も出来るんじゃないか?何より、困ったら遊馬が俺に相談してくるだろうしね。」

 道明は鷹也の言葉に笑顔で頷いた。

「確かに。俺や茜ちゃんが七海より先に馴染んだら落ち込みそうだけど、遊馬に対してはちょっと違う気がするな。それとたぶん、気を逸らすのが上手いんだよね。」

 自分や茜には出来ないことが、遊馬には出来る。もちろん、悪気なく地雷を踏む可能性もあるが。


「頼みがあるんだ。」

 鷹也が改めて恭平と智樹、智琉に向き直った。

「何だよ?」

「改めてお前が俺らに頼み?」

「なんかこわい!」

 三人がそれぞれ反応すると、鷹也は苦笑いを浮かべた。

「七海とは連絡先を交換してるだろ?まずは自分を最優先にしてくれ。‥余裕があったら声をかけるなり、遊びに行くなりしてもらえたらありがたい。」

 鷹也の言葉に三人は顔を見合わせる。

「但し、一学期の間は避けてくれ。居候先や高校に居づらくて、お前らに逃避するようだとまずい。」

 更に続けた言葉に頷いた恭平だが、それでも少し心配そうだ。

「時には逃避先も必要になることもあるけどな?」

「ただ最初から逃避先を提示したら、結局依存する可能性はあるだろ。場合によっては鷹也に連絡すればいい。」

 恭平の心配に智樹が声をかける。

「俺らだってレポートだの課題だの、忙しいわけでさ。お前もそんなに余裕ないだろ?」

 智琉もそれに乗り、三人は了解した、と笑顔を向ける。


「‥静流には連絡を入れておく。」

 気が重そうに篁が言い、環がそれを見て笑っている。

「俺からも連絡するよ。どうせ冬休みあたりには制服の採寸やら、先方の挨拶やらへ行くんだろ?」

 鷹也の言葉に蒼介と雅が頷いた。

「正月休みも多めに取るようにするよ。七海と流水を連れて改めて東京観光してもいいしね。」

「深水家は彩華ちゃんとは会ったことあるの。静流さんの話を聞くとちょっと怖いけど。」

 蒼介と雅はそれぞれ言い、鷹也と篁に頷いて見せた。何となく先々の方針が見えてきて、一安心といった所だ。



 話が一段落したところで、神楽祭の時の話になった。道明と遊馬の神楽が非常に良かったと、篁が改めて道明に声をかける。道明も照れくさそうに笑い、恭平に肘で突かれていた。

「あ、ミチ。」

 鷹也に声をかけられ、道明が少し緊張して向き直る。

「いやさ、先日の山実習、動画撮ってあってね?せっかくだからじっちゃんにも見てもらおうかなと思ってたんだよ。代表でミチに許可を取ろうかと。」

「えええ!うわー兄貴達にも見られるのか。けどまあ神楽祭でも見られてるし。‥むしろ、みんなの意見をじっくり聞けるチャンスだな。」

 道明は少し照れくさそうに笑いながらも頷いた。神楽に関しては、誰に見られても、きっと大丈夫なはずだ。

「マジで!?俺は滅多に見られないから。七海の神楽が見られるのは嬉しいな‥」

 蒼介は本当に嬉しそうだ。社に入れない以上、見られる機会は本当に限られてしまう。神楽は開眼してから覚えるものであるために、開眼していない者が覚えることもないためだ。


鷹也は頷いて立ち上がり、テレビスタンドを転がして運んできた。65型のテレビにノートパソコンを接続し、さっそく映像を流し始める。

「うわ‥想像の10倍恥ずいわ、これ」

 一番手の道明がかなり照れ臭そうに呟いた。画像は手ブレもなく、きれいに映っている。

「すげえ安定しているなぁ。‥俺が中三のときよりも断然上手い‥」

 画面を食い入るように見ながら恭平が思わず声を上げた。


「いったん止めてくれ。」

 篁がそう言ったので、鷹也は一時停止する。

「ふむ‥」

 何事か考えているように見えて、全員が篁に注目していた。

「ああ、すまん。癖というか何というかな、よく似た者がおった気がしたんだ。思い出せんのだが、そいつは祓いに特化していてな。だが君は浄化の力が強いように思う。面白いなと思ってたんだよ。」

 篁の記憶に、よく似た者がいると聞き、道明は笑顔になった。

「似てる人がいるなら、その人の神楽も見てみたいなあ。‥もし思い出したら教えて下さい。」

 そう言って頭を下げた道明に、篁も笑顔で頷く。再び動画を再生し、七海の神楽が映し出された。環と蒼介、雅が食い入るように見つめている。そして茜、遊馬が終わると圭輔が祓いをし、さくらの浄化までを再生して終わった。


「‥七海は、フォームがきれいだ。けど、そこに“心”が見えない、気がする。」

 蒼介がぽつりと呟いた。そして何事かを考え、更に口を開く。

「あー!何ていうか‥クロールで速く泳ぎたいのか、きれいなフォームで泳ぎたいのか、とにかく25mのタイムを縮めたいのか、目的が明確じゃないと迷いが出る。七海はいわば、そういう感じに見えるんだ。」


「そうね、概ねあなたの言う通りよ、蒼介。ただ、同じ水泳でも競泳ではなくてシンクロの方かもしれないわ。音楽に乗るのはもちろんだけれど、チームワークが大切。その呼吸というのかしら、それを掴むのに苦労をしている感じね。」

 環の言葉に蒼介と雅が頷いた。兄達も今の動画で課題がはっきりと分かったようだ。


「所作がめちゃくちゃきれいなだけに、もったいないなあ‥」

 そう呟いたのは智樹だ。

「あー分かる。すげえきれいというか、型だけみたら完璧なんだよな。これほど丁寧に舞う人はなかなかいないからね。何か俺が悔しい気分だわ。」

 智琉も同調して頷き、そして言葉通り悔しそうな表情だ。

「孤高って感じなんだよな。むしろ団体じゃなければ相当いい線行くんじゃないのか?」

 恭平もそう呟いている。


「そうだな、それも一つではあるのだが。ただあの子の“眼”は閉じてしまっている。孤高を貫く、という意志があればまた、それも良い。おそらく自身が“どう在りたいのか”それが分からぬ故に、眼が開けないのだと儂は思っている。」

 篁は静かに語り、蒼介と雅、鷹也へと視線を送った。

「まあ‥俺がいなかったらここまで拗れなかったかなー?」

 鷹也はそう言って薄く笑った。

「どうだろうな?もしお前がいなかったら、妹さん?流水ちゃんを意識したかもしれないぞ?」

「性格そのものが変わらないなら、対象が別に移動するだけだよな?」

「まあ、お前が七海ちゃんの性格形成に関与したなら話は別だけどな?違うだろ?」

 智樹・智琉・恭平が即座に反論した。篁と環、蒼介と雅が言葉を発する前に、三人がそう言ってくれたことを、大人たちは内心驚きながらも喜びの気持ちでいっぱいだった。


「つーかそういう言い方すんなよ!普通なあ、そういう言い方する時ってのは、卑屈になってるとか、悲劇の主人公タイプのセリフなの!お前の場合、単に仮定の話のつもりだろうけどな!」

 恭平がそう言って説教しはじめたので、智樹も智琉も笑い出した。

「へえ、そうなのか。サンキュ、気をつけるわ。」

 鷹也も素直に聞き入れ、恭平にニヤッと笑って見せた。さくらもそれを見ながらほっこりと心が温まる。普段から人を寄せ付けず、友達付き合いすら無いように思えた鷹也が、こうして溶け込んでいるのが嬉しかったせいだ。


「しっかし、圭輔さんの祓いすげーな。迫力が違うってか、やっぱり単独祓い出来る人は違う。‥参考になるなあ。俺も祓いの方が得意でさ、浄化は苦手なんだよ。」

 恭平が圭輔の祓いの様子を再生しながらしみじみと呟いた。

「あ、ねえ!みんなの神楽を見てみたいんだけど!?」

 そんな道明からのお願いがあり、兄たち、大人たちが顔を見合わせ、そして最終的に頷いた。庭先で一人ずつやろうか、という話になってさくらが撮影係を請け負う。


「「その前に鷹也!もう一回!もう一回!さくらの神楽、再生して!?そしてそのデータくれ!!」」

 智樹と智琉の必死のお願いに、全員が笑い出したのだった。





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