対策会議?
食事の後片付けは恭平と智樹、智琉が率先して動いてくれたために早く終わり、再び座卓に全員が集まった。
「急な呼びかけだったのに来てくれてありがとうな!」
蒼介はそう笑顔で切り出した。
「何せ色々と面倒な息子に絡んでくれていること、それと神楽祭の間からずっと七海への気遣いも。本当にありがとう。」
そう言って皆に視線を向け、頭を下げる。
「‥俺らは特に‥なあ?」
思わず恭平が呟くと、智樹と智琉も顔を見合わせて頷いた。
「うーん‥俺はさ、七海にどう声をかけたらいいか、マジで困ってたんだけど、兄ちゃんけっこうフォローしてくれたじゃん?トモさんもサトさんもさ。」
道明が笑顔で言葉をかける。そして神楽祭の災害について真実を聞かされていること、それを聞いて鷹也の元へ赴き、茜と道明から兄達へ七海のことも相談していたと打ち明けた。
「‥そうか。それは面倒をかけたな。改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう。」
これには篁が感謝を述べ、環と蒼介、雅も一緒に頭を下げた。
「何せ俺が開眼出来ていないからね。単身赴任でまだあと一年は海外だし、正直、鷹也に任せっきりになっている。だからこそ、みんなにフォローして貰えたことが嬉しかったし、ありがたかったんだ。」
蒼介はそう言って笑顔を向けた。
「けどさ、そういう状況なら尚更‥お前、もう少し七海ちゃんに歩み寄れないの?ちょい見ててかわいそうになってくるぞ?」
恭平が思わず鷹也に言う。
「まあ、俺は俺の出来る範囲でしかフォロー出来ないからな‥」
少しばかりきまり悪そうに言う鷹也に、智樹が口を出した。
「そもそも、七海ちゃんが鷹也を意識しすぎるからな。張本人がフォローするのは難しいだろ。」
篁と環、蒼介と雅は口を挟むこと無く傍観している。下手に口を出すより、彼らの考えを聞いてみたいという気持ちのほうが勝っているようだ。
「難しい年頃だと思うぜ?美園ちゃんだっけ?お前の妹。鷹也にとっての流水ちゃんと大して変わらないよな。性格の差もあるかもしれないが、流水ちゃんは普通に鷹也に懐いてるだろ?」
智琉もそう言って笑顔を向ける。恭平は一つため息を落として「それもそうか」と呟いた。
「いやでもさ、なんかこう‥物理的にも距離を置くみたいなさ。近づかないようにしているようにも思えるんだが?」
再び口を開いた恭平がそう言って鷹也を見やる。
「あー‥まあそれは否定しない。」
「ここのとこ、忙しいと言って全然来ないのもそれか?」
「いや、それはマジで部活とバイトと大学からの呼び出しが重なってるだけだ。」
恭平は容赦なく気になることを次々と突いてくる。
「この間の浴衣パーティも来るとか言いつつ、来なかったよな?」
「あー待った、恭平。あの日、実はこいつ来たんだ。けど、見るからに具合悪そうだったんで、とっ捕まえて休ませたんだよ。高熱出してるのに気づいてねえし。」
何も言わない鷹也に、慌てて智樹が間に入る。さすが智ママだ。判断が早い。
「おまええ!そういうの、言えよ!」
「言う必要、あるか?」
突っかかる恭平に対しての鷹也の返答に、再び智樹が口を挟む。
「あーもう!バカ!お前、言い方!!」
「‥へ?なんかまずいこと言った?」
篁達は苦笑いを浮かべている。
「お前ってさ、なんでそうなんだよ?小学校のときも中学のときも、マジで誰とも関わらなかったろ?だから人付き合いも‥」
「あのさ、恭平」
更に詰め寄ろうとした恭平に対応したのはまたも智樹だ。
「お前、“感知”のこと、どの辺りまで知ってる?」
唐突に問われ、恭平は固まった。
「俺と智琉はね、前に徹底的に話してるんだ。だってさくらの婚約者がこいつだって聞かされてさ!中学バスケで少し被ってたとはいえ、マジで良く分からない奴だったしな。」
智樹の言葉に智琉も頷いた。
「どんな奴か見極めるために、かなり突っ込んで聞いたんだよ。」
「聞いたっつーより、事情聴取だったよな!」
笑いながら智琉が言うと、智樹も苦笑いを浮かべた。
「まあ、だから事情を知っている。“感知”持ちは余計な情報を過度に受けるんだ。なあ、鷹也、お前が開眼して“感知”出来るようになったのはいつからだ?」
智樹はそう言って鷹也を見やる。
「たぶん産まれてすぐ?妖とか影とかと喋ってたんだよな。いや、まだその時は喋れなかったけど、意志の疎通は出来てた。」
蒼介と雅が思わず顔を見合わせる。
「確かに鷹ちゃん、話し始めはすごく遅かったのよね。二歳直前くらいかしら。それまで全然喋らなかった。で、話し始めたらもう普通に会話出来たの。喃語も一切なくって、小学生と話してるみたいだったわ。抱っこも嫌がられるし、触るだけで泣くし‥」
あの頃のことを思い出した雅が、少しばかり寂しそうに呟いた。
「あー‥人の体温とか、鼓動とか、気持ち悪くてね。頭痛えわ、気持ち悪いわ、どうしようもなかったんだよ。あとは病院かなあ。辛いとか悲しいとか怒りとか、ネガティブな強い感情が刺さってくる。小学生のときは、個人が持つエネルギーっていうのか?あれがどうにも辛くてな~。マジで義務教育とか作ったやつを恨んでたわ~」
鷹也の言葉に恭平も道明も驚いたように固まった。
「言い訳したいわけじゃないんだ。ただ、こいつはこいつなりに色々とままならないことも多くてね。そのせいで迷惑をかけていることも多いだろう?‥すまない。」
蒼介がそう言って頭を下げた。
「ということは、七海ってわりと感情の起伏が激しいじゃん?‥鷹兄にはきついってこと?」
道明が真剣な表情で問いかけてくる。
「そうだね。感情の起伏が激しいというか、感情の総エネルギー量が高いというか。七海自身にもどうにもならないというか、苦労してるんじゃないかな。だから仕方ないんだけど、近づきすぎると俺がきつい。」
鷹也はそう言って苦笑いを浮かべる。
「いやむしろ、そういうキツさがあるのに、七海のフォローしてるのがすげえと思うよ。」
道明は鷹也に笑顔を向け、自分の兄である恭平の背中を軽く叩いた。
「あ?‥全く、そういう事情があるならそう言えっての‥本当にお前はよー!」
呆れたように恭平は言い、ため息をついた。
「で?その七海ちゃんは、来年から上京するんだよな?‥決定なのか?」
智琉が念のために確認すると、これには蒼介と雅が返事をした。
「そうね、進学先と居候先との調整もあるから。最終確認はしているわ。」
「七海はもう上京する気でいるしね。」
その話を聞き、兄たちは、自分はどうだったかをそれぞれ思い出す。
「俺達は三年になる前に上京するって決めてたしな?」
「高校とっとと決めて遊びたかったしな?」
智樹と智琉は互いに頷き合う。
「ああ、俺もそうだわ。高校見学とか全くしないで決めたけど、周りの奴らはけっこう行ってたみたいだな。‥お前は?」
恭平に振られた鷹也は「ん?」と、首を傾げた。
「とりあえず地元ならどこでも良かったからなあ。教師に言われるがまま受けたら受かった。」
「「「お前が一番適当すぎるわ!!」」」
「まあ七海ちゃんが行く高校は俺らも行ったとこだよな?」
恭平の言葉に篁が頷いた。
「そうだな、その予定だ。高校はどうだった?」
「わりと自由っていうか。進学クラスと普通科でかなり雰囲気違いましたね。でも施設も良かったし、俺はあの高校で良かったかなあ。」
篁に聞かれ、恭平が楽しそうに答える。
「受験に関してはけっこう先生が親身になってくれましたね。選択科目も充実してて、かなり助かりました。」
「確かに!俺等は理数コースでしたけど難関大対策もしてくれたんで。」
双子もそう言って笑顔を向ける。
「まああとは一族経営だから、座学とか神楽の特別授業がたまにあったよな?」
「1年時に集中してたね?」
「俺は普通科だったから、2年時もけっこう多かったよ?」
三人がそんな会話をしているのを、篁は嬉しそうに聞いている。
「鷹兄はさ、七海が上京するのをどう思ってるの?」
兄たちの話がおちついた所で、道明がそう尋ねる。
「まあ、俺とは物理的に距離が開くからちょうどいいかな、と思ってるよ。」
その言葉にぎょっとしたのは恭平だ。
「おい、それって厄介払いしているみたいに聞こえるぞ!?言い方気をつけろ!」
「‥そんなつもりはないんだけどな?」
鷹也はサラリと流し、ペットボトルの水に口をつける。
「絶対お前、色々損してるだろ!!もう少しあれだ!自分の発言が周囲からどう受け取られるのかを考えろって!
恭平がもどかしそうに言うのを、智樹と智琉が面白そうに聞いている。
「実際、七海の意識が俺に向きすぎてるしな。とはいえ、そのおかげで七海は流水に対しては素直に可愛がれてる気がする。流水に八つ当たりするようなことは滅多にないしな。」
「あはは!流水ちゃんは可愛がる担当、鷹兄には八つ当たりする担当か。確かに流水ちゃんのことはめっちゃ可愛がってるもんなあ。」
道明が笑いながら言い、納得したように頷いている。
「そう考えるとね、やっぱり七海にはもっと広い視野を持って欲しい。だから上京したいという気持ちには俺も賛成なんだよなあ。」
蒼介の言葉に雅も頷いた。
「ナナちゃん、本当にお兄ちゃん子だったものねえ。でも鷹ちゃん、あなたと離れてナナちゃん大丈夫かしら?」
「立ち直れなくなったらまずいよな‥」
雅が心配そうに呟くと、恭平も心配そうに同意する。蒼介は心配しながらも、おそらく何かを考えているであろう息子を見やった。
(俺がどこまで踏み込んでいいのか、分からない部分。だけど、こいつは父さんとも相談しながら、きっとより良い方法を考えてくれるよな。)
まだ大学生の息子に、これほどの期待をかけていいのか悩むこともある。しかし蒼介は、それでも任せると決めたのだ。何かトラブルが起きたとしたら、そのときは自分が動けばいい。
(こんなに良い仲間たちにも恵まれてるしな!)
蒼介はそう考えて穏やかに微笑んだ。




