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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
107/115

集合!!

「さて、それじゃ、メシの支度するから、母さんとさくらはのんびりしてて。」

 雅とさくらは、ネコたちを撫でながら楽しくお喋りしていたらしい。二人にそう告げて鷹也はキッチンへと向かう。

 豚肉は一枚一枚丁寧に剥がして袋に入れ、酒と砂糖を少量加え、すりおろした大量の生姜とよく馴染ませる。生姜焼きのタレは毎回手作りだ。玉ねぎのみじん切りを飴色になるまで炒め、ここにりんごをすりおろして更に炒める。濃いめの出汁に醤油とみりん、はちみつを加え、炒めたみじん切りの生姜とにんにくも加えて作っているのだ。弱火で煮詰めたらタレの完成になる。


 人数が多いため、米は炊飯器と土鍋二つを総動員する。米を研いで吸水させている間に、味噌汁の準備もしておく。大根と油揚げの味噌汁はさくらが好きな具材だ。

 ナスの煮びたし、小松菜と厚揚げの煮びたし、電子レンジも利用しながら手際よく進めていく。使ったボウルや調理器具もこまめに洗い、作った先から片付けも同時進行だ。


 キャベツの千切りもテンポ良く刻んでいく。

「そういや、包丁は左でしか使ってないっけ?」

 ふと思い立って右手に包丁を持ち替える。

「そりゃ右でも使えるよ‥あ。」

 サックリ切れてしまい、慌ててキャベツから手を離す、が、既にキャベツは赤く染まってしまった。絆創膏を取りに行ったらさくらと母に騒がれそうな気がする。

 キッチンペーパーで軽く押さえ、片隅に置いてあるニトリル手袋を取って左手に装着した。血塗られたキャベツは水洗いした後、別の袋に入れて自分用にし、まな板と包丁を洗ってキャベツの千切りを再開する。

「うん、黒い手袋だと事故が起きたことは分からないなー」

 本人だけは妙に満足そうだ。


 玉ねぎとピーマンを刻んで炒め、別皿に移したあと、土鍋で炊いていた米を下ろして蒸す。フライパン二つを使って肉を焼き始め、もう一つフライパンを出してコンロにかけた。

 余計な油をキッチンペーパーで拭き取りつつ、次々と肉を焼いていく。先に一度全て火入れをした後にタレを絡めながらもう一度炒めるのがいつもの作り方だ。今日は量も多いため、この方が冷めにくい。



 さくらと雅、蒼介が楽しくお喋りしていると、ネコたちが一斉にぴくりと反応し、逃げ出した。何事かと驚いた三人だったが、どうやら篁たちの到着をいち早く察知したらしい。


「こんちゃー!うわ、超いい匂い!!」

「「さくら!今日もきれいだな!!」」

「やっべえ腹減って来た!」

「おう。」

「こんばんは。」

 恭平・双子・道明・篁・環がぞろぞろとやって来た。座卓はさくらが拭き上げ、座布団も準備する。

「いらっしゃいませ!のんびりくつろいでくださいね!」

 さくらが笑顔で声をかけ、席に誘う。

「さくらさん、これ。あとで、みんなで食べましょう?」

「わあ!すみません、ありがとうございます!」

 立夏のところのケーキを差し入れてもらい、さくらは冷蔵庫にしまう。


「あ、鷹也さん、持って行っちゃっていいですか?」

「うん、ありがと。」

 箸と箸休めの小鉢を盆にのせてさくらが運んでくれる。生姜焼きもタレを絡め、炒め終えたものからキャベツの皿に盛りつけていく。

「わ!出汁巻き卵も作ってくれたんですか!?」

「うん。」

 きれいに巻かれた出汁巻き卵を切り分け、こちらも皿に盛る。味噌汁とご飯を盛った茶碗を二人で運びようやく準備が整った。


「とりあえず冷めないうちに食べてくれ。おかわりはあるから。」

 鷹也がそう声をかけると、皆それぞれ箸を取る。

「「「「いただきまーす!!」」」」

 食べ始めると、男子勢が勢いを増した。生姜焼きを食べ、ご飯をかっこむ。ほぼ無言だ。雅も蒼介もさくらも一心不乱に食べ続ける。篁までもがそんな状態だった。

「ふふふ‥これは!あなたが作ったの?」

「うん。」

 環がにこやかに箸を進めながら問いかけてきたので、鷹也は頷いた。

「丁寧に作ってるわねえ。いくらでも食べられそうだわ!」

「そか、それなら良かった。」

 

「「「おかわり!!!」」」

 兄世代が一斉に茶碗を出して来たので、鷹也はキッチンから土鍋を持ってきた。

「まあ好きなだけよそってくれ。」

「何だよこれ!!つい夢中になって食っちまったよ!めちゃくちゃ美味いんだが!?」

「気づいたら茶碗の米、ねえし!」

「お前、料理も出来るのかよ!?」

 恭平と智樹と智琉が一斉に声を上げる。篁と蒼介も茶碗が空になったらしい。今度はさくらが立ち上がって、もう一つ土鍋を持ってきた。

「ふむ、土鍋で炊いた米も美味いな。炊き加減がちょうどよい!それに生姜焼きが本当に美味い!」

 少し硬めに炊いた米が好きな篁がそう言って満足げに笑う。茶碗にたっぷり米をよそい、嬉しそうに席に戻って食事を再開する。


「‥おい、その手袋はなんだ?」

 左手に装着した手袋を、智樹が目ざとく見つけてツッコミを入れる。

「あ、忘れてたな‥」

 智樹は立ち上がってキッチンへ向かう鷹也の後を追おうとして、なぜか一度戻って自分の荷物を手にしてからキッチンへと向かった。


「あらら。」

 手袋を外すと、手が真っ赤になっているため水道水で洗う。

「見せろ!」

 智樹が手首を掴んで確認し、自分の荷物からカットガーゼとサージカルテープを出した。

「え?そんなの持ち歩いてるのか?」

「応急手当セットは何となくな。というか、手袋でごまかすな!」

「いや、キャベツが汚れるし。あ、血染めのキャベツは洗って自分用にしてるし、包丁もまな板もよく洗ってるからな?」

「あのな!あーまあ大事なんだけど!!手当てを優先にしやがれ!このボケ!タコ!ナス!」

 傷口にガーゼを当て、きつめにサージカルテープを巻く。

「まずは止血!本当にお前は雑なんだよ!!」

 文句を言いながらも、妙に面倒見が良いのは智樹の性格らしい。

「つーか‥生姜焼きのレシピ後で教えろ!このバカ!」

 席に戻ると、さくらと雅の視線が鷹也の手に注がれる。


「切ったんですか?」

「切ったのね?」

「あ、いや大したことないから。あ、大丈夫。包丁もまな板も良く洗ったし、汚れたキャベツも‥」

「「そうじゃなーい!!」」

 雅とさくらは思わずため息をつく。

「ガラスに突っ込んだときも、突然床掃除からはじめたものね、あなたって子は!」

「いやだって、ガラス落ちてたら二次災害起きるだろ?」

 そのやり取りに蒼介が笑い出した。

「分かるわー!焦るよな!?俺も良くやる!」

「確かになあ。儂もガラスに突っ込んだ時は、まず箒とちりとりを探すわ。」

 蒼介と篁の言葉に、さくらと雅、環が揃ってため息をついた。

「ガラスは突っ込むものじゃなーい!!そして掃除する前に止血しろ!!」

 智樹の声が響き渡ったのだった。



 そして大量に作った生姜焼きと米は全て消費された。蒼介が出汁巻き卵に感激し、おかわりを要求されたため追加で作ったものまで食べつくした。

 食後に環が差し入れてくれたケーキを切り分け、コーヒーを添えて出す。

「うわ、超贅沢!そして美味い!!」

「立夏さんとこのケーキは相変わらず美味いな!」

「いや生姜焼き何なの?マジで美味かったんだけど!?」

「出汁巻き卵~!!」

 それぞれが夕飯とデザートについて熱く語りながらケーキを堪能したのだった。



 少し落ち着いた頃、さくらが席を立ち、しばらくして戻ってきた。

「うちの子たち、紹介しますね?」

 篁や兄たちが来た途端に避難してしまったネコたちを、さくらが再び連れてきたのだ。

「ネコ!?ネコがネコ飼ってるのか!?」

 智樹の言葉に智琉と恭平、道明が笑い出す。

「いや?飼ってるのはさくらだけど。こいつが佐藤で、こいつが鈴木で、こいつが田中。」

「「「「は!?」」」」

 篁と環は既に知っていたので、兄たちの様子を見て笑っている。


「なんでネコに苗字をつけるんだ!?」

 智樹が思わず声を上げた。

「へ?‥いや、苗字じゃなくて名前だけど?」

 道明と恭平が盛大に吹き出し、智琉も腹を抱えて笑っている。

「佐藤?」

「にゃー」

「鈴木!」

「にゃーん!」

「田中?」

「にゃ」

 鷹也に呼ばれると律儀に返事をするネコ達に、皆笑っている。

「俺はさっき、全国の佐藤さんと鈴木さんと田中さんにお詫びをしたよ‥」

 蒼介がため息交じりにそう言うと、兄たちは更に笑い、おっかなびっくりのネコたちを見やる。三匹はうろうろした挙句、鷹也の周りにぺったりと張り付いた。

(((やっぱりネコはネコ同士仲いいのか)))

 兄たちは内心で全く同じことを思って笑っていたのだった。


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