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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
105/118

鷹也の家

 家に到着したのはちょうど昼時だった。事前に到着予定時刻はさくらに伝えてあったため、さくらも笑顔で出迎えてくれる。

「うわマジか‥敷地広っ!!そして古民家かここは!?」

 敷地内に車を停めた後、蒼介はまずその広さに驚いた。

「いわく付き物件の古民家でね、買い手がつかなかったんだと。リフォームは折半、庭は土門さんとこに頼んでやってもらった。今は借りてるけど、いずれは買い取ろうと思ってるよ。」

 蒼介は庭を見て驚いた。築山から小川、湧水池まであり、植栽も充実しているせいだ。

「親父が喜びそうだな‥ってか、お前さ、大学生のくせになんでこう爺くさい趣味なわけ?」

「俺が落ち着く環境がこれなんだから仕方ないだろ?」

 そう言って家の中へと案内する。


「なあ、これはなんだ?」

 広い玄関土間の一角に、縦横一メートル、高さ二メートルほどの小部屋のようなものがある。ドアはついているが、部屋としてはかなり小さい。

「ん?地下室。元々あったんだよ。‥そういえばここに、爺さんの影が住んでたな?というかこの家、影も妖も多かったんだ。」

「‥だからいわく付き物件だったのね‥その方たちは今もおられるの?」

 雅が周囲を見回すが、この辺りには気配はないように思える。


「ああ、好きな場所で過ごしなよって話したら縁側が気に入ったみたいだ。昔、この家に住んでたことがあるらしくてね。いたずらして地下室に閉じ込められた記憶があったんで、何となく地下室に居着いてたんだってさ。」

 蒼介はついつい笑ってしまう。

「幽霊と共同生活しているようなもんだよなあ。‥普通に会話出来るものなのか。」

 雅と鷹也は頷いた。自分には経験出来ないであろうその感覚を、妻や息子と共有することが出来ないのは少し寂しいと思う。

(もし俺が、普通の人と結婚して、子どもが開眼していたら‥この孤独感を味わわせることになってたんだよなあ。)

 そう考えると、今は恵まれていると思う。家族達が自分を受け入れてくれ、一族との関わりも続いている。今のこの生活は十分すぎるほど幸せだと思えた。


「どうぞ、お昼の準備が出来てますから。上がって下さいな。」

 蒼介が感慨に耽り、雅も改めて家の中を見回していると、さくらが笑顔で声をかけてくれた。


 居間は和室になっており、座卓には和食が並んでいる。

「うわ!鯖の味噌煮!とろろ!筑前煮!ぬか漬け!?キャベツとじゃがいもの味噌汁もー!」

 蒼介が感激して座布団に座る。

「お前、俺の好物、ちゃんと覚えててくれたんだな‥?」

「‥うん、まあ。いやでも作ってくれたのは、ほぼさくらだし。」

 目を逸らして頬を人差し指でぽりぽりかく。照れているときの鷹也の癖だ。子どもの頃からそれは変わらないらしく、両親は顔を見合わせて笑った。


「いただきます!」

 さっそく箸をつけ、蒼介は幸せそうに食べ始める。

「あ、もし卵かけご飯食うなら、産みたて卵ももらってあるから。」

「うおお!さすが我が息子!!TKGは正義!!」

 海外では絶対に食べられないものを、準備してくれていることが嬉しい。さくらの手料理はどれも絶品で、雅も蒼介も夢中になって食べてしまう。

鯖の味噌煮で一膳、とろろご飯で一膳、産みたて卵のTKGで一膳と、合計三膳を食べた蒼介は、満足そうに食後のお茶を飲む。

「不思議だな、霧ちゃんのメシも美味いんだけど、ここの雰囲気が良すぎるのか?いやもちろんさくらちゃんのメシも美味いんだ。でも、それだけじゃない気がするな‥」

 蒼介は庭を見ながら、不思議なほどに落ち着いていた。

「そうね。ここは本当に落ち着くわ。お食事時は妖たちも庭で遊んでくれているのね?」

 庭にはたくさんの妖たちがいて、楽しそうに走り回っている。篁の屋敷にいる妖や、ここにいる妖たちは他で見る彼らよりも元気そうに見えた。


「たまにメシくれってねだられるけどね。‥いいよ、さくら。ありがとね、美味かった。」

 鷹也はそう言って微かに笑い、食べ終えた食器を片付けようとしたさくらを制し、食器を手早く片付けてキッチンへと持って行った。

「さくらちゃん、いつも本当にありがとうね。‥あの子は色々と大変だと思うけど大丈夫?」

 雅に促されてさくらは座リこむ。

「ええと、そうですね。私がいる時は朝と夜、必ず食事はしてもらってますし、バスケの日は飲み物も持って行ってもらってます。ただ睡眠だけは私にも分からないので、活動量計を身に着けてもらってます。」

「「女神様!!」」

 蒼介と雅がハモる。普通なら絶対に忘れないであろう、食事や水分補給、睡眠を後回しにした挙句、倒れることが何度もある。幸いにも式であるブランが篁に知らせてくれるため、大事には至っていないのだが。


「ただ‥」

「ただ!?」

 さくらの言葉に再び両親が反応した。

「ええとですね、歩いているうちに考え事にはまると、かなり遠くまで行ってしまうらしくて‥」

 蒼介も雅も目をぱちくりさせている。

「歩数が5万歩超える日もあったりとか‥」

「「はい!?」」

 雅がスマートフォンを手にしてポチポチしている。

「歩数換算の距離が37キロ‥?もう!何やってるの、鷹ちゃんーー!?」


「‥呼んだ?」

 洗い物を終えたらしい鷹也が戻って来た。

「鷹ちゃん?帰り道に考え事をしていて、ふらっと遠出してしまうの?」

 雅に尋ねられ、ついっと目を逸らす。

「せめて帰宅してからじゃないと、さくらちゃんが心配するだろう?」

 蒼介にも追撃され、鷹也は困ったように頷いた。

「大丈夫ですよ?GPSで居場所は分かるようにしてもらってますし‥」

 さくらの言葉に両親は驚愕する。

「いやあの‥一般的に婚約者にGPSってさ、浮気してそうとか、素行が怪しいからっていう理由だからなのに。お前の場合、飼い猫が行方不明にならないように首輪にGPSつけてるのと一緒か‥。」

 蒼介のボヤキに、雅とさくらが吹き出した。


「ふふっ‥ふふふふっ‥やっぱり‥ネコ扱い‥ふふふっ‥」

 さくらの笑いが止まらない。

「やっぱり‥鷹にゃん‥ふふふっ‥もうだめ‥ふふふふっ!」

 雅も同様に笑いを止めることが出来なくなった。

「やっぱり、お前にも必要か‥?」

 蒼介が鷹也に差し出したのは、猫用の液状おやつだった。

「いや、いらないんだけど‥」

 真顔で答える息子に、蒼介も笑いだしてしまう始末だった。



 食事時にはさくらの部屋に避難させていたネコ達が、そろそろと居間に入ってきた。

「「「にゃーーー」」」

 茶トラとハチワレ、キジ白の三匹である。

「にゃんこだ‥」

 蒼介が目をキラキラさせてさっそく猫用の液状おやつを手にする。

「にゃ?」

 最初に反応したのは茶トラだ。

「鈴木が一番そのおやつ好きなんだよなあ。」

「は?今なんて?」

「鈴木が一番そのおやつ好き‥」

「鈴木って何だよ!?」

 鷹也と蒼介のやり取りである。

「名前だけど?キジ白が佐藤で、ハチワレが田中。」

「なんでネコの区別はつくんだよ!!」

「そりゃ、毛色違うからな。」

 人の顔の判別はつかなくても、ネコの毛色で判別はつくらしい。

「いや!そうじゃない!!お前は一体、どういうネーミングセンスしてるんだ!!全国の鈴木さんと佐藤さんと田中さんに謝れ!!」

 蒼介はなぜか縁側に正座し、深々と頭を下げた。きっと鈴木さんと佐藤さんと田中さんに対するお詫びに違いない。

「何かまずかったかな‥?それっぽい顔してたからつけただけなんだけど‥」

 息子の方は「はて?」といった表情で蒼介を眺めていたのだった。



 ネコたちは蒼介におやつを貰った後、わらわらと鷹也の周りに集まって好きなように寛いでいる。

「‥捨てられてたのを保護したのは私なのですが、なぜかみんな鷹也さんにくっつくんです。」

 さくらが少し不満げに呟く。

「たまに佐藤ちゃんは、私のところに来てくれるんですけど。鈴木ちゃんと田中ちゃんはダメですね。」

 息子が付けた名前に、さくらは違和感無く慣れているらしい。もちろん保護したさくらがかわいい名前を考えていたらしいのだが、ネコたちは今の名前を認識してしまったそうだ。

蒼介が恐る恐る撫でると、ネコたちは逃げること無く、大人しく撫でられてくれる。

「ううう‥もふもふ‥これは‥」

 そして蒼介も溶けそうだ。


『めずらしー!見えないやつきてるー!』

『もう一人は見えるやつー!』

『タカヤと似たかんじー!』

 妖たちもわらわらと鷹也の傍にやって来て、蒼介と雅を珍しそうに眺めながらキャッキャ騒いでいた。

「こっちが俺の父さんの蒼介で、あっちが母さんの雅だよ。」

 鷹也が妖たちに紹介すると、蒼介は辺りを見回す。

「もしかして、妖っていうのが近くにいるのか?」

 見えないながらも、何か感じるものがあるようで蒼介はそっと頭を下げた。

「俺の声は聞こえないかもしれないけど。いつも息子が世話になってます。ありがとう。」

『なんか言ってる?』

『分かんないけど、あったかいかんじ!』

『タカヤの親ならきっといいやつー!穏やかー!』

妖たちの言葉を聞いた雅も、蒼介の横に正座する。


「いつも息子がお世話になってます、ありがとう。蒼介さんも今、そう言ったの。」

 笑顔でそう言って頭を下げた。

『タカヤ好きだからー!』

『ボクらもタカヤにおせわになってる?』

『おせわしてるー!』

 妖たちの言葉を微笑みながら聞き、雅はそれを蒼介に伝えた。

「そっか‥鷹也にはそういう‥そっか。」

 蒼介から見た息子は、常に独りだった。実際にはそうでないことを、改めて知り不覚にも涙が滲む。


 何より、縁側に座ってネコや妖たちと共に在る息子は、穏やかで、落ち着いているようだ。娘二人とは全く別方向の心配が多い息子だったが、その様子を暖かく見守ってくれているさくらを含め、安心することが出来たのだった。




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