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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
102/119

歌合戦と戦いのあと

 そして更に蒼介が明るくノリの良い曲を入れ、全員が拍子を取りつつ、コーラスまで入れ始める。恭平はサビで全員が思わずシャウトしたくなるあの曲を熱唱し、全員がそれに乗る。得点も90点前後を攻めているが、それ以上に「どれだけ周りを巻き込めるか」勝負になりつつあった。

「あっつい!」

「けどめっちゃ楽しいねこれ!!」

「蒼介さんも恭平くんも本当に上手いわねえ!」

「みんな少し落ち着きましょうか。」


 さんざん熱くなった後に霧江が入れた曲は、昭和に大ヒットした、まさかの演歌だ。なつメロで良く耳にするらしく、若者世代も知っているらしい。

「ちょwマジすか!」

「すげ!こっちも普通に歌えるんだ!?」

 男二人が笑いながら聴き入る。

「霧ちゃん、昔からジャンルを問わずに歌いまくっていたものねえ‥」

 尖った趣味の雅とは違い、霧江は両親や祖父母の歌う曲まで網羅しているらしい。

「お祖母ちゃんに民謡もリクエストされて、子供の頃に良く歌っていたわよ?」

 と、雅がにこにこしながら教えてくれた。


「やっべえ!俺わりと友達から“歌上手い”って褒められるんだけど!?この家何なの!?」 

 恭平がお手上げとばかりに大笑いしている。

「あれ!?もしかしてカラオケなら鷹兄と勝負できるかも!?」

 七海が思わず呟くと、流水も乗った。

「それならイケるかも!!鷹兄が歌ってるとこ、見たことないし!!」

 そんな二人の会話に、恭平ががっかりしたように加わった。

「いやー実はさ、トモとサトと一緒にカラオケって話になったとき、あいつも誘ったんだよ。そうしたらさ、“音楽聞かないから曲をしらん”と言って断られたんだよね。」

 余りに“あるあるすぎる”断り文句に、七海と流水も意気消沈だ。テレビや動画も見ないらしい兄は、普段どんな生活を送っているのかも謎だ。

「鷹也くん、外国の曲なら歌えるはずよ?」

 助け舟を出したのは霧江だ。これには全員が反応した。

「なんで外国曲!?」

 思わず尋ねた恭平に、霧江は笑顔を向ける。


「会話出来るようになるためにどうしたらいいか聞かれたのよ。だから、音楽を聴いて歌えるようになるといいわねって話をしたの。私もCDをプレゼントしたこともあったから、歌える曲はあると思うわよ?」

 その言葉に最初に反応したのは蒼介だ。

「おい、これは討伐出来る可能性があるんじゃないのか!?」

「‥確かに!!」

 蒼介と恭平がニヤッと笑い合い、ハイタッチを交わす。七海や流水も笑顔になって期待のこもった眼差しを二人に向けた。

「ふふ。それは面白そうね。このメンツにトモ君とサト君、鷹ちゃんにさくらちゃんを呼んで、最高点は誰だ大会を開くべきかしら!」

 雅までがノリノリだ。なぜ両親が息子討伐に燃えるのかは謎だが、それを疑問視する者もいない。


「それより!まだ勝負は続いているわよ!まずはこっちで勝たないとね!」

 演歌で98点を叩き出した霧江が不敵に笑う。

「そうだな!!よし、気を取り直して‥次は七海か!」

「うん!それじゃあ‥」

 蒼介が仕切り直し、七海が再び選曲する。蒼介も好きだと言っていた、最近流行っているポップスだ。女性陣がアカペラで一緒になって歌うのを恭平も楽しそうに聞いている。

(いやマジでレベルたけえ!けど大人世代がマジでえげつねえ!)

 七海も90点台を叩き出しており、流水や恭平とハイタッチする。

「うーん!頑張っても90点台前半だなあ‥お母さんと霧江さん、すっごい!ねね、今度教えて!」

「あー!私も教えて欲しいー!!」

 七海と流水が口々に言い、雅と霧江が顔を見合わせる。

「「十分上手いと思うけど!?」」

 そんなやり取りをしながら、雅が再び選曲をしていると蒼介からリクエストが入る。


「これはなー!俺が高校時代に流行った曲でさー!」

 普通のポップスだったが、雅は自分の持ち歌のように歌いこなし、蒼介が感動の余り涙ぐんでしまう。

「確かにこれは懐かしいわねえ!」

「私も好きだったわ、この曲!」

 大人たちが盛り上がってる中、子供たちもスマホ片手に曲情報を調べ、動画で一部を聞いてみる。

「え、これ本物より上手くないっすか!?」

「わたしもお母さんが歌う方が好きかも!」

「わたしもー!!」

 子どもたち世代も元の曲を聞いて気に入ったらしい。しかし、雅の声と歌い方の方が好きだと、全員一致の意見に雅が恥ずかしそうに笑う。

「きゃー!そんなこと言われちゃったら、どうしたらいいの!?」

 照れる雅を蒼介が写真に収め、更に霧江がからかう。



 そんなカラオケ大会も終了時間のお知らせが来る。結果は大人チームの勝利だ。

「よーし!じゃあ最後にこれだ!!全員でいくぞー!!」

 蒼介がスタンドマイクをセットし、全員に立つよう促す。そして始まったのはラジオ体操第一だった。おなじみのイントロの後、蒼介がマイクに向かう。

「腕を前から上にあげて~」

 全員が笑い出してしまったが、蒼介だけは真面目くさった顔で歌詞?と号令を続ける。結局全員が笑いながらラジオ体操を始める始末だ。

「待って!七海ちゃん、なんでそんなキレッキレなの!」

 恭平が笑いすぎて呼吸困難になりながら突っ込む。

「え?普通にやってるだけだけど?」

 流水も笑ってしまい、くねくねになってしまう。そしてそれを見た雅も笑いが止まらくなり、霧江も半分呆れながら、それでも妙にキレの良い動きで体操している。


「ていうかラジオ体操入ってると思わなかったっす!!俺も今度やろ!飲み会の後とか、めっちゃ楽しそう!」

「あー‥飲み会後のラジオ体操はヤバいぞ?ゾンビみたいな動きするやついるしな!」

 恭平と蒼介がそんなやりとりをして大笑いしていた。

「そういえば、恭平くん、メシはどうするつもりなんだ?」

「え?あ~‥元々出かける予定だったんで、メシはいらないって言ってあるんで、適当に‥」

「「えーじゃあ一緒にご飯いこう!!」」

 蒼介から尋ねられ、答えた直後に流水と七海からお誘いがかかった。

「はっはー!ここは勝利した我ら年長者が美味いものをご馳走しないとな!!」

「賛成!!恭平くん、来るわよね!?ハイかイエスで答えてちょうだい!」

 夫婦の掛け合いに恭平も思わず笑い出す。

「ちょ!二択かと思いきや強制じゃないですか!」

 車も出してもらったからね、と蒼介は言い、そのまま六人で食事に行くことになった。



「気兼ねせずに食べられる所って考えたら、他に思い浮かばなくてねえ‥」

 蒼介はそう言って、カラオケショップから歩ける距離にある、食べ放題の焼肉店へ行こうと提案した。

「うふふ、恭平くん気にしそうだものね?」

 雅にもそう言って笑顔を向けられ、恭平も笑いながら頷いた。

「かえって気を遣わせてしまってすみません。」

 そんなふうに言う恭平に、大人たちは温かな眼差しを送る。


 焼肉以外のサイドメニューも豊富で、七海も流水も嬉しそうに注文する。話題は恭平の東京生活についてがメインだった。高校までは土系譜の家に居候させてもらい、現在はアルバイトをしながら独り暮らしをしているらしい。

 時折、月影家の双子と食事に行ったり、遊びに行ったりもするのだという。

「東京で一番困ったことってなんですか‥?」

 七海が尋ねると、恭平は苦笑いを浮かべた。

「人が多くてさ、最初は人混みにいるだけで疲れたかなあ。それと、夏の暑さと冬の寒さ!」

「え!?東京って寒いの!?」

 意外な言葉に七海も流水も驚いた。全国の天気を見ていても、そこまで低温ではなかったように思ったせいだ。


「木枯らし‥とにかく冷たい風が強くてね。体感気温が低いんだよ。ビル風が強いところもあってさ‥」

 聞き慣れない言葉に七海と流水は思わず顔を見合わせた。

「高いビルが立ち並んでいるとな?行き場のなくなった風が、ビルとビルの間に集中するんだよ。それがものすごい強風になったりするんだ。自転車なんてこげなくて、手で押さないと進めないほど。」

 蒼介の補足説明に、娘二人は目をまんまるにして聞いている。そもそもビルが立ち並んでいる様子が想像出来ないせいだ。

「あと、建物内が基本エアコンなんだよね。こっちみたいにボイラーじゃないから、室内でもわりと寒かったりもするよ。」

 初めて聞く話につい引き込まれて色々質問してしまう。恭平は丁寧に教えてくれ、東京に行った経験のある、蒼介や雅が補足で説明もしてくれた。


 大学卒業後について尋ねられると、恭平は穏やかに笑った。父の手伝いをしながら仕事を覚え、いずれは会社を継ぐつもりだと話す。

「そうか!そうしたらその時にはまた付き合いが出来そうだね。楽しみにしてるよ!」

 蒼介がそう言って笑顔を向けると、恭平も笑顔で頷いた。



 食事を済ませた後、恭平に送ってもらい帰宅する。

「今日は本当にありがとう、楽しかったよ!」

「こちらこそ!めっちゃ楽しかったです!」

 蒼介と恭平が挨拶を交わし、雅と霧江も笑顔で礼を言う。

「「恭平さーん!ありがとー!」」

「ありがとな!また遊ぼうぜ!」

 七海と流水とも挨拶を交わし、家族全員で車を見送った。


(恭平さん、優しいし良い人だなあ。あんなお兄ちゃんがいたら楽しいかも!)

 七海は心の中でそっと呟いた。





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