17話 シエル、今日も幸せ
(悩みは成長の糧となる、オイラはそんな風に思うんだ)とラナァ。
(それ誰の真似!? 例の骨!?)
(そうだよー)
ちなみに例の骨こと不死の魔王ホレスは、まだ聖域に顔を出していない。
(ラナァ、今すぐイリナお姉ちゃんにあたしがドラゴンの娘だって話していいか聞いて!)
(ダメだって)
(はやっ!!)
今も先生たちがああだこうだと言っているのを、シエルは苦笑いで躱している。
(あ、でもでも)ラナァが言う。(普通のそこらのドラゴンに育てられた、という感じならいいかも? って)
(ああ、つまり冥竜王アビスの存在がダメなのね!? パパ評判悪すぎだよぉ!)
(えっと、イリナが『とりあえず学園長と2人だけで話した方がいい』って)
(先生たち出て行ってくれるかなぁ!?)
全員がシエルに興味津々という感じなのだ。
良くも悪くも、先生たちは竜言魔法を知りたくてたまらないのだ。
(ラナァがガッちゃんと話してみるね)
(そっか! ラナァ友達だっけ! お願い!)
学園長がハッと目を見開いたので、ラナァが話しかけたのだとシエルは理解。
学園長がふむふむと頷く。
「すまんが、ワシとシエルの2人だけにしてくれんかの?」
学園長が言うと、先生たちが反発した。
しかし。
「では実力で排除するかのぉ」
学園長が鋭い目付きで言った。
その目と声音で、先生たちがシンッと静まる。
正直、シエルも固まってしまう。
普通にちょっと恐かった。
なんせ、学園長ガエタン・バイは人類唯一の7星魔法使いなのだから。
「理由だけ教えてください」ローラが言う。「他の先生方はまだしも、担任の私まで追い出す理由を」
「ワシの導き手がそう言っておる」
「……なるほど」ローラが頷く。「学園長に世界図書館の片鱗を見せた者が……ますます興味深いですねぇ」
「うむ。実に興味深い」と他の先生。
「ええから、とっとと出て行け」
学園長が犬を追い払うみたいなジェスチャをして、先生たちが渋々学園長室を出る。
全員が出終わったら、学園長が何か魔法を使った。
「【防音結界】を創造したから、会話は外に漏れんよ」と学園長。
やっぱ学園長の属性って反則級に何でもできるなぁ、とシエルは思った。
「やっほー」
ラナァがシュルッと解けてソファに着地し、元の大きさに戻る。
「おお、会いたかったぞラナァ! 我が友にして導き手!」
「いえーい」とラナァが葉っぱを上げる。
「いえーい」と学園長が右手を上げた。
そして2人はエアハイタッチ。
「あのねガッチャン」
「うむ」と学園長が頷く。
「シエルはドラゴンの養子なんだよ」
「なんと! そういうことか!」学園長が目を丸くして言う。「いやしかし、人間にそこまで好意的なドラゴンが存在しているとは! 驚きじゃ!」
「先生たちにも説明していいけど」ラナァが言う。「そのことでシエルを差別したら許さない、ってイリナが言ってる」
「うーん、ワシらは差別などせんよ! あとイリナとは!?」
「お姉ちゃんです……」とシエル。
「おお、そうかそうか。もしや本物のドラゴンか?」
「ち、違います」
シエルは首を横に振った。
(元聖女で元魔王っていう、現時点ですごく設定が盛られてるのに、更にドラゴンだったらもう意味不明だよ!)
「そうかそうか。ではとりあえず、シエルがドラゴンの言葉を理解できるのは、半分ドラゴンだから、ということじゃな?」
「ええ!? あたし全部人間だよ!?」
「だがドラゴンの養子となったわけじゃから、何かしらドラゴンと繋がりがあるだろう? 魔力的な繋がりとか。まぁ詳しくは調べてみないと分からんが」
「……そうなの?」
シエルはラナァを見た。
「知らなーい!」
ラナァは葉っぱを広げながら言った。
「ほほほ」学園長が笑う。「まぁ何でも良かろう。ラナァが側にいる時点で、シエルの存在は規格外じゃ。実はシエル自身がドラゴンでも驚かんよ!」
そこは驚いて欲しいなぁ! とシエルは思った。
その後、学園長との会話は和やかな世間話が主だった。
◇
シエルが教室に戻ると、クラスメイトたちが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですの? 怒られましたの?」とコーデリア。
「ドラゴンの魔法がダメだったんですか!?」とアデリタ。
「君を傷付けたなら抗議するよ?」とヘルト。
「強ければ何でもいいじゃねぇか、なぁ?」とリュート。
「あはは……みんな心配してくれてありがとう」シエルは心が温まるのを感じた。「でも大丈夫だよ。学園長には説明したから。それでね、みんなにも聞いて欲しいことがあるんだぁ」
シエルは微笑みを浮かべた。
今が秘密を明かすタイミングなのだ。
シエルが竜言魔法を使ったことを、みんなが知っているのだから。
それに、秘密をクラスメイトに明かすことはイリナも賛成してくれた。
みんなが黙ってシエルの話に耳を傾ける。
「あたしのパパね、ドラゴンなの」
シエルの発言が衝撃だったのか、みんな目を丸くしている。
シエルは視線を床に向けた。
もしかしたら嫌われるかも、と思ったのだ。
でもここまで言って、引くわけにはいかない。
「あ、正確にはドラゴンの養子なの、あたし。だからドラゴンの言葉が分かって、魔法も使える感じ……なんだけど……」
シエルが勇気を出して顔を上げる。
「すっげぇぇぇ!」リュートが大きな声で言った。「だからあんなに強いのか! ドラゴンに育てられたとか物語の主人公かよ!!」
「うぉぉぉ! すげぇぇ!」と他のクラスメイト。
「あまりのことに、わたくし言葉が出ませんわ!」コーデリアが言う。「いえ、シエルの強さの秘密が分かったような気はしますけれど!」
「コーデリア様、言葉いっぱい出てますよ」とアデリタが笑った。
「僕は知ってたけどね」
ヘルトがニヤッと笑って言った。
「ええ!?」とシエルが驚いた。
「いや君、神殿でドラゴンと飛び去った少女シエルは有名だし」ヘルトが肩を竦める。「養子ってことは知らなかったけど、ドラゴンと平和に暮らしている、ってのは神殿から報告を受けてる。あ、報告を受けたのは王で、僕は朝食の時に聞いただけだけど」
(ああ、そう言えばイリナお姉ちゃんが神殿に報告してたっけ……)
そこから王家にも報告がいった、ということだ。
「今日からシエルは『竜魔導師』だな!」と誰かが言った。
「お、いいね!」「かっこいい!」
「俺も二つ名欲しいぜ」
などなど、教室が盛り上がる。
「ありがとうみんな……」
シエルが半泣きで言った。
正直、ドラゴンの娘であることを明かすのは恐かった。
みんなに避けられ、嫌われたら退学することも視野に入れていた。
「よしよし」アデリタがシエルを抱き締める。「シエルがどんな境遇でも、私たちは友達ですよ」
「わたくしだって友達ですわ!」
「俺もだぞ!」
「僕もね」
「うん……ずっと友達……」
シエルは生まれて始めて、人との絆を感じた。
何気にイリナを人間の枠から外しているのだが、そのことには気付かなかった。
◇
夏期休暇初日。
シエルはラナァの【転移】で聖域に戻った。
「「おっかえりー♪」」
妖精たちが声を揃えてシエルを迎えてくれた。
そのことが嬉しくて、シエルは元気に「ただいま!」と言った。
シエルの髪を結んでいるラナァが、シュルッと解けて地面に着地。
「おかえり、分体ラナァ」
「ただいま、本体ラナァ」
分体ラナァと本体ラナァが挨拶して、お互いの葉っぱでハイタッチ。
そうすると、分体ラナァが本体ラナァに吸収された。
「ふふっ、学校は楽しかったみたいですね」とイリナ。
「うん! 友達もいっぱいできたの!」
シエルは満面の笑みで言った。
「そうか。それは良かった」とアビス。
「ただいまパパ! 今度友達を紹介するね!」
「ふん……。まぁ、シエルの友なら挨拶ぐらいはしてやろう」
アビスの発言に、シエルがまた満面の笑みを浮かべた。
「それと、コーデリア様と海に行く約束をしてて……」
「いいですよ」イリナがニッコリと笑う。「休暇ですから、好きに遊んでいいですよ」
「やったー!」
シエルが飛び跳ねて喜んだ。
神殿に相談にきた時のシエルは、今の自分を欠片も想像できなかっただろう。
「ねぇシエル」とラナァ。
「なぁにラナァ」
「幸せ?」
「うん! あたしは今日も幸せ!」
これで2章は終わりです。
このあとはエクストラストーリーをいくつか投稿して完結となります!




