16話 シエル、呼び出される
アデリタとヘルトの戦いはとっても派手だった。
お互いが凄まじい数の魔法の刃を宙に浮かべて、それをぶつけ合うという類いの。
アデリタは光の刃で、ヘルトは水晶の刃。
それらが無数に浮いていて、順番に相手に向かって飛んで行く。
それを同じく刃を当てて相殺したり、新たに盾を作って防いだりしている。
「こちらも見応えがありますねぇ!」ローラが嬉しそうに言った。「やはりSクラスのトップ帯はレベルが高いですねぇ!」
シエルは「ほえぇ」と感心しながら映像を見ている。
「さすがですわね」コーデリアが苦笑い。「悔しいですが、今のわたくしではこの2人の魔法対決に付いていけませんわ」
映像の中で、アデリタとヘルトは休むことなく攻撃を続けている。
見た感じ、ヘルトの方が少しキツそうだ、とシエルは思った。
それは実際その通りで、ヘルトは「くそっ……」と呟いた。
その音声が拾われていて、グラウンドがザワザワする。
「王子様が……クソって言った……」
「ヘルトも人間なんだな」
「いつもスカしてるけど、くそとか言うんだな」
「そんなヘルト様も素敵!」
などなど、みんなが好き放題に発言。
「どうせ負けるなら!」自らの敗北を悟ったヘルトが、全魔力を1つの魔法に乗せる。「最後に僕の愛をみんなに見せつけよう!」
この発言で更に周囲がざわつく。
「王太子が簡単に愛を語るなどっ!」
コーデリアが怒ったように言った。
確かにヘルトの立場で誰かに愛を囁くのはマズいとシエルも思う。
思うのだけど、相手たぶんお花なんだよねぇ。
「これが僕の【愛しの君】さ!」
ヘルトは空中に大きな薔薇水晶を創造した。
(やっぱりラナァだぁぁぁあぁぁぁああぁあああ!!)
(はぁい! ラナァだよ!)
ラナァが返事をした。
ヘルトは満足そうに笑いながら、アデリタの光の刃に斬り刻まれて戦闘不能に。
薔薇水晶はヘルトが意識を失ってもしばらくその場に残って、キラキラと輝いていた。
(水晶のラナァはクリスタルラナァ! クリクリ♪ クリクリ♪ クリラナァ♪)
ラナァはとっても楽しそうに言った。
シエルの髪の毛が少し引っ張られたので、身体を揺らしているのが分かる。
「綺麗……」と誰かが呟いた。
ヘルトが示した愛の形に、みんなが見とれていた。
「どこの誰か知りませんけれど」コーデリアが言う。「あんなに愛されたら幸せですわね、きっと」
(そうなのラナァ?)
(ラナァはいつも幸せだよ!)
だよね! とシエルは思った。
「大きな水晶の薔薇で愛を伝えるとは、青春ですねぇ!」ローラが言う。「とりあえず勝者はアデリタです! これで決勝戦は首席と次席! 順当と言えば順当ですが、もう少し波乱が欲しかったところですねぇ!」
◇
たっぷりと休憩を取った午後。
ついに決勝戦が始まった。
「闘技場?」とシエルが呟いた。
シエルとアデリタが立っているのは、石で作られた四角形の舞台の上だった。
「どうですかね?」アデリタが首を傾げる。「私、闘技場を見たことがないので」
「あたしもないけど、たぶんこんな感じかなって」
舞台の広さは、シエルたちの教室より少し広いかな、というぐらい。
舞台の外には特に何があるわけでもない普通の荒野。
どういう設定の場所なのか、シエルにはさっぱり分からない。
スゥ、とアデリタが深呼吸。
そして真剣な眼差しでシエルを見る。
「約束通り、魔法対決ですよ?」
「うん」とシエルが頷く。
実は仮想世界に入る前に、2人は魔法で戦おうと話を付けていた。
「では、手加減なしです!」
アデリタがバッと右手を上げると、空中に無数の光の刃が出現。
その切っ先は全部シエルを向いている。
(お、思った以上に恐いねこれ)
そう思考したと同時に、光の刃たちがシエルに向けて疾走。
シエルは焦ることなく、尾てい骨に魔力を集める。
「ドラゴンテイルアタック!」
シエルは黒くて力強い魔法の尻尾を創造し、光の刃を全て薙ぎ払った。
その攻撃に、アデリタが目を見開く。
仮想世界の外でもみんながどよめいているのだが、それはシエルには伝わらない。
「シエルはドラゴンになりたい願望でも……あるんですか?」
「ないよ!? 少しもないよ!?」
「いえ、しかし、わざわざ魔法で尻尾作りますかね……?」
「尻尾攻撃は大事なの!」
少なくとも、アビスにはそう習った。
「そ、そうですか! 分かりました!」
言いながら、アデリタが右掌をシエルに見せた。
ん? とシエルが首を傾げようとした瞬間、アデリタが掌から大きな光線を発射した。
当たったら即死する、と直感したシエル。
「ドラゴンテイルアタック!」
シエルは再び魔法の尻尾を作って、光線を空へと弾いた。
「……とっておき……だったんですが……。尻尾便利ですね……私も光の尻尾を……」
アデリタが苦い表情を浮かべている。
「じゃあ、あたしもとっておきを見せるね」
シエルが言うと、空中に大きな闇の魔力が渦巻く。
それは、かつて冥竜帝アビスが人類を恐怖のどん底に叩き落とした魔法。
ドラゴンの言葉で短く詠唱するシエル。
次の瞬間、渦巻いていた闇の魔力が無数の黒い球へと姿を変える。
「ちょっと……それは」あまり解説をしない解説のローラが声を震わせる。「竜言魔法!?」
「りゅ、竜言魔法!?」アデリタが驚愕する。「シエル……どうやって?」
その質問に答える前に、黒い球が降り注ぎ仮想世界を破壊した。
全てを滅ぼし尽くす勢いの強烈な爆発が続く。
そのせいで、シエルもアデリタも強制的に現実世界に戻される。
シエルが使ってもこの威力である。
人類と戦っていた時のアビスが使ったら、どれほどの威力だったか。
◇
シエルは学園長室に呼び出されていた。
学園長室はSクラスの教室一つ分ぐらいの広さで、歴代学園長の肖像画が壁にかけられている。
シエルは来客用のソファに座っていて、テーブルを挟んだ対面に学園長とローラが座っている。
周囲には他の先生たちも立っていた。
あの後、とりあえずシエルの優勝でトーナメントは幕を閉じた。
しかしシエルは竜言魔法を使ったということで呼び出されたのだ。
「そう緊張せんでええぞ」学園長がニコニコと言う。「ワシは別に咎めようと思っとるわけじゃない。優勝おめでとう」
「あ、はい……」とシエル。
「バカな!」先生の1人が言う。「ドラゴンの魔法を使ったんですよ!? 最低でもどこで誰に教わったのかは今すぐ聞き出すべきでしょう! 悠長におめでとうなど……」
「その通り!」別の先生が言う。「そもそもドラゴンの魔法を人間が使えるなど、誰も知らないことですよ!」
「つまり、我々もドラゴンの魔法を使えるかもしれない」ローラがニヤッと笑う。「ということなのですシエル。ことの重大さが理解できますか? 魔法史を塗り替える出来事なのです」
(そ、そうだったのぉ!? だってパパが普通に教えてくれたから、普通に使えるものだと思ってたぁぁぁぁぁ! イリナお姉ちゃんも別に何も言わなかったんだけど!?)
「いいかいシエル」優しい声で言うのはドラゴンの研究をしている男の先生だ。「ドラゴンと人間は仲が悪く、ドラゴンの言葉の意味すら僕たちは知らない。真似して詠唱することさえできないんだよ?」
「そうなんですか? じゃあ【――】って分かりません?」
ドラゴンの言葉をシエルが普通に使ったので、みんな驚いて目を丸くした。
「今の言葉、私たちは発することもできません」とローラ。
「そうなの!? あ、えっと、そうなんですか!?」
「今のはどういう意味だったんだい!?」とドラゴン研究先生。
「えっと、今のは深い意味はなくて……『ぶっ殺すぞ』って意味です……あはは」
「おお! 意味も発音も理解したのに口に出せないっ!」ドラゴン先生が悔しそうに言う。「なぜだぁ! なぜなんだぁ! なぜ君は言葉として使えるんだい!?」
(えっと、これってたぶんあたしがドラゴンの娘になったからだよね? どうしよう? 言っていいのかなぁ?)




