15話 シエル、ガチで戦う
「あの子、光属性ですし、あの実力なら聖女になれますね」
グラウンドの隅っこ、いつもの位相のズレた空間でイリナが言った。
「しかも容赦ないのじゃ」
パメラがブルブルと震えながら言った。
敵を発見したアデリタは、凄まじい数の光の刃で相手を切り刻んだ。
「人間にしては確かに……やる方ではあるか」とアビス。
「ぐーるぐる♪ ぐーるぐる♪」
ラナァはなぜか自分の茎を捻っていた。
くるくる巻かれるラナァの茎。
「ラナァ? どうして身体を捻っているのですか?」
「んー? なんとなくー? そんな気分だったー」
一体、何回捻ったのかラナァの茎は螺旋階段みたいになっている。
「おぉ、ラナァが捻れても妾の愛は永久不変じゃぁぁぁ!」
パメラが大袈裟に両手を広げながら言った。
「フハハハハ! 確かにシエル以外の試合など見る価値はない! ワシらには退屈そのものよ! 身体を捻っていた方がマシであるな!」
「ラナァは退屈じゃないよ」ラナァが言う。「試合も見てたよ」
捻れるだけ捻って、ラナァはピタッと止まる。
「人間ってどうしてあんなに戦うのが好きなのかなぁ? って考えながら見てたよぉ」
「闘争こそが人間を進歩させた……という説もありますね」イリナが言う。「あたくしは懐疑的ですが」
「闘争は生物の根源だ」アビスが言う。「それに勝利は気持ちいいぞ、とお花のラナァに言ってもあまり意味はないが」
「そうだねー、ラナァは戦ったことないからよく分かんなーい」
言ったあと、ラナァは一気に捻った茎を元に戻した。
その時に凄まじい衝撃波が発生したが、イリナたちはラナァが【シールド】で包んだので無傷だった。
「ビックリしました……」イリナは心臓がバクバクしている。「今の、この空間じゃなかったら街が一個滅びるレベルの大災害でしたよ……」
「死を間近に感じたのじゃぁぁぁ!」
パメラは泣きながら叫んだ。
「さ、さすがのワシも今のはビビった……」
アビスは冷や汗を流している。
「えへへ」ラナァが葉っぱで自分の頭……もとい花を撫でる。「ビックリさせてごめんね?」
「だ、大丈夫です」イリナが言う。「ラナァのやることは全て受け入れると決めているので!」
「妾もじゃ! たとえ死んでもラナァならきっと生き返らせてくれるはずじゃ!」
「あ、シエルの試合が始まるよー」
ラナァはグラウンドに浮かんでいる映像に視線を移していた。
◇
準決勝は草原だった。
よく晴れていて、心地よい風が吹いている。
この仮想世界は本当によくできている。
シエルは大きく深呼吸。
「俺が目の前にいるってのに、危機感ねぇなぁ」
やや呆れた風にリュートが言った。
「リュートはいきなり殴ったりしないよね? 少なくとも、このトーナメントではちゃんと戦ってるの知ってる」
「お、おう……」リュートが照れた風に頬を掻く。「まぁ、戦争だったら隙見せたら攻撃すっけど、学校のテストだしなこれ」
その言葉を聞いて、シエルが微笑みを浮かべる。
「なぁシエル」リュートが言う。「お前って剣使えるの?」
「え? 剣は使ったことないよ」
「そっか。じゃあ、体術で勝負しねぇか? 正々堂々と、な」
「あ、うん。いいよ」
シエルはコクコクと頷く。
「よっしゃ! 恨みっこなしだぜ?」
リュートが両手の拳を叩き合わせた。
今の痛くないのかな? とシエルは思ったけど言わなかった。
リュートが構えたので、シエルも構える。
「言っとくけど、手加減すんなよ? 全力だぞ? 俺もそうするからよぉ」
「分かった」
戦うのは苦手だけど、手を抜くのはリュートに悪い。
そのぐらいはシエルにも分かる。
だからシエルは先に動いた。
イリナに習ったのは護身術なので、基本的には受動的だ。
しかしアビスに習ったのは超攻撃的な体術である。
シエルは身を低くして水面蹴り。
しかしリュートは下がって躱す。
「ひゅー、速いし鋭いっ!」
言いながらリュートが踏み込み、左の拳で攻撃。
シエルはそれを右手で捌いて左手でカウンターパンチ。
シエルのパンチはリュートの胸の辺りに命中し、リュートが少し顔をしかめつつ後退。
シエルが追うと、リュートが飛び回し蹴りを放つ。
シエルはガードしたけど、ガードごと軽く飛ばされる。
(いったーい!)
腕が腫れちゃうよぉ、とシエルは心の中で泣いた。
シエルは着地と同時に再び水面蹴りを放ち、シエルを追っていたリュートを牽制。
リュートは飛び上がって水面蹴りを躱す。
シエルが体勢を整え、リュートも着地。
2人とも一呼吸置いてから打ち合う。
拳に蹴りに、お互いが次々に攻撃を繰り出す。
そしてお互いに防御し、躱し、受け流し、反撃する。
揃って体力も集中力も高いので、2人の打ち合いはそれなりに長く続いた。
(あわわわわ! リュート本当に強いんだけど! もちろんパパほどじゃないけど、負けちゃうかも!)
リュートはアヴァロンに入学する前は現役の傭兵だったし、年齢も17歳で身体も大きい。
しかし最初に隙を見せたのはリュートの方だった。
少し焦ったのか、パンチが大ぶりになってしまう。
シエルはリュートの腕に触れ、そのままリュートの力を利用してぶん投げた。
リュートはちゃんと受け身を取ってすぐに立ち上がる。
シエルはすでに跳び蹴りを放っていて、立ったリュートの顔面にシエルの足裏が命中。
リュートが再び倒れるが、今度も受け身を取って立ち上がる。
シエルは着地してすぐにしゃがんで、飛び上がるようにアッパーカットを打つ。
それが見事にリュートの顎に命中して、リュートがぶっ倒れる。
今度は受け身を取れなかった。
シエルはトドメを刺そうと思ったけど、リュートが意識を失っていると気付いて行動をキャンセル。
小さく息を吐いた。
「どうやらシエルの勝ちのようですね!」ローラが興奮した様子で言う。「さすがは首席と言うべきですか!? それにしても2人とも強い! 1年生とは思えないほど見応えがありました!」
◇
ヘルトとアデリタはお互い同じことを思った。
(決勝戦では魔法勝負をしようとシエルに持ちかけないと)
体術ありなら自分たちはまず勝てない。
この試合を見てそう確信してしまったのだ。
◇
シエルが現実世界に帰還してベッドを降りると、ニッコニコのリュートが寄ってきた。
「なぁ、シエルって親父と姉ちゃんから体術教わったんだよな?」
「うん。正確には、お姉ちゃんに教わったのは護身術で、体術はパパだけど」
「そっかそっか。ところで頼みがあるんだけど」
「何?」
「シエルの親父と姉ちゃんに、俺も教わりたいんだ。聞いてみてくれねぇか?」
「ええ!?」
(パパはドラゴンでお姉ちゃんは聖女魔王だけど!? 大丈夫そ!?)
「夏期休暇の時に、数日でいいんだ! 頼むぜ! もっと強くなりてぇ!」
リュートが両手を合わせて、拝むように言った。
「えっと……聞いてもいいけど」
「マジか! サンキュー!」
「あの、断られるかも……だよ?」
「ああ、そん時は仕方ねぇな」リュートはカラッと笑う。「じゃあよろしく頼むぜ」
言い終わったら、リュートは仲の良い連中のところへと向かった。
(アビスはねー)ラナァが言う。(なんで人間のガキにワシが教えねばならんのだ。食うぞ、って言ってたよ)
(あはは……早速伝えたんだねラナァ)
(うん。イリナは普通に嫌だって言ってる)
(あ、うん。そうだと思ったよあたしも)
そもそもイリナは戦闘が得意なタイプではない。
優等生だから型が完璧というだけなのだ。
シエルに護身術を教えたのだって『妹のように可愛がっているシエルが、何かあった時に身を守れるように』というちゃんとした理由がある。
「シエル、決勝進出おめでとうございます!」
「おめでとう、決勝は僕らのどっちかとだね」
アデリタとヘルトが笑顔を見せた。
2人はシエルに会いに来たのではなく、次の試合のためにベッドに転がりに来たのだ。
「2人とも頑張ってね!」
シエル的にはヘルトに勝って欲しいなぁ、と思った。
アデリタは親友なので攻撃したくないけど、ヘルトならまぁいいか、という理由である。




