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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
2章

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15話 シエル、ガチで戦う


「あの子、光属性ですし、あの実力なら聖女になれますね」


 グラウンドの隅っこ、いつもの位相のズレた空間でイリナが言った。


「しかも容赦ないのじゃ」


 パメラがブルブルと震えながら言った。

 敵を発見したアデリタは、凄まじい数の光の刃で相手を切り刻んだ。


「人間にしては確かに……やる方ではあるか」とアビス。


「ぐーるぐる♪ ぐーるぐる♪」


 ラナァはなぜか自分の茎を捻っていた。

 くるくる巻かれるラナァの茎。


「ラナァ? どうして身体を捻っているのですか?」

「んー? なんとなくー? そんな気分だったー」


 一体、何回捻ったのかラナァの茎は螺旋階段みたいになっている。


「おぉ、ラナァが捻れても妾の愛は永久不変じゃぁぁぁ!」


 パメラが大袈裟に両手を広げながら言った。


「フハハハハ! 確かにシエル以外の試合など見る価値はない! ワシらには退屈そのものよ! 身体を捻っていた方がマシであるな!」


「ラナァは退屈じゃないよ」ラナァが言う。「試合も見てたよ」


 捻れるだけ捻って、ラナァはピタッと止まる。


「人間ってどうしてあんなに戦うのが好きなのかなぁ? って考えながら見てたよぉ」


「闘争こそが人間を進歩させた……という説もありますね」イリナが言う。「あたくしは懐疑的ですが」


「闘争は生物の根源だ」アビスが言う。「それに勝利は気持ちいいぞ、とお花のラナァに言ってもあまり意味はないが」


「そうだねー、ラナァは戦ったことないからよく分かんなーい」


 言ったあと、ラナァは一気に捻った茎を元に戻した。

 その時に凄まじい衝撃波が発生したが、イリナたちはラナァが【シールド】で包んだので無傷だった。


「ビックリしました……」イリナは心臓がバクバクしている。「今の、この空間じゃなかったら街が一個滅びるレベルの大災害でしたよ……」


「死を間近に感じたのじゃぁぁぁ!」


 パメラは泣きながら叫んだ。


「さ、さすがのワシも今のはビビった……」


 アビスは冷や汗を流している。


「えへへ」ラナァが葉っぱで自分の頭……もとい花を撫でる。「ビックリさせてごめんね?」


「だ、大丈夫です」イリナが言う。「ラナァのやることは全て受け入れると決めているので!」


「妾もじゃ! たとえ死んでもラナァならきっと生き返らせてくれるはずじゃ!」

「あ、シエルの試合が始まるよー」


 ラナァはグラウンドに浮かんでいる映像に視線を移していた。



 準決勝は草原だった。

 よく晴れていて、心地よい風が吹いている。

 この仮想世界は本当によくできている。

 シエルは大きく深呼吸。


「俺が目の前にいるってのに、危機感ねぇなぁ」


 やや呆れた風にリュートが言った。


「リュートはいきなり殴ったりしないよね? 少なくとも、このトーナメントではちゃんと戦ってるの知ってる」


「お、おう……」リュートが照れた風に頬を掻く。「まぁ、戦争だったら隙見せたら攻撃すっけど、学校のテストだしなこれ」


 その言葉を聞いて、シエルが微笑みを浮かべる。


「なぁシエル」リュートが言う。「お前って剣使えるの?」


「え? 剣は使ったことないよ」

「そっか。じゃあ、体術で勝負しねぇか? 正々堂々と、な」

「あ、うん。いいよ」


 シエルはコクコクと頷く。


「よっしゃ! 恨みっこなしだぜ?」


 リュートが両手の拳を叩き合わせた。

 今の痛くないのかな? とシエルは思ったけど言わなかった。

 リュートが構えたので、シエルも構える。


「言っとくけど、手加減すんなよ? 全力だぞ? 俺もそうするからよぉ」

「分かった」


 戦うのは苦手だけど、手を抜くのはリュートに悪い。

 そのぐらいはシエルにも分かる。

 だからシエルは先に動いた。

 イリナに習ったのは護身術なので、基本的には受動的だ。


 しかしアビスに習ったのは超攻撃的な体術である。

 シエルは身を低くして水面蹴り。

 しかしリュートは下がって躱す。


「ひゅー、速いし鋭いっ!」


 言いながらリュートが踏み込み、左の拳で攻撃。

 シエルはそれを右手で捌いて左手でカウンターパンチ。

 シエルのパンチはリュートの胸の辺りに命中し、リュートが少し顔をしかめつつ後退。

 シエルが追うと、リュートが飛び回し蹴りを放つ。

 シエルはガードしたけど、ガードごと軽く飛ばされる。


(いったーい!)


 腕が腫れちゃうよぉ、とシエルは心の中で泣いた。

 シエルは着地と同時に再び水面蹴りを放ち、シエルを追っていたリュートを牽制。

 リュートは飛び上がって水面蹴りを躱す。

 シエルが体勢を整え、リュートも着地。


 2人とも一呼吸置いてから打ち合う。

 拳に蹴りに、お互いが次々に攻撃を繰り出す。

 そしてお互いに防御し、躱し、受け流し、反撃する。

 揃って体力も集中力も高いので、2人の打ち合いはそれなりに長く続いた。


(あわわわわ! リュート本当に強いんだけど! もちろんパパほどじゃないけど、負けちゃうかも!)


 リュートはアヴァロンに入学する前は現役の傭兵だったし、年齢も17歳で身体も大きい。

 しかし最初に隙を見せたのはリュートの方だった。

 少し焦ったのか、パンチが大ぶりになってしまう。


 シエルはリュートの腕に触れ、そのままリュートの力を利用してぶん投げた。

 リュートはちゃんと受け身を取ってすぐに立ち上がる。

 シエルはすでに跳び蹴りを放っていて、立ったリュートの顔面にシエルの足裏が命中。

 リュートが再び倒れるが、今度も受け身を取って立ち上がる。


 シエルは着地してすぐにしゃがんで、飛び上がるようにアッパーカットを打つ。

 それが見事にリュートの顎に命中して、リュートがぶっ倒れる。

 今度は受け身を取れなかった。


 シエルはトドメを刺そうと思ったけど、リュートが意識を失っていると気付いて行動をキャンセル。

 小さく息を吐いた。


「どうやらシエルの勝ちのようですね!」ローラが興奮した様子で言う。「さすがは首席と言うべきですか!? それにしても2人とも強い! 1年生とは思えないほど見応えがありました!」



 ヘルトとアデリタはお互い同じことを思った。


(決勝戦では魔法勝負をしようとシエルに持ちかけないと)


 体術ありなら自分たちはまず勝てない。

 この試合を見てそう確信してしまったのだ。



 シエルが現実世界に帰還してベッドを降りると、ニッコニコのリュートが寄ってきた。


「なぁ、シエルって親父と姉ちゃんから体術教わったんだよな?」

「うん。正確には、お姉ちゃんに教わったのは護身術で、体術はパパだけど」

「そっかそっか。ところで頼みがあるんだけど」

「何?」

「シエルの親父と姉ちゃんに、俺も教わりたいんだ。聞いてみてくれねぇか?」

「ええ!?」


(パパはドラゴンでお姉ちゃんは聖女魔王だけど!? 大丈夫そ!?)


「夏期休暇の時に、数日でいいんだ! 頼むぜ! もっと強くなりてぇ!」


 リュートが両手を合わせて、拝むように言った。


「えっと……聞いてもいいけど」

「マジか! サンキュー!」

「あの、断られるかも……だよ?」


「ああ、そん時は仕方ねぇな」リュートはカラッと笑う。「じゃあよろしく頼むぜ」


 言い終わったら、リュートは仲の良い連中のところへと向かった。


(アビスはねー)ラナァが言う。(なんで人間のガキにワシが教えねばならんのだ。食うぞ、って言ってたよ)


(あはは……早速伝えたんだねラナァ)

(うん。イリナは普通に嫌だって言ってる)

(あ、うん。そうだと思ったよあたしも)


 そもそもイリナは戦闘が得意なタイプではない。

 優等生だから型が完璧というだけなのだ。

 シエルに護身術を教えたのだって『妹のように可愛がっているシエルが、何かあった時に身を守れるように』というちゃんとした理由がある。


「シエル、決勝進出おめでとうございます!」

「おめでとう、決勝は僕らのどっちかとだね」


 アデリタとヘルトが笑顔を見せた。

 2人はシエルに会いに来たのではなく、次の試合のためにベッドに転がりに来たのだ。


「2人とも頑張ってね!」


 シエル的にはヘルトに勝って欲しいなぁ、と思った。

 アデリタは親友なので攻撃したくないけど、ヘルトならまぁいいか、という理由である。

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