1話 シエル、ウチュー人の船に乗る
聖域での朝。
シエルは少し遅い朝食を終えてから家の外に出た。
「ふわぁ……寝すぎちゃったなぁ」
背伸びをしながら本体ラナァの所へ行くと、知らない人がいた。
いつもの聖域メンバーであるイリナ、アビス、妖精たちに交じって、その人は「カッカッカ」と笑っている。
(えっと……人!? 人なの!?)
シエルはその知らない人をジッと見つめる。
おかしな点は無数にあるけれど、一番はまずその不健康な肌の色が気になった。
その人は灰色の肌で、銀色の服を着ている。
身体は小さいけど頭は異様に大きく、その上、髪の毛が一本も生えていない。
更に更に、目がアーモンド型でとっても大きいのだ。
(首とかゴボウみたいに細いけど大丈夫!? その大きな頭をどうやって支えてるの!? 細マッチョってやつかな!?)
「あ、おはよーシエル」
ラナァが葉っぱをフリフリと揺らす。
「おはよー」
シエルもラナァに挨拶を返す。
妖精たちが「「おっはー」」と元気よく合唱して、イリナが「おはようございます」と澄まして言った。
シエルはイリナと妖精たちにも朝の挨拶を返した。
そしてまた知らない人物に視線を移すシエル。
その視線に気付いたイリナが、「ああ、こちらはですね」と左手で知らない人を示す。
「ウチュー人さんです」とイリナ。
「ウチュー人?」
シエルが首を傾げる。
ウチューという国や地域をシエルは知らない。
シエルは地理も結構勉強しているし、色々な種族を知っているのだけど、ウチュー人のことは分からなかった。
「我々は宇宙人だ」
ウチュー人が言った。
声や言語は普通だった。
見た目的に、甲高い声を想像していたので、シエルは少しだけ目を見開いた。
「あ、あたしはヴェルテール人のシエルです」シエルが小さく会釈。「個人名を聞いてもいいですか?」
「我は宇宙人の佐藤だ」
「砂糖!? 美味しそう!」
シエルは変わった名前だな、と思った。
「砂糖♪ 砂糖♪ 美味しい砂糖♪」
ラナァがクネクネと踊りながら歌った。
「尊い……」とイリナ。
「実に尊い……」と佐藤。
どうやら、佐藤もラナァのことが大好きらしい、とシエルは察した。
「えっと、砂糖さんは誰の友達ですか?」とシエル。
「ラナァだ」佐藤が言う。「こことは違う星系で出会った」
「せいけい?」
シエルがキョトンと首を傾げた。
「遠くだよ!」
ラナァが葉っぱで空を指さした。
「そっかぁ、すごく遠くの人なんですね」
「ワープすればすぐだ」
「ワープ?」
(やっぱり言語が少し違うのかも? 砂糖さんが何を言ってるのかあたし分からないっ!)
「あっちから、こっちへ」
砂糖が両手で箱を持つ仕草をして、その空想の箱をひょいひょいと移動させる。
「【転移】みたいな?」とシエル。
コクコクと佐藤が頷いた。
「それはそうとシエル」イリナが言う。「砂糖さんは空飛ぶ船を持っているらしく、乗せてくれるみたいですが、一緒にどうですか?」
「空飛ぶ船!?」
なにそれすごいっ! とシエルはビックリした。
「ウチューは魔法道具の技術が発展してるようです」
なぜかイリナがドヤ顔で言った。
「では早速」
佐藤が空を見上げると、突如として巨大な円盤が空中に出現した。
「うひゃぁ!」
シエルは驚いて変な声が出てしまった。
イリナもビクッとなっていた。
「ラナァも行くぅ!」
そう言って、ラナァが分体ラナァを創造。
「ワシも行こう」とアビスが人間に変身。
「妾も行くかのぉ」とパメラ。
「「行くぅ!」」と妖精たち。
「すごぉい、丸っこい」
シエルは空飛ぶ船を見て、そんな感想を述べた。
「どうやって乗るんです?」とイリナ。
「立っていればいいよ。少し光るが、驚かないように」
佐藤が言うと、円盤の中心部分から光が落ちてきた。
シエルは少しだけ目を細める。
そして光が消えると、そこはもう船の中だった。
「ええ? 転移したの? 船の中?」とシエル。
「うむ。我が宇宙船へようこそ」
佐藤が大袈裟に両手を広げて言った。
「宇宙船に乗るの初めて!」
ラナァが船内を走り回る。
「尊い……」
佐藤が温かい表情でラナァを見ていた。
妖精たちとアビスはキョロキョロと船内を見回す。
「ちなみにここは船の食堂だ」と佐藤。
確かにこの広い部屋にはテーブルや椅子がいくつか並んでいた。
柔らかそうなカーペットが敷かれていて、ゴロゴロ転がっても気持ちよさそうだ。
「さぁさぁ、ブリッジに案内しよう」
「ブリッジって何だっけ?」とシエル。
「操舵席のことだったかと」とイリナ。
シエルたちは佐藤の案内で食堂を出て、廊下を進んでブリッジへと移動。
ドアが全部自動的に開いたので、シエルは「ほえぇ、便利ぃ」と感心した。
ブリッジに到着すると、佐藤と同じ見た目の人たちが挨拶をしてくれた。
(見、見分けがつかないっ!)
佐藤を探せ、というゲームができそうなレベルである。
「全周囲ARモニタを起動しろ」と佐藤。
偉そうに命令しているので、きっと船長なのだろう、とシエルは思った。
そして唐突に、壁に外の景色が映し出された。
シエルは壁がなくなったのかと思って酷く驚いた。
イリナは「え? え?」と狼狽している。
「カッカッカ」佐藤が笑う。「安心しろ、映像だ」
「す、すごっ。アヴァロンの先生たちが作った魔法映像より鮮明……」
どれほど魔法道具の技術が進歩したらこんな映像が出せるのか。
「ではゆっくり飛行してみようか」
佐藤が言うと、外の景色が流れ始めた。
正確には、宇宙船が移動を開始したのだ。
「ワシの方が速いな」とアビス。
「では速度を上げてみようか」
佐藤が言うと、景色がものすごい速度で流れた。
「ぬおっ!?」
アビスが仰天して変な声を出した。
(あ、パパより速いんだなぁ)とシエルは察した。
「そしてここが、惑星の外」と佐藤。
急に真っ暗な世界に青い球体が浮いている映像に切り替わった。
「あの青いのは何ですか?」とイリナ。
「ラナァたちの住んでるところだよ」とラナァ。
「ええ!?」
イリナが目を丸くした。
妖精たちも「「ほぉ」」なんて言いながら青い球体を見つめている。
「綺麗……」とシエル。
「ここはつまり、天の更に上ということか?」
アビスが真剣な様子で言った。
佐藤が微笑みながら頷いた。
「ワシですら、天の上には出られない……凄まじい魔法だ」
「ラナァは出られるよぉ!」
「さすラナァ!」
イリナがラナァを抱き上げる。
ラナァが根っこでイリナを抱きしめる。
パッと見、触手の化け物がイリナを襲っているように見えるけれど。
「つまり、ウチュー人どもはラナァ並みの能力があると……?」
アビスは驚愕の表情で言った。
「いや、それはない」佐藤が即座に否定。「我々の技術など、ラナァの前では子供の玩具に過ぎない」
「そ、そうか」アビスが言う。「まぁそうであろうな。ラナァ並みの存在がそんなホイホイいてたまるかっ」
「それより砂糖さん」イリナが言う。「生とかつ丼をください。前にラナァに出してもらったんですけど、元々は砂糖さんたちの国の物なのでしょう?」
全然、聞いたことのない物だったので、シエルはキョトンと首を傾げた。
「うむ。では食堂に戻ろうか」
そしてシエルたちは食堂へと舞い戻る。
佐藤がパネルを操作すると、大ジョッキの生ビールが複数出現。
「創造魔法を魔法道具で!?」イリナが驚く。「すごいですね」
「シエルちゃんはジュースだ」
佐藤はシエルにオレンジジュースを渡す。
「あ、あたしもみんなと同じ生がいい……」
「生は子供が飲んではいけないのだ」
佐藤が強く拒絶したので、シエルは仕方なく諦めた。
しかしかつ丼はシエルも食べることができた。
「めっちゃ美味しい!」
でも朝食を食べたばかりだったので、シエルはほとんど残してしまった。
残念すぎるっ、と思っていると、佐藤が透明な弁当箱にかつ丼の残りを詰めてくれた。
「ありがとうございます」
それから、特に何があるわけでもなく、シエルたちは聖域へと帰宅した。
「空飛ぶ船も魔法道具もすごかったですね!」
イリナはホクホクした様子で言った。
うんうんと頷くシエル。
「今日も楽しかったね♪」
ラナァが言って、みんなが頷いた。




