10話 ラナァ、生を用意する
「わーらわ♪ 妾♪ わらわら♪ わーらわ♪」
パメラが腕をぐるぐるさせながら歌うように言った。
パメラはラナァの真上に浮いている。
「ラーナァ♪ ラナァ♪ ラナラナ♪ ラーナァ♪」
ラナァが葉っぱをぐるぐるさせながら歌うように言った。
「イーリナ♪ イリナ♪ リナリナ♪ イーリナ♪」
イリナはラナァの前で腕をぐるぐるさせながら歌うように言った。
「「るんるん♪ るんるん♪」」
3人が腰をクネクネさせながら声を合わせた。
それからボーッと座っているアビスに視線を向ける。
「……もしかしてワシにもやれと?」
何かを察したアビスが質問すると、3人が強く頷いた。
アビスはしばらくの間、3人と見詰め合う。
そして何かを諦めたように小さく溜息を吐いた。
「アービス♪ アビス♪ ビスビス♪ アービス♪」
割とノリノリな様子でアビスが言った。
腕をぐるぐるさせる代わりに、翼をバサバサと動かしていた。
その時に発生した風で、妖精たちが何人か飛ばされてしまう。
しかし誰もそのことを気にしなかった。
妖精たちはどうせすぐに戻ってくる。
「「いえーい♪」」
イリナ、パメラ、ラナァが拳を握って右腕を突き上げた。
ラナァだけは腕ではなく丸めた葉っぱだが。
「それじゃあ生ビール配るねー」
そう言って、ラナァがみんなの手の中に大ジョッキの生ビールを創造する。
みんなというのは、イリナ、パメラ、妖精たちのこと。
アビスとラナァはビールを飲まない。
「ガラスのジョッキ!」イリナが興奮して言う。「高級品ですね!」
この大陸において、ほとんど全ての国で木製のジョッキが使われている。
王族や貴族ですら、ガラスのジョッキを使う者は少ない。
ちなみにジョッキというのは多くの国で『ビール用の大きなコップ』を指す。
「ところで生とは何が生なのじゃ?」とパメラ。
「ラナァ知らないよー! これが生ビールだよって、目がアーモンドみたいな遠くの人に教わっただけー!」
「何でもいいじゃないですか」イリナが言う。「はいカンパーイ♪」
「「乾杯♪」」
イリナがジョッキを掲げると、妖精たちも同じようにジョッキを持ち上げた。
そしてみんなでグビグビとビールを飲む。
「「うまー!」」
妖精たちが天にも昇る気持ちで言った。
「……ワシも飲んでみるか……」
ソワソワとアビスが人間に変身。
ラナァはアビスにも生ビールを配った。
「……ふぅむ……」
アビスはビールを飲んで首を傾げた。
何が美味いのかよく分からなかったのだ。
「ドラゴンには合いませんか?」とイリナ。
「そのようだ」
アビスが肩を竦めた。
「じゃあドラゴン殺しにする?」とラナァ。
「ワシ殺されるの!?」
アビスが飛び上がるほど驚いて目を剥いた。
「違うよー。そういう名前のお酒だよー」
「そんな物騒な名前の酒などいらん! おのれ考えた奴はいつか踏み潰してやる!」
ふん、とアビスがそっぽを向いた。
イリナはやれやれと肩を竦めてから、ラナァの前に座る。
「シエルはどうしています?」
「んー? なんかテストがあるみたい」
「そうですか。頑張って欲しいですね」
言ってから、イリナはビールを一気に飲み干した。
今日も聖域は平和である。
◇
「まずは筆記テストです」ローラが淡々と言う。「これについて説明することは特にありません」
まぁそうだよね、とシエルは思った。
今までに何回か筆記の小テストを行っているし。
「次に、魔力測定と星を浮かべる基礎力テスト。こちらも説明不要ですね?」
生徒たちが頷く。
「そして最後に、戦闘テストです」
その言葉で、生徒たちがざわつく。
「静かに」ローラが人差し指を自分の口に当てながら言った。「戦闘技術というのはですね、だいたいどこに就職しても必要となってきます」
ゴクリ、と誰かが唾を飲んだ。
「Sクラスのみなさんは宮廷魔導師や貴族のお抱え魔導師になる可能性が高いですが、当たり前のように戦闘技術を求められます。Bクラス辺りだと冒険者になる子が多いですが、どちらにしても戦闘技術が必要です」
「しかし先生」ヘルトが手を挙げながら言う。「僕たちは学園でまともな戦闘訓練を受けていませんよ?」
「ええ」ローラが頷く。「最初の学期でしたので、みなさんは基礎を中心に学びましたからね。しかし次の学期からは徐々に戦闘技術を学びます。今回見るのは今の段階でみなさんがどの程度戦えるのか、という点です」
「戦闘テストの比重はどの程度ですの?」コーデリアが手を挙げる。「順位を入れ替えるのは3つのテストの結果ですわよね?」
「珍しくまともな発言ですねコーデリアさん」
ローラがニコッと笑ったので、コーデリアがビクッとなった。
「次の学期からは戦闘テストが最も大切になりますが、今回はどれも同じぐらいですね」
「では先生」アデリタが手を挙げる。「戦闘テストはどのような形式になりますか? 団体戦、個人戦、色々あると思います」
「毎回違いますが、今回は個人戦です」ローラが言う。「先生たちが魔法で作った仮想世界で、単純なトーナメント形式で戦ってもらいます」
「仮想世界……?」とシエルが首を傾げた。
他にも複数の生徒が首を傾げていた。
「偽物の世界で、偽物の身体を使って戦う感じですね」ローラが少し自慢気に言う。「相手を殺しても実際には死にませんので、思いっ切り戦えるんですよ」
「何ソレすごい」と誰かが呟いた。
「えっと、痛かったりはするんですか?」とシエル。
「痛いですよ。少し和らいではいますけどね」とローラ。
うぅ、痛いんだ……とシエルが少し落ち込む。
「まったく痛くないとですね」ローラが言う。「真剣さに欠けるでしょう?」
それはまぁそうだけど、とシエルは思った。
「トーナメントの舞台は山だったり川だったり砂漠だったりと、ランダムに決まります。地形への対応力も見ることになりますからね」
「本格的だなぁ」と誰かが言った。
「魔法使いはどこに派遣されるか分かりませんからね」ローラが苦笑い。「2年生になったらサバイバル訓練なんてのもありますからね?」
「なるほど」シエルが頷く。「魔法使いは魔法の研究だけをしていればいい、ってわけじゃないんだね」
聖域でノンビリ遊び暮らしている魔法使い(元聖女)もいるけれど。
普通はどこかに就職することになるのだ。
(って、あたし将来とか全然考えてないや……。どうしよう?)
(ラナァと歌ったり踊ったりする?)とラナァ。
(それもいいけど、数年は社会に出てみたいなぁ、あたしも)
「つか、戦闘なら俺の領分だな。首席目指すかぁ!」
クラスメイトの男子が楽しそうに言った。
この男子は序列5位で、比較的明るくて運動ができるグループのボスである。
名前はリュート。
「む……」コーデリアが反応する。「確かあなたは傭兵でしたわね?」
「まぁ一応な」リュートが肩を竦める。「卒業後もそのまま傭兵団に戻るつもりだ」
リュートの年齢は17歳で、そこそこマッチョ。
赤毛の短髪で、顔面偏差値は普通。
特にイケメンではないが、不細工でもない。
戦闘能力が高いのは事実で、シエルはリュートとは当たりたくないなぁ、と思った。
「コーデリアが結婚してくれるなら、傭兵辞めて婿入りしてもいいけどな?」
「なななな、なんですって!?」
コーデリアが頬を真っ赤に染めて狼狽した。
その様子を見て、クラスメイトたちが笑った。
「はいはい静かに」ローラが手を叩く。「みんさんが仲良しで先生は嬉しいですが、テストは来週から始まりますからね? 初日に筆記と基礎力。翌日から数日かけて戦闘テストです」
「そっか……学年全体でトーナメントするから……時間かかるんだね」とシエル。
シエルたち1年生は全部で100人。
Sクラス10人、Aクラス20人、Bクラス30人、Cクラス40人だ。
「テストが終われば、お待ちかねの夏期休暇ですからね」
ローラが柔らかい口調で言った。
(早く聖域のみんなに会いたいなぁ)とシエルは思った。




