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お花のラナァは今日も幸せ  作者: 葉月双
2章

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9話 ラナァ、導く


「まず、触手はとっても可愛らしい」と学園長。


「か、可愛らしい……ですの?」


 コーデリアが小さく首を傾げた。

 アデリタとシエルはポカンとしている。

 ヘルトは「ほう」と腕を組んだ。


「純粋で美しい存在じゃ」


 学園長は孫を自慢するような雰囲気で言った。


「触手なのに!?」とシエル。

「イメージと違いますね」とアデリタ。


「厳密には触手ではないのじゃが……」学園長が小さく笑う。「まぁええか。その触手は、ワシにとっては導き手のようなもの」


「導き手!?」


 ヘルトが驚いて目を丸くした。

 導き手とは、つまりメンター的な存在のことである。

 シエルにとってのイリナがそれに当たる。


「人類最強の魔法使いである学園長に」コーデリアが言う。「導き手がいますの?」


「しかも触手ですか……」


 アデリタが酷く驚いた様子で言った。


「ほぉらこんな風な触手じゃ」


 学園長の右手の指が触手のようにウネウネと伸びる。

 しかもその触手がシエルたちへと迫った。

 あまりにもグロい光景だったので、コーデリアが「ひっ」と尻餅を突いた。

 シエルとアデリタが一歩後退。


「なーんての」


 学園長が笑うと、学園長の指は普通の人間の指に戻っていた。


「なるほど」ヘルトが言う。「学園長の手が触手の正体なんだね。そして学園長は多くの人の導き手でもある、と」


「いや違うが」

「違ったぁぁぁぁぁ!!」


 自信満々の推理を否定され、ヘルトが悲鳴みたいに言った。

 ヘルトも叫ぶんだなぁ、とシエルは思った。


「こ、腰が抜けましたわ……」


 コーデリアが情けない表情で言った。

 シエルとアデリタが両サイドからコーデリアを支えて立たせてあげる。


「ワシの属性は【想像】じゃ」学園長が言う。「想像したものを現実世界に投影する」


「す、すごい……」とシエル。


「そうでもないぞ」ホッホッホ、と学園長が笑う。「現実化するための消費魔力は多いし、投影を維持するためにも別途魔力が必要なんじゃ。効率は悪いのぉ」


「わ、分かりましたわ……」足がプルプルしているコーデリアが言う。「夜中に抜け出す生徒を、学園長が触手で脅かしていたのですわ……それが『夜中に蠢く触手』の正体!」


「違うが?」

「違いましたわぁぁぁぁぁ!」


「いや、正解だよきっと」ヘルトが言う。「学園長の『違うが』という言葉が嘘って可能性を排除するべきじゃないね」


「おお」


 シエルがポンッと手を叩いた。

 そんなこと、今のシエルは考えもつかなかった。

 基本的に、聖域にいる者たちは嘘を吐かないし、その必要もないから。


「さすが権力闘争と陰謀が渦巻く王城育ち!」

「え? シエルそれ褒めてるつもりなの?」

「……えっと……褒めたつもりだよ?」


 ウルウルした瞳でシエルがヘルトを見た。

 ヘルトは苦笑いして、「ああ、そう」と肩を竦めた。


「……なぜかワシ、嘘吐き扱いされておるのじゃが」どこか複雑な表情で学園長が呟いた。「まぁ筋は通るし、それが触手の正体でもええけども」


「やはりっ」とヘルトがニヤッと笑った。


「では、触手の正体も分かったところで」学園長が笑顔で言う。「そろそろ寮に戻りなさい。警備員の見回りが行われる頃合いじゃ」


「見つかったらまずいですわね」コーデリアが言う。「帰りましょう」


 しかしコーデリアはまともに歩けないので、シエルとアデリタが支えた状態でゆっくりと来た道を戻った。

 途中でヘルトが「じゃあ僕はこっちだから」と小さく手を振って別れた。


「まさか学園長が触手だったなんて驚きです」とアデリタ。

「本当にそうかなぁ?」とシエル。

「何か不審な点でもありましたの?」とコーデリア。


「んー、警備員まで脅かしたのはなんでかなって」シエルが肩を竦める。「ほら、触手の目撃情報は警備員からも聞いたでしょ?」


「確かに、と言いたいところですが」コーデリアが言う。「あの学園長なら普通に警備員も脅かして楽しんでそうですわ」


「それはそうですね」


 アデリタが苦笑いで頷いた。

 そんな話をしていたら女子寮に到着したので、3人はそれぞれの部屋へと向かった。

 シエルは自分の部屋に入ってから、ふぅと息を吐いた。

 そうすると、ラナァがシュルシュルとシエルの髪を解いて床に着地。

 それから元の大きさに戻って部屋の中を走り回った。


(なんで走り回るんだろう? 可愛いけど)


 ラナァの走っている様子を見ていて、シエルはふとあることに気付いた。


(ラナァの根っこって、ちょっとウネウネさせたら触手みたいに見えるなぁ)


 ラナァはシエルより先にベッドにピョンと飛び乗った。

 シエルもベッドに移動して、そのままベッドに腰を下ろした。


「ねぇラナァ、ちょっと質問」

「なぁに?」

「あたしが寝てる時って、ラナァは何してるの?」

「んー? ラナァはシエルと一緒に寝てたり……」

「寝てたり?」

「お散歩したりしてるよ!」

「……お散歩?」


「うん! そこの窓から」ラナァが葉っぱで窓を指さす。「ぴょーんって飛び降りて」


「へ、へぇ……」

「それから中庭まで移動して!」

「ほ、ほぉん?」


 あれ?

 もしかして触手ってラナァなんじゃ?

 シエルはそんな風に思った。


「そこでガッちゃんと話してる!」

「誰!?」


 シエルが聞くと、ラナァが首を傾げる。


「え? もうガッちゃんのこと忘れたの……?」

「忘れてないよ!? 知らないだけ!」

「さっきまで話してたのに?」

「さっき……」


 シエルは少し考えて、思い至る。

 確か学園長の本名はガエタン・バイ。

 ガッちゃんと呼べなくもない。


「学園長のこと……?」


 シエルが聞くと、ラナァが力強く頷いた。


「じゃあやっぱりラナァじゃん!!」

「ラナァはラナァだよ!!」


「そうだけどそうじゃなくて!」シエルが言う。「触手の正体ラナァじゃん! 絶対ラナァじゃん!」


「うねうね~♪」


 ラナァが根っこを触手みたいに動かした。

 可愛いけどそれは一旦、置いておこう、とシエルは思った。


「学園長と何の話をしてたの!?」

「んー? ガッちゃんは友達がいないとか」

「いないんだ!?」

「あと、世界図書館に行きたいって言うから、連れて行った」

「それだぁぁぁぁ!! 導き手ってそれだぁぁ!! ラナァが学園長を世界の真理に導いたんだぁぁあ!!」


 パズルのピースがはまるみたいに、全てがカチッとはまった。


「噂の正体、まさかのラナァだったけど!! 一旦、内緒にしとこ!!」


 そもそもラナァの存在すら内緒にしているのだ。

 でもよく考えたら、別にアデリタやコーデリアには言ってもいいのでは、とシエルは思った。

 問題はラナァ大好きのヘルトだけだ。

 ヘルトにバレたら絶対に面倒なことになるとシエルは直感していた。


「……どっかで機会を見つけて、2人には話そう……」


 そう言って、シエルはベッドに転がった。


「そういえば、パパがドラゴンってことも……いつかは話さないとなぁ……」


 いつか2人を自宅に招きたいし、とシエルは思った。

 ラナァがシエルに布団をかけた。

 そしてラナァも布団の中に潜り込む。

 シエルはラナァを抱き締めて目を瞑る。

 すごくいい匂いがして、シエルはすぐに眠りに落ちた。



 そして日々は流れ、一学期の終盤。


「えー、みなさんお待ちかねの夏期休暇ですが」担任のローラが言う。「その前に順位入れ替えテストがありますからねー」


 ここはシエルたちの教室。


「ついに!」ガタッとコーデリアが立ち上がる。「このわたくしが首席になりますのね!」


「コーデリアさん?」


 ローラが笑顔でコーデリアを呼ぶ。


「ひぃ!」


 コーデリアは慌てて両手で自分の口を塞ぎ、座り直した。

 それを確認してから、ローラが言う。


「このテストの結果で、みなさんの順位が入れ替わります。11位以下になってしまうと、Aクラスに落ちるので気合いを入れて臨んでくださいねー」


 生徒たちに緊張が走った。

 SクラスとAクラスでは待遇が違う。

 進んでAクラスに落ちたいと思う生徒はいない。

 あと、まだずっと先のことだが就職にも影響する。


「今回のテストは3種類です」


 ローラが指を3本立てた。


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