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あい/抵抗  作者: 十矢


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師匠と赤い色

 ハナちゃんと師匠、わたしでデートすることになった。

 シラシラはやはり無理そうだ。


 そもそもお仕事ばかり入れていて、一日休みがあると、それを師匠との修行日にしているのだから、師匠が休みの日は、修行がない日だ。

 その日はシラシラはお仕事を入れている。

 あと残りは師匠が連続で休むゴールデンウィークか年末になるらしい。

 ゴールデンウィークと年末は、わたしたちに依頼がよく来る日だ。

 集まるとハナちゃんがかなり残念そうにしている。

 ハナちゃんはよくシラシラの話しをするし、この前も強引にだけど、デートしていた。

 やっぱりシラシラのことが、気になっているのだろう。


 後輩のハナちゃんは、わたしの中ではとてもいい子だ。

 このままいけば、おそらくシラシラに言わせる形で告白され、お互いに納得し付き合うのではないかな。

 けれど、依頼者の女性とはまだ契約が続いている。

 もう少しで契約更新時期になるけれど、少しだけ話しを聞いたところだと、もうずいぶんと立ち直り、シラシラなしでも外出しているそうだ。

 あの元カレも、これだけ警戒されているのだから、もうあきらめるだろう。


「みい師匠は、シラシラに会いたかったですか」

「いえ、いつも会っていますから。今日はみいちゃんです」

「それじゃ、みいさんにします」

「やっぱり師匠がないと恥ずかしい」


 それにしても師匠は、美人だ。

 引き締まる身体に髪は中間くらい、なぜかワンピースを着ている。

 外にでてみると同一人物には思えない。

 あの修行の部屋だけ異空間で獣になる魔法でも、あるのだろうか。

 ハナちゃんがやけに写真を撮るけれど、おそらくシラシラに送りつけて反応をみるのだと思う。


「それで、どこいくの」

「みいさんは、どこいきたいですか?」

「えぇと、お二人がいつもしてるようなお散歩をわたしも体験したいです」


 ハナちゃんと見合わせる。


「いつもって」

「なにしてるかな」

「撃退グッズとかあとは」

「通信機器」

「最近いい発信器できたみたいよ」


 わたしたちの発言がよほどおもしろいらしい。

 くすっと笑っている。


「それじゃ機械屋さんでしょうか」

「それもいいけど、ブランド雑貨とかもいいかな」

「アオイさんがみつけたのなら、そこでも」

「あの倉庫、あんまりいいアクセサリー雑貨ないよね」

「そうですね。パーティーいくにしても、三つくらいで使い回し」

「アクセサリー経費でできないかな」

「女子みんなで買ったら、あっという間に事務所破産しますよ」

「あのぉ」

「どうしました」

「パーティーいったりするのに、わたしこの格好で平気でしょうか?」

「あ、いまの話しじゃないんです。お仕事で潜入みたいなのしていて服は経費でもできるけど、アクセサリーとか高いパソコンとかは、実費で買うこともあります」

「大変。わたしのところも運営大変で」

「いまは生徒さんは」

「四人です」

「一人増えたんだ」

「男の人。たしかなにかのコンピューターでなにかデザインをする人です」

「なにもわかってない」

「大学生くらいって、言ってました」

「くらいって、よくそれで受けましたね」

「生徒ひとりでも多くしないと、あの部屋追い出されちゃいます」


 駅からあまり動いていないため、とりあえず歩きだす。

 ハナちゃんとみいさんが話しているため駅ビルに入り、そのまま上にいく。

 あまりここでなかったら電車で移動して、次の駅で降りよう。


「あ、可愛い!」

「こっちもいいですね」


 ビルの五階にきて三分で、もうあっちもこっちもみている。

 ワンピースなのはいいけれど、あまり飾りもなく、アクセサリーっぽいのは時計だけで、靴はなんとなくシンプルだ。

 あまり買いものをして歩かないのかもしれない。

 十分は経ってもまだショップ前にいる。

 入口から動かない。


「中もみようよ」


 みいさんがこちらをみている。

 ハナちゃんがいろいろ手を出すため、動けないみたいだ。

 三十分はかけてショップをみてから、次にいく。


 雑貨屋さん、インテリア、寝具店、とりあえずなんでも入っていくため、すぐにお昼だ。


「このままだと、一日終わっちゃうよ」

「アオイさん、休みっていうのは一日でどれだけ充実できるかを競う戦い」

「誰と戦ってるのよ」


 みいさんがこちらをみている。

 お昼にいきたいのかもしれない。


「どうしますか」

「とりあえず三階になにかあります」

「お昼したら、移動するよ」

「えぇまだ見たいのに」


 三階にいくと混みはじめているものの、なんとか三人が食べられそうなパン屋さんと喫茶店が半分のお店に入っていった。

 壁には棚があり、少しだけ本も並ぶ。


「パンで平気ですか」

「もちろん。わたし少食なんです」

「へぇ本もある」


 ハナちゃんはパンを預けて、本の棚をみている。


「ハナちゃんってなんだかいそがしいですね」

「たぶんみいさんがいるから、嬉しいんですよ」

「そうですか」

「でも、お仕事のときはサポートしっかりしていて、とても頼もしい」

「お二人って鍛えてますもんね」

「みいさんのおかげ」

「まだ辞めないでください。経営がヤバいです」

「修行より経営ですか」

「百人くらい生徒さまいれば、安心です」


 目標が高いのか、家賃が高いのかよくわからない。

 パンを食べつつ、ハナちゃんは本を置いて眺めている。

 タイトルがよく読めない。


「それなにハナちゃん」

「棚に並べられていました」

「タイトル読めないけど?」


 はい、とわたしの向きに本を直してみせてくれる。

 少女(ひろいん)……


「わかった。ありがとう」


 パラパラっとめくる辺り、それほどには興味がないのかもしれない。


「難しいのか簡単なのかわかんない」

「そういうの読むの?」

「これですか。純文学」

「そう。それ」


 カタンと立ち上がると、なぜか本を持ちさきほどパンを買っていたレジ前にそれを持っていく。

 けれど、すぐに戻ってくる。


「だめでした」

「なに?」

「売りものじゃないって、言われてしまいました」

「どこ出版のなの?」

「小悪魔出版ってなってます」

「なにそれ!?」


 聞いたことのない出版社だ。


「あ、たしかにバーコードないですね」


 ハナちゃんが裏にしたり表紙をみたりするも、見当たらないらしい。


「なんだろ」

「せっかく持って帰ろうと思ったのに」

「そんなに気に入ったの」

「投稿サイトの話ししませんでしたか」

「したっけかな」

「それのに似ている気がしたんですが気のせいですかね。でもどちらにせよ持って帰れない」

「そうね」


 あぁ……とハナちゃんはとても残念そうだ。


「そんなにですか」

「ハナちゃんが文学少女だとは知らなかったな」

「えへへ」


 そういえばアイもなにか読んでいるとリリスタでみた気がする。

 あれは、なんだったろう。

 ハナちゃんが残念そうにしているのをみて、それをみいさんが手に取っている。


「恋愛ですか」

「さぁまだはじめしか」


 今度はみいさんがうなる。

 パンを食べつつ、少し本のタイトルで盛り上がる。


「最近タイトル長いよね」

「ね?」

「どんなのあるのよ」


 例えば、とハナちゃんが有名そうなものをいくつか上げている。

 いや正確ではなさそうだ。


「とにかくなんとかでなんとかなった話しです」

「なにも感心できない」


 そうはいってもハナちゃんが色んなものを読んでいるのはわかる。


「みいさんはなにか」

「わたしは科学とか魔術とか」

「魔?」

「占いとか召喚とか」

「召喚?」

「あれ、なにか違いましたか」


 わたしの想像していたのとは、かなり違う。

 けれど、こう話しを聞いてみるだけでも普段の生活と読むのは、けっこう違うものらしい。

 ハナちゃんがある程度まで進めたところで、パタンと閉じて戻しにいく。


「よかったの?」

「小悪魔出版です。戻ってから調査します」

「調査って」


 ハナちゃんの調査対象は、幅広いみたいだ。

 駅の改札を通り電車に乗る。

 みいさんは景色を眺めるも素直に喜ぶ。

 あまり電車を使わないのだろうか。

 一駅だけですぐに降りる。

 ここだ。


「入るよ」

「何階ですか」

「とりあえず七階」


 エレベーターは混んでいたため、エスカレータで少しずついく。

 七階にはゲームセンターがある。

 この上はレストランらしい。


「ゲームですか」

「少しみておきたいのあって」

「前にも来た系列ですか」

「あ、そうかもね」


 みいさんがふらふらいくため、それぞれ少し店内を歩く。

 わたしがミニクレーンゲームで釣り上げると、二人がわぁっと声を出していた。


「上手いですね」

「はい。あげる」

「いいんですか」

「わたし割とすぐ取れるから。また取るし」

「レベル高い」


 そう言いつつ、ハナちゃんもみいさんも喜んでいる。

 下の階にいきつつ、こんな感じだよ、とクレーンやゲームの技術のようなことを話す。


「アオイさんがモテるわけだ」

「いやゲームだよ」

「服装似合うし身体鍛えてるし、ゲームできるし、あとはなにを求めるのか」

「ほめ過ぎ」


 今度の階は、ショッピングフロアだ。

 いくつか雑貨をみて回る。

 リリスタで何度かみたことのあるショップにも入る。

 というか、このショップを目指して駅をでて移動した。


「みいさんは、あまり買いものしないですか?」

「あまりというか、自分で来ても歩くだけで通り過ぎちゃうし」

「なんでですか」

「似合うのとかわからなくて」


 みいさんなら、派手なものも少し変化のあるものも似合いそうだ。

 ハナちゃんに話しかけつつ、いくつかみいさんのものを選ぶ。


「やっぱりシラシラも来たほうが、よかったですね」

「そうかな」

「女子会も楽しいですが、男性のグッズとかみかけると、どういうのがいいのか気になりますよね」

「そうだね」


 ハナちゃんが話すのは、きっと男性のものを選ぶときにシラシラがいれば、もっと参考にできるのにという感じだろう。

 見方はわたしと同じな気がしてきた。

 お仕事で男性とペアになったときに、仮にでもデートのように振る舞うのに、適当な返事ばかりだと、嘘っぽくなるからだ。

 イチャイチャしなくてもゲームでもなんでも、できるだけ男性目線も含めて探すことはクセになっている。

 わたしの場合は、アイの話しのブランドやショッピングの仕方がほとんどなのだけど、もっとほかの男性の話しを聞くのはいいだろうと思う。

 みいさんに似合うのを探し、そのあとそれをハナちゃんと二人で考えてプレゼントにした。


「みいさんは師匠だけど、もっとおしゃれもしてほしいです」

「そうですか。嬉しいですが頑張らないとですね」


 帰る頃には、もう暗くなってしまった。

 一緒にいるのだからと、みいさんの話しを聞きつつ、修行部屋にまで送った。

 次のデートもしたいと言っていたのは、楽しかったのだろうと思う。


「よかったですね」

「みいさんも戦闘モードじゃなければ可愛い」

「差があり過ぎて、次の修行時間が怖いけどね」


 なんだかハナちゃんと話しているうちに、ハナちゃんの部屋にまで着いてしまった。


「上がりますか」

「いいの?」

「アオイさんはこのあとありますか」

「いえ。じゃお邪魔します」


 このあとは修行もないし、お仕事もほかのかたが受けたらしく急ぎのはない。

 中に入っていくと、思っていたのよりもずっとシンプルな飾りの少ない部屋だ。


「なにか入れますね」

「それじゃ温かいので」

「かしこまりました」


 パチンとキッチンの電気をつけて、ポットを沸かしはじめる。

 テキパキとお菓子がでてくるも、お客様用というより買い置きしてあったものらしい。

 ラグの上に座るも、どうリラックスしようか迷う。

 ハナちゃんはお仕事では後輩だけど、ここのところではもう友だちと同じだと思っている。


 お仕事ではシラシラが長いけれど、レンタルのなかでここまで仲良くなるとは、正直思ってもいなかった。

 なんとなく話したくなって、思いつくだけの話しをする。


「わたしさ、あんまり他人を信頼というか信用というかしてないんだよね」

「そうですよね。知ってます」

「それで……え、知ってるの」


 眼の前に来て今度は、お砂糖やスプーンを並べている。

 紅茶なのかもしれない。


「アオイさんは覚えていないですよね。でも、わたし何度かアオイさんとグループになってて、それで接してるうちにわかりました」

「そうなんだ」


 ハナちゃんが違う名前で活動していたのかもしれない。

 入れ替わるときにはあっという間なため、いまのグループになるまでは、しっかりと覚えていなかったような気がする。


「アオイさんは野生の狼みたいなところありますから」

「ニホンオオカミは絶滅しちゃったじゃない」

「それじゃ遺伝子だけ受け継いだ別の種類ですね」

「絶滅危惧種ですか」


 ポットが沸いたらしく、カップに注いでくれる。

 紅茶のいい香りがする。

 それをテーブルに置く。


「自身ではそれに気づかないものなんですよね」

「ハナちゃんは、いい子だよね。だけど、あんまりわたしのこと信頼しちゃだめだよ。お仕事ではいいけどさ」


 そんなに広くないテーブルの正面に座るため、顔が近い。

 わたしは少し(うつむ)いて話す。


「信頼? してますよ。先輩ですけど、もう女友だちって感じだしなにより格好いいし」

「おそらくだけどハナちゃんが知ってるのは、お仕事のわたしだけでしょ。普段のわたしは頼りにならないし人の真似ばかりだし、資金貯めてるのだって、推し活みたいなのにしか使わない。空っぽだよ。中身は……」

「なんで、その話しわたしにするんですか」


 ハナちゃんの表情をそっとみる。

 もっと無表情かと思ったのに、何故か微笑している。

 また俯いた。


「思いつきだよ。部屋に入れてくれたし。紅茶飲んだら帰るから」

「なんで、そんな彼氏みたいなオレ邪魔だろ、みたいな話しになってるんですか」

「家出てから、友だちとかもうあまりつくらなくていかなって思ってて、たぶんあとはシラシラみたいな男の子と本心あまりみせないで付き合って、それで誰か追いかけて適当なところで人生あきらめるとかかなって、もうずっと思ってるからさ」

「だめですよ。アオイさん。シラシラはそこまで軽い男の子じゃなさそうだし、人生もアオイさんがいうほどには都合よくいかないの」

「そうかな。もう少ししたら、もう余るほどの資金になりそうだし、シラシラだって男の子なんだから誘惑とかそういうのしたら案外上手くいくかもよ」


 またハナちゃんの様子をみる。

 紅茶のカップを飲みつつ、なんだか余裕そうだ。

 もっとあきれるくらいかと思ったのに、それでまた俯く。


「ふふっなんか嬉しいですね。今夜泊まりませんか」

「ハナちゃん百合なの? わたし女の子に欲情するかわかんないよ」

「やだなぁ。女子会の続きですよ。お泊り会とかしたことないですか」

「高校生のときは、可愛い顔してるからって生意気なんだよ! とかは言われたな」

「不良ですねぇ」

「いや相手だよ」


 今度は近くにあったトランクのようなところから、タブレット端末を取り出している。


「調べもの」

「さっきのやついまのうちに調べておかないと」


 さっきのは冗談で、もう用は済んでいるのかもしれない。

 早めに紅茶を飲もうとカップを回す。

 アオイさんって……とタブレットを見ながら話すため一瞬なにかと思う。


「さっきの?」

「アオイさんって、本は詳しいですか」

「あぁ図書館みたいになってるあのパン屋さんのね」


 ようやくわかった。

 長文タイトルがあるとか、そういう話しをしていたやつだ。


「いったいどれほど隠れているのか」

「みつからないの?」

「小悪魔出版は見つかりました。けれど、怪しいサイトなんです。アオイさんわかりますか?」


 タブレット端末を見せられるため、近くまで移動して隣でみる。

 タブレット端末を見たときに気づく。

 けっこう遅い時間かもしれない。

 明日早いということはないけれど、ショッピングをして回った疲れもあるし、ここまでくると本当にハナちゃんの部屋で泊まらせてもらったほうがいいかもしれない。


「これって明日でもいいかな」

「えっなんでですか」

「充電器はある?」

「うん」

「それじゃ明日起きてからにしようよ」

「充電器?」

「シャワー借りたい」

「シャワー?」

「泊めてくれないの……」

「それ……急になんでそんなことに」

「タオルとあとなんか適当に借りるね」

「あ、ちょっと漁らないで」

「ハナちゃん」

「本名をそんなに甘くささやかないでください。あまり言うなら今度シラシラ呼びますよ?」


 なんでシラシラを呼び出すと、わたしの牽制になるのだろう。

 けれど、せっかく女の子の友だちなのに間に男が混ざるとややこしくなるだけなので、オトナしくタオルだけでシャワーにいく。


 赤意 (はな)ちゃんというのか。


 ハナちゃんはタブレットに戻っている。

 さっきわたしに惚れているみたいにみえたのは幻か。

 でも、スマホにここの住所と本名は登録しておこう。

 お仕事は借りものだけど、泊めてくれるのだからきっと許してくれるはずだ。

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