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あい/抵抗  作者: 十矢


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あいが多い赤の恋人

 前回のときにはデートの約束をしたわけではなかった。

 でも、シラシラとはアオイさんのことでも、お仕事のことでもなくて、もう一度ちゃんと話したかった。


 シラシラは周りのひとたちの意見では、それなりにイケメンだけど、軽率さを表に出しているようで、そこがモテる要素らしい。

 つまり女性に対してノリがよくて、そこそこトラブルからは守ってくれそうで、それでいて最期離れても文句も言わなさそうという女性にとって都合のよい男の子という扱いらしい。

 本人が聞いていたら、泣くんじゃないかな。


 ともかくわたしは真面目な印象があり軽いのは、おそらくお仕事上そのほうが生きやすいという知識からの性格だと捉える。

 だから、そこそこシラシラはわたしのお気に入りの男の子だ。


 わたしのこの気持ちはしばらくの間、しまっておこう。


 ということでシラシラとデートすることにした。

 前に続いてと考えれば二回めだから、そろそろわたしを意識くらいは、してくれていそうだ。

 アオイさんについて聞いたときに、好みはわかりますか、とたずねた。


 そのときは「なぜこっちに聞く」だった。


 だから、シラシラのことかもよとこっそり言ってみた。

 反応はなかなかよかったのを覚えている。

 デートするときの連絡を入れてみたときに、シラシラはもっと軽く返してくるかもと思った。

 わたしはお仕事仲間だし、友だちといっても師匠の場所で会う以外は一回だけのお仕事デートだ。

 だから、あのときのは本気にはしなかっただろうし、意識させたかったというのと、あとは単純にシラシラと話しをこれからもするときのいい会話にでもなればいいくらいだった。

 けれど、今回連絡を入れてみたら、他に休みに用はないのか、疲れるのにいいのかという心配の声だ。

 これはアオイさんが余所見(よそみ)しているうちに、わたしがアピールしてもいいくらいの状況だと察知した。


 シラシラはどうですか。

 わたし可愛くはないですが、お相手くらいはいいですよとアピってみたら、いいよ、いつにするって返ってきた。


 わたしはあまり持っていないなかのスカートにして、上は薄いシャツ派手めな上着をかけて、こっそり眼鏡ポイントに化粧もまぁしてみた。

 よくいえば、頑張ってますねくらいでいいのだ。

 車を使ってもよかったけれど、電車で恋人ごっこができるかもと電車にして、駅前で待ち合わせて「待った?」と言ってみた。


「いやこの像をみたくて、早めに来てた」

「へぇなんて書いてありますか?」

「妖精の像。詩をつくる者で恋愛の詩を数多く残した。とても顔が格好良い妖精らしい」

「妖精なんですね。でも、どうやって造るんだろ。どこかに文献でもあったのかな」

「みたことあるんだろ」

「おお? え、なんですか」

「妖精でも妖精博士でも、いたかもしれない。みたかもしれない。想像だけじゃない存在だって知らないだけっていうのもありだよな」


 なかなかいい彼氏候補だ。

 すぐに否定しないし、みた感じだとファンタジーでもSFでも、多少なら話しを出来そうかもしれない。


「それじゃいきますか」

「電車でいいのか」

「三つくらい先で降ります」


 電車に乗ると少し混んでいたため、座る席はなかった。

 代わりに隣に立ち、ものは試しで腕を組んだ。

 意外そうにしたあと、とりあえずそのままだ。


「メイクとかするんだな」

「眼鏡もしてます」

「聞いてなかった。ハナちゃんは恋人とかいるのか?」

「いたらどうしますかね? いないですけどね」

「そうか。恋人はいそうだけど、なんだろう。いたらたぶん、誘わなかっただろうと思ってる」

「シラシラはなんでつくらないの? 恋人選び放題じゃ。何回も事務所に電話来ているし」

「電話のは好きです、じゃないだろ。なぜわたしのところには来なくなったの、とか」

「同じ気はしますけど」

「恋人選びとして依頼されてないからな。恋人関係にしたいならせめて恋人候補を準備してくれ、くらいは伝えてくれないとお仕事関係でしかないだろ」

「真面目。俺格好いいし、恋人未満でも付き合うか、いい女だしいいかとかないんですか」


 少し考えている。

 けれど、返事は予想通りだ。


「あまり意味のない付き合いはしたくないし、男だけ得するような関係は、ただのこじれる要因だと思う。どうしても候補にしたいなら、デートくらいはちゃんとしてからだな」


 やはりシラシラは思っているよりはずっと真面目で、そして、お仕事仲間よりも友だちとしてしっかりと伝えてくれている。

 腕をパッと離してあげて、今度は一緒に外の景色をみる。


「すぐ着きます。でも、前よりちゃんとしてますよ」

「あぁわかってるよ。別にハナちゃんをそんなに甘くみてないし、それなりにちゃんと楽しみにしてる」


 ま、合格かな。

 とりあえず待ち合わせから、シラシラはわたしをアオイさんの代わりに選んだわけじゃないことはわかっていた。

 けれど、こうしてお仕事関係としてきたわけじゃないと言ってくれたのには、感謝するしかない。



 博物館にいき、そのあと図書館にもいった。

 お昼を喫茶店にして、なぜかメニューにあったラーメンにした。

 また移動して、今度は水族館に向かう。

 あまり遅くならないようにはしたいけれど、水族館はいきたかった。


「しーらちゃん!」

「シーラカンスの前に来て言われると、微妙な気持ちになるな」

「よくシラシラと聞きわけできますね」


 シラシラから、今度はしーらちゃんにしようかな。


「ハナちゃんは前は違う名前だったけど、最近はハナちゃんだよな」

「ずっとハナちゃんですよ。でも、名字で呼んでもらったり、ときどきカナとかミナとかそういう変化ですね。依頼者のあまり印象に残らないほうがいいかなって」

「そっか。聞いていいのかな」

「なんですか」


 水族館のどこも青っぽい館内のなか、眼鏡を触る。

 できるだけシラシラをみつめる。


「恋愛して結婚とか考えないのかな。それともほかにもなにかある」

「わたしたちお仕事ジャンキーじゃないですか。まともな恋愛って続きますかね」


 本音を言ってみる。

 シラシラだって同じはずだ。

 わたしたちが似ているのかわからない。

 けれど、このお仕事で長く続けるのは、なにかの資金がほしいか、ほかの人間関係に苦労したか、その両方だろう。


「ハナちゃんはもっとまとまったら、すぐに切り替えるのかな。それとも続けると思う?」

「資金集めですか。たしかにありですが、シラシラがいてくれるならしばらく続けてもいいかなぁ?」


 いいベンチがあったため、手を引いて一緒に座る。

 まるで恋人同士だ。


「そういうのは依存の始まりじゃないか。こっちが辞めたら、そしたら辞めるのか?」

「そうですよ。わたし依存症なんです。誰かにくっつかないと、たちまち弱るんです」


 シラシラが手を持ち替えてから、しっかりとこっちをみてくる。


「……なんかあったんだな。前の仕事場?」


 ぐっと眼の前に光景が浮かぶ。


 咄嗟(とっさ)に手を動かそうとしたら、そういえば掴まれていて動かせない。

 代わりに、身体にふるえがはしる。

 わたしの様子がおかしいからだろう。

 シラシラが腕を回して抱きしめてくれる。


「なんでわかるんですか。まだなにも言ってない」

「ごめん。思い出したくないようなやつだな。忘れて」

「ふふっはっ! シラシラが優しくて涙でない!」

「落ちついて。いや泣いたほうがいいのもあるぞ。水族館なんだからわからないだろ」


 あぁアオイさんと一緒だ。

 シラシラが一緒に溺れてくれるらしい。


「それじゃ……泣きますけどぉ……逃げたら殺しますね」


 しばらく泣いていなかったからだ。

 ふと泣いたら、そのまま続けてぼろぼろになる。

 眼鏡を外してみたら、視界がシラシラでうまる。

 ベンチだからよかったけれど、立っていたらそのまま床に沈んでいた。

 シラシラが背中を触る。

 ようやくふるえは止まるけれど、涙が今度は止まらない。


「ごめん。口に出せないことだろうとは思ったけど、余計泣くことになったな」

「ようせい……のうた……」

「ようせい?」

「あの像の……」

「あぁ」

「妖精詩に……刺した痛み……とばす魔法」

「うん」


 シラシラはわたしが泣きながら話すのも、ちゃんと聞いてくれる。

 少なくとも二人依存先(わたしのいためとめ)がみつかったらしい。

 依存っていうと人聞(ひとき)き悪いけれど、わたしの存在を確かめるには、それが近道でいままでそれすらなかったため、不安でお仕事だけしかもうなかった。


 三十分は泣いていた気がする。

 ずっとベンチで抱きしめられているため、ときどき高校生がにやにや通り過ぎる。

 頭がようやく透明になる頃には、話しくらいは出来そうになった。


「飲みもの」

「買ってくるか」


 ベンチから立ち上がるとふらふらする。

 そのまま休憩スペースまでいき、一度顔を洗ってから、座って待っていたら、水のペットボトルを二つ買ってきていた。


「ありがとう」

「いやそれより」

「お話しするから。少しいいですか……」


 そんなに長い話しじゃない。

 前の職場は事務所だ。

 その日は残業した。

 夜おそくまでかかっていて、一人だった。

 途中に接待でも受けてきたのか、同僚の男性が事務所に戻ってきた。

 なんとなく顔が赤くなっていて、お酒でも飲んだらしい。

 帰ろうかとカバンを持ち上げて挨拶しようとしたら、急に腕を掴まれて倒された。

 にやついてきてそのまま身体をベタベタ触ってくる。

 あまりに気持ち悪くて、やめてくださいと叫ぶと今度はぶたれて、おさえつけられた。

 襲われるとわかった瞬間に机から落ちていたカッターナイフが目に入った。

 そのまま右手でカッターナイフを取ると相手の身体めがけて思いっきり突き刺した。

 カッターの刃は出ていなかったはずだ。

 カバンと鍵を拾うとすぐに走りだし、そのまま泣いて帰った。


 次の日には、電話で退職すると伝えた。

 荷物を取りにいくために、かなり休んだあと職場にいくと、上司にお説教された。

 あの日は、強盗が入って同僚が刺されたという嘘の出来事になっていた。

 わたしが残業していたのに、警察には届けなかったというのだ。

 わたしから警察にいえるはずもない。

 会社では残業なしの日のはずでその日の出来事が、もし警察にわかれば、わたしが刺したと認めることになる。

 過剰(かじょう)防衛だと言われたら、わたしは刺したことすら悪いこととなる。

 同僚のお見舞いにみんなでいくという話しまでされて、わたしは上司に退職届だけ渡した。


「あの日に側にあったのが包丁でも拳銃でも、わたしは使っていました。人殺しってこういう(わたし)のことなんですよね」


 わたしがへらへら話すのに、シラシラはとても真剣に聞いてくれた。

 また抱きしめてくれるのかと期待したら、ペットボトルを持ち上げる。


「今度そいつ見つけたら、水かぶせてやろうぜ」

「電気バチッ持ってますから、電気のほうがいいかと。ショック死?」

「失神はするだろうな」


 そのあとシラシラは捕まったら差し入れはいるよなと、気づかいをみせてくれる。

 わたしが泣いてもシラシラは、受け止めてくれることがわかった。

 ひとまず進歩だろう。


 もし差し入れをしてくれるなら、あいがたくさんのライトノベルがいい。

 きっと恋愛小説(あい)なのだろう。

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