あかい修行
シラクラさんと倉庫であった。
相変わらず疲れていそうだった。
いまはシラシラと呼ぶようになった。
アオイさんのおかげだ。
シラシラは先輩だけど、頼りになる一方でレンタルのお仕事には、ずいぶんと向かない性格な気はする。
アオイさんと話すときは軽く話すし、数ある依頼者の女性にはかなりモテているみたいだけど、それはお仕事のスタイルとしての明るさがそうさせているだけのようだ。
わたしは違う一面をはじめにみてしまったからか、ほかのかたと印象は違うみたいだ。
たしかシラシラが別の男性同僚と、一緒に来ていたときだ。
四人で駅で待ち合わせると、女性二人と男性二人だ。
そこまでは広くない会場に着くと、ほかに六人来ていた。
けれど、こっそりと教えてくれたのは、そのうち二人は同業のレンタルだというから、残りの四人のための集まりらしい。
その四人は業界関係といっていたけれど、テレビ系列であることは明らかだった。
みんなしてハロウィンの格好をしていて、そのうちカメラ取材が入ってきた。
まるで台本でもあったかのように、その四人は一般人のいまの料理や街の流行りを得意げに話す。
シラクラさんをみると、あきれている感じがしたため台本ありの取材だったことは明らかだ。
「ありがとうございました」
取材陣が帰ると、すぐに他社レンタルの二人は帰っていった。
そのうち一般人のフリのうち二人も帰っていったため解散かと思っていたら、男性がひとり声をかけてきた。
「このメンバーで別の日の取材も受けたいのですが、年末特番出たいかたはいますか?」
ようやくシラクラさんがあきれている理由がわかった。
同じような取材の録り溜めで、わたしたちを使いたいらしい。
たしかにカメラの前にでる仕事など、なかなかはないだろう。
けれど、レンタルのお仕事で取材ばかり集めても、なにも得することはない。
シラクラさんが号令をかけて帰ろうとすると、女性二人だけでもいい、業界に紹介してもいいと言い出した。
一瞬静かになった。
わたしとシラクラさんは、とてもそんな気などない。
けれど、同僚の二人は考えているようだ。
もしかしたら、これが業界の入口になるかもしれないと、そんな風に思っていたのかもしれない。
そのあともその場で執拗に日時やどういった内容かを説明された。
「そういった光の当たるところには興味はない。こっちは影のなかで、それでもたくましく生きるんだよ」
「女性お二人のご意見は、どうですか」
「失礼しますね」
シラクラさんは、取材は別のかたにお願いします、とそういって外にでた。
わたしも腕を引っ張られて一緒にでることになった。
後ろの二人は、なにか少しだけ話してから出てきた。
「あんなんじゃ仕事こなくならないか」
シラクラさんの言い方だろう。
「カメラのある場所で仕事を探したいなら、いまここにいないだろ」
「でも」
出て後ろからついてくる二人は明らかに業界に入れるならと、そう期待しているらしい。
シラクラさんに対して、ややきつい言い方であんなに断ることもなかったと言っている。
翌日には、その同僚男性はいなかった。
辞めていったらしい。
同僚のもう一人の女性は、シラクラさんも来ないかと誘っているのを二回ほどみた。
シラクラさんに対して、あなたが来てくれたら頼りになるしデビューできそうと、そう言っているみたいだ。
ちらりと倉庫で話しているその姿をみたときには、明らかにシラクラさんは止めておいたほうがいい、胡散臭い話しだと注意さえしているようだった。
数日後には、その同僚女性もいなくなり、グループは解散と言われて別のグループに移された。
半年ほど経ってから、一度だけその同僚女性に似た人が、イベントで水着撮影会があったという様子のなかにいた気がした。
けれど、そのあとで雑誌などでみたことはない。
一年ほどしてから、また別のグループに移されたときにアオイさんとシラクラさんと一緒になった。
「それで、ハナちゃんは師匠の話し聞いたの?」
「聞きましたよ。アオイさんと三人で女子デートにいきたいみたいです。シラシラから連絡きていて、今度誘いますって昨日、本人からも言われましたよ」
「師匠って友だちいないのかな」
「強いと」
「まぁ強さがね」
今日も師匠との修行の予定がこのあと入っている。
休みがあるとこのところアオイさんと行動することが増えた。
アオイさんは先輩だけど、だんだんとお世話したくなり、女友だちとして接するようになってきている。
「アオイさん、今日は」
「一件だけよ。夜に一つ入ってる」
「師匠のところは、パスなんですね」
わたしは休みなため、夕方になってから修行だ。
「どこにいくの?」
「駅前開発してるじゃないですか。だから、いまのうちに景色みておこうと思って」
「そっか。それじゃそのあとショッピングだね」
お昼前だからと駅前にいき少しぶらついたあと、どこかに入るのかと思った。
けれど、ビルのフロアの休憩スペースが空いているとそこに座る。
飲みものを探すと、すぐ近くのショップがクレープもだすお店だ。
「なに味?」
「サラダツナ」
「そんなのあるの?」
「たぶん」
「わたしはいちごソースホイップにしよ」
買ってきてくれたあと、自販機で飲みものを買いつつそこで食べることにする。
「なんだかおかしい」
「え、なに?」
「さっきは師匠との予定は女子デートって言ったけど、アオイさんといると女子なんだけど、なにかお付き合いしてる人とのデートみたい」
「そうかな。ハナちゃんがおしゃれで可愛いからじゃないかな」
「クレープ食べてるアオイさん、めっちゃ可愛いですよ。写真撮ろう」
「いいけど、そんなに可愛くはないと思うけど」
そう言いながら自撮りをする。
顔をくっつけると、アオイさんが恥ずかしそうにしていて余計に抱きつきたくなる。
「これシラシラ惚れるな。四人で集まれるといいのに」
「なんで四人よ。シラシラ入れても男子一人じゃん」
「外してお出かけするのも、なんだか悪いですよ」
「そうかなぁ」
クレープのホイップをペロッとなめている。
アオイさんは、自身の魅力をこれでもかってわかっていないらしい。
「よくそんなので、恋人もいないで生き延びましたね」
「でしょ。アイのおかげかな」
「アイさん? お友だちですか」
「友だちじゃないよ。でも、そうだね。恋人つくるなら、みつけてから考えるかぁ」
わたしはサラダツナなため、少しずつ食べるも、気になる関係だな。
友だちじゃないのに、恋人より優先しているらしい。
「アイドルとかですか」
「少しシラシラに似てるかも」
それはますます気になる。
せっかくのわたしの恋人気分だけど、もしかしたらそのアイって人に奪われるのかもしれない。
今度調査しなければいけなくなった。
「シラシラって恋人つくらないのかな」
「なに気になるの。ハナちゃん」
「うん。まぁ嬉しい出来事が待ってるといいなぁ」
「なにそれ。関係者の人みたいな?」
「友だちかなぁ。親戚とは違うかもですね」
「そっか。親戚いないからわかんないや」
「え……家とかは」
「家出たから、もうわかんないね。親戚もたぶん誰も覚えてないんじゃないかな」
「そうなんですね」
「気にしないでね」
アオイさんがクレープを食べ終えて口を拭う。
じっとみてしまう。
サブリーダーとして、とても度胸がありみんなに信頼されているのに、ときどき寂しい表情にみえるのは、孤独感があったからなのかもと思ってしまう。
けれど、いまはシラシラもわたしもこうして行動するようになったし、アイって人もいるため、そこまで病的なわけではないだろう。
「わたしはこのお仕事向いているのかもしれないですね」
「お仕事?」
「ほどよくなにも持っていないし、みんなみたくなにか憧れて目指すわけじゃない。ただ人とは関わりたいから」
「ハナちゃんはよく気がつくし積極的だから、きっと他でも上手くなるよ。わたしはだめなんだ。ここ以外だと、なにもなれないでいる」
「そんなことないのに」
「わたしのいま好きなことはみんな、教えてもらったことだらけなんだよ。自分でなにかをこれって選ぶことをもう忘れちゃったな」
クレープを食べ終えたけれど、アオイさんのことをわかっていたはずなのに、またひとつ遠くなった。
仲良くなったと思ったけれど、近づいた分だけ遠くなっていたらしい。
手を出されるため持っていたごみを渡すと片付けてくれる。
下に置いてあったペットボトルの飲みものを飲みつつ、観察する。
シラシラと似ているのは、アオイさんなんじゃないかな。
周りのことを気遣うクセに、本人はそれを自分が軽いせいだ、なにも手に入れていないと思い込んでいる。
戻ってきて隣に座ると、アオイさんも飲みものを口にする。
そのあと手を出されるため、今度は空の容器を渡した。
アオイさんに、始めて憧れに近い感情を抱いた瞬間を思い出した。
アオイさんはもう覚えていないだろう。
ショッピングをして、夕方前に軽食のできるお店に入った。
アオイさんはショップでもここでも楽しそうにしているのに、なにかを引きずっている。
シラシラのことではないみたいだから、クレープのときの話しかもしれない。
「楽しかったです」
「次は師匠と三人だね」
「四人でも、いいなぁ」
アオイさんから師匠に伝言を頼まれた。
アプリでも言えそうだけどこのあと会うのだから、伝えよう。
師匠の場所に着いた。
「師匠、修行メニューの前にいいですか」
「なんですか」
「三人か、四人でのデートいいそうです。日程あとで決めましょう」
「本当にですか! よかった」
「それで」
「あぁメニューですよね」
今回の訓練は、防御訓練だ。
叩かれたり投げられたり、なにかで押さえつけられたりしたとき、すぐその場で軽減できるものを教えてもらう。
ときどき師匠が本気で殴りにきてるんじゃないかと、恐怖心もでてくる。
「怖いです」
「それです。怖さがいいんですよ」
休憩時間にシラシラの話しを少しして、それからまた訓練で、メニューが終わり着替える頃には、汗だくになった。
簡易シャワーを浴びて、着替えてから更衣室をでると呼び止められた。
「赤意さん」
「なんですか」
「アプリの項目で、応えていただいていない項目がありましたね」
「まぁそのうちに」
「いえ。ソフトコースにしたのもそれが原因ですか?」
「そんなことはないです。でも、ハードでなくてもちゃんと修行はします」
「わかりました」
外に出ると、やや身体が冷えてしまった。
駅に向かう。
あの師匠は観察が優れている。
もっと話しをして精神的な訓練をしてもらえるなら、そのほうがいいかもしれない。
アオイ先輩とはじめてグループになったときのことを思い出した。
あのとき女子たちを守ろうと参加していた男性たちに向かって、まるで冷徹な獣のような感情で言い放つ。
「歪んだセカイでも愛があればいい。でも、あなたたちのはただの欲望だらけの墜ちた感情しか、みられない。あなたたちは愛さえ利用するだけ」
あかが青に溺れた瞬間だ。




