心配は半分に
なかなか三人の休みの日程は合わない。
シラクラは男性陣のなかでは、お仕事をたくさん取るほうだし、ハナちゃんは、お仕事の数はいまのところ少なくしているけれど、シラクラやわたしの補助に回ってくれることが多い。
順番にこなしていくうちに、ようやく三人でいきましょうとハナちゃんが声をかけてくれた日があり、その日で集まることになった。
もちろん泥沼三角形デートなわけじゃなくて、護身、武術、ほか対策に繋がりそうなことを探すためのものだ。
事務所に近い駅で待ち合わせることになり、その時間ちょうどに集まる。
駅前広場は混雑していて、シラクラが微妙に格好をつけていた。
広場には、悪魔の短剣と天使の羽根というよくわからない組み合わせの像がある。
説明を読む間もなくシラクラがその像の前にいて、だれか女性に声をかけられていた。
ハナちゃんではなさそうなため、無視して声をかける。
「シラシラ待った?」
「あ、いやちょうど」
「なにか待ち合わせ?」
「いや声をかけられて」
ちらりと女性をみると、見るからにわたし自信ありますという感じの髪も服装も靴もおしゃれな美人だ。
ハナちゃんも見つけたみたいで、三人で集まる。
「シラクラさん、ナンパしてるんですか?」
「いや声をかけられて」
女性三人に囲まれてシラクラは、かなり戸惑う。
けれど、すぐに女性が離れていく。
名刺を渡されたらしい。
「それで、だれ?」
「声をかけられて」
「それは聞いた」
「雑誌インタビューだってさ」
はぁ! とハナちゃんとわたしで同じ声をだす。
「それってモデルってこと」
「そうらしい」
「はぁ! なにそれ」
シラクラはたしかに見映えがいいことは、まぁ認めよう。
けれど、モデルにスカウトされるとか聞いてない。
いや、いま聞いたか。
納得はできない。
「それじゃいまのは雑誌の編集者?」
「それか、スカウトかもな」
「それ連絡するの?」
「お仕事がこれじゃなぁ」
「表舞台もいいかもよ?」
「こっちは裏側なのか。知らなかったな」
セカイの裏側ですね、とハナちゃんが像をみながら話す。
なんのことだろうか。
「知らないですか」
「とりあえず動こう。邪魔かも」
「あ、そうですね」
歩きつつ広場の像の説明をされた。
セカイの裏側では悪魔や天使たちが活躍していて、わたしたちの生命の交通整理をしてくれている。
一悪魔は短剣を使うのが得意で、自身でなんでも造っていた。
もう一天使は天使の制約を……するために活躍していて、その羽根が一部地上に降り注いだと云われている。
その一天使には孤児の天使がいつも側で見ていた。
その悪魔と天使、天使子どもが地上に残した痕跡ということらしい。
「都市伝説にしては細かくない?」
「像の制作者とかに、お話し聞ければわかるかもですね」
「お伽話しだな」
「天使とか悪魔とかまるで"なろう" みたいですね」
「なろうって? なにに?」
「え、読まないんですか!? "なろう" ですよ!」
「あぁ! あれか……」
「あれです」
「なに? 二人して」
そのあとハナちゃんが投稿サイトについて熱心に話してくれた。
なるほど。
たしかにわたしも聞いたことがある。
聞いたことはあるけれど、リリスタの投稿には興味あっても、投稿サイトに自らなにかを作成することがなかったため人伝で聞いたのだろう。
それにしてもハナちゃんが投稿に興味があるとは少し意外だ。
「そこでは日夜、飽くなき挑戦のランキングという戦いが……!」
「ランキングってどこかパッとしないわね」
「なんでですか?」
「影にある部分でしか、わからないことってあるもの」
「……そっか。わたしたちですね」
「おい。こっちはそんなに日陰なのか」
「え? わたしたち日向ぼっこしましたか」
「たまにはしたいな」
「二人とも脱線し過ぎじゃない?」
わたしが間に入ると、ようやく二人が日陰から戻ってきた。
「あぁ格闘の修行ですね!」
本当に忘れていたのかもしれない。
まだ駅すぐから、動き出していない。
「どこにあるんだ」
「地図だと、そんなには遠くないはずよ」
ひとまずは駅に近い場所からいってみることにした。
案内では駅前から十五分とある。
十五分ではつかないみたいだ。
「この辺ですか」
「ちょっとみせてくれ」
立ち止まりスマホ地図の画面をみせる。
くるりと回すと、割りと近いはずだ。
「あ! あの上あたり」
ハナちゃんが気づいて上をみると、武術素人歓迎とある。
ビルの三階部分らしく、それで見落としたらしい。
近くにいくと、エレベーターはない。
「階段ですね」
「修行はここから始まるんだな」
二人のイメージでは、もう訓練を始めているということらしい。
頼もうっ! とか言って道場破りとかしないだろうか。
心配だ。
心配は、半分だけ的中しているみたいだ。
扉の前には、頼むからだれか歓迎とある。
「ここって」
「人気ないな」
「やめておく?」
扉の前で考えてしまう。
「まぁ階段上ったしな」
階段を下りるよりは、中に入ることにした。
「格闘してるってここですよね?」
「はい! いらっしゃいませ!」
「師範とか、いまいますか?」
「はい!」
「えぇと」
「わたしです! わたしひとりでいまいます!」
「やめておくか」
「冗談かしら」
「あぁ! お手本みせればいいってやつですよね! かしこまりました」
いきなり腕を捕まえてシラクラを部屋の広いところまで連れていく。
速くてなにがあったかわからない。
いつの間にかシラクラは倒されていて、天井をあ然とみている。
「は?」
「いまのなにが……」
「もう一回しますか?」
シラクラが頷くため起きあがるも、またシラクラは倒されている。
シラクラは、自分が倒されたという意識がそんなにないみたいだ。
「すごい」
「いやぁ照れますね」
笑うと女性っぽさがでるも、こんなにもあっさりと男性が投げられるのはみたことがなかった。
少し怖い。
「シラシラはわざとじゃないし」
「そうだろ」
もう一度シラクラは立ち上がる。
今度はしっかりと立つと、お礼をしている。
「そんなに痛くないでしょ?」
「でも、なにがどうなってるのか」
「コツを教えるのには、入会してもらわないと」
「ここなんで流行らないんですか」
「ふふ? 聞きたいですか」
ハナちゃんは、わかったと言っている。
「男性があなたに惚れちゃうから、それで追い出すことになるとか」
「それいいですね!」
「違うみたいだよ」
「それじゃ」
「聞いてくれますか? ていうか本当に困るんです」
少し長かったけれど、様子はわかってきた。
あまりにもこの師匠が強いために、長くて半年で修行をあきらめてしまうらしい。
「つまり?」
「わたしに勝てないなと悟ると、臆病になるんです」
やっぱりやめにしたほうがいいんじゃとハナちゃんは言うけれど、わたしはいいと思う。
「いいよ。ハナちゃん一緒にやろう」
「え、本当ですか」
「シラシラはどうする?」
「修行だろ。勝てない相手がいると、なんだか燃えるよな」
シラクラは、まったく違う見方でやる気になったらしい。
男の子だな。
「それじゃ!」
「はい! 入会三人で」
「コースがあるんですが、こちらにどうぞ」
受付のように小さく作ってあるテーブルの近くに座る。
これイス子ども用じゃないかな。
「コースっていくつ」
「三種類ですね。ハードコース、ソフトコース、リーダーコース」
「リーダーってそれはどんな」
「リーダースキルを身につけるものです。このセカイで誰にも負けることのない精神を鍛え上げます。言ってみれば、精神世界の修行です」
「ほかは」
「ほかはハード、ソフトと一緒です。精神も鍛え上げたいですか?」
「ハード」
「ソフト」
「リーダー」
「それじゃ三人別のコースですね」
三人の修行がここから始まるらしい。
けれど、入会金安過ぎる。
スマホ登録したら、一万円以下だ。
しかも曜日も選び放題だ。
ほかにいないし。
「よくこれで商売になりますね」
「はっきり言いますね」
「前に生徒さんいたのはいつなんですか」
「そうですね。先週はいなかったから、その前」
「やめたばかりなんですね」
「人生ぎりぎりなんです」
「よかったです。わたしたちが間に合って」
「そうです! 間に合った」
器用に説明しつつ、入会書にサインを求める。
あとはスマホで読み取り、アプリでいろいろできるらしい。
「コースでも料金にもそれほど違いないんですね」
ハナちゃんが感心している。
「アンケートにもよろしければどうぞ」
「アンケート?」
「身体はもちろん鍛えていきますが、アプリでときどき生活における習慣のつけかたやコーチングもしています。遠隔監視……じゃなかった。遠隔コーチングですね」
「コーチングは受けなくてもいいんですよね」
「ええ、まぁ……無料ですし」
「無料!」
「ちょっと相談が」
「はい!」
相談質問したのはシラクラだ。
なんだろうか。
「商売成りたたないですよね。少しアドバイスしましょうか?」
「え……」
「前に受けたトレーニングで商売のちょっとした仕方や宣伝もしていたんです」
「変わった職業なんですね」
「どうですか」
「わかりました。お願いします」
もし、みつからなかったら駅から電車で移動しつつ探そうかと考えていたため、駅の割と近くでみつけられたのはよかった。
アプリでハナちゃんと登録している合間、シラクラはいますぐできそうな商売の前向きなことを教えている。
そういえば、あのビジネスマンたちとの殴り合いのとき、実際予定だった打ち合わせの内容は、ビジネスプランやモデリングの話しだと言っていた。
「ハナちゃんはどうする?」
「ソフトコースですが、コーチングはありで」
「そうよね。無料だし」
「商売になってないですよね」
「よく廃業せずに生き残ってくれていたわ」
シラクラもそのあと、登録している。
ロッカーに案内されると、鍵つきで専用ロッカーだ。
無料でシャワーとフリービジネススペースもある。
「盛りだくさんだけど、絶対価値のつけかた間違ってるわね」
これで泊まれる設備があれば、簡素なホテルだ。
「まさかですが」
「そんなことないわよね」
ハナちゃんと疑うのは、泊まれるスペースまであるかどうか、というところだ。
「三人のかた、どうぞ」
呼ばれるため、一度スペースの広い中央に集まる。
「時間はあるかもしれませんが、せっかくのため今日から鍛えていきましょう!」
「いまからですか?」
「いまから」
ロッカーにある説明には、自身で着替えは用意すること、なければ貸し道具があるということだ。
「着替えはいまないんですが」
「そのままできるものでいきましょう」
三人でお願いしますと挨拶する。
「三人でできるものですね」
「はい。始まりから途中までは一緒の歩みにして、個人レッスンや途中のレベルコーチの部分で差をつけていきます」
「レベルアップ?」
「二週間から一か月でレベルコーチに入って、それをクリアできると次の二週間って感じです。どんどん進みましょう。詳しくはアプリでもたくさんみられるようになってますから」
「それじゃ、はじめに覚えるのは一緒なんですね」
「まずは、護身のなかでも基本から。腕を掴まれた瞬間に相手の腕を放して、反対に背中から落としてみるです」
「そんなに簡単にできるんですか」
「試してみましょう」
「そういえば、師範はなんてお呼びしましょう」
「先生は、あまり呼ばれ慣れていませんから、師匠かあとは名前とかでいいですよ」
「師匠、それでこれから習うのは……」
「総合芸術護身術です」
「芸術護身?」
「わたしが創設した護身術ですね」
師匠とりあえず速すぎてなにもみえません。




