藍色の空の狭さ
ハナちゃんとシラクラがどこかでデートしたとか、そんなことはよく知らない。
この前の怪我のカバーとしてのわたしとのデートは言ってみれば、わたしのミスもあったかもという反省からのものだ。
軽薄なシラクラがハナちゃんとデートしたからといってそのまま付き合うのか、それともただの遊びデートなのかすら、わたしには興味はない。
けれど、そんなことを魔が差したようにリリスタに投稿してしまった。
当然名前などは書いてないけれど、どこか虚しい。
そう思っていたら、本当にめずらしくアイから返事がきた。
そんな男の子好きなの。
けれど、お仕事でもおせわしてくれるくらいなんだから、実は真面目なんじゃん。
いいなぁ、クズっぽいのもいいよね。
「おお……ぅ」
アイからの返事に驚くけれど、アイがクズが好きというのは初耳だ。
いや、それまでもどこかイミフメイな男の子が良いとか言っていた気はする。
「とにかく返事……」
即返でお悩み相談してしまう。
軽薄そうなんだけど、実はいいやつなのかも。
けれど、そんな女の子たちばかり相手にする商売だから、わたしのこともたいして目に入ってないよ。
たぶんマメつぶ。
そのあとのは期待していなかった。
けれど、返事が少しだけ遅れてきた。
わたしだったら、その彼にアプローチしてみて、嫉妬させてみるかな。
「しっと……」
アイに対して具体的になにかしようとは思っていなかったけれど、シラクラの話しをしつつ、もしかしたらアイのことも聞き出せるかもしれない、これは発見だ。
これはシラクラを上手く利用しつつすれば、アイのことがわかるかもしれない。
わたしは特に、シラクラのことを好きなのかも不明だけど、憧れのアイに近づけるなら、シラクラを利用するくらいはいいのかもしれない。
「まずは、呼びかたとか……?」
シラクラの呼びかたを変えてみようか。
これまではシラクラさんか、ときどきシラクラと呼んでいた。
みんな仮名さんなのだから、気にする必要もないのかもしれない。
でも、アイに近づくのなら、わたしが呼ぶものに関してはなにも問題はない。
シラクラくんじゃないな。
シラさん。
シラシラ。
あまり違いがわからないかも。
シラちゃん。
いきなりちゃんと言われて、なんて返ってくるかな。
呼びかたって簡単だけど、悩むな。
あれから四日経って、今日は夜から倉庫にいく。
シラシラのことだから、そろそろハナちゃんとデートしただろう。
今日の予定は聞いていないけれど、倉庫では会うだろうか。
そもそも病院にいっているのかが心配だ。
「ま、今回のはそこまではひどくない……かな」
スマホから来ていた事務所アプリの依頼のうち、今度のは夜だった。
直接わたしにくる依頼もなかにはある。
夜に集まり、映えスポットで写真を撮りたいらしい。
撮影係を人数に入れるとみんなが撮れないし、オートでも撮れるかわからない場所らしい。
「撮影係だし、カメラは用意したほうがいいよね」
玄関からでる前に、身だしなみを確認してからでた。
倉庫にも着替えはあるけれど、何名かで着回しているため、ちゃんと洗えているか不安だ。
今度洗濯機にでも入れておこう。
洗濯機ないか。
コインランドリーだ。
そう思って倉庫に着く。
鍵は事前に借りていたため、開けようとすると先にだれかいたらしい。
「あれ、夜の依頼かな?」
アオイですと言って入っていきたずねると、いたのはシラクラだった。
「アオイさんこそ、この時間」
「そうだね。怪我平気なの?」
あれから四日だ。
額の傷は、もうそれほど目立たない。
腕はわからないけれど。
「腕はまだ少し痛む。けれど、もう戦えるぞ」
「だれとバトルするのよ」
少し笑う。
でも、安心した。
冗談で返ってくるなら、治ってきたらしい。
「アオイさんと」
「わたしと? わたし弱いよ」
「か弱いアピールって、無理があるよ」
「なにそれ、わたし格闘でも習ってるようにみえるの」
倉庫という名前のこの部屋で、道具を探す。
ほかには、人はいないらしい。
夜だからなのか、シラクラもいつもよりは静かな感じがする。
「いや強い女性もいいと思うよ」
「そういえば、ハナちゃんとはちゃんとお出かけした?」
「出かけたっていうか、相談っていう感じだよ」
「あれ、わたしにもされたような」
「一緒だろ」
アイテムは並べられた棚のケースのなかにあった。
ガチャンと音をさせてしまう。
「一緒っていうのは……」
「同じ内容だと思うぞ。思い当たるだろ。護身を覚えたいらしい」
「あぁ!」
「アオイさんも習ってそうだよなって話したら、三人でどこかに通わないかって」
「デートなんじゃ?」
「デートだけど、どこか道場か格闘の見本になるようなものっていうんでダンス場とかそういうのみてきたよ」
「ダンス?」
「ダンサーたちの間で流行ってるらしいぞ」
それはダンスの練習なんじゃないかと思ったけれど、ニュースではここ最近声優やダンサーが個人攻撃されたというのをみた気もする。
心配になって、護身を覚えるようになったのかもしれない。
「それでハナちゃんとお出かけしてきたのに、デートらしいことはなかったの?」
「アオイさん、なにかあったのか。とりあえず防犯グッズやあとスマホの専門ショップはみてきたな」
「完全にお仕事じゃん」
「ハナちゃんはそういうところいきたいって言ってたな」
「もっとちゃんとデートしなよ」
どうにもハナちゃんの話しとシラクラの話しがわからない。
ハナちゃんはあんなに喜んでいたのに、お仕事デートをしたかったのか。
「それで護身の道場とかどうしたいかって聞いておいてくれって」
「いいけど、それ三人でいくの?」
「三人じゃまずいことあるのか」
「ないけど……シラちゃんはそれでいいの」
「シラちゃん? どうした」
「シラシラ?」
「いやどうした、それ」
「名前……替えようかと」
「なんだ。そんなことか。好きに呼べばいいけど、シラシラって呼ばれたことないな」
「じゃそれで。そろそろいくね」
「まじか。わかった。アオイさん気をつけてな」
倉庫をでて、扉を閉めてからため息だ。
ハナちゃんもシラクラも、なんか変だ。
ハナちゃんは、デートできると聞いてあんなに楽しそうだったのに、お仕事デートだけしてきたらしいし、シラクラはハナちゃんに声かけられて嬉しそうだったのに、こちらの心配や護身に通うことを承諾したみたいだ。
二人でいってくるなら、まだ納得できるけれど、わたしが入ってしまったら三人だ。
三角関係なわけないけれど、シラクラに近づこうと決めたら、こうなるのはなんだかよくわからない。
「それとも、シラクラは護身道場に通うのがデートなのかな。よくわからなくなってきた」
カメラはいいやつを選んだけれど、小さい脚立は忘れてしまった。
いまからまた中に入るのは、なんだか気まずいため、そのまま歩きだす。
今日の依頼は撮影係だけど、集まったのは女子三人で、わたし含めて四人だ。
三人ともキラキラした服装だ。
生き先は三つで、どれもイルミネーションが綺麗な場所だ。
カメラとわたしのスマホで撮り、スマホのはすぐに三人と共有する。
カメラのは、後に加工してから三人に届ける。
高いビルや看板の前、有名ショップのお店の前など、どれも見映えはよい。
けれど、撮りつつ寂しくなる。
アイはどれだけ有名な場所で撮っていてもひとりだ。
この三人のように、だれかとポーズを決めているのをみたことはない。
友だちがいないのかな。
スマホの撮ったものを三人に共有し、移動してを繰り返し、いくつかは階段や花壇の縁に足を乗せて高い場所からもカメラを向けた。
「カメラのは、少しお待ちください。三日ほどあとになりますが、加工したものをフォルダ共有にしておきますね」
「ありがとうございました!」
依頼を終えてから、また電車で移動して倉庫にいく。
倉庫に着くのは二十二時くらいになるだろうと思う。
カメラでビルに反射する自分の姿も一枚撮っておく。
倉庫の鍵は、零時には一度戻すことになっている。
零時を過ぎるときには、スマホで連絡していまの鍵の予約状況を報せなくてはいけない。
倉庫に着き鍵を開ける。
シラクラはもういないのは当然だ。
自宅に持ち帰りカメラの画像を編集しても良いのだけど、それだとカメラをまたこちらに戻さなくてはいけない。
「パソコンあったかな」
倉庫からだいぶ前のシリーズのノートパソコンが複数台あるのをみつける。
コンセントにケーブルも繋ぎ起動させると、なんとか動きそうだ。
「よしよし」
編集まではしなくても、画像を取り込みそれを自宅に持ち帰ることにしよう。
カードから転送している間、ボーッとする。
護身を習うことには賛成だし、わたしももう少し強く身体を鍛えたい。
でも、シラクラもハナちゃんも一緒だと、ハナちゃんの恋を邪魔しちゃうことになるのではないかな。
それともハナちゃんは冗談でデートしただけで、シラクラが心配なだけなのだろうか。
このお仕事は、入れ替わりがすごく、早いと二週間程度で新しい人がくる。
その代わりに長く続ける人は、都心に集中するため、地方では人手不足で地方への紹介をすると辞めてしまう人も多い。
「わたしとシラクラさんが、ここではもう長いのかぁ」
わたしは、このお仕事である程度まで貯蓄を増やし、あとはアイを追いかけたい。
アイのストーカーだし、アイをみつけることが生きがいだ。
もし、会えたらなんて声をかけようか。
けれど、同時にシラクラやハナちゃんを大切に思っていることは、間違いない。
いまのグループは割りとわたしのなかでは、最適な地位と活動量だ。
あとは危険を減らしていき、いずれは事務との交渉をして、お仕事のもっとも良いとされるカタチを目指したい。
「わたしに出来そうなのは、身体鍛えて、ハナちゃんやシラクラへの負担を減らすことかな」
取り込みが終わった。
ノートパソコンは借りていくことにしよう。
自宅で作業をして、次の依頼時にパソコンを返すのでいいだろう。
カメラを戻しておき、鍵の返却手続きにいくことにする。
倉庫の鍵は、いくつかある事務所のひとつに戻すので良くて、鍵の番号がスマホで共有される。
零時過ぎたときに、全部の鍵が事務所にあるのが原則で、ない場合には連絡がくる。
夜の依頼であったため時間はぎりぎりだけど、これなら間に合いそうだ。
ふと思いついて、ノートパソコンから少しだけ写真を持っているスマホに移動した。
わたしは夜からの依頼も積極的に受け入れているけれど、女性のなかには怖いからと夕方以降遅くのは受け入れていないレンタルの人もいる。
そのおかげか夜からの依頼は男性かわたしが取るために、お仕事の量で困ることはない。
返って忙しくなるくらいだ。
鍵を閉めてから駅方向に向かう。
電車で移動すれば、事務所はすぐに着くだろう。
夜の道を歩くのは、わたしは好きだ。
昼間と違い、外の景色はなんだかモノクロなのに、ビルや窓に映る姿は鏡みたいで、少しだけ絵本のなかにいる気分になる。
あれはなんのタイトルだったろうか。
電車で座ることができたため、さきほどの移した写真を少しだけ加工してリリスタにあげる。
きらきらしたセカイにわたしだけいるって、なんだか不思議。
けれど、ここは鏡のなかかもね。
返事は期待していない。
いつもリリスタにあげるときはそうだ。
すぐに目的の駅に着くと、降りるときに通知が来ていた。
なんだかロマンチックだね。
アイからの返信だ。
「もしかして、アイはこういう投稿の方が好きなのかな」
降りる直前なため、返事はあとにした。
事務所に鍵を返却し、零時過ぎには事務所からでた。
ここからの空のセカイは狭い。
だけど、シラクラやハナちゃん、アイに逢えるくらいの狭さなら、いいのかもしれない。
わたしは広いセカイなど望んでいない。
ただ、大切ななにかを捕まえたいだけな気がする。




