鉄拳制裁!
ダイダラボッチの動きは鈍重だった。あたしが間合いに入る前に手立てを潰してくるかと思ったけれど、相手の腕が届き切るよりも先に、足元に到達した。
「ちっ、足だけは立派な!]
「それだけじゃねーやい!腕も…一流じゃーい!!」
刃を逆さにしてからの、右足に向けて気合いの一打。並の人間なら骨まで砕けるその衝撃に、さすがの巨人も声を上げた。
「うがあああっ!」
「へっ、どーよ!?」
「舐めるなぁ!!」
ダイダラボッチはそのまま右足を前に振り上げる。が、それも遅い。あたしに当てるには程遠い。短い動作でかわしてから、今度はがら空きの左足に向けての一打。想像以上に堪えたのか、ダイダラボッチは派手に転倒する。倒れただけで地震のような振動が発生し、突風が吹き荒ぶ。
エルやクー、それに連れて来られた人達は無事かと周囲を見渡すも、砂煙が視界を遮って様子が確認出来ない。その隙を突いてか、あたしの背後から砂煙を切り裂いて、1本の巨大な腕が伸びてくる。うっかり斬ってしまわないように、刃を腕に沿わせてこれを受け流すと、風圧で砂煙が吹き飛んだ。
次の攻撃を警戒しつつ再度周囲を見渡す。するとそこには、各々が四方に吹き飛ばされて尻餅をつく姿があった。全員無事という、ひとまずの安心感を得てから、妖怪王との戦闘に集中する。ダイダラボッチの左足に飛び乗り、そこから疾駆して一気に胴体へ。腹部に一打入れて抵抗力を奪った後、叩き落そうとしてくる両腕の迎撃を払い、ようやく首元まで到達した。攻撃を受け流しつつ移動した為か、日課の走り込みなんて比じゃないくらい疲れた。
「ふう、ようやっとここまで来れたー…。さ、もう勝負ありでいい?」
「この程度で屈服させたと思うとは!つけあがるな!!」
鈍重でも、運動神経は悪くなかったらしい。多分、周りにいた全員が驚いただろう。何とダイダラボッチは、見事な跳ね起きで立ち上がった。遥か上空に連れ去られる前に離れていて助かった。さすがのあたしも、100m以上地から浮いた場所で自由には動けそうにない。
「ガハハ、どうした!?あれだけ息巻いていた割には大したことないなぁ!!」
「言ってろデカブツ!!」
「口だけは達者だな!」
「腕も達者だって言ってるだろーが!!」
垂直に駆け上がるなんて芸当は出来ないので、また地道に足から崩す。立ち上がった拍子に、ダイダラボッチの足の位置が大きく移動したので、まずはそこまで駆ける。…が、今度は接近を許さない構えだ。
身体を屈め、腕が壁になるように右腕の上に左腕を乗せ、あたしが射程内に入るのを待っている。間違いなく薙ぎ払うものだと確信し、足は止めずに対処法を考える。すると意外なことに、あたしが考えるまでもなく、対処法が『やって来た』。
「リノさーん!!」
あたしの視界の隅から、凄まじい速度で接近して来る1つの影。それは、さっき別れたはずのからかさ小僧だった。
「傘坊君!?」
「僕の足を掴んで下さーい!!」
色々と聞きたいことはあるけれど、とりあえず今は言われた通り、すれ違いざまにからかさ小僧の足を掴む。目に見えて速いのが分かっていた上で行動に出たけれど、想定を超える速度に、あたしの身体は横流しで宙に浮く。
「ぐっ、ぐるじい…!!」
「もうちょっと我慢して下さい!…んん~っ!」
からかさ小僧はだんだんと高度を上げながら速度を落とし、ダイダラボッチが作っていた両腕の壁を乗り越えた。
「からかさ小僧!?何故貴様が!?」
「今僕がやっていることは、王が定めた掟から外れたもので、決して許されることではありません。…でも、でも!それでも!!僕は王様にもう一度頑張って欲しいと思ったから、楯突かせてもらいました!!」
「傘坊君…!」
からかさ小僧の瞳には、灼熱の如き闘志が宿っていた。妖怪としての誇りと、王への想いが。地上をふと見下ろすと、そこには見知った仲間達が手を振っていた。赤鬼、河童、ぬりかべ、そしてろくろさん。隣にいたエルとクーも、この奇跡的な光景に笑顔を覗かせていた。
「傘坊君。もしかしなくても、王様の声が聞こえてきたから来てくれたんだよね?」
「国中に響き渡る大声ですからね。リノさん達の声は聞こえませんでしたけど、大体内容は理解しているつもりです」
「そっか。しっかしまあ、こうやって空を飛べるとは思わなんだ」
「長時間は難しいですけど、やってみせます!リノさんも、力を貸して下さい!」
「OK!んじゃまあ、皆でおバカ王を懲らしめますか!!」
地上にいる皆もあたしの声が聞こえたのか、戦える力のある赤鬼、ぬりかべの両名が、ダイダラボッチに向かって走り始めた。
「お前達までもが、俺様の邪魔をするのか…!!不愉快だ!厳罰などとは生ぬるい!!妖怪としての力を喰らってやろうぞ!!」
「心があるって自分で言っただろ妖怪王!!皆の気持ちも分かれッ!!!」
不思議なぐらい手に馴染むからかさ小僧に運ばれて、あたしはダイダラボッチの懐に飛び込む。地上での赤鬼、ぬりかべの活躍が効いているのか、難なく接近に成功した。
その辺の公園よりも広い肩に舞い降りて、攻撃を開始する。一打、二打、三打。力強く刃を叩きつけながら、からかさ小僧と一緒に首筋へ。反撃される前に急所を目掛けて一打を放ち、即離脱。足に攻撃した時よりも確かな手応えがあったことから、だいぶん苦しい状態だと判断する。
「よーっし、続けて行くぞー!!」
間髪入れず次に移る。ダイダラボッチの剛腕が迫る前にからかさ小僧と宙に逃げ、タイミングを見計らって反対側の肩に着地する。同じように刃の裏側で叩きながら直進し、首筋まで到達すれば離脱。それを数回繰り返して、ダイダラボッチの体力を奪った。
「どーしたどーした!あんたの言う王の力ってのはこんなもんなの!?」
「黙れ!!今すぐにその小生意気な口を壊してやる!!」
「やれるもんならね!!」
風を切り裂いて躍動する二対の両腕が、あたしを捕えようと徐々に速度を上げて迫り来る。
「リ、リノさん!」
「うろたえないで!あたしの指示した通りに動いてくれれば大丈夫だから!!」
「は、はいっ!」
一度見せられた攻撃は、もうあたしには通用しない。腕の軌道に合わせて刃をしなやかに流し、なるべく傷つけずにこれを逸らす。無理矢理押し返そうとすれば、相手の質量が勝っている分、こちらが潰されてしまうのは必至。けれど、受け流してしまえば何の事はない。僅かでも刃先がずれていたらあの世行きだけど。
「王様の攻撃をこうも簡単に、しかも片手だけで受け流すなんて…。リノさん、貴方は一体…?」
「ただの気まぐれな旅人だよ。それ以上もそれ以下もないさ。さて…と!そろそろトドメといきますか!!」




