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フリーダムガール  作者: 赫宗一
シャンタ編
38/111

事情の裏側

「まさか妖怪《ようかい》の王が、自《みずか》らの卑猥《ひわい》な欲望《よくぼう》を満《み》たす為《ため》に人間を連《つ》れ去《さ》っていたとは…。呆《あき》れてものも言えません。緊張《きんちょう》して損《そん》しました」


「そーだそーだ!もっと王らしい威厳《いげん》はないのか!」


「威厳《いげん》だとぉ?ガハハ、語《かた》るに及《およ》ばず!俺様の天をも貫《つらぬ》くこの身体こそが、妖怪《ようかい》の王たる証《あかし》よ!!」


耳を塞《ふさ》ぎたくなるほどの大声で笑うダイダラボッチに、あたしは二度目の刃《やいば》を突《つ》き刺《さ》す。


「うりゃー」


「うごおおおぉぉぉっ!?」


「話にならーん!!いいからとっとと連《つ》れて来た人達を解放《かいほう》しろーい!!」


「いだだ…。連《つ》れて来た人達を解放《かいほう》しろだと?随分《ずいぶん》と勝手《かって》な要求《ようきゅう》をしてくれるものだ。それならば、俺様からも言わせてもらいたいが」


さっきまでとはまるで違《ちが》う冷酷《れいこく》な瞳を持って、ダイダラボッチはあたし達を睨《ね》めつける。自《みずか》らの領域《りょういき》を侵《おか》されたことに対《たい》する怒《いか》りだろうか。素人《しろうと》でも分かるぐらいの敵意《てきい》を剥《む》き出しにしていた。


「お前達の目的《もくてき》は何だ?」」


「人間の解放《かいほう》と魔障雨《ましょうう》の祈祷《きとう》中止《ちゅうし》の2点です。尤《もっと》も…後者《こうしゃ》は憶測《おくそく》の域《いき》でしかありませんが」


「ほう…。ガハハ、中々(なかなか)鋭《するど》いな。俺様がこの者達を使って雨を発生《はっせい》させているのは確《たし》かだ。この妖怪《ようかい》の国に伝《つた》わる、雨を呼《よ》ぶ魔法の祈《いの》りを利用《りよう》してな」


「魔法の祈《いの》り?クーちゃん知ってる?」


「魔法にも複数《ふくすう》種類《しゅるい》があるのは知ってるけど、雨を呼《よ》ぶことが出来る魔法なんて初《はじ》めて聞《き》いたよ」


「人為的《じんいてき》に天候《てんこう》を操作《そうさ》するともなれば、それだけの人間が必要《ひつよう》なのだ。…魔法の素質《そしつ》を秘《ひ》めた、若《わか》くて美《うつく》しい容姿《ようし》の女性がな」


「後半部分《こうはんぶぶん》あんたの趣味《しゅみ》入《はい》ってるでしょ、それ」


「否定《ひてい》はせん!」


それがどうしたと言わんばかりにふんぞり返《かえ》るダイダラボッチに、エルは完全《かんぜん》に愛想《あいそ》を尽《つ》かしたのか、付近《ふきん》の小岩《こいわ》にもたれかかって読書《どくしょ》を始《はじ》めてしまった。多分《たぶん》話は聞いているであろうと信《しん》じて、あえてツッコミはしない。


「で、そんなことをする理由《りゆう》は?」


「決《き》まっているだろう。雨を降《ふ》らせ、大地に恵《めぐ》みを与《あた》えているのだ。それ以上も以下もない」


「毒《どく》の雨を降《ふ》らせることが恵《めぐ》みだって言うの?」


「何か勘違《かんちが》いをしているな。逆《ぎゃく》だ。ここへ来る人間は、こぞって魔障雨《ましょうう》と呼《よ》び恐《おそ》れているが、あの雨は毒《どく》を浄化《じょうか》する作用《さよう》のある雨なのだ」


「えぇ!?そんな嘘《うそ》を…!」


「事実《じじつ》だ。思い込《こ》みとは恐《おそ》ろしいものよな。知らず知らずの内《うち》に、それが真実《しんじつ》であると錯覚《さっかく》してしまう。噂《うわさ》と言う名の伝染病《でんせんびょう》に乗《の》せられてな」


嘘《うそ》も貫《つらぬ》き通せば真実《しんじつ》になりうる。ダイダラボッチの話が本当であるなら、全然《ぜんぜん》話が違《ちが》ってくることになる。


「古来《こらい》よりシャンタは、雨の降《ふ》らぬ土地《とち》でな。作物《さくもつ》は碌《ろく》に育《そだ》たず大地は荒《あ》れ果《は》て、それこそネパルマ国の砂漠《さばく》と変わりない荒野《こうや》だったのだ。それ故《ゆえ》に、餓死《がし》する人間も多くてな。…実《じつ》に見るに堪《た》えない光景《こうけい》だった」


ダイダラボッチは神妙《しんみょう》な面持《おもも》ちで、当時《とうじ》の様子《ようす》を振《ふ》り返っていた。遠《とお》く離《はな》れていて確認《かくにん》しずらかったけれど、その瞳に偽《いつわ》りはなかった。


「そんな餓《う》えに苦《くる》しむ人間達を見るに見かねて、俺様達妖怪(ようかい)が動いた。それが———」


「雨を呼《よ》ぶ魔法…と言う訳《わけ》ですか」


あたしが言おうとしたことを先《さき》に口に出したエルは、本をパタリと閉《と》じてポーチにしまい、あたし達の所《ところ》に戻《もど》って来た。ちゃんと話を聞《き》いていたようで安心《あんしん》した。


「そうだ。しかし先程《さきほど》も口にしたが、実行《じっこう》するには魔力の才《さい》を秘《ひ》めた人間の力が必要《ひつよう》不可欠《ふかけつ》。故《ゆえ》に俺様は悩《なや》んだ」


「普通《ふつう》に協力《きょうりょく》してくれと言えば良かったんじゃないの?」


「人間には人間のルールがあるように、妖怪《ようかい》にも妖怪《ようかい》のルールがある。俺様達妖怪(ようかい)は、世《よ》に生きる他《ほか》の生き物達とは関《かか》わってはならない掟《おきて》が存在《そんざい》するのだ」


「面倒《めんどう》なしきたりがあるんですね…」


クーのがっかりする様《さま》に、あたしも便乗《びんじょう》してうんうんと頷《うなず》き相槌《あいづち》を打《う》つ。


「がしかし、先代《せんだい》様のお叱《しか》りを覚悟《かくご》で俺様はこれを破《やぶ》り、人間達の元《もと》へ人間と同程度《どうていど》の大きさの妖怪《ようかい》を数名派遣(はけん)した」


結果《けっか》は聞《き》くまでもなかった。魔獣《まじゅう》とは違《ちが》う、妖怪《ようかい》独特《どくとく》の容姿《ようし》も相《あい》まって、人間達には受《う》け入《い》れられなかったんだろう。現在《げんざい》の時間軸《じかんじく》で、それは容易《ようい》に推測《すいそく》出来た。


「…それ以上は語《かた》るまでもないだろう。俺様達は化《ば》け物と蔑《さげす》まれて、惨《みじ》めにも追《お》い返された」


「だから強行手段《きょうこうしゅだん》に出たと?」


「…俺様達妖怪(ようかい)にも心はある。人間が死にゆく姿《すがた》を見ていられなかった」


人の為《ため》に行動《こうどう》を起《お》こしたはずが、その人間に感謝されるばかりか拒絶《きょぜつ》されてしまうとは、夢《ゆめ》にも思わなかっただろう。何だか思わず妖怪王《ようかいおう》に同情《どうじょう》さえ覚《おぼ》えてしまう。


「貴方《あなた》がた妖怪《ようかい》の出現時期《しゅつげんじき》に加《くわ》え、突然《とつぜん》の失踪《しっそう》、雨の発生《はっせい》…。これらの要素《ようそ》が重《かさ》なり合《あ》ってしまったが為《ため》に、人間は雨の事を『妖怪《ようかい》が生《う》み出している毒《どく》』…すなわち、魔障雨《ましょうう》と呼《よ》ぶようになったと」


解答《かいとう》を求《もと》めるかのように、エルは帽子《ぼうし》の鍔《つば》を持って上を見上げる。大方《おおかた》エルの考《かんが》えは当たっているだろう。ダイダラボッチ自《みずか》らが話していたけれど、噂《うわさ》とは恐《おそ》ろしいものだ。一種《いっしゅ》の都市伝説《としでんせつ》のように、ありもしない話が様々(さまざま)な所《ところ》からやって来てはくっつき混《ま》じり合い、やがて1つの大きな『嘘《うそ》』になる。


一度発生(はっせい)した誤解《ごかい》が中々(なかなか)解《と》けないのと同じで、複雑《ふくざつ》に絡《から》み合った糸《いと》を解《ほど》くのは至難《しなん》の業《わざ》。対立《たいりつ》の門《もん》で出会った門番《もんばん》の話を思い出す度《たび》に、その根《ね》の深《ふか》さを痛感《つうかん》した。


「正解だ、帽子《ぼうし》の美少女よ。しかし、もうこれで良い。無理矢理《むりやり》連《つ》れて来た者達には申《もう》し訳《わけ》ないと思っているが、皆《みな》一定《いってい》以上の理解《りかい》を示《しめ》してくれている。だからこそ—————」


「ふっざけんな王様ァーーー!!!」


あたしの大喝《だいかつ》に、何事《なにごと》かと周《まわ》りが凍《こお》りつく。けれど、そんなことはどうでもいい。事情《じじょう》を知ったあたし達に出来ることはただ1つ。人間と妖怪《ようかい》との仲介役《ちゅうかいやく》になることだ。エルとクーも、あたしの考《かんが》えを悟《さと》った上で賛同《さんどう》してくれるのか、口元《くちもと》を綻《ほころ》ばせてあたしの言葉の続《つづ》きを待っていた。


「何がこれで良いだ!途中《とちゅう》で投《な》げて逃《に》げんなよ!!あんたがそこで逃《に》げたから、今こんなに深《ふか》い溝《みぞ》が出来てるんだろーが!!」


「何ぃ…!?貴様《きさま》、言わせておけば!俺様の気持ちも知らん人間に何が分かる!?」


「分かるかバーカ!!被害者面《ひがいしゃづら》する暇《ひま》があるなら、その時間を少しでも人間との交友《こうゆう》関係《かんけい》を深《ふか》める為《ため》に使えってんだ!!人さらいとか嫌《いや》なことは全部《ぜんぶ》手下《てした》にやらせて、自分は1人お家《うち》で慰《なぐさ》めてもらってんの!?妖怪《ようかい》の王はとんだ腑抜《ふぬ》けだね!!」


案外《あんがい》煽《あお》りに弱《よわ》かった。ダイダラボッチは大地を揺《ゆ》らすほどの衝撃《しょうげき》をもって力強く立ち上がり、妖怪《ようかい》の国全体(ぜんたい)に響《ひび》き渡《わた》る咆哮《ほうこう》で、あたしの挑発《ちょうはつ》に応《こた》えた。


「おやぁ、やる気?別《べつ》に構《かま》わないけど、今のあんたには負《ま》ける気がしないね」


「俺様の小指《こゆび》ほどもない人間が、俺様に勝つだと…!?ガハハ、面白《おもしろ》い冗談《じょうだん》だ!よかろう!打《う》ち負《ま》かせると言うのなら、試《ため》してみるがよいわ!!」


「恥《はじ》かいても知らないよ!!!」


あたしは勢《いきお》いよく鞘《さや》から刃《やいば》を引《ひ》き抜《ぬ》いて、青い山こと妖怪《ようかい》の王に向《む》かって駆《か》けた。

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