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フリーダムガール  作者: 赫宗一
シャンタ編
37/111

青い山 ダイダラボッチ

妖怪《ようかい》の王ダイダラボッチの住処《すみか》である羅生館《らしょうかん》に突入《とつにゅう》したあたし達は、まず最初《さいしょ》に気配《けはい》の無さを感《かん》じていた。あちこちから邪気《じゃき》の流れが読み取れるに、周囲《しゅうい》に生物《いきもの》が存在《そんざい》しているような気配《けはい》がほとんどない。敷地《しきち》が膨大《ぼうだい》な為《ため》に、遠《とお》すぎて分からないというのもあるけれど。


それを考慮《こうりょ》しても、仮《かり》にも王の館《やかた》だというのに、門番《もんばん》はおろか、見張《みは》りの姿《すがた》すら見えない。自分には逆《さか》らう者《もの》がいないからと高《たか》を括《くく》っているのか、はたまた別《べつ》の理由《りゆう》なのか。エルとクーの体調《たいちょう》を気にかけつつ、奥《おく》へ奥《おく》へと進《すす》む。と、ここであたしはある事を思い出した。


「あ、そう言えば!」


「何ですか、突然《とつぜん》大声出して」


「傘坊《かさぼう》君に内部構造《ないぶこうぞう》を聞《き》くの忘《わす》れてた!」


「口止めされてるでしょうから、聞いても無駄《むだ》だと思いますが。…まさか、分からなかったんですか?」


「ぬがっ…そういやそうだったな。しゃーないか」


「連《つ》れ去《さ》られた人達が、まだ無事《ぶじ》だといいけど…」


それから、青い山を目掛《めが》けて直進《ちょくしん》すること数10分。人間ぐらいのサイズが住《す》まう屋敷《やしき》が転々(てんてん)と建《た》てられている場所《ばしょ》に到達《とうたつ》する。この周辺《しゅうへん》には草木《くさき》も生《お》い茂《しげ》っていて、まさに人間の為《ため》に設営《せつえい》されたかのような区域《くいき》だった。

もしかすると、連《つ》れて来られた人間は、この場所《ばしょ》に送《おく》られているのではと睨《にら》んだあたし達は、一端《いったん》ボードを止めて、生存者《せいぞんしゃ》がいるかどうかの確認を始《はじ》める。ざっと外周《がいしゅう》を見て回《まわ》るも、これといって何かがある訳《わけ》じゃなかった。なので次《つぎ》は、屋敷《やしき》の中にお邪魔《じゃま》させてもらう。


気配《けはい》の確認《かくにん》を入念《にゅうねん》に行《おこな》ってから、入口《いりぐち》の戸《と》を乱暴《らんぼう》に横《よこ》に流《なが》すと、ミスティの宿《やど》と同《おな》じく、床《ゆか》が畳張《たたみば》りの綺麗《きれい》な小部屋《こべや》がお出迎《でむか》えする。


「ミスティさんの宿屋《やどや》と同《おな》じような構成《こうせい》の部屋《へや》ですね。…あら?」


「どったのエル?」


あたしの問《と》いをスルーして、エルは罠《わな》も気にせず中に入《はい》る。ちゃっかり靴《くつ》を脱《ぬ》いでいるあたりがエルらしいけど。あたしとクーもそれに続いて中に入《はい》ると、ほのかに甘《あま》い香《かお》りが鼻孔をくすぐる。


「リノお姉ちゃん、この匂《にお》い…」


「うん。こりゃ香水《こうすい》だ」


「それだけではありません。これを」


そう言って、エルがあたしとクーの前に突《つ》き出してきたものは、人間側(がわ)の国で販売《はんばい》されている、人気《にんき》のお菓子《かし》だった。


「さきの香水《こうすい》に加《くわ》え、女性の間《あいだ》で人気のお菓子《かし》。妖怪《ようかい》には無縁《むえん》の品々(しなじな)…これはつまり」


「連《つ》れて来られた人達は、まだ無事《ぶじ》…?」


「それどころか、かなり贅沢《ぜいたく》な暮《く》らしをしているようです。意図《いと》は分かりませんが、何らかの理由《りゆう》で生かされていると言うことになりますね」


「ふーむ、あれかな?儀式的《ぎしきてき》なやつで、雨乞《あまご》いならぬ魔障雨《ましょうう》乞《ご》いをしてたりとか」


半分冗談(じょうだん)のつもりだったけれど、エルは驚《おどろ》いたようにあたしを見つめていた。いい線《せん》いってたらしい。


「いい推測《すいそく》ですね。私も同《おな》じような事を考《かんが》えていました。ここに誰《だれ》もいないのは、おそらく「今」がその時間だからではないでしょうか」


「そう言われると、エルお姉ちゃんの言う通りな気がしてきたよ…。けど念《ねん》の為《ため》、もう何軒《なんけん》かあたってみよう?」


「そーだね。そうしよっか」


クーの提案《ていあん》で、付近《ふきん》の屋敷《やしき》を調《しら》べてみるも結果《けっか》は変わらず。似《に》たような跡《あと》が残《のこ》されているばかりで、目新《めあたら》しいものがある訳《わけ》ではなかった。

けれど、連《つ》れ去《さ》られた人達が全員《ぜんいん》無事《ぶじ》かもしれない可能性《かのうせい》が浮上《ふじょう》し、あたし達はその件《けん》に期待《きたい》を持ちつつ、再度《さいど》フローボードに飛《と》び乗《の》って青い山を目指《めざ》す。


そして、ダイダラボッチまで目前《もくぜん》といった所《ところ》で、急《きゅう》に気配《けはい》が増《ま》した。護衛《ごえい》の妖怪《ようかい》がいたとしたらまとっているであろうモノとは明《あき》らかに違《ちが》う、警戒心《けいかいしん》の薄《うす》い気配《けはい》。人間の気配《けはい》だ。


「エル、クーちゃん。複数《ふくすう》の人の気配《けはい》が、ダイダラボッチの周辺《しゅうへん》に集中《しゅうちゅう》してるみたい」


「そうですか。好都合《こうつごう》と同時《どうじ》に、不都合《ふつごう》でもありますね」


「…どう言うことなの?エルお姉ちゃん」


「連《つ》れて来られた人達を一度に助けられるチャンスでもあり、その全《すべ》てを人質《ひとじち》にされる恐《おそ》れがあると言うことですよ。くれぐれも判断《はんだん》は慎重《しんちょう》に」


「了解!」


あたしとクーの言葉が重《かさ》なり合うと同時《どうじ》に、青い山の一角《いっかく》である、背中《せなか》と思《おぼ》しき場所《ばしょ》に到着《とうちゃく》した。格好《かっこう》良くフローボードから降《お》りてたたみ、3人分のボードをクーのうさぎポーチにしまってから周囲《しゅうい》の観察《かんさつ》を行《おこな》う。

すると背《せ》の山の向《む》こう側《がわ》から、複数《ふくすう》の女性らしき声が、歌っているかのようなテンポで言葉を発《はっ》しているのが聞《き》き取れた。おそらく、魔障雨《ましょうう》乞《ご》いの音頭《おんど》か何かだろう。


「エル、この声は…」


「ええ。リノ考《かんが》えている通りでしょう。だとすれば、やめさせなければいけませんね」


「でもどうやって…」


「回《まわ》り込《こ》むかすればいいんだろうけど…ああ、まだるっこい!!」


わざわざ移動《いどう》するのも面倒《めんどう》なので、山に動いてもらうことにする。鞘《さや》から刃《やいば》を引《ひ》き抜《ぬ》いて、肩甲骨《けんこうこつ》の辺《あた》りを目掛《めが》けて軽《かる》く突《つ》き刺《さ》した。


「うごおおおぉぉぉ!?」


意外《いがい》と効《き》いたのか、奇妙《きみょう》かつ独特《どくとく》な奇声《きせい》を発《はっ》しながら、青い山ことダイダラボッチは飛《と》び上がるように身体を起《お》こし、肩甲骨《けんこうこつ》の辺《あた》りを後《うし》ろに回《まわ》した手でさする。


「ぬおおお…痛《いた》い。誰《だれ》だぁ!!俺様の憩《いこ》いの時間を邪魔《じゃま》した奴《やつ》はぁ!?」


「足元《あしもと》ーッ!!!」


あたしは耳元《みみもと》をおさえながら力一杯《ちからいっぱい》叫《さけ》ぶ。図体《ずうたい》が大きい分、声量《せいりょう》も人間とは比較《ひかく》にならない。きっとダイダラボッチの声は、妖怪《ようかい》の国中《くにじゅう》に聞《き》こえてるんだろうなと思った。


「足元《あしもと》だ?んん…?」


ダイダラボッチは身体を屈《かが》めて食い入るように大地を眺《なが》め、やがてあたし達の姿《すがた》を捉《とら》えると、ひっくり返《かえ》りそうな動作《どうさ》を見せて大袈裟《おおげさ》に驚《おどろ》いた。


「うおっ!お、お前達は!?」


「自己紹介《じこしょうかい》の前にー!座《すわ》ってくれないと喉《のど》が痛《いた》いんだけどー!!」


「おぉ!それは悪いことをした!!」


ガハハと豪快《ごうかい》に笑ったダイダラボッチは、あたしの要望《ようぼう》通り胡坐《あぐら》をかいてその場に座《すわ》り込《こ》んだ。その際《さい》、奥《おく》に変わった衣装《いしょう》を身に着《つ》けている大勢《おおぜい》の女性の姿《すがた》が見えた。どうやら本当に何もされてないようで、少し安心《あんしん》する。


「美少女3人組よ。ようこそ俺様の所《ところ》へ。付きの妖怪《ようかい》がいないようだが、一体どうした?」


「びっ、美少女だなんてそんな…じゃなくて!何のことか知らないけど、今すぐ向《む》こう側《がわ》から連《つ》れて来た人達を解放《かいほう》しろい!」


「何だと!?もしやお前達、自《みずか》らここに乗《の》り込《こ》んで来たと言うのか!?」


「そうですね。我儘《わがまま》の過《す》ぎる妖怪《ようかい》の王を成敗《せいばい》しに」


「これ以上、悪いことをするのはやめて下《くだ》さい!」


「何を言うか!これは決《けっ》して悪いことではない!俺様は今、全種族《ぜんしゅぞく》の男達が願《ねが》って止《や》まない夢を実現《じつげん》しているのだぞ!?」


「何の罪《つみ》もない人達を誘拐《ゆうかい》したあげく変な恰好《かっこう》をさせるなんて、妖怪《ようかい》の王として恥《は》ずかしくないのかー!!」


「恥《は》ずかしい、だと?笑止《しょうし》!可愛《かわい》い女子《おなご》ならば、手元《てもと》に置《お》きたいと考《かんが》えるのは当然《とうぜん》の事!ハーレムという言葉を知らんと見える!!」


「エル、ハーレム…?って何!?」


あたしの率直《そっちょく》な質問《しつもん》に対《たい》し、エルはいつもより大きく肩《かた》を竦《すく》めて帽子《ぼうし》の鍔《つば》を下げた。


「…不特定多数《ふとくていたすう》の女性が、1人の男性に好意《こうい》を寄《よ》せている状況《じょうきょう》のことを指《さ》します。つまるところ、モテモテですね」


「そう言うことだ。ここにいる女性は全《すべ》て、俺様のことを愛しているのだ。ガハハ!!」


全種族《ぜんしゅぞく》の男性が願《ねが》って止《や》まない夢とは、魔障雨《ましょうう》じゃなくてハーレムのことだったらしい。どちらにしても最低《さいてい》なのは変わりないけど。


「愛してるとか嘘《うそ》つくなー!誘拐《ゆうかい》デカ男なんて誰《だれ》も好きになる訳《わけ》ないだろー!」


「なんだなんだ、そんなにムキになって。もしや、早くハーレムの仲間《なかま》入りがしたくてたまらないのか?」


「ちっがーう!!人の話聞(き)けあほ妖怪《ようかい》ー!!」


「話が平行線《へいこうせん》だね…」

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