2.柔らかい地面ね。
「あれ?痛くない、、、。」
確か塀の上から落ちたはずなのに。アイリスは頭をさすりながら体を起こす。
服は少し汚れてしまったが、とにかく怪我をしていなくてよかった。やっぱり私は最強ね!なんて考えながら立ちあがろうと地面に手をつく。
むにっ。
ん?柔らかい地面だな。
おかしいと思い下を向くと、黒髪の少年が自身の下敷きになっていることに気がついた。
「―――っ。」
「――ジーク!」
アイリスはすぐにジークの上から横にずれる。
そうだ。あの時、落ちそうになった時、ジークが庇ってくれたんだ。
その事実と痛そうに体を歪めているジークを見て、アイリスはパニックに陥った。
「どうしよう。――ジーク、ジーク!」
体をゆすってジークの安否を確認しようとしたところで、アイリスの手が止まった。
どうしよう。触らないほうがいいのかな。でもこのままじゃジークが。どうしよう。どうしよう。
泣きそうになりながらジークの名を呼び続けていると、15歳くらいの長髪の少年がやってきた。
「―――何かすごい音がしたけど、、、って、女の子?なんで?」
「――!ジークが!ジークが!」
やって来た少年に、アイリスは泣きそうな目を向ける。
少年は地面に倒れ込んでいるジークに気がつくと走り寄って来た。
「ジークハルト!?何があった!?――誰か!誰か来てくれ!」
ジークの肩を軽く叩きながら周りに呼びかける少年。アイリスはその姿をオロオロしながら見つめることしかできない。
「どうした?アーサー兄さん。」
「どうしたのぉ?あれ?誰、その女の子?それに、誰か倒れて、、ん?ジーク?」
少年の声に気が付いたのか、さらに2人の少年がやって来た。どちらも10歳前後に見える。
2人はゆっくり近いてくる途中でジークが倒れていることに気がついたようだ。
「うわ!ほんとだ!ジークじゃねぇか!どうしたんだよ!」
「わからない。――とにかく!執事のカーゾンと父さんを呼んできてくれ!」
その言葉を聞いて、今来たばかりの2人の少年はわかった!と返事を返す。
「おう!―俺はカーゾン呼んでくるから、ウィル、お前、親父呼んで来い!」
「はぁい。――って、おーい。ユーゴ兄様、カーゾンいるの、そっちじゃないと思うよぉ。」
そうか!!と威勢の良い返事をして、2人のうちの1人、体格が良い方の少年が逆方向に爆速で走り去っていった。もう1人の背が低い少年もパタパタと走っていく。
アイリスは2人の少年が走り去ったことにも気が付かず、涙を堪えながらジークを見つめている。
「ジーク、ジーク。」
「――君、何があったの?」
「ジークが助けてくれたの。私が塀から落ちそうになって、それでジークが下に、、。」
先ほどまで2人に指示を出していた長髪の少年はアイリスに優しく問いかけた。アイリスはその問いにプルプルと涙を堪えながら答える。
「そうか、、、。塀ってことは、多分ジークの無茶のせいだから、君が責任を感じる必要はないよ。」
少年はアイリスの答えに優しく答えた。
違う。私が暴れたからだ。暴れなければ、、。それ以前に木登りができていたら、、。そんなことを考えながらアイリスは俯いた。
そうしている間に、先ほどの体格が良い少年が執事を呼んで帰って来た。
「おーい!アーサー兄さん!カーゾン連れてきたぞ!」
またも爆速で走って来た少年の後ろを、優しそうな老執事が息切れしながらついて来ていた。
「どうなさいましたか、アーサー坊ちゃん。」
「カーゾン、医者を呼んでくれ!ジークハルトが塀から落ちたらしい。」
「――!ジークハルト坊ちゃまが!?なぜ塀から!?」
「理由はあとだ。」
かしこまりました!ただいまっ!と、長髪の少年の言葉に、老執事は息を整える間もなく来た道を走って戻って行った。
それと入れ違いに、先ほどのもう1人の少年が人を連れてやって来る。
「アーサー兄様ぁ。父様呼んで来たよ。」
彼に連れられて、ジークの父親らしい、体格の良い武人がやってきた。
彼は立ったままジークを見下ろすと、低い声でつぶやく。
「ジークハルト、、、。死んだか。」
「―――っ死んで、、、ねぇよ、、、。」
ジークが唸るように小さく呟いた。
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