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公爵令嬢4

起床したアマリリスは、以前一度、目にしたことのある資料を思い出し、それを探すことにした。


記憶を頼りに書庫を探し回り、ようやく見覚えのある一冊を見つけ出した。


それは、以前の自分には関係のない話だと思い、ろくに目を留めることもなく斜め読みしていた資料。

教会に関する資料だった。


世界各地に存在する教会共通の規則。

ゆえに、我が国だけが勝手にその決まりを変えることはできない。

国の事情や都合で覆すことなど許されない、世界共通の揺るぎない規則が載っていた。


「あった、このページだ」


そこには、貴族の子女が貴族籍を手放す際の手続きについて書かれていた。

爵位によって金額は異なるが、教会で供託金を支払うことで叶うらしい。

虐待や、どうしても望まぬ結婚を強いられる者を救うために設けられた、最後の救済措置だ。


貴族ではなくなるが、逃げ場を失った子女に残されたわずかな希望ともいえる制度である。

離籍とそれに伴う婚約取消や離婚などを教会の権威の下、手続きしてくれるのだ。


……貴族の子女が平民になって、生きていけるかどうかは別として。



公爵家の子女が籍を抜ける為に必要な額は、白金貨100枚


パンが一つ銅貨1枚ぐらいなので……日本円にすると、約10億円。


供託した金額の中から、教会が手数料を差し引き、残額を今まで私を養ってくれた、その対価として公爵家に支払われるのだ。


途方もない金額ではあるが、私のために公爵家で使われてきた金額を考えると妥当な額なのだろう。


ーーーこれは、普通の令嬢では無理な話ね。


もちろん、家のお金を使うことはできない。自分でどうにかお金を工面して支払うことにより、籍を抜けることができるのだ。


「それも当然の話でしょうね」


民の血税によって生かされてきた私達なのだ。

受け取ってきたものを返さなければ、自由になれないのは当たり前の話だ。


ちなみに、王妃教育を施してくれた王室への義理などは知らぬ。

王妃にならなくて良いと言ったのはそちらだ。王妃になる者が受ける教育なのだ。


昨夜スキルが戻ったので、何も考えずに逃げることはできる。

しかし、公爵家に恩のあるままだと後ろ髪がひかれてしまう。


後腐れなくこの国を出れる、教会の規則はありがたい。


資料を前にして、深く考え込んでいると、筆頭執事が、父からの伝言を携えてやって来た。


「スキル取得の儀の翌日より、王宮にて妃教育を再開するとのことでございます。どうか、しっかりと励まれますように。と」


筆頭執事は一度言葉を区切ると、続けた。


「なお、カルラ様は聖女の任務でお忙しく、ご一緒に教育を受けることが難しいとのことでございます。その分、ご自身でいっそう励まれますように、と旦那様がおっしゃっておりました」


アマリリスが了承の意を示すと、筆頭執事は恭しく一礼し、それ以上何も言うことなく、静かに部屋を後にした。


アマリリスが深いため息をつき、心の中で吐き捨てるように思った。

ーー面倒なことは、全部私に押し付けたいだけじゃない。


しかし、それが自分にとって都合のいいことであるのは間違いなかった。

私のスキル取得の儀は5日後だ。

5日間の自由時間が与えられたということだ。


準備を整えるには十分な時間である。

それまでに供託金を準備して、儀式当日に教会で公爵家の娘としての籍を手放す。

そのまま国外脱出だ。


思わず口元が、わずかに緩む。


その夜、部屋の周りに人の気配が無いことを確認し、複製本を手にして「縮小解放」と小声で発した。

現れたのは、とある金山の資料館だ。ここには大小様々な本物の金塊が展示されていた。


「”物納可”で良かったわ」同じ金額に相当する品を納めれば、それで許される。

つまり、白金貨100枚と同等の価値を差し出せば良いのだ。


問題は、二つ。金塊を保護するディスプレイケースはとても頑丈であると思われること。

もう一つは白金貨100枚と同等の価値がどれほどの物か、私にはさっぱり分からないことだ。


「まずは…っと」夜も遅く、部屋を照らしているのは、魔道具のわずかな明かりだけだ。

部屋全体を明るくしてしまうと、使用人に気づかれてしまう可能性がある。


少し考えたアマリリスはスキルブックを取り出した。

何か懐中電灯のようなスキルはないかと考えたのだ。


スキルブックには以前と少々変わっている箇所がある。

表紙の『スキルブック』の文字の下に『所持:35,859,433コイン』と印字されていた。


それは、生前ゲームで獲得していたコインの残数と同じであった。


なるほど。ゲームが使えなくなったから、ここで残りのコイン数が分かるのか…。

便利で助かる。


『ハンドライト 5,000コイン』

『ランタン 15,000コイン』

『ヘッドライト 25,000コイン』

      :

      :

手元は、空いてた方がいいか…。


ヘッドライトを獲得すると、表紙の文字が『所持:35,834,433コイン』に変わっていた。

資料館の中に入ると、ヘッドライトのスキルを使用する。


すると、暗闇の中ーーなぜか、彼女の頭だけが眩いほど光り輝いた。


…チガウ。そうじゃない………。


欲しかったのは明かりであって、頭部の発光ではない。


アマリリスが想像していたのは、登山やキャンプのときに使う、あの頭に装着する明かりである。

決して、自分の頭そのものを光らせることではなかった。


文字だけでは、自分が思い描いていたものとはまったく違うスキルである可能性もあるらしい。

ーー次からは、そのあたりもきちんと考えることにしよう。


結果として、非常にマヌケな恰好になってしまったが、だからといって他のスキルをまた交換するのも、もったいない。


諦めたように小さく息を吐くと、今回はこのまま進むことにした。


さて、どうやってこのディスプレイケースを突破するか…。


叩いてみるが、もちろん壊れる様子はない。

「う~~~ん」複製していたホームセンターから電動ドリルでも取り出すか…。

攻撃系のスキルでも手に入れるか…。

考えながら、ディスプレイケースの周りをゆっくり歩きまわった。


ふと視線を巡らせた、そのときだった。

ーー鍵穴発見!


そうか、そうだよね。

無いわけないじゃんね。

鍵…も、どうせ、金庫の中とかでしょうね。

どの道、この広い館内から探し出すのは至難の業だ。


すぐさま、再度スキルブックを取り出したアマリリスは『鍵開け 1,000,000コイン』を獲得する。

今回は、思っていた通りのスキルであったようで、ずっしりとした重みのある金塊を手に入れることができた。


やった!

あとは、ここまでの道中で見つけた小判等の金も、すべて取っておくことにしよう。

足りないよりは、多すぎるくらいの方がいいものね。


ーー備えあれば憂いなし、というものだ。


あまねであった生前、空間収納中級を獲得していたので、すべてその中に収めていく。

中には、最初に複製した建物であるコンビニも収納されている。


空間収納の初級ではできなかったが、中級を取得すると時間停止ができたのだ。


たった一晩で必要な準備はほとんど整ってしまったようなものだった。

公爵家の物はすべて置いていく。


が、残り4日あるし、この公爵邸も、王宮も複製しておこうかな…。

宝物庫など気になるものも多々ある。


あと、次こそクライド様にお会したら”なんで、ゲームのコインなんかでスキルを獲得できるか”聞きたいな…。

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