ひきこもり15
「わぁ!これがお店でしゅかー!」
「ピィーーー!」
皆は目を輝かせながら、店内を見回している。
「そうよ。昨日教えたとおり、値札に書かれた金額と同じお金を支払って、品物と交換するのよ。欲しい物があっても、お金が足りなければ次のお給料日まで我慢するとか、いろいろな方法があるからね」
「分かりまちた!」
元気よく返事をした皆は、さっそく楽しそうに品物を眺め始めた。
あれこれ悩んでいたようだが、最終的にはエナガ族たちは、みんなでふわふわの猫のぬいぐるみを色違いで購入することにしたようだ。
父親であるすぅですら、嬉しそうにぬいぐるみを抱えている。
エナガ族のみんなが、可愛らしい猫のぬいぐるみを大事そうに抱っこしている姿………。
最強に可愛い!
………ごちそうさまです。
一方、小鳥たちは食欲一択なのか、揃いも揃って鳥用の餌を購入していた。
鳥頭なんて失礼な言葉があるけど、この子たちはお金の仕組みを覚えるのも、計算するものなかなか早いのよね。
賢い自慢の子たちなのだ。
しかし、お給料としてお金を渡したそばから、すぐに回収するなんて………どうかな?と思わなくもないけれど、みんな楽しそうにしている。
喜んでもらえて良かったわ。
※※※
さて、次はノアに売りつける商品を考えないとだわ。
アマリリスは縮小解放した大型ショッピングモールの中をあれこれ考えながら、ぶらぶらと歩きまわった。
うーーーん。
お菓子?洋服?文房具?家電製品はダメね………。
おもちゃという手もあるかしら。
いくつか候補を検討した末、とりあえず文房具と卓上ゲームをおすすめしてみることにした。
文房具なら、羽ペンよりも万年筆やボールペンのほうが断然使いやすいはずだ。
卓上ゲームについても、ナイン・メンズ・モリスのような遊びを好む人間は一定数いる。
うまく広めれば、流行する可能性もあるだろう。
「とりあえず、オセロかな………」
人生ゲームやすごろくも楽しめるとは思うけれど、どれも日本語で書かれているからダメだ。
将棋は残念ながら、私自身がルールを理解していない。
分かるのは、はさみ将棋と将棋崩しくらいだ。
………邪道ね。
チェスなんかも恰好いいけど、これもまたルールが分からないし、説明書は日本語。
結局、わたしがこちらの言葉に翻訳しなければならない。
………勘弁してほしい。
なので、ルールが簡単で説明もしやすいオセロから始めるのが無難なのだ。
※※※
『りりちゃんの素敵な雑貨屋さん』と心の中で適当に名付けたお店に、万年筆やコピー用紙、便箋、封筒、それからオセロを並べた。
ボールペンも置くかどうか悩んだが、まだ早いと思い直し、今回は見送ることにした。
そうしてノアの来訪を待っていると、いつもどおりの七日後、いつもの時間に彼はやって来た。
………皇帝のお休みって、七日おきなのかしら。
「久しぶりだな、リリ。どんな店になったのか楽しみにしていたんだ」
ノアはさっそく店の中に入りたがったので、二人で店内へと足を踏み入れた。
だが、ノアは一歩中へ入ったところで、ぴたりと足を止めた。
ーー店の内装に圧倒されたようだった。
ケーキ用のショーケースには、小鳥たちの餌やエナガ族のおやつといった食品が並んでいる。
ガラスにはムラも気泡もなく、向こう側が見通せるほど透き通っていた。
棚には、ぬいぐるみや文房具、卓上ゲームなど、雑多な品が所狭しと並んでいる。
ノアはしばらくその場に立ち尽くし、茫然と店内を眺めていたが、やがてゆっくりと歩き出し、興味深そうにあちこち見て回り始めた。
私はその後ろをついて歩く。
ノアは時折、商品を手に取っては、しげしげと眺めていた。
そして、ひと通り店内を見て回ったノアが困ったように口を開いた。
「………リリ、とりあえず今回は、君が良いと思うものを紹介してくれ。それを買い取ろう。どれも使い方が分からないものばかりだ」
なるほど。納得である。
この世界の人たちにとっては、見たこともないものばかりなのだ。
何が何だか分からなくても無理はないよね………。
「そうですね~。では、今回は前回お見せした紙と、万年筆はいかがですか?」
「万年筆?」
「はい、これです」
そう言って、私は紙に万年筆で文字を書き、ノアに見せた。
それから、ノアにも実際に試してもらう。
「紙もすごいが、これもすごいな………。とても書きやすい」
「インクと一緒に購入するといいと思いますよ」
そう言って、私はカートリッジ式のインクも見せた。
「!?この小さなものがインクなのか………?」
「はい。これを差し替えるだけで、繰り返し使えるんですよ」
「………本当にすごいな。もちろん、これも買わせてもらおう」
私はノアに購入してもらおうと思っていた商品には値札をつけていなかった。
対帝国だ!思いっきりふっかけてやろう!
そんな意気込みだけはあったものの、いざ値段を決めようとすると、相場が分からない。
散々悩んだ末、とうとう考えるのが面倒になり、ノアに丸投げしてしまおうと思ったのだ。
これまでの付き合いで、信用もあり、妙に安い値段を提示してくることもないだろう、と。
まぁ、元手がかかっていないという余裕があるからこそだが………。
「では、お値段はノアさんが決めてください。私には適正価格というものが分かりませんでしたので」
「!?………いいのか?」
「はい。お任せします」
「そうか………信用してくれてありがとう」
ノアは照れくさそうに笑った。
………やばい。私でもときめいてしまうような顔だわ。
「この紙は、一枚につき銀貨一枚が適正価格だろうとシエルが言っていた。万年筆については、俺にもまったく見当がつかない。とりあえず白金貨一枚でどうだろうか?」
………白金貨!?
ノアに任せてはいけなかった。
金銭感覚がおかしすぎる。
さすが皇帝だ………。




