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ひきこもり16

さて………どうしたものか。


「お任せします」と言ってしまった手前、やっぱりノアに値段を決めてもらうのは無理だった………なんて言いにくい。


しかも、あんな最強美形の照れ笑いを無料で頂いておいて………。


あれこれ考えながら店内を出ようとしたとき、ふと目に留まったのはオセロだった。

………とりあえず、これで遊びながら考るか。


「ノアさんに勝負を挑みます!」

「ど、どうした?」

「これは、卓上ゲームで『オセロ』といいます」


私はオセロの盤と駒を見せながら、簡単にルール説明をした。


「………こうして自分の色の駒で相手の駒を挟むと挟まれた駒が自分の色に変わるんです。縦、横、斜め、どれでも大丈夫ですよ。最後に自分の色の駒が多い方が勝ちです。さぁ、勝負しましょう!」


結果は、やはりこれまでの経験の差もあって、私の圧勝だった。


ところが、負けたノアは悔しがる様子もない。

それどころか、買って喜ぶ私を見つめるその目は………まるで孫を見守るジジイである。


………こういうゲームは、地団駄を踏んで悔しがるような相手と遊んでこそ楽しいのかもしれない。

まぁ、帝国の皇帝が地団駄を踏んで悔しがっていたら、それはそれでドン引きだけど。


しかし、次の勝負にも勝って、今回の万年筆の値段はとりあえず私に決めさせてもらおう。

あとは、シエルさんにお任せだ。


「再戦です!今度は賭けをしましょう。私は、今回の万年筆の値段をやっぱり自分で決める権利を賭けます。ノアさんは何がいいですか?」


ノアはかなり長い間考え込んでいたが、やがて口を開いた。


「三か月後、帝都で祭りがある。それに一緒に行きたい」

お祭り?別にそれくらいなら、なんてことないけど………。


ちょっと面倒ではあるが、異世界のお祭りには興味がある。

母国では、もちろんお祭りなど行けなかったし。


いざ、再戦を始めると、ノアは先ほどとは打って変わって、真剣な面持ちで盤面をじっくり見つめ、一手一手慎重に駒を置いている。


うんうん、やっぱりゲームは何かを賭けてこそ盛り上がるものよね。

ーーまぁ、負けたとしてもお祭りには行ってもいいのだけれど………。

それは次回の賭けのために取っておこう。


そして、私は余裕で勝てると思っていたのだが、実際にはかなりの接戦だった。


ーーあ、危なかった。


ノアは先ほどとはまるで別人のように、暗い表情を浮かべとても落ち込んでいるように見えた。


「と、とりあえず、万年筆は金貨一枚、カートリッジインクも一箱につき金貨一枚でお願いします。ちなみに、カートリッジインクは一箱に十二本入ってます」


金貨一枚、日本円にしてだいたい十万円だ。

信じられないほどのぼったくり価格だが、白金貨などを持ちだされるよりはよほどましだ。


「安すぎないか?………てっきり、値上げ交渉をしてくるのかと思ってたんだが………」

「白金貨なんて、そこまで必要ありません!」


「………そうなのか。では、今回は紙を五千枚と万年筆を十本、カートリッジインクを三十箱頼みたい。用意できるか?」

「もちろんです!」


紙も万年筆も多めに複製しておいてよかった。


「それと、そのオセロも買い取りたい」

………結構悔しかったのかしら。


「これは今回はノアさんにプレゼントしますね。いつもお土産のお菓子をいただいていますから」


ノアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「…ありがとう」


今回は、ノアは多めにお金を用意してきていたようで、かなりの大金にもかかわらず、彼は問題なく支払を済ませた。


そして、購入した紙と万年筆を空間収納魔法が付与されたと思われる袋に次々と収めていく。

ーー空間収納のスキルと付与魔法のスキル、その両方を持つ者でなければ作れない代物だ。

それだけにお値段も恐ろしい額のものである。


………さすが皇帝陛下。


すべての品物を収納し終えると、ノアは少し真面目な顔になった。

「話は変わるが、以前話していた病人の治療を頼んでもいいだろうか。まずは重病人から診てもらいたいのだが、やはり人数が多くてな。しばらく泊まり込みになると思う。いつ頃なら来られそうだろうか?」


………私は生粋の暇人である。

「いつでも大丈夫ですよ」


「ならば、七日後、いつものようにここへ来る。その時、一緒に来てもらえるか?」

私は了承の意味を込めて頷いた。


「………ちなみにだが、シエルがぜひまた来たいと言っていた。七日後に来る時、一緒に連れてきてもいいいだろうか?もちろん、断ってくれて構わない」


なぜか、「断ってくれて構わない」の部分だけが、妙に強調されていた。

………断って欲しいのかな?


そういえば………。

「ノアさんが皇帝陛下だったということは、シエルさんも偉い人なんですか?」

「宰相だな」


………ナンバー2だった!


「七日後、シエルさんがいらっしゃるのも大丈夫ですよ。お二人ともお待ちしてますね」


なぜか、ノアは少し残念そうな顔をしていたが、ともあれ、今日のところは話もまとまり、ノアは帰っていった。

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