ひきこもり14
ノアは聞きたかったことをすべて聞き終えたのか、すっかりいつもの調子に戻り、のんびりとお茶を楽しんでいた。
先ほどまで漂っていた緊張感はもはやどこにもない。
お茶を飲んでいたノアがふと顔を上げ、目に留まったのは、私が解放した「お店屋さんごっこ」のための建物だった。
しばらく建物を眺めていたノアは、やがてその視線を手元へ移し、置いてあったマジックペンやアクリル製のカード立てを手に取った。
この世界には存在しない素材で作られた品々が珍しいのだろう。
不思議そうに眺めたり、指先で触れてみたりしているものの、特に質問してくる様子はない。
ーーさっき、最後に聞いておきたいことがあるって言ってたから、遠慮しているのかな…?
国のトップとしてはいささかのんきすぎる気がしなくもないが………。
もっとも、ノアが納める帝国は、この世界で最も広大な領地を有しながら、国内は平和そのものだ。
それだけの国を平和に収めているのだから、為政者としての能力は間違いなく優秀なはずだ。
「気になりますか?」
私から水を向けてみると、ノアは少しばかり気まずそうに視線を戻した。
「あ、ああ」
「今度、あの建物でお店を開くんですよ!」
「………」
ノアは建物に目を向け、怪訝そうな顔をした。
「………ここでは、客が来ないのではないか?」
「大丈夫です。エナガ族と小鳥たち専用のお店ですから。まぁ、正確には『お店屋さんごっこ』と言ったところですかね?」
「なるほど………」
ノアは納得したように頷いたものの、ふと何かを思いついたように私へ視線を向けた。
「………俺も客になることはできるか?」
「え、ええ」
思いがけない申出に、私は少し戸惑いながらも頷いた。
「では、開店を楽しみにしている」
ノアはそう言い残すと、満足げな様子で帰っていった。
…さて、どうしましょう。
せっかく、ノア(帝国皇帝)が客になってくれるというのだから、帝国に高値で売り付けられるような商品も用意しておかないとだわ。
ノア個人を相手にするのではなく、一国の主である皇帝、つまり帝国そのものを相手にするのだと思えば、少しくらい高値を吹っかけたっていいわよね。
………なんて、我ながら少々いやらしいことを考える。
ーーそういえば、紙の売買についての話をすっかり忘れていたわ。
まあ、仕方ない。
次の機会に持ち越しね。
※※※
「はーい!皆さん、年功序列に並んで下さーい!」
私は皆を外へ呼び出すと、元気よく声を張り上げた。
「ピイ?」
「どうちたでしゅか?りりしゃま?」
不思議そうに首を傾げるエナガ族と小鳥たち。
「今日は、お給料日です!」
「お給料日でしゅか?」
「そうです!人間は、お仕事をしたらお給料をもらうんです。皆さんはいつもとっても頑張ってくれていますから、私からお給料を渡したいと思います!」
「!?で、でも、むぅを助けてくれたお礼に小間使いちてましゅ。お給料いりましぇん。ご飯もいつもりりしゃまがくれるでしゅ………」
「ぴい!」
他の皆も同意するように頷いた。
「それとこれとは話が別です!」
私はきっぱりと言い切った。
「小間使いにご飯を用意して、お給料も支払う職場はたくさんあります。これは福利厚生です!」
わたしは、みんなには気持ちよく働いてもらいたいし、頑張ってくれた分はきちんと報いたい。
働いたらお給料をもらう。
これ、大事!
皆は申し訳なさそうにしながらも、私の言うとおりに並んでくれた。
先頭のすぅから、くぅ、るぅと続いている。
………あら?
むぅの後ろにジュウエン、その次にイチエンと並んでいるけれど、むぅは小鳥たちより年上だったのね。
ちょっと意外だわ。
そんなことを考えながら、私はすぅから順番に、小さな巾着袋を手渡していった。
中にはノアからもらった銀貨や銅貨、小銅貨が入っている。
もちろん、みんなが頑張ってくれた分のお給料だ。
全員に配り終えたところで、私はふと思い立って尋ねた。
「みんなは、お金について分かる?計算の仕方とか」
「初めて見たでしゅ。これがお金なんでしゅね」
るぅが巾着袋の中身を覗き込みながら答えた。
「そうよ。これで買いたい物を買うの」
「………お金を人間たちが取り合うのは知ってるでしゅ」
「ああ………そうね」
私は思わず苦笑した。
「人間社会では、たいていのことはお金が解決してくれるから」
………良くも悪くも、お金の力は偉大だ。
「みんなは取り合ったりせず、仲良く使ってね」
「もちろんでしゅ!」
元気よく返事をする姿に、思わず頬が緩んだ。
ああ、もう。本当に心が和むわ………。
「それじゃあ、お金の使い方について教えるわね」
こうして私は、皆にお金の仕組みや使い方を教えることにした。
明日、お店は開店しましょう。
まずは、お金のことをしっかり覚えてもらわないとね。




