ひきこもり13
「すみません。まったく意味が分からないのですが………。カルラは王太子の病気を治癒させましたよ?病気を治せるのだから、聖魔法スキルの上級を持っているはずですし、大聖女ですよね?」
「いや…その女は、移り香聖女だった」
「移り香聖女…ですか?」
「ああ。聖魔法には、特殊な事情があるんだ。聖魔法だけは、保持者が成人に近づくと、身体からその力が漏れ出す。そして、なぜか漏れ出た力は、身近にいる人間へと移ってしまうんだ。だが、本物の聖魔法保持者がスキル取得の儀を行えば、漏れ出していた力は身体にとどまり、本人が使えるようになる」
「………そんな話、初めて聞きました」
「そうだろうな。漏れ出たスキルだけで病気を治癒できるほど強い力を持つ聖女など、長らく現れなかったからな。あの国の上層部も知らなかったようだし、リリが知らなくても無理はない」
「その移り香聖女というのが、漏れ出たスキルを使う聖女ってことですか?」
「ああ。本物の聖女から距離が離れたり、本物の聖女がスキル取得の儀を行ったりすると、その力は使えなくなる。いわば、仮初めの聖女といったところだな」
「へえ~。そんなことがあるんですね~」
私は、感心しながら、のんきに頷いた。
「…何か気づかないか?」
「へっ?」
「その女の身近にいた、成人間近の人間…だ」
………。
私は、はっと顔を上げた。
思い出したのは、スキルブックに記されていた内容だ。
『聖魔法初級 0コイン』
『聖魔法中級 0コイン』
『聖魔法上級 0コイン』
あれは、もしや……私個人がもともと持っていたスキルだったから、0コインだったのだろうか………。
「気づいたと思うが、リリが大聖女である可能性が最も高い。スキル取得の儀を行えば、すぐに確認ができるだろう。こちらで儀式の準備をしようか?」
「いえ!結構です!!」
私は慌てて断った。
すでにスキルブックのおかげで聖魔法を使えるのだ。
わざわざ儀式を行って、余計な騒ぎを起こす必要はない。
それよりも、ほかにも0コインのスキルがないか、あとで確認しなくちゃ!
もしかしたら、ほかにも私が本来持っていたスキルがあるかもしれないのだから。
「だが…平民が年に一度受けるスキル取得の儀は、帝国ではつい最近終わってしまった。次の機会までは、あと一年近くあるぞ………」
ノアは心配そうに眉を寄せた。
ーーノアさんは、帝国の皇帝だった。
そんなにも偉い人なら、私に命じてスキル取得の儀を受けさせ、「帝国のためにその力を使え!」と言ったっておかしくはないのだ。
私の母国の上層部なら、間違いなくそうするだろう。
ノアさんがお人好しすぎるのか、それともあの国が腐りきっているだけなのか………。
どちらだろうか。
「こんな危険な森に住んでいるんだ。何かあったときのためにも、スキルは持っていたほうがいい」
ノアは心底心配そうな顔をしている。
私のなけなしの良心が、痛む………。
私はついに耐え切れなくなり、勢いよく白状した。
「す、すみません!実はもう、聖魔法なら使えるんです!ノアさんが鼻血を出していたのに、治癒魔法を使わなくてすみませんでした!」
ノアは目を見開き、ひどく驚いた表情を浮かべた。
「………いや、それは構わないが。スキル取得の儀は受けていないんだよな?」
「……はい。ちょっとした裏技?みたいなものがありまして………」
「そうか…。では、もしかしてこの結界もリリが?」
「はい」
私は、気まずさから目をそらしつつ、小さく頷いた。
「まあ、リリが何事もなく暮らせているのなら、これ以上深くは聞かない。…だが、もし病人の治療を頼んだら、引き受けてもらえるだろうか?もちろん、相応の料金は支払う」
………ここで断ったら、さすがの私も人でなしだろう。
なけなしの良心も家出してしまうかもしれない。
「それは構いません。ただ、帝国のほうで治療を必要としている病人との仲介をしていただけると助かります」
「もちろんだ」
ノアは迷うことなく頷いた。
「最後に、一番大切なことだけ聞いておきたい」
その言葉に、リリは思わず身構えた。
「リリは、まだ元婚約者である王太子のことを想っているのか?」
………???
目が点になるとは、まさにこのことだろう。
今までの会話の中で、一番どうでもいい質問が飛び出してきた気がするのだが………。
「まだ想っているどころか、そもそも好きだったことなど一度もありません。それに、今の生活が楽しすぎて、王太子のことなど、もはや記憶の片隅にすら残っていなかったのですが………」
「そうか!」
なぜかノアは、とても安堵したような表情で微笑んだ。




